まよらなブログ

34章4話。

「世界樹カンケーねえ!」な「世界樹の迷宮Ⅲ」妄想話です。


この世界樹話、ブログのカテゴリー「世界樹の迷宮」にまとめてますが
たまーーーに、カテゴリーの設定をミスして「日記」カテゴリに入ってることがあります。
「34章2話」が日記カテゴリーに入ってたので、直しました。
カテゴリーから探して、この話を読んでくださってる方がいましたら、スミマセン。



それでは、興味のある方は「つづきを表示」からどうぞ。


34章4話
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 海の上は夕焼けに染まっているが、海の底は早くも夜が訪れている。落ちていく陽の光では、海の底まで照らせない。深都の街には早くも街灯が灯り、道を照らし出していた。
 アヴィーは独りで深都にやってきて、街灯が灯る街をととと・・・と駆けていった。ディスケが深都にいて義足を作ろうとしていることは、マルカブから聞いた。先ほど、聞いた。深都のどこにいるかは、オランピアから聞き出した。オランピアは隠しもせずに答えてから、マルカブの容態と探索状況について聞こうとしたが・・・
「・・・いや。今は貴方の目的を。」
 そう言ってアヴィーを送り出した。アヴィーは夜を迎えてさらに静かになった天極殿を出て、やはり静かな深都を駆けていく。
 オランピアから聞いたディスケが借りている建物は、深都のはずれにあった。(とはいえ、深都は広くないので天極殿からそう時間もかからなかった。)深都は海都の中心地を沈めて出来た街なので、深都の建物の多くは元・貴族の邸宅や公共の建物だ。アヴィーが辿り着いた建物も、大きくはないが扉や柱に装飾の施された立派なものだった。
 とはいえ、長い間人が住んでいなかったらしく立派な装飾のあちこちが欠けていた。ドアノッカーは錆びついている。アヴィーは軋むドアノッカーを持ち上げて、少し大きめの音がするよう打ち付けた。
 扉の向こうで「ぴよ!」と声がした。スハイルもいるらしい。
「スハイル、僕だよ。ディスケはいる?」
「ぴよ!ぴよえ、ぴよえ!ぴぴぃー!ぴぴぃー!」
 スハイルがコロネを呼んでいるらしい声がしてから扉が開いた。箒を持ち、頭に三角巾、口にマスクをつけたコロネが顔を出す。コロネは少し迷ってから、
「ディスケ、だよね?」
「はい。会えますか?」
「さすがに会わないってことはないだろうね。あたしも、会わせないってことは出来ないしさ。」
「・・・会わない方がいいですか?」
「ううん。会ってあげて。何があったかは知らないけど・・・、」
 しかし、何かがあったことは分かっているコロネはマスクを下げて苦笑した。
「アレで結構、打たれ弱いの。」
「ぴよ!」
 コロネの一言とスハイルの同意に、アヴィーは苦笑してから中に入った。建物の中は埃っぽい。コロネは掃除をしていたのだろう。
「ディスケは一階の一番奥の部屋に篭もってる。研究中は集中しててノックしても聞こえないから、中に入っちゃって。」
「はい。」
「お茶を出したいんだけど、台所も掃除中なんだ。何のお構いも出来ないんだけど・・・」
「僕もディスケと話をしたらすぐに帰りますから。スハイルは、今日はこっちに泊まる?」
「・・・ぴー・・・」
 スハイルは迷っているようだ。アヴィーは、じゃあ考えておいてね、と言って奥の部屋に向かった。
 部屋の前でノックをする前に深呼吸をする。何をしにきたのか、もう一度頭の中で考える。僕は謝罪に来たのではない。頼みにきたのだ。
 アヴィーは扉をノックした。コロネが言ったとおり返事はなかったので、ドアを開ける。薄暗い部屋の中で、ディスケが机に向かっている。本をめくり、何かをメモし、図を描いている。明かりは机の上のランプだけだった。
 アヴィーは出来るだけそっと、しかし、はっきりと、ディスケに声をかけた。ディスケは、びくっと肩を揺らして振り返る。ついでに机の上の本が雪崩を起こして床に落ちた。
「・・・ご、ごめん。」
 慌てて拾おうとするアヴィーを制して、ディスケが立ち上がった。
「・・・どうしたよー?探索で何かあったか?」
「ううん。びっくりするぐらい順調だった。レグルスたちもオリヒメも強いしね。」
「・・・怪我はない?」
「うん。僕もオリヒメもね。」
「それならいいんだけどよー・・・。」
 ディスケは鼻の頭を掻いた。それを見てアヴィーがすこし笑った。
「ディスケも、僕のこと言えないよね。」
「・・・何が?」
「マルカブの癖が移ってる。」
 照れたりバツが悪いとマルカブは鼻とか頭を掻くよ、とアヴィーは再現しながら伝えた。ディスケはきょとんとした後で、乾いた笑いを発した。
「アイツは、俺のおとーさんじゃないんだけどなあ。」
「僕のお父さんでもないけどね。」
「・・・・・・、なあ、アヴィー。お前、マルカブが・・・その、運び込まれたとき、・・・自分の父親のことを思い出してたけど・・・、」
 ディスケは俯いて息を吐き、
「・・・マルカブをおとーさん呼びするのを、止めておけばよかった。」
「僕は、それをカリーナに言ってほしい。カリーナは、・・・その、マルカブが好きだったんだよね?だったら、やっぱり、・・・そのう・・・複雑だったと思うよう・・・」
 アヴィーはそわそわと体を揺らし、言いにくそうにしながら呟いた。
「何だよー。空気読めないアヴィーが、ずいぶん大人なことを言うようになってー。」
 とディスケは笑い、笑ってから力なく肩を落とした。
「・・・何というか・・・急に大人にさせちゃったよな・・・」
 俺がしっかりしてないからさ、とディスケは呟いた。アヴィーは「そんなことないよう。」とは言わなかった。・・・事実だったからだ。だが、責める気もなかったので、「いいんだよ。」と告げた。
「誰も悪くないことだよ。・・・それに、僕は・・・カリーナが我慢して国に帰ったのと同じくらいには、大人になりたい。・・・『大人』ってどういうことなのか、僕はよく分からないけど・・・、カリーナは泣きたいのを我慢してやらなきゃいけないことをやろうとしたのは分かってる。僕はカリーナを応援するって言ったから、僕だけが、我慢しなかったり、やらなきゃいけないことをやらないのは、おかしいよ。」
「・・・・・・。」
 ディスケは深く息を吐いた。
「俺は、恥ずかしい。」
「?何が?」
「お前もカリーナも、いろんなことを考えて、自分のやるべきことを選ぼうとしてる。・・・でも、俺は何にも考えずに今の今までこの有様だよ。選んでいるようで選んでない。・・・大事なことだって賭けにしてさ。情けない話だよ。」
「・・・じゃあ、一番最初に選んで我慢したカリーナが一番偉いね。」
「そうだなあ。しっかり者だったなあ。」
 ディスケは笑い、アヴィーも笑った。笑ってから、アヴィーが告げた。
「・・・ディスケ。じゃあ、今から、僕たちに恥ずかしくないようにして。」
 ディスケは、「ああ、やっぱりアヴィーはマルカブに似てきた」と思った。マルカブも「だったら、今から、俺のために調べろよ。」と言った。そう言って、自分を許してくれたのだ。問題は今までではなく、今からだ、とアヴィーも言う。
「ディスケは、マルカブの脚を作るんでしょう?そのために必死になるんでしょう?そう、選んで。それが自分のやるべきことだと、選んで。僕は僕の、カリーナはカリーナの、やれることをやるから。」
 10歳以上年下の少年に道を選べ、と言われている。言われているだけならともかく、少年は道を選んだことも見せている。ここで断ったりしたら、この少年と向き合えない。ディスケはそう思った。
 ディスケは一度目を閉じて、天を仰いだ。天井の、海水の、空の、その向こうにある月を思いながら天を仰いだ。
 ―― 自分が進む先は月ではなく、きっと地上なのだ。
「ああ。」
 ディスケは頷いた。
「選ぶよ、アヴィー。俺は俺の出来ることを・・・、この世界が少しでもよくなるために、」
 自分の満足ではなくて、知っている誰かと知らない誰かのために、
「俺の出来ることを選ぶよ。」


*****

 深都の夜空に、紫煙が昇る。海底にある街からは、星も月も見えない。
 ・・・今夜は満月なんだろうか?
 ディスケはテラスの欄干にもたれ掛かりそんなことを考えながら、煙草を一本吸いきった。吸い殻を灰皿に入れて、もう一本取り出す。灰皿にはすでに三本ほどの吸い殻が入っていた。ディスケはマッチを擦って、煙草に火をつけた。そして火を消したマッチを灰皿に放り込んだ。
 4本目の煙草の煙を肺に入れたときだ、カタンと音がして
「ごめんごめん。片づけに時間かかっちゃって。」
 コロネが、テラスに出てきた。ディスケは研究用に借りている建物は、長い間、人が使っていなかった。ディスケは一部屋に篭もっているが、せめて台所ぐらいは使えるようにしたい、とコロネは掃除を続けていた。スハイルはアヴィーと一緒に海都に帰って行ったので、コロネは掃除に集中していたのだろう。
「で、どうしたの?ディスケ。わざわざ外で話そうなんて。」
 コロネは長い黒髪を背後に払いながら、隣にやってきた。ディスケは、うん、と頷いて、まだ長い煙草を灰皿に押しつけた。あ、こいつテンパってる、とコロネは感じた。
「あのな、」
「うん。」
「・・・ああ・・・っと・・・その、・・・・・・、あのな、・・・・・・」
「うん。」
 コロネは頷いてから、「ゆっくりでいいよ。」と微笑んだ。
「わたしは、待ってるから。」
「・・・・・・・・・、うん。・・・・・・ありがとう。」
 ディスケは一度深呼吸をして、
「・・・お前に謝ることと、頼みたいことがある。」
「謝ることって?」
「・・・・・・俺は、月に行く研究を止める。」
「・・・うん。そうじゃないかな、と思ってた。」
「ごめん。義肢の研究に全力を尽くしたい。同時に出来なくもないんだろうけど・・・、今は、・・・義肢を選ぶ。」
「あたしとの賭け、放り出しちゃうんだ?」
「・・・・・・ごめん。」
「ひどーい!ディスケは、あたしよりマルカブさんの方が好きなんだあ!薄々分かってたけどー!」
「・・・薄々ってどういうことだよー?」
 ディスケの質問には答えずに、コロネはディスケの腕にしがみついた。そのまま彼を見上げて問いかける。
「で、頼みたいことって?」
「・・・そんな俺を許して欲しいってこと。」
「『許す』ねえ・・・。」
 コロネは明確な返事をせずに空を見上げた。
「・・・・・・あのさ、ディスケ。」
「うん。」
「月までってどれくらいの距離があるのかなあ?」
「・・・さあ。まあ、この世界を一周するより遠いんだってさ。オランピアが言ってたぞ。大昔の本に、距離が書いてあったんだとさ。」
「・・・この世界を一周するよりかあ。」
 コロネは呟き、地面を見る。
「ねえ、ディスケはさ、義足があったら歩き出せる人はどれくらいいると思う?」
「・・・・・・、うん?」
 コロネはディスケの疑問の声は無視して、地面を・・・というよりも自分とディスケの足を見ながら呟きを続けた。
「・・・その人たちは世界をどれだけ歩くのかな。そして、そうして歩き出した人が、立ち上がらせる人たちはどれだけいると思う?」
 コロネはディスケを見上げた。
「マルカブさんは脚があったら、世界をどれだけ歩くんだろう?この街でアヴィーくんとカリーナちゃんと出会ったみたいな出会いをさ、あと何回繰り返すんだろうね?またどこかで、カリーナちゃんみたいな子と会って、その頭を撫でたりするんだよ。そしたら、その子はカリーナちゃんみたいに立ち上がって歩き出すんじゃないのかな。そうやって、皆が世界を歩くのなら、一体どれだけの距離になる?一つの義足が、すごい距離の出発点になるのかな。」
 コロネはさらに視線を上げて、空を見上げた。海底からは月は見えず、月までの距離はさらに遠い。だが、・・・だが。
 もっと遠い距離が、この星にすでに在るのだとしたら。
 コロネはディスケの腕から腕を放して、わあ!と両手を広げた。
「月に兎がいるかも気にはなるけどさ、今のあたしは、水平線の向こうに誰がいるかが気になるな!水平線の向こうの人も、また水平線の向こうの誰かが気になっていないかな!そうして、人間が世界をぐるぐる回る距離って、きっと月までの距離を超えるでしょう?月にウサギを発見する以上の発見だってあるかもしれない!つまりさ、ディスケがやろうとしてるのは、」
 コロネは両手を上げたまま、
「その、最初の一歩だよ。」
 そう微笑んだ。ディスケは「ああ。」と返事をするので精一杯だ。この女性は、その一歩の背中を押そうとしてくれている。その気持ちに声を詰まらせる。
「・・・だから、ディスケ。あんたは、月よりもっと遠くまで行く道を選んだの。もっと遠い目的を選んだんだよ。それなのに、謝ったり頼んだりしないの。そんな顔をしないの。胸を張るの。立派なんだから。」
 俯いて声を詰まらせたディスケに、コロネは手を伸ばした。眼鏡の下に指を差し入れて、目尻に溜まった涙を拭ってやる。泣かないの、とは言わなかった。代わりに、
「だから、むしろ、あたしが頼んでいい?ディスケの最初の一歩を、あたしも一緒に踏ませて。そして最後まで一緒に歩かせて。」
 彼の頬に触れて、懇願した。ディスケは、ああ、と息を吐き、自分の頬に触れるコロネの手をそっと掴んだ。
「・・・いいの?」
「頼んでるのは、あたしだよ。・・・聞き返さないで。・・・答えを返して。」
 ディスケはコロネの手に頬を擦り寄せて、小さく笑った。
「・・・いつか、俺から言おうと思ってたのになあ。」
「だったら、賭けなんかしてる場合じゃないでしょ。馬鹿ディスケー。」
「そうかもなあ。」
 ディスケはコロネの掌に軽く口づけてから、彼女をまっすぐ見つめた。
「・・・俺からも頼むよ。俺と、一緒に来て。」
 コロネは、ふふふ、と笑ってから、大きく頷いた。笑顔の彼女の・・・、滅多に泣かない彼女の目に、涙が溢れそうになっているのに気が付いたディスケは、もう反射的に彼女を引き寄せ、口づけた。

 
(34章5話に続く)

---------------あとがきのようなもの------------------

34章のタイトル、『一緒に来て』かもしれない。(他人事のように)

後半のディスケとコロネの会話は、ずっと書きたかったシーンです。
後半を先に書いて、前半は取って付けました。(大暴露大会)
・・・・・・が、後半を書いてみたら恥ずかしいわあ・・・(笑)

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