まよらなブログ

33章2話。

「世界樹カンケーねえ!」な「世界樹の迷宮Ⅲ」妄想話です。

どこまで書いたらいいんだろう、と思って書くと
甘めになるのがちょっと嫌だなあ・・・と思ってるんですが
シビアな話が書ける状態でもないので、なんかこう・・・燃え尽きられない症候群。



それでは、興味のある方は「つづきを表示」からどうぞ。


33章2話
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 マルカブの意識が戻ったのは二日後だった。
 マルカブがぼうっと目を開けると、窓の外で「ぴーー!」という声がした。それから、何かが窓ガラスにぶつかる音。ぼんやりした頭でも、それがスハイルだということは分かる。視線を窓に向けると、ガラスにスハイルが張り付いていた。
「・・・・・・何やってんだお前・・・」
「ぴー!」
 スハイルがまたガラスにぶつかる。鍵がかかっているらしい。止めろ、と言う前に、今度は部屋の中でガタン!と音がしたのを聞く。
「・・・マルカブ!起きた!?」
 アヴィーの声だ。窓とは逆側から声がしたかと思うと、枕元まで駆け寄る足音がして、
「起きた!?」
 そう、自分を覗き込む顔が現れた。どうも霞みがちな視界の中でも、アヴィーの目の下に隈が出来ていることには気づいた。
「・・・・・・、おう・・・起きた・・・」
 アヴィーが鼻を啜る音がする。マルカブは何が起きたかを思いだそうとする。以前に同じようなことがあったが、あれはケトスに足をやられたときだ。・・・そうだ、ケトスのときと似たような感触があって・・・そこからが覚えていない。確か、スハイルが泣いていた。そうだ、スハイルは助けを呼んだのだから誉めてやらないと、と思っていた。
「・・・アヴィー、窓を開けてくれ。スハイルを誉めてやらねえと・・・」
「・・・スハイルが部屋に入ってきちゃうよう・・・」
「・・・入れたらまずいのか・・・」
「うん。ここ、病室だから。」
 その言葉で、入院をしていることが分かった。この体の重さも頭がはっきりしない感じも、そのせいだ。そうか、とマルカブは息を吐き、スハイル、と窓を見た。耳のいいスハイルなら気づくだろう、と思ったら、やはり気が付いて、「ぴ?」と首を傾げてきた。
「・・・助けを呼んでくれたんだろ、ありがとうな。」
「・・・ぴよっ!」
「すぐにここから出るから・・・・・・大人しく待ってろ・・・」
「ぴよ!ぴぴ、ぴぴよぴぴよ!」
 スハイルはばさばさと飛び去っていった。窓から離れただけで、近くの木にでも停まっているのだろう。
 気を失う前にやろうと思っていたことが出来て、マルカブは単純に安堵した。ほう、と息を吐いてから、
「・・・悪い・・・また、少し、眠る・・・」
「うん。まだ麻酔が効いてるんだよう。休んでて。」
 おう、とマルカブは答えながら目を閉じた。麻酔が効いている、と言われたことにも疑問を抱けないほど、頭はぼんやりしていた。麻酔を使ったということは、体に外科的な処置を施したということだ。自分の身体に何が起きたのかを確かめる意志も、何かが起きているという疑問も持つ前に、マルカブは再び眠りについた。
 アヴィーは、ほとんど音のない寝息を立て始めたマルカブをじっと見つめて「良かった」と囁いた。
 わずかな時間でも目を開けてくれて良かった。言葉を交わしてくれて良かった。他人の心配ばっかりしているいつものマルカブのままで良かった。麻酔のおかげで痛みを感じていないようで良かった。生きていてくれて良かった。
 そんな安堵を抱く一方で、別の安堵も抱くのだ。「自分に何が起きた?」と聞かれなくて良かった、と。
 そんなことを聞かれたら、一体どう答えたらいいのだろう。右足の膝から上が無い、なんて、どう伝えたらいいのだろう。自分に質問されなくて良かった、という安堵を抱く。
 …しかし、自分が答えなかったら、誰が伝えるというのか?
(・・・でも、ディスケに頼ってばっかりじゃダメだ。)
 アヴィーはぎゅっと両手を組んだ。医者の説明を聞いたのも、事故を起こした造船所とのやり取りも、入院の手続きや元老院への連絡もディスケが一人で引き受けている。コロネやシェリアクも手伝ってくれているとはいえ、ディスケの負担は相当だろう。
 アヴィーは唇をへの字に曲げて噛みしめた。自分がもう少し大人だったら、もうちょっと手伝えるのに。今は、オリヒメとスハイルと一緒にフィニック家に預けられ、昼間こうしてマルカブの看病をしに来るぐらいしか出来ていない。それなのに、マルカブに脚の切断のことを説明せずに済んだことにほっとしている。自分がしなかったら、ディスケがすることになるのにだ。
 アヴィーは「おじいちゃんがいてくれたらな。」と思い、同時に、またしてもそんなことを考えた自分に気が付き、じわじわと涙を浮かべた。結局、面倒事を大人に押しつけているだけだ。子どもの振りをして押しつけているだけだ。
「・・・僕は勝手だ。」
 アヴィーはごしごしと瞼を袖でこすり、椅子から降りた。
「・・・とりあえず、やれることをやろう・・・。こういうとき、カリーナだったらお医者さんに言いに行く。」
 アヴィーはそう囁いて、病室から出て行った。仲間ならどうするかを考えることが、どうにか支えになっていた。

*****

 医者にマルカブが一度は起きたことを伝えたアヴィーは、もう一度病室に戻ろうとして、同じ病室に向かおうとしていたオリヒメと鉢合わせた。オリヒメは風呂敷で包んだ折り詰めを抱えていた。
「オリヒメ、それ、どうしたの?」
「マリアさんから預かってきました。アヴィーが昼食を食べてないだろうから、と。」
 朝食もあまり食べていませんでしたし・・・と呟くオリヒメも、食欲があるとは言い難い。少しやつれ気味のオリヒメが持つ折り詰めを、アヴィーは代わりに持つことにした。私が持ちます、と言ったオリヒメに、アヴィーは首を振り、話題を素早く変えた。
「あのね、マルカブが目を覚ましたよ。」
「本当ですか?」
「うん。また眠ったけど。」
 オリヒメはほっと溜息を吐いた。
「良かったですね、アヴィー。スハイルは知っていますか?」
「うん。」
「ディスケが早く帰ってくるといいのですが。」
「うん。」
 アヴィーはほんのりと笑いながらも、頷くだけだ。いつものような喜怒哀楽のはっきりした笑顔ではない。オリヒメはそんなアヴィーを覗き込むようにして屈み(何せオリヒメの方が身長が高いので)、
「・・・アヴィー。まだ気がかりが?」
「・・・ううん。そんなことないよ。ところで、オリヒメもお昼ご飯はまだ?一緒に食べようよ。マルカブの病室でもいい?」
「はい。それは構わないのですが・・・」
 発言には遠慮のないオリヒメが珍しく言いよどむ。アヴィーは「なあに?」とオリヒメを見上げた。
「・・・このようなこと、アヴィーは不愉快だと感じるかもしれませんが。」
「うん?」
「・・・カリーナに言うようなことは、私に言ってもいいと思います。」
 アヴィーの目が一瞬大きく見開かれ、じわじわと潤みだした。アヴィーは折り詰めをオリヒメに押しつけるようにして返して、ごしごし!と瞼をこする。
「・・・カリーナは関係ないよう!」
「そうですか。失礼しました。」
 オリヒメはあっさりと引いた・・・ように見えたのだが、遠慮のないオリヒメは言葉を変えた。
「カリーナが関係ないなら、こう伝えましょう。アヴィー。私に遠慮は無用です。」
「・・・・・・、最初から、そう言ってもらった方が良かった。」
 アヴィーが唇を尖らせて、オリヒメは「失礼しました。」ともう一度繰り返した。
「それで・・・気がかりがあるのですか?」
 オリヒメは結局引かなかった。アヴィーは、俯いてから頷いて、
「マルカブに・・・脚のこと・・・どう言ったらいいの・・・?」
「・・・・・・そう、ですね・・・。」
「僕・・・、伝えるの辛いよう・・・」
「ええ。マルカブもあなたに伝えられるのは辛いと思います。」
 オリヒメは、一瞬「カリーナが国に帰っていて良かった。」と考えた。マルカブは、最終的にはアヴィーに心配をかけたことを後悔するのだろう。カリーナがいれば、それは倍になる。正直、アヴィーやカリーナがいては、彼は自分の身に起きた不幸を嘆ききることもできないのだ。それは勿論強さでもあり・・・、同時に弱さでもある。他人の心配ばかりして己の不幸を嘆かないなら、割り切ることも断ち切ることも時間がかかる。そうでなくともマルカブは切り替えが苦手なのだから。
 アヴィーはずずず・・・と鼻をすすってから、
「でも、僕、ディスケに任せてばかりは嫌だよ・・・!」
「・・・ええ。」
「どうしたらいんだろう・・・」
 アヴィーはぎゅうっと自分の服をつかんで耐える。オリヒメだって、そんなことは分からない。分からないが・・・分からないからこそ、
「・・・ディスケが帰ってきたら相談しましょう。」
「でも、任せてばかりは嫌なんだよ。」
「相談することと任せることは違います。任せてばかりは嫌だ、とディスケに伝えることだって、あなた任せにはしたくない、と言っていることになります。それを聞けば、ディスケもきっと喜びます。」
「そうかな・・・」
「そうです。」
 オリヒメは、きっぱりと伝えた。もっとも新参の彼女だが、『アルゴー』はそういうギルドだということは分かっていた。誰のことも独りにはしない、と考えるギルドマスターがいるギルドだ。
 オリヒメのきっぱりとした言葉を聞いて、アヴィーは小さく頷いた。
「・・・ありがとう、オリヒメ。」
「いえ。」
 オリヒメは小さく答え、何かを言おうとして口を開いたが、すぐに閉じた。アヴィーの頭の向こうを見ている。
「?」
 オリヒメの視線に気づいたアヴィーは振り返り・・・、廊下をレグルスたちが歩いてくることに気が付いた。レグルスも、アヴィーが自分に気が付いたことに気が付き微笑んだ。アヴィーはぷっと膨れてそっぽを向く。(それを見たミツナミが「かわいい~!好み~!」と声を上げるので、オリヒメはいつでも抜刀できるように心の準備をした。)
「・・・マルカブのこと、聞きました。」
 レグルスは微笑みを神妙な表情に変える。ミツナミは、セルファに向こう臑を蹴り飛ばされていた。
「容態の方は、どうですか?」
「・・・・・・一応、目は覚ました。」
「それは良かった。一安心ですね。」
 レグルスは微笑み、それで、と言葉を続けた。
「どうされるつもりですか?『アルゴー』。」
「・・・・・・、どうって?」
「探索はどうされるのか、と。聞けば、あなた方は重要な任務を任されているそうではありませんか。そして、それは時間があるとは言い難い。」
 このまま任務放棄しているわけにもいかないでしょう?とレグルスは問いかけ、オリヒメが慌てたように口を開いた。こんなに泣きそうなアヴィーの前で何を言うのだ、と怒りを持って口を開く。
「待ちなさい。マルカブが大怪我をしているというのに・・・」
「ご心配なのは分かっています。ですが、目を覚まし、命の危機は脱したのでしょう?」
「・・・あなたがどこまで聞いているかは知りませんが・・・」
 オリヒメは、隣のアヴィーが拳を固く握りしめたのに気づき、早口に告げた。
「安心できるような状態では・・・」
「知っています。片足を失った、と聞きました。・・・なんとお声掛けしたらいいか・・・お気の毒に・・・。」
 レグルスの言葉は一般的な挨拶ではあったが、皮肉の匂いはしなかった。少なくとも、不幸を哀れんでいる様子はあった。それなのに、彼は冷酷に続けるのだ。
「・・・お仲間が重傷を負った・・・。ご心配なのは分かります。ですが、あなた方には時間あるのですか?・・・あなた方には時間があったとしても・・・あなた方に任務を任せた人には時間があるのでしょうか?」
 オリヒメはぐっと唇を噛んだ。それは正論だった。力を取り戻したフカビトの真祖が、いつ海都を襲ってくるかは分からないのだ。早く真祖の元にたどり着き・・・彼を討たねばならなかった。また、カリーナだけが知っている事実だが・・・グートルーネ姫は、自分の身体に影響するフカビトの真祖の力と戦っている。彼女の安寧のためにも、一刻も早く真祖を倒さなければならない・・・のだが、それはカリーナ以外の『アルゴー』は知らない事実だった。
「・・・レグルスは、」
 アヴィーが震える声で問いかけた。
「マルカブを放っておけっていうの?」
「そこまでは言っていません。しかし、常に付きそう必要はあるのですか?失言を覚悟して言いますが、少なくとも急に死ぬことはないのですから。」
「・・・片足を無くしてるんだよ?」
「知っていますよ。」
「僕たちが探索に向かったら、マルカブは一人になるんだよ?こんな大変な時にだよ!」
「ええ、知っています。」
「なのに何で、放っておけっていうの!?」
「ええ。それでも言います。」
 レグルスは冷酷に言い切った。アヴィーは一瞬たじろいだが、絞り出すように非難した。
「・・・そんなの間違っているよ・・・!」
「何がですか?」
 レグルスは不思議そうにアヴィーを見上げた。
「そもそも」
 続く言葉は残酷だった。
「あなた方が傍にいても、彼が回復するわけでもないでしょう?それこそ無駄な話ではないですか。」
「・・・あなた、何を言って・・・!」
 オリヒメが思わず声を荒くしたときだ、それを遮るように、アヴィーがレグルスにつかみかかった。
「「離れなさい!」」
 セルファとミツナミが、アヴィーに向かって厳しい声を上げ、彼をレグルスから離そうと手を伸ばす。だが・・・、二人は急に動きを止めた。オリヒメには、レグルスが視線一つで止めたように見えた。
 アヴィーはぶるぶると震えながら、レグルスを見下ろした。レグルスは淡々とアヴィーを見つめ、
「ボクは、間違ったことを言っていますか?」
「・・・・・・、でも、・・・でも!」
「殴りますか?」
 アヴィーはぎっとレグルスを睨みつけてから、その手を乱暴に離し、
「・・・・・・・・・っ、オリヒメ!行こう!」
 そう言って、病室へ足早に向かっていった。オリヒメはそれを慌てて追いかける。
 急に手を離されて尻餅をついたレグルスの元に、セルファは屈む。
「レグルス様、お怪我は?」
「大丈夫ですよ。」
 ミツナミはアヴィーたちを見送りながら、尋ねた。
「いいんですかあ?印象最悪ですよお?」
「いいんですよ。」
 レグルスは立ち上がり、服の埃を払う。手伝おうとしたセルファを手で制し、
「安心しました。」
「・・・安心、ですか?」
「ええ。執政者は、大局を選び人を切り捨てることが仕事みたいなところがあります。そういうときに、ああして身の回りの人を守ろうとする人がいないと・・・」
 心置きなく切り捨てることなどできませんからね、とレグルスは囁いた。


(33章3話に続く)

---------------あとがきのようなもの------------------

ゲーム上のラスボス・裏ボス、この話の上でのラスボス・・・と「敵」設定がありますが、
レグルスは、アヴィーの「信念上の敵」というイメージです。

なお、
『アルゴー』色に染まって、アヴィーに甘くなっていくオリヒメが今後の見所だと思ってます。

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