まよらなブログ

33章1話。

「世界樹カンケーねえ!」な「世界樹の迷宮Ⅲ」妄想話です。

一週、お休みしまして申し訳ありません。

ちょっと業務で動きがあるので、日曜更新は難しくなっていくかもしれないです。
不定期で週1回更新を目指したいとは思ってます。



それでは、興味のある方は「つづきを表示」からどうぞ。


33章1話
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 治療院に駆け込んできたディスケとコロネは、廊下に立ち尽くしているアヴィーを見つけた。アヴィーの傍らにいるオリヒメが足音に気が付き、顔を上げる。表情豊かではないオリヒメが、明らかに狼狽している。スハイルはオリヒメにしがみついている。
「・・・ディスケ、」
 オリヒメが零れるように名前を呼んだ。名を零した唇は青く、かさついている。
「マルカブが、・・・」
 震える唇をオリヒメは一度噛んだ。ディスケは、頷いた。
「・・・宿の人から連絡をもらった。」
「鉄材に右脚を挟まれて、出血が酷く・・・・・・今、処置を、」
「分かった、詳しい話は俺が医者から聞く。」
 ディスケはオリヒメの肩を押さえて、廊下のベンチに座らせた。そして、処置室を見つめているアヴィーの肩を掴み、
「アヴィー、」
「・・・・・・、」
「アヴィー、お前も座れ。」
「・・・出血が多いって・・・」
 アヴィーは扉を見つめたままで、譫言のように口にした。
「・・・アヴィー。詳しい話は、後で俺が医者から聞く。だから、」
「死んじゃうかもしれないの・・・?」
「アヴィー、」
「覚悟しておいてって、そういうことでしょう・・・?」
 ディスケはオリヒメを見た。オリヒメは「お医者様が・・・」と口にするだけで精一杯だ。コロネがオリヒメの前にしゃがみ、彼女の両腕をさする。
「・・・アヴィー。医者は最悪のことを口にする。それが可能性が低くても。・・・そういう仕事だ。」
 ディスケはそう言いながら、こんなの気休めにもならない、と苛立った。アヴィーはもちろん納得しなかった。
「でも、可能性は0じゃないんでしょう?」
「・・・・・・、0じゃなくても、限りなく0かもしれない。」
「僕が聞きたいのは、『絶対』だよ!」
 アヴィーはディスケを見ずに叫び、ううう、と唸りながら泣き出した。ディスケは、悪かった、と言い、アヴィーから離れ、壁にもたれた。
 重い沈黙が続いて、扉が開き、医師が出てくる。扉の前にいたアヴィー
に、少し驚いた表情を見せたが、すぐにそれも引っ込めた。代表の方にお話が、と言われ、ディスケが頷き、医師の後に続いて隣室へと入っていった。
「・・・アヴィー君。そこにいるとお医者さんの通り道を塞いじゃう。こっちに寄ろう?」
 コロネが声をかけると、アヴィーは無表情にそれに従った。座る?と聞くと首を振るので、コロネはそれ以上は勧めなかった。スハイルが泣きながら、コロネにしがみついてきた。
「・・・コロネさん・・・。私たち、何かしたほうが・・・いいでしょうか・・・。」
 オリヒメは膝の上で拳を握る。
「情けないことに・・・、私・・・何も、思いつかないのです・・・。」
「祈ること。」
 コロネはスハイルを撫でながら、即答した。
「それだけをしよう。マルカブさんにとって、それ以上のことはないんだから。」

*****

 ・・・右足が、膝上から切断。
 ディスケは両手を合わせ、親指同士をくるくると回し続ける。煙草が吸いたい。考えをまとめたい。とにかく一度落ち着きたい。・・・煙草を吸っても何をしても、落ち着けるとは思わないが。
 処置室では、マルカブの手術が続いている。アヴィーとオリヒメは廊下のベンチに座っている。オリヒメは両手で拳を作り、口元に置いて祈るような姿勢で。アヴィーは両手で顔を覆って、うなだれている。コロネは、極度の緊張で恐慌状態になったスハイルを外へ連れ出している。
 ディスケは壁にもたれかかりながら、先ほど医師から聞いた話を頭の中で繰り返す。医師からは、本格的に手術に入る前にいくつかの質問と手術に同意するかの確認を受けた。
 過去に薬によるショック症状があったか、など聞かれても、知るか!と答えるしかない。同意も何も、とにかく今すぐ助けてほしい。そう医師に伝えると、医師は無表情に、しかし、意図してはっきりと、告げたのだ。
 右足が膝上から切断されている。
 ・・・医師と話した時間は短かったが、もう少し他の情報も聞かされた気がする。しかし、ディスケが覚えているのは一つだけだった。
 右足が、膝上で切断。
(・・・ケトスんときは、そんなことなかっただろうが・・・!)
 ディスケは奥歯を噛みしめた。これが、海都と深都の医療技術の差なのか。それとも、『当たりどころ』の問題なのか。傷の形の問題なのか。冒険者が樹海ではなく街で片足を失うのは、皮肉なのか。
 ディスケが医者から説明を受けたときには、輸血も行っていたためか、出血多量によるショック死の可能性は示唆されなかった。明確な断言は、右足が切断されていることだけだった。アヴィーやオリヒメが聞いた最初の一言のときよりは、確実に容態が好転しているのだろう。初期の対応で容態が好転するなら、子どもに向かって「覚悟しておけ。」など言わないでもらいたい・・・とディスケは苛立たしげに腕を組んだ。命の危険性からは脱してきているとはいえ、右足が切断されるのは変わらない。腕を組みながら、自分の服を強く掴む。
「・・・・・・、さん・・・」
 アヴィーがぽつりと声を漏らした。ディスケは視線だけを動かしてアヴィーを見下ろす。
「・・・お父さん・・・」
「・・・アヴィー?どうしました?」
 隣に座っていたオリヒメが顔を上げ、アヴィーの表情をのぞき込む。アヴィーは手で顔を覆うのをやめ、親指の爪を噛みだした。
「・・・お父さんと・・・同じだ・・・・・・お父さんも助からなかった・・・僕の顔を見るまで生きてた・・・あんな姿でも生きてた・・・」
 ぶつぶつと呟き出すアヴィーの異様さに、オリヒメはディスケを見上げた。ディスケは、アヴィーの肩をつかむ。アヴィーは両親を亡くしてから、養母に育てられたことは聞いている。・・・つまり、彼の父親は死んでいるのだ。死因までは聞いていないが。
「アヴィー。お前の親父さんとマルカブは違う。」
「・・・・・・でも、ここにはシルンはいないよ。」
 返事は返ってきたが、会話は成り立っていない。アヴィーは『今ここ』にいない。過去に戻ってしまっている。目を合わせようとももしない。こちらを見ようともしない。仮に目が合ったとしても・・・自分を『見て』いるのかは分からない。
 『シルン』が彼の養母だとは知っていても、アヴィーにとって彼女がいる意味が分からないディスケは、それでも口にした。意味のない言葉だとは、聡い分だけ分かっていた。しかし、他に何を言えるというのか。
「アヴィー。今と『その時』は違う。同じことにはならない。」
「でも同じなんだよ。」
「同じじゃない。」
「同じだよ。マルカブは『お父さん』なんでしょう。」
 ディスケは軽々しく「おとーさん」と呼び続けていたことを後悔した。それこそ死ぬほど後悔する。しかし後悔で人は死ねないので、もうそれを踏み越えていくしかない。だから繰り返す。
「同じじゃない。」
「ディスケが言ったくせに。」
「そうだよ、だから俺が否定する。同じじゃない。」
「でも同じなんだよ。」
 アヴィーは無表情のままで、震えた。喉の奥からひゅう、と音がする。限界だ、と気が付いたのはオリヒメだった。
「アヴィー。一緒に外に行きましょう。スハイルのことも気になりますし。」
「嫌だよ。」
「ですが、」
「離れているうちに、マルカブはどっかに行っちゃうかもしれない・・・」
 表情を何一つ変えずにアヴィーは声を絞り出す。あれだけ表情豊かなアヴィーの、顔と声が全く一致していない。「マルカブはどこにも行かねえよ!」とディスケは叫びそうになって、
「しゃんっとなさい、アヴィーくん。」
 ぴしゃり、と平手打ちのような声がした。
「シルンさんなら、こう言うかしら?『今、痛みに耐えている人間がいるのに、甘えるな。』って。それとも『過去ではなく、今を嘆け。』かしら。」
 アヴィーは思わず背を伸ばして、声の主をみた。廊下に立っているのは、マリアだった。
「・・・マリアさん、何でここに?」
「スハイルちゃんが叫び出したんで、コロネさんがジルちゃんのところに連れてきたの。事情は聞いたわ。あ、スハイルちゃんは鎮静効果のある薬草でちょっと大人しくしてもらってるから。サイミンフクロウが錯乱したんじゃ、洒落にならないわよね。サイミンフクロウが薬草で寝てる現状も、冗談にしかならないけど。」
 マリアはそう言って、アヴィーの前に屈む。ゆっくりとアヴィーの手の甲をぽんぽんと叩きながら、
「アヴィーくん。ここにシルンさんはいないけど、一緒に耐えてる人はいるでしょう。」
「・・・・・・はい。」
「よく見て。ここはエトリアじゃない。あなたは5歳の子どもじゃない。」
 マリアはゆっくりとそれだけを繰り返す。少しずつ声を小さくしながら、一定のリズムで繰り返す。そうする内に、アヴィーの瞼がとろとろと落ちてきた。マリアは囁き声で尋ねた。
「ここは、どこ?」
「・・・アーモロード。」
「あなたは何歳?」
「・・・14・・・。」
「ここは、エトリアでは、」
「ない・・・です。」
「そうね。」
 マリアがぽん!とアヴィーの前で手を叩く。アヴィーはびくっと身を竦めて、はっきりと目を開けた。
「・・・・・・、」
 キョロキョロとアヴィーは周りを見回し、それからディスケを見上げ、
「・・・ごめん、ディスケ。僕・・・おかしくなってた・・・」
 そう言って肩を小さくする。
「・・・おかしくなっても仕方ないよな。」
 ディスケはそう言って、アヴィーの肩を叩く。立ち上がるマリアに、ディスケは乾いた笑いを向けた。
「ありがとう、マリアさん。今の催眠術?」
「いいえ。お母さんの知恵袋。」
 そんな得体の知れない知恵袋があってたまるか・・・とオリヒメが心の中だけで叫んだときだ。処置室の扉が開いて、医師が出てきた。
「・・・先生!マルカブは!?」
 アヴィーがぱっと立ち上がり医者に駆け寄る。医者は微かに安堵を見せて、もう大丈夫、と答えた。
(もう大丈夫・・・か。)
 ディスケはメガネをかけ直し、聞こえないため息をつく。アヴィーが、「マルカブに会っていいですか!?」と医者にしがみつき、やんわり断られている。
(何をもって、大丈夫、になるんだ・・・)
 片足が切断されている状況の、何が大丈夫なのだろう。微かに湧く怒りに、ディスケは拳を固めた。
「ディスケさん、」
 マリアが腕を組み、ディスケを呼ぶ。ディスケは思わず背筋を伸ばし、拳を解いた。
「スハイルちゃんを連れてきましょうか?」
 スハイルちゃんは事故を見たのよね、とマリアは淡泊に事実だけを口にする。感情を乗せてこないマリアに、ディスケは唇を噛んだ。感情を乗せてこないのは、わざとだ。事実だけを突き付ける。その上で、お前が決めろ、とマリアは言っている。怒る前に周りを守れ、と言っている。
(マルカブが、この人のこと苦手なのが分かった気がする・・・。)
 ディスケは息を吐いた。
「・・・お願いします。」
「まあ、薬草が効いて寝てるんだけど。」
「動かしてもいいなら連れてきてほしいな。迎えにいくべきなんだろうけど、今から説明もあるだろうし。スハイルは事故現場を見てる分、マルカブが生きてることを早めに伝えないと・・・・・・、おかしくなる、・・・と思う。」
 マリアはディスケの言葉に、頷いた。
「慎重にここまで連れてきます。アヴィーくんとオリヒメちゃんのこと、よろしくね。」
「お願いします。あと、マルカブが起きたら叱ってくれる?」
「そうねえ。」
 マリアは、医者に「マルカブに会わせてよう!」と駄々をこね始めたアヴィーとそれに便乗こそしないが無言で医者を見つめてプレッシャーをかけているオリヒメを見て、
「子どもに心配かけるのはダメよって、言わないとかしらねえ。」
 頬に手を当てながら首を傾げた。


(33章2話に続く)

---------------あとがきのようなもの------------------

赤パイが片足を失とは決めてたんですが、その原因は二転三転してこうなりました。
二転三転したものの、一つ決めていたのは「誰かを守った結果にはしない」ということです。
人間は、理由がある中で何かを喪失するわけではないからです。

・・・とはいえ、
片足を失うと決めたのは「だって海賊は義足だろう!?」(この場合の海賊は「宝島」より)
という理由です。文字書きが展開を決めるときにも大した理由があるわけでもありません。


アヴィーパパ(エトリアの黒ケミ)のエピソード、やっとぶっこめました。
結構細かく決まってるので、もうちょっと引っ張ろうかな。

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