まよらなブログ

33章4話。


「世界樹カンケーねえ!」な「世界樹の迷宮Ⅲ」妄想話です。

すっごいギリギリの時間で書きました。
最近、燃え尽きられない症候群な話が続いて悶々としてます。
・・・・・・まあ、そういう展開だから仕方がないのかもしれないが
読んでる方にも悶々とさせてしまってるかもしれず申し訳ないと思います。



それでは、興味のある方は「つづきを表示」からどうぞ。



33章4話
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 夜になってもディスケは宿に来なかった。代わりにコロネがやってきた。いつも明るい女性は、心底申し訳なさそうにしながら、
「ごめんね。ディスケはちょっと深都にいるんだ。」
 と、両手を合わせてながら説明した。
「詳しいことは言えないらしいんだけど・・・、マルカブさんの脚のことで調べ物をしてるんだって。しばらくは戻れないかもしれないから・・・、あたしに代わりに宿に行ってって。」
 コロネは珍しく言いよどんだ。
「・・・その・・・、あたしじゃ、二人とも安心できないかもしれないけど・・・」
「いえ。お気遣い、ありがとうございます。」
 オリヒメは丁寧に礼を言った。コロネはちょっと困った様子で「オリヒメちゃんは大人だなあ。」と呟いた。
「・・・それでマルカブさんの容態は?」
「一度は目を覚ましてアヴィーと会話をしています。また眠っていますが、脈拍と血圧は安定しているとお医者様が。」
「そうなんだ・・・よかった・・・。よかったね、アヴィー君。マルカブさんと話ができて。」
 オリヒメの隣にいるアヴィーにコロネが声をかけると、アヴィーは頷きながらも俯きがちだ。コロネは少し屈みこんで、
「・・・アヴィー君・・・あのね・・・、ごめんね。」
「・・・何が、ですか?」
 アヴィーが視線をあげてコロネを見た。コロネは、うん、と頷いて、
「ディスケが、ここにいてくれないこと。」
「・・・・・・、僕、ディスケにマルカブが起きたって、言いたかったんです。」
「うん。そうだよね。」
 コロネは頷き、でも言い訳を述べた。いつもの彼女ならしないようなことだったが、この極限状態とも言える中、自分の大切な男を悪く思ってほしくない、という気持ちがあった。
「・・・でもね、ディスケもマルカブさんのことを考えて、今も調べ物をしてるんだ。それは・・・分かってほしいんだ。」
「・・・・・・、はい。」
 アヴィーが小さく頷く様を見て、コロネはすぐに後悔した。いや、そうではない。そうではないのだ。自分は先に、この子の不安を分かるべきだった。
「ご、ごめん。アヴィー君も不安なのに・・・」
「・・・いいんです。」
 僕は大丈夫です、と大丈夫じゃないのに答えるアヴィーに、コロネは「もう何でもいいから早く元気になってマルカブさん!」と心の中で叫ぶしかなかった。


*****


 夜はフィニック家に向かうことになっているアヴィーとオリヒメとスハイルだったが、マルカブの付き添いをコロネに任せることも出来ず、自分たちも病室に泊まる、と言い張った。コロネはあっさりと承諾し、医師とマリアの許可を取ってくれた。ついでに弁当でも買ってくる、と彼女は町に出て行った。どうやら、コロネはアヴィーたちが気が済むように、彼らがマルカブにしたいことのサポートに回る、と決めたらしい。それぐらいしか出来ないとも思ったのかもしれない。いずれにせよ、勘が鋭く判断の速い女性だ、とオリヒメは感心した。聡い割に肝心なところで詰めが甘いディスケの恋人など、そうではくては務まらないのかもしれない。
 オリヒメは病室の窓を開けて、窓に張り付いているスハイルに声をかけた。時々、そうやってオリヒメが相手をしてくれるので、スハイルは羽を畳み静かに病室の中を覗いている。夜風でマルカブを冷やすわけにはいかないので、窓を開けておくこともできない。オリヒメはスハイルの頭を撫でて、窓を再び閉めた。窓の外は明日には満月になろう、という月が出ている。すぐ隣に星も見えて、明日も快晴だろう。
「アヴィー、月にも興味はあるのですか?」
 病室の椅子に座ってぼんやりしているアヴィーに、オリヒメはなんとはなしに問いかけた。アヴィーは、え?と聞き返しながら顔を上げ、
「月?」
「はい。星詠みは月も詠むのかと。」
 アヴィーは窓の向こうの月を見る。スハイルがいるのでカーテンは閉めてない。そのため、窓は形の通りに夜空を見せていた。
「うん。月だけじゃなくて太陽の動きも見るよ。」
「空全てなのですね。」
「うん。僕は、占星術じゃなくて天文学って言ってほしいんだ。よく誤解されるけど、僕らのは占いじゃないんだよう。天の動きを見ながら予測をする学問なんだよ。」
「エーテルの動きも予測して、星術を使っているのですか?」
 オリヒメは質問しながら、アヴィーの前の椅子に腰を下ろした。アヴィーは頷いた。
「うん。っていうか、エーテルの動き自体の観測が予測になるんだよ。エーテルって目に見えないでしょう?」
「はい。私には何がなんだか。」
「でも、その動きが地上のいろんなものを動かしていくんだよ。風とか、水とか大地とか。エーテルの動きを観測することで、大地の動きを予測すんだ。それが、この国の『占星術』なんだよ。」
「予測は予言のようでもあり、だから占いと思われる・・・のでしょうね。」
「そうだね。エーテルがみんなに見えてたらなあ。誰にでも確認できて再現できることが科学だから、全ての人に見えるわけじゃないエーテルの観測は科学になれないんだよね。」
 こればかりは才能や鍛錬が物を言うらしい。アヴィーが「見えている」という以上、オリヒメはエーテルの存在を否定はしないが、見えていない以上どんなものかは分からない。占星術師たちには同じように見えているそうなので、それなりに鍛錬を積めば「見える」のかもしれないが。
 自分の専門分野を話して、アヴィーの頬に少し血の色が差してきた。オリヒメはほっと心の中で息を吐く。アヴィーは月を見ながら、
「明日が満月だね。」
「そうですね。」
「・・・ディスケは明日には帰ってくるかな。」
「・・・そうだといいですね。」
「・・・マルカブも起きるかな。」
「そうだと、本当にいいと思います。」
「・・・・・・みんなで満月が見られたらいいよ。」
「・・・ええ、本当に。」
「・・・・・・ディスケ、なんで帰ってこないんだろう・・・」
 アヴィーは両手を組んだ。
「・・・ディスケは逃げたりしないのは分かってるよう・・・。マルカブのために何かを準備してるのも分かってる。・・・僕はマルカブの傍にいても、何も出来ないことも。」
「・・・アヴィーがマルカブの傍にいることほど、マルカブのためになることはないと思います。」
「・・・でも、何も出来ないよ。」
 アヴィーは唇を噛みしめた。
「僕、ディスケに怒ってるんだよ。何でここにいてくれないんだろうって。・・・でも、ディスケはマルカブのために何かをしている。何もしてない僕が、怒ることなんか出来ないのに。」
「あなたは、マルカブの傍にいることを、しているんですよ。」
「・・・そうじゃないんだよ。そうじゃないんだ。僕は、僕のために怒ってるんだよ。ディスケがここにいなくて、僕が苦しいから怒ってるんだ。マルカブの傍にいないから怒ってるんじゃないんだよ。ディスケはマルカブのためになることをやってるんだから。」
 何もしていない僕が、何かを言うことなんか出来ないんだ。そうアヴィーは呟いた。
 オリヒメはぐっと唇を曲げた。なぜか、とても悔しかった。しかし、何度アヴィーに「そんなことはない」と言っても、伝わりはしないだろう。だから。単純に、彼の希望を口にした。
「・・・アヴィーは、傍にいてほしいんですね。」
「・・・・・・うん。」
 アヴィーは頷き、でもこれも甘えなの?と囁いた。オリヒメは緩く首を振り、「当たり前のことですよ。」と告げた。
 カリーナとクー・シーが国に帰り、マルカブは眠り続け、ディスケもいないのだ。『アルゴー』の誰も傍らにいないアヴィーが何を言っても、それを甘えだと言えるはずもない。
 オリヒメは、「私がいます。」とは言えないことが歯がゆく感じた。
 ・・・そして、そのやり取りを廊下で聞いたコロネも、やはり歯がゆさを感じるのだ。


*****


 暗い部屋で、背中を丸めた男がいる。
 (・・・きっと、月に行くことなんかもう頭にないんだろうなあ。)
 と、丸まった背中を見ながらコロネは思う。深都にある家の一室は、暗かった。海底にあるため、深都には太陽の光は届きにくい。海都に比べてそもそもが薄暗いが、その部屋は窓も小さく昼間でも灯りが必要だった。そして、使っていない部屋を貸し出されたためか埃っぽかった。広くもなく、机といすとカウチぐらいしか家具はない。カウチの上の毛布、机の上のランプといくつかの食器は、こちらで貸し出されたもの。それ以外は、ディスケが持ち込んだもの。床を埋め尽くして散らばる、文献と紙と機材と工具。広くはない部屋だとはいえ、よくもまあ、たった1日でここまで広げたものだ
 コロネは軽く咳払いをした。丸くなった背中がぴくりと動き、背を伸ばして振り返る。机に向かって文献を読みふけっていたディスケが振り返る。
「・・・寝た?」
 コロネはそれだけを聞いた。ディスケは眼鏡を外して目を擦りながら、
「・・・もう朝?」
「朝どころか昼。これ、お弁当ね。事情を聞いてマリアさんがアンタの分も作ってくれたんだから。」
「悪い。そこに置いておいて。」
 そう言って机に向き直ろうとするディスケに向かって、もう一度咳払いをした。ディスケはもう一度振り返った。
「・・・何だよ?」
「10分以内に食べ出さなかったら呪いが発動する弁当を作ったって、マリアさんが言ってたけど。」
「・・・あの人、錬金術は科学だって言い張る割には非科学的なことを言うよなあ・・・。」
「呪いがかかってないと思う?それならいいけど。」
「マリアさんならやりかねないよなー。謹んでいただきます。」
 ディスケは、弁当を受け取った。コロネは、机の上のカップを見ながら
「お茶もあるよ?淹れようか。」
「うん、悪い。」
 ディスケは弁当の包みを開けつつも、文献に向き直る。しかも弁当の中身はサンドイッチだった。まあ、マリアも彼が何をしているか分かっているのだろう。文献を読みながらでも食べられるように、という考えだろう。自分も夫も研究者であるマリアは、なんだかんだ言いつつも研究を止められないことも知っているのだろう。
 コロネはカップをとり、水筒から暖かい紅茶を注いだ。弁当の横に置くと、ディスケは視線を文献に落としたままで礼を言う。今食べているのが卵サンドか野菜サンドかも分かっていないだろうに、礼を言うだけの余力はあるようだ。
「・・・あのさ、ディスケ。今、マルカブさんとアヴィーくんたちの話をしてもいい?」
 そう問いかけると、ディスケはサンドイッチを飲み込んでから顔を上げた。
「・・・・・・、ああ、そうだ。そうだった。・・・、悪い、勝手に頼んでおいて。」
 ・・・目的を見失っている。コロネは一度唇を噛んだ。ディスケの幼なじみでもあるコロネは、彼は必要なことを見誤らない人間であることをよく知っていた。それが、完全に目的を見失っている。彼がこの小部屋にこもり、一心不乱に文献を紐解いて、機材をいじっているのは・・・マルカブに新しい脚を与えるためだ。だから、マルカブのことを忘れるのは、今この部屋にいる理由を忘れるのも等しい。
 コロネは、だからこそ、ハッキリと言った。
「マルカブさん、目を覚ました。」
「・・・マジで?」
「嘘なんかつかないよ、こんなことで。昨日、一度目を覚まして、今日の朝方もう一度目を覚ました。容態は安定。でも、痛みは訴えてる。お医者さんが言うには、これから幻肢痛になるだろうって。」
「・・・幻肢・・・。失った手足が痛く感じるって奴だよな。」
「結構、長く続くらしいね」
 無いはずのものが痛むってどんな辛さなんだろう・・・とコロネは溜息をついた。
「・・・・・・それと、」
「ああ。」
「さすがに、マルカブさんに今の状態を説明しないわけにはいかなかった。だから、あたしとアヴィーくんとオリヒメちゃんの立ち会いの元、医者から片足をなくしたことを説明してもらいました。」
「・・・・・・、」
 ディスケはぽろっとサンドイッチを取りこぼした。
「・・・・・・アヴィーとオリヒメも一緒に?」
「・・・あたしだけ、というわけにもいかないでしょう?」
「だったら俺を呼べよ・・・!」
「・・・だったら、アンタ、10分でもいいからアヴィーくんたちに顔を見せに来なさいよ。」
 コロネは淡々と反論した。ディスケは、ぐうと呻いてから、背もたれに寄りかかり天を仰いだ。
「・・・爺さん、帰ってきて・・・。」
「あたしは、カリーナちゃんに、こんな大事件の中には帰ってきてほしくないけどね。」
「・・・、脚がないことを聞いたマルカブは?」
「さすがにショックは隠し切れてないけど、アヴィーくんたちもいる前で取り乱さないよ。・・・一回、アヴィー君たちを離して、取り乱させたいけど。アヴィー君たちが離れないから。」
 二人が落ち着いてきたらフィニックさんちに預けて、マルカブさんが我慢しないようにしたけど、とコロネは呟いた。しかし、彼女は少し考え、
「でも・・・そうだな・・・意外と落ち着いてるような気がする。子どもたちの前で気が張ってるだけじゃなくて。まるで、慣れているような・・・」
「・・・慣れてんだよなあ・・・きっと。もしくは、そう思おうとしているか。」
 とディスケは眼鏡を机に置き、自分の左目を押さえた。それを見て、コロネは、あ・・・と声を上げる。マルカブがすでに片目を失っているのだ。
 ディスケは溜息をついた。
「慣れていいことじゃねえよ・・・。」
「・・・そうだね。」
 コロネも溜息をついてから、
「ねえ、それでどうする?一度、海都に戻る?アヴィーくんも限界だよ。オリヒメちゃんだって気を張ってる。」
「・・・・・・そうだな。」
 ディスケは瞼を押さえながら、
「すでに遅い気がするけど、そうする。」
「あたしもそれがいいと思う。・・・きっとディスケが後悔するよ。」
 お前が言うならそうなんだろうなあ、とディスケらしくない言葉を聞いて、今夜はベッドに叩き込もうと決意した。


(33章5話に続く)

---------------あとがきのようなもの------------------

なんとなく、何話で何を書くかだけは決めているのですが
この話だけは空欄になってました。
ギリギリまで決めずにいて、結局こんな話です。
とりあえず、コロネは良妻になると思ってます。

あと、二部から「科学とはなんだ」という話題もちょこちょこ出てきます。
時事ネタに乗ったようで正直心苦しい。

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