まよらなブログ

32章5話。


「世界樹カンケーねえ!」な「世界樹の迷宮Ⅲ」妄想話です。

本日、急展開な感じですが、
本当の意味で、第二部はまだ開始していないのだと思ってます。
本当にいつ終わるんだろう、この話・・・・・・


それでは、興味のある方は「つづきを表示」からどうぞ。



32章5話
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「・・・アヴィーがあれほど人を嫌うなんて珍しいと思ってましたが・・・」
 食堂でむくれながらレグルスを避けているアヴィー(とスハイル)を見たオリヒメは、向かいに座っているマルカブから事情を聞いて納得した。
「そんなことがあったんですか。」
「・・・まあな。」
「・・・しかし・・・」
 オリヒメは、レグルスに声をかけられて、「もう僕、知らないよ!」とぷんぷん怒って食堂から出て行くアヴィー(とスハイル)から、レグルスに視線を移す。お付きの二人に「嫌われてしまいました。」と肩を竦める少年を見ながら、マルカブに尋ねた。
「・・・カリーナはここにはいないのに、彼らは滞在するのですか?」
「そうらしい。」
 パンにバターを塗りながらマルカブは答えた。
「アーモロード王家とつながりを作るつもりだそうだ。」
「・・・だったら何故、アヴィーに声をかけるのでしょうか?」
 オリヒメは鯵のソテーにナイフを入れながら疑問を口にする。
「確かに『アルゴー』に取り入れば、元老院や姫君の信頼も勝ち得やすいでしょう。ですが・・・、この国の元老院は開けていますし・・・実力があれば、【魔】を倒す候補として無視できないでしょう。」
 音も立てずに、オリヒメはナイフで鯵の骨を外した。食事を続けながら、会話は続ける。
「実力はありそうです。特に、女性二人。」
「・・・・・・そうか。」
「・・・『アルゴー』の一員として迎えては?」
 オリヒメの提案にマルカブは顔を上げた。
「本気で言ってるのか?」
「・・・・・・、」
 オリヒメは料理を口に運び飲み込み、嚥下してから、
「あなた方ほど、私はカリーナとともに過ごせたわけではありませんが、私も彼女が好きです。」
 カリーナはいい子です、とオリヒメは小さく呟き、
「ですから、カリーナを利用しようとする人間は、私も許せません。」
「・・・それを仲間に入れろって?」
 問いかけに答える前に、オリヒメは水を飲んだ。
「ですから、逆に利用してやったらどうか、と提案しています。」
 飲み終えたコップを、トン!と音を立ててテーブルに置く。オリヒメはあまり物音を立てない。オリヒメにしては珍しい行動に、マルカブは微苦笑を浮かべた。表情豊かではないが、慣れてくると分かりやすい娘だ。
「・・・お前は、そう見えて短気だよな。」
「・・・どう見えているのでしょうか?」
 マルカブはそれには答えずに、
「アヴィーがあんなんじゃ、仲間入りも無理だろ。それに、お前の時みたいに押し掛け仲間入りをする気もないようだし、放っておきゃいいんだよ。」
「彼らのことは放っておけても、『アルゴー』が人員不足であることは変わりません。」
「そうなんだよなあ・・・。」
「時間があるとは言えないでしょう。選り好みをしている場合でもありません。確実なのは、『ファクト』と合同で探索を進めることではないでしょうか?」
 オリヒメは合理的な提案を口にした。それは、ああ見えて現実主義者のディスケでも提案しなかった内容だった。マルカブは、そうなんだよなあ、と呻くだけだった。
「ミラが何を言うかは分かりませんし、あなたがエラキスさんに何を想うかも知りませんが、」
「・・・・・・エラキスは関係ない。」
「・・・ディスケは『関係がある』と考えているから、これを口にしなかったのだと私は思っていますが。」
 マルカブはオリヒメを見たが、彼女は料理を見て食事を続けている。自分の指摘に対して返ってくる言葉より、食事の方が重要だ、と言わんばかりだ。指摘された当人にとっては、食事よりも重要なことだというのに。
 ・・・コイツ、女の子じゃなかったら蹴り飛ばしたくなる瞬間があるよな・・・とマルカブはオリヒメの髪飾りを見ながら思う・・・のだが、
 ―― 続いてオリヒメから出てきた言葉は、意外なものだった。
「・・・アヴィーの前で、女に揺らぐあなたでもないでしょう?」
「・・・・・・。」
 無言のマルカブに、オリヒメは顔を上げて彼の表情を見た。
「・・・何ですか?自信がないのですか?」
「・・・いや・・・。自信があるかと言われたら・・・まあ、どうかな、とは思うんだけど。」
 マルカブは鼻の頭を掻き、
「・・・信用してもらってるようで、光栄だ。」
「当然です。必要があって『アルゴー』に入ったとはいえ、信用していない人間の下には付きません。あなたが信用できないなら、私は自分がギルマスになっています。」
 オリヒメは淡々と答え、それに、と続けた。
「あなたが一番大切な物は・・・、アヴィーと・・・・・・カリーナではないですか。」
 カリーナの名前だけは遠慮がちに。オリヒメは囁いて、それから何も言わずに食事を続けた。
 マルカブは、まあな、と溜息をついて自分の食事を続けることにした。食事を口にしながら、だからこそ揺らぐのかもしれない、とは口にはしなかった。『ガーネット』への未練をカリーナに見せてきた自分への後悔に揺らぐかもしれない、とは口にはしなかった。

*****

 翌日の早朝。
 夜も明けたばかりの造船所の周辺を、マルカブはスハイルを連れて散歩をしていた。どうも眠りが浅く、ベッドで転がっていても背中が痛くなるだけで、いっそ起きることにしたのだ。
 昨夜はディスケの家には帰らずに宿に泊まったスハイルも、一緒に早朝の散歩についてきた。朝も早いうちから荷を運ぶ人夫たちの姿や荷車を見て、ぴよぴよと何か感心している。
 海に面した船渠があり、中には作りかけの船が収まっているようだ。船渠は石を組んで高い壁になっているが、マストの先が見えている。ここには三つの船渠があるが、どこにも船が収まっていた。元老院は冒険者に船を与えているから、この街の造船所は休まる暇はない。スハイルが船渠の上に飛んでいき、中を見てから戻ってきた。
「ぴよーぴん!ぴーよ!ぴーよ!」
 マルカブの前に降りてきたスハイルは、翼を目一杯広げた。
「なんだ、デカい船があったのか?」
「ぴよ!ぴぴうぴぴぴぴよー、ぴー!」
「ミアプラキドゥス号よりデカい船だってあるさ。」
「ぴー・・・。」
 スハイルはがっかりと項垂れてか、マルカブの肩にとまった。ミアプラキドゥス号は小さくてもいい船だろ、とマルカブとスハイルを撫でた。
「ぴよ!ぴぴうぴぴぴぴよー、ぴぴ、ぴよぴよ!」
「そうか。だったら大事にしろ。散らかすんじゃねえぞ。」
「ぴよ!」
 会話を成り立たせながら、マルカブは船渠の向こうのマストを見た。ミアプラキドゥス号より大きな船・・・ということは、冒険者に与えられる船ではないのだろう。警備隊の船だろうか。それとも・・・
(・・・航路探索の船だろうか。)
 昨日、港の管理人から聞いた話を思い出す。元老院は、航路の探索を今後の国の主たる事業に据えた。大海原を探索し航路を拓き、アーモロードと各国を繋ぎ、再びこの海都を世界の交易の中心にすることを国家の目標とする。
 マルカブはそもそも船乗りだ。職業として、というよりも感覚が『船乗り』だった。交易の盛んな街で生まれ、異国を巡る船乗りの話を聞き、それに憧れて育った。交易の盛んな街だからこそ、異国の品々に囲まれて育った。交易により物や知識や人が会い、繋がっていく様を尊いものだと思っている。航路の探索が、いかに必要で重要で大切なものかよく分かっていた。そして、自分にとっても魅力的なものだとも分かっていた。
 ・・・もしも。この海都が交易の拠点となったら。繋がりの接点となったら。航路が広がり、異国に繋がり、会いたい人に会えるようになったら。
 ―― その時は、妹やカリーナに会えるのだろうか。
 マルカブは溜息を吐いた。とはいえ、『アルゴー』の役目を放り出すつもりもない。フカビトや【魔】の脅威を知りながら、一介の船乗りをやれるはずもない。
「ぴよーぴん、」
 思考を遮るように、スハイルに呼ばれた。
「・・・・・・・・・あ?」
「ぴぴーぴ?」
「・・・カリーナがどうした?」
「ぴ。ぴよーぴん、ぴぴーぴ?」
「・・・・・・・・・、何でカリーナのことを考えてたって分かるんだよ。」
「ぴよ!」
 スハイルは得意げに胸を張った。マルカブは一度言葉を止めて、息を吐き出しながら言葉を絞り出した。
「・・・会いたいなと思っただけだよ。」
 絞りだして、気づく。本当に、会いたい。今の自分の・・・そしてこれからの自分の願いは、きっとこの一点だ。
「・・・・・・、会いたいんだ。」
 自分に再確認して、もう一度呟いた。
「ぴぴ!ぴぴ!」
「お前もだよな。」
 マルカブはスハイルを撫でた。
「・・・・・・、そうだよな。俺が、やりたいことは・・・・・・」
 【魔】なんか正直どうでもいい、とは口には出さなかった。だが、どうでもいいと思っているものに、これ以上足止めされるわけにはいかないとも思った。
 よし、とマルカブは前を向いた。同時に風が吹いて、それこそ宝物である帽子が飛ばされる。慌てて追いかけようとしたマルカブの肩から、スハイルが飛び上がった。
「ぴぴ!ぴぴ!」
「なんだ、お前が持ってきてくれるのか?」
「ぴよ!ぴよーぴん、ぴよ、ぴよぴよ!」
 スハイルは「おとーさんはここで待っててピヨ!」とでも言ったらしく、帽子を追っていく。マルカブは、のんびり追うことにした。
(・・・俺がやりたいことは、冒険者を続けることでもこの街の英雄になることでもない。世界を救いたいなんて、大それた希望もない。)
 すべきことはすべきこととして投げ出す気はない。役目として引き受けたことを、誰かに押しつけるつもりもない。自分が世界を救うとは思っていないが、関係ないと言う気もない。どれもこれも消去法。自分の意志ではあるが、自分の希望ではない。
 ・・・だが、今、したいことがある。はっきりと、ある。今、止まっている時間もないほどに渇望していることがある。それを、しにいくための方法も提示されている。
 ぴよッ!とスハイルが道に落ちた帽子を掴まえる。それを見ながら、マルカブは深く息を吐いた。【魔】など相手にしている時間すら、自分には勿体ないのだ。カリーナに会いに行ける可能性が、そこにあるのに。
(・・・オリヒメの言うとおりだ。選り好みをしてる場合じゃない。誰かにとってじゃない。『俺にとって』時間が勿体ない。『ファクト』に協力を頼むのが確実で早い。気心も知れてるし、・・・【魔】のことも知っている。危険は分かっていても・・・立ち向かってくれるだろう。)
 宿に帰ったらシェリアクに打診をしよう・・・いや、その前にディスケに相談だろうか・・・。いずれにせよマルカブは決めた。今できる最良で最速の選択をしよう。【魔】を倒して、とっとと自分の願いを叶えに行こう。
 「ぴよーぴん!ぴぴ、ぴぴよぴぴよ!」
 帽子を拾い上げ得意げに鳴いているスハイルに、マルカブは礼を言いながら、一歩歩き出そうとし、
 自分の頭上から、悲鳴と大きな金属音が響いたのを聞いた。
「ぴーーーッ!?」
 スハイルの甲高い警戒の声の中、マルカブは頭上を振り返り、
 ーー船渠の隅に詰み上がっていた鉄材が、崩れ落ちてくるのを見た。
 とっさに走り出そうとしたが、地響きとともに右脚が何かに捕まった。激痛というよりも、熱。脚が燃えるように熱い。そして、それだけのことが起きているのに、意識が飛びかける。
「ぴよーぴん!!」
 スハイルの声がする。目を開けているはずなのに、視界がかすむ。どこかでじわじわと水がわき出ている。今起きている状況を把握しなきゃいけないのに、それを頭が拒む。
 でも、これは知っている。これは・・・ケトスに・・・脚をもがれそうになったときと同じ・・・・・・・・・
「ぴ・・・ぴうぴえ!ぴうぴえ!・・・っぴうぴえぇッ!」
 スハイルが、甲高い声をあげる。何かあったら「助けて」と言うんだぞ、とスハイルに教えたら、そう覚えた言葉だ。人が叫ぶ声と走ってくる足音がする。スハイルはちゃんと覚えていて、助けを呼んだ。誉めてやらないと・・・とマルカブは思いながら、気を失った。
 マルカブの顔にしがみつこうとするスハイルを、港の人夫が引き剥がす。音を聞いて駆けつけてきた警備隊と一緒に、マルカブの脚の挟む鉄材を持ち上げようとする。スハイルは彼らの頭上を飛び回りながら、マルカブを呼び続ける。そのスハイルの目に、鉄材の下からじわじわと広がる血溜まりが飛び込んできた。


(33章に続く)

---------------あとがきのようなもの------------------

ここからいろいろ変わります。
主な変化は主役が変わる、ということでしょうか。


申し訳ありませんが、 
研修会の関係で、次週はお休みします。
次回は21日ごろの更新を考えています。ご了承ください。
 

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