まよらなブログ

32章3話。

「世界樹カンケーねえ!」な「世界樹の迷宮Ⅲ」妄想話です。


1月のお休み期間にここまで書きためていたのですが
来週からの更新分はまだ書けていません。
全ては、オリンピックのせい!



それでは、興味のある方は「つづきを表示」からどうぞ。

32章3話
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 ―― ひょこっひょこっ・・・と体が上下する動き。
 ディアデムはネイピア商会の壁沿いに立って、店の中にいる人間を観察している。店主とディスケが、値切り交渉中だ。へらへら笑いながらも細かいことを指摘して1エンでも下げようとするディスケと、古めかしい言葉遣いで品質の高さを理路整然と述べる店主の舌戦が店の中に響いている。
 店の客たちは、ディスケと店主のやりとりを聞き流しながら品物を見ていた。その中の一人・・・、中年の男性は、店の奥にある工房の職人と話をしている。その男性が歩くとき、ひょこひょこと体が上下する。ディアデムは男性の動きの観察を続け、彼が片足を引きずるように動かしていることに気が付いた。
 じーっと男性を見つめるディアデムの視線に気づいた店主は、ディスケの値切り交渉を続けながらもディスケの目の前で指を振る。そしてその指をディアデムに向けた。ディスケはディアデムを振り返り、彼女の視線の先に気づき、
「・・・ああっと!悪いなディアデム。待たせててさ!」
「いえ。私は特に問題はありません。」
 ディアデムは視線をディスケに移して淡々と答える。店主はわざとらしく溜息をついた。
「・・・たかだか数エンまけてほしいために、オナゴをほったらかしとは感心できんの。」
「え、それ、お姉ちゃんが言っちゃうの?1エン儲けるためなら何でもやっちゃうお姉ちゃんが言っちゃうの!?」
「その、「お姉ちゃん」はやめんか。」
 ソロバンの角で、ごすっとディスケの額を小突いた店主はディアデムに、
「ディアデム。そこに突っ立てるのもつまらんじゃろう?中の工房の見学でもするか?」
「いいんですか?」
「うむ、構わんぞ。お前は職人のジャマもせんだろうからな。」
 どこかの『アルゴー』とは大違いじゃ、と店主は言い、ディスケは唇を尖らせた。
「俺もジャマはしないよー。っていうか、うちの誰かが職人さんのジャマしたの?アヴィー?爺さん?スハイル?」
「その全部で、じゃ!」
「ああ、それはゴメン。」
 アヴィーは好奇心のあまり工房に入りこんで、職人を質問攻めにしたり勝手に物を触ったりしたのだろう。スハイルはそれをたしなめようとして逆に騒ぎ、クー・シーは止めるどころか茶化したに違いない。このことを知ったら、マルカブはアヴィーとスハイルを引きずって謝りにくるのだろう。おとーさんに言いつけよう、そうしよう。ディスケは、一人で、うん、と頷いた。
 ディアデムは、あの、と店主に向かって声をかけた。
「お願いです。ディスケも一緒に工房を見せてもらえませんか?」
「ディアデムはいい子だな~。」
「む。一人は不安かのう?」
「私は、不安というものがどんなものか分かりません。ですが、こちらの工房の技術は私の整備に役立つものだと考えます。ディスケにも見ていただいた方が、私の整備がより効率的になるかと考えます。」
 淡々としたディアデムの語り口に、店主は一瞬呆気にとられたが、すぐにポン!と手を打った。
「そうじゃ、ディスケ、定価で買えば工房見学もつけるぞ?どうじゃ?」
「うわ、そう来るわけ?」
 ディスケは苦笑してから、
「しょうがねえなあ。妹ちゃんはともかく、お姉ちゃんは絶対マケてくれないだろうから。工房見学させてもらおう。」
「・・・愚妹はマケておるのか。何を考えておるのじゃ、まったく。」
 深都にある支店を任せている妹に文句を言いつつ、店主はソロバンを弾き出す。
「他に必要なものはあるかの?」
「いや、それで全部。」
「では、お支払いはこの額じゃ。品物は用意しておくから、先に見学に行ってこい。裏口から回れ。」
「そうさせてもらおうっと。ディアデム、おいで。」
「はい。」
 ディスケに手招きをされて、ディアデムは大人しくついて行った。ディスケは明るい調子で
「悪かったね~。待たせちゃってさ。」
「いいえ。そもそも、私の腕の強化のための部品を探しにきたのです。ディスケが私の都合で動いてくださっているのですから、私はディスケに従います。」
「そうそう、その腕ね。もう石がハマらないようにしないとなー。」
「・・・ディスケ。」
「ん?」
「何か、私に・・・言いたいこと・・・教えたいことがあるのではないでしょうか?」
 ディアデムの質問に、ディスケは驚いた様子で振り返り・・・、
「なんで分かるの?」
 振り返りきったときには笑った。ディアデムは淀みなく、
「ディスケの行動パターンは把握しています。貴方は伝えたいことを伝える際、少し声のトーンが高くなります。それと、事前に全く異なる話題えを口にします。それは、相手が気分を害さない話題を選んでいるように思います。『アルゴー』・・・特にマルカブとクー・シーに対してはその行動をとることは少ないように思いますが、それでも皆無とは言えません。おそらく・・・自分と相手の緊張をほぐすための話題、と考えておりますが、正しいでしょうか?」
 ディスケは唸った。そして天を仰いで額を手で押さえる。
「もー・・・。・・・ディアデム、それは俺やシェリアクやエラキスだけにするんだぞ?」
「それ、というのは、どれを指すのでしょうか?」
「今みたいな、人の行動パターンの指摘だよ。」
「不快だと感じたのならば、謝罪します。」
「そうだな、俺は興味深い話が聞けたとは思うけど、不快に感じる人間もいるだろうね。」
 あと照れくさいよなーとディスケは苦笑し、工房に入る前にディアデムに向き直った。
「指摘の通りだ、ディアデム。一言、教えておこうと思った。脚の不自由な人間を、あまり凝視するもんじゃないよ。」
「あの人は、脚が不自由だったのですね。」
 体重の移動が他の方と異なると思いました、とディアデムはただただ事実だけを口にする。事実だけを口にしているだけなのだ。悪気も、好奇心すらもない。
「ああ、服の下に義足をつけているんだろうな。」
「人間は、・・・脚の不自由な方を凝視することを・・・不快に感じるのですか?」
「まあ、そういう人は多いと思うよ?ディアデムが、何を考えて見ていたのかは分からないけど、悪意があってもなくても不快に感じる人もいるんだよ。」
 ディアデムは、分かりました、と事実だけを受けとめる。その上で、
「では、マルカブを凝視するのも良くなかったでしょうか?」
「・・・なんで?うちのおとーさんを見てもおもしろくもないと思うけど?イケメンでもないし。・・・ああ!あの似合わない髭が気になる?」
「眼帯が気になりました。」
 ディアデムの再びの言葉に、ディスケは唸るどころか絶句した。
「マルカブは、目が潰れていると言っていました。人に見せるものじゃないけど特別だ、と言って眼帯を外してくれました。」
「・・・眼帯を?」
「はい。」
 ディスケは、今度は唸った。彼の眼帯の下の事情を知っている『アルゴー』も、実際の眼帯の下を見たことがないのだ。そして、それを外そうとする『アルゴー』でもなかった。
「・・・何で、見せてくれたんだと思う?」
「マルカブは、人間は傷つくものだ、と言っていました。私たちのように、部品を取り替えるわけではないことを、私に伝えようとしたのだと考えます。」
 その意図は、とディアデムは続けた。
「私に、『ファクト』を守れと言っているのだと考えています。」
 特にエラキスを、でしょうか。とディアデムは続けた。なんでこの子も気づいていることにうちのアヴィーは気づかないんだろうな、とディスケは苦笑した。ディアデムに、正しいでしょうか、と聞かれた彼は、
「どうかな?うちのおとーさんの意図なんか、分かんないぞー。」
「ディスケが分からないのなら、誰も分からないと判断します。・・・ディスケ、私はマルカブに謝罪するべきでしょうか?」
「あいつが自分で見せたんだろう?」
「はい。ですが眼帯について、尋ねたのは私です。」
「・・・・・・、だったら、ディアデムが決めなさい。」
 ディスケは静かに言った。
「マルカブは怒ってないし不快だとは感じてないだろう。でも、ディアデムが謝った方がしっくりくるのなら、そうするべきだ。」
「しっくりくる、とは?」
「うーん・・・、収まりがいいというか落ち着くというか。」
「・・・・・・・・・、理解ができません。」
 だよなあ、とディスケは苦笑した。
「俺も、言葉を勉強しないとだなあ。」
「ディスケが、ですか?」
「おうよー、教えるのは難しいよ。」
 ディスケはそう笑い、工房の扉を開けた。鍛冶の音が響いている。ディスケは近くにいた職人に挨拶をし、中に入った。地元民であり技術者でもあるディスケにとって、知り合いも多いのだ。
 職人の一人がディアデムに気づき、甲高い鍛冶の音が響く中、大声で挨拶をしながらディアデムに近寄ってきた。
「アンドロのお嬢ちゃん!俺は!義肢をね!作ってるんだ!」
 先ほどの店にいた男性の義肢を作成しているのが、この職人なのかもしれない。君の脚を見せてもらえるか?という申し出に、ディアデムは頷こうとし、ディスケが「ちょっと待った」と間に入った。鍛冶の音に負けない声で、
「ディアデムは!女の子だからな!」
 と職人に言い張った。
「ディスケ、私はアンドロです。気になさらずに。」
「俺が!気にするの!」
 ディスケはディアデムに大声で答えてから、
「ディアデムは『ファクト』の子だ!やらしいことしたら、シェリアクに言いつけるからな!」
 と、職人に釘を指す。職人からは「エラキスさんに軽蔑されるような真似はしねえよ!」と返事が返ってきた。職人たちも美人なエラキスには弱いらしい。
 職人はディアデムに椅子を勧める。ディアデムは少し考えてから、「脚を外しましょう」と言って、己の右脚を根本から取り外した。あっさりと外された脚に、職人は面食らい、ディスケを見上げる。
「外そうと思えばカンタンに外れるんだよ。でも大丈夫。外し方は手順を踏まないと外せない。だから、事故的に突然外れることはほぼない。」
「安全装置はここです。」
 これを押し込むと外せるようになります、とディアデムは自分の脚を膝の上に置いて、職人に説明をし始めた。工房を見学に来たはずが、逆に見学されることになった。
(・・・こりゃ時間がかかるだろうなあ。)
 と思いながらも、ディスケは職人に自分のことを説明しているディアデムを微笑ましく思いながら眺める。こうして、人がアンドロを理解しアンドロが人を理解すれば何よりだ。
 その理解の結果、お互いの持っているものが相手の助けになれば、それこそ何よりなのだ。



(32章4話に続く)

---------------あとがきのようなもの------------------

ネイピアのお姉ちゃんの方を。初登場ですよね、今更だ。

ちょっと横道にそれた話です。でも、伏線です、『アルゴー』的にかなり重要な。

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