まよらなブログ

35章4話。

「世界樹カンケーねえ!」な「世界樹の迷宮Ⅲ」妄想話です。

すみません。
更新遅くなりまして、水曜日の更新となってしまいました。
次回は、基本通りに日曜更新(13日)の予定です。


それでは、興味のある方は「つづきを表示」からどうぞ。


35章4話
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 炎に包まれた真祖は、一吼えで炎を消し飛ばす。チリチリと焦げ付く体を引きずって、真祖は前を向いた。異常に巨大な腕が、さらに盛り上がる。真祖がありえないほどのエネルギーを腕に溜めている・・・そう気が付いたセルファが盾を構えて真祖に突進した。
 レグルスとオリヒメ、アヴィーとミツナミが、それぞれ離れた場所にいるので、二組をまとめて護れない。ならば、ゼロ距離で真祖に接近し、攻撃そのものを封じるつもりだ。
(・・・一撃は、耐えられる!)
 今までの攻撃を弾いたことから、セルファにはそれだけの確信があった。振り上げられた腕に向かって、セルファは盾を向ける。銅鑼でも鳴るような音がしてから、セルファの盾と彼女の体が別方向に吹き飛ばされた。
「セルファ!?」
 彼女が盾を離すことなどありえない。そう考えていたミツナミが、悲鳴のような声を上げる。アヴィーは、自分に止血用の包帯を巻いていたミツナミの手を払った。
「セルファのところへ!」
 ミツナミの瞳が揺れてた。アヴィーはもう一度叫ぶ。
「早く!」
「・・・っありがとうございます!」
 ミツナミは礼とともに駆けだして、壁に激突して倒れたセルファに駆け寄った。アヴィーは包帯の端を怪我をしていない方の手に握りしめて、傷口にきつく縛りつけようとした。スハイルが急いで飛んできて包帯の片側を咥え、引っ張った。倒れたセルファにミツナミが呼び掛けている。脳震盪を起こしているのかもしれない。セルファの反応がない。
「アヴィー!攻撃できますか!?」
 メディカを使って回復をしたオリヒメが、ふらつきながらも立ち上がり、二刀を真祖に向ける。アヴィーは肩の痛みに耐えながら、大丈夫!と答えた。自分自身の肩に包帯を巻くことは意外と難しく、止血が上手くいかない。じわじわと血が滲んでいるが、アヴィーは考えないようにする。
 真祖の腕がもう一度異常なほど膨らんだ。先ほどの攻撃は、それまでの攻撃の倍近い威力があった。ああして力を溜めているのだ。
 ならば、真祖が攻撃を仕掛ける前に、倒すしかない。
 オリヒメが駆けだし、アヴィーがその道を作るように氷の術で真祖の爪と触手を弾く。真祖は右腕をオリヒメに向かって振り上げた。
 ―― 浅い。攻撃の乱雑さを感じたオリヒメは床を蹴り、右腕の攻撃を突進することで避け・・・ようとして、しかしその右腕はオリヒメではなく彼女の真横の床にに突き刺さった。明らかにオリヒメを狙っていない動きに、床を蹴り前に進んだオリヒメは舌打ちをした。
 真祖は右腕を床に突き刺し、それで体全体を支えてぐるん!と左腕を回す。膨れ上がった左腕に弧を描く遠心力までつけて、オリヒメを背後から叩き落とそうとした。前へ直線に蹴り出したオリヒメは、軌道を逸らすことができない。オリヒメも真祖も慣性の法則に従っており、逃げられないオリヒメを止められない真祖の腕が追っていく――・・・
 その真祖の全体重を掛けている右腕に、レグルスが駆け寄った。その腕に、剣を突き刺す。だが、エネルギーに満ちあふれた巨大な腕にとって、レグルスの剣は蚊に刺されたようなもので、びくともしない。
 しかし、レグルスは剣の柄を握り込んで息を吸う。
「霧散しなさい!」
 そうレグルスが『命じる』のと同時に、腕に溜められていたエネルギーが弾けるように散り、元の・・・戦いの前のヒト型に近かったときの細さに腕が戻る。巨大化した左腕を含んだ体を、細い腕一本では支えられず、真祖は自分の体重で右腕をつぶしながら右肩から床に崩れ落ちる。何が起きたか理解できず、驚きに満ちた表情で己の右腕とレグルスを見つめる真祖の、その顔に向かって。その首に向かって。オリヒメが二本の刀を交わらせた。
 削ぎ落とされるようにして、真祖の頭部が体から離れ、ごとん!と意外に重い音を立てて床に落ちた。その背後では頭部の切り離された体が、痙攣しながら倒れていく。
 驚きで目を見開いていた真祖は、やがて納得した。何故、自分の視界がこんなに低いのか。なぜ、自分の周囲に生暖かい体液が溢れているのか。
 自分が負けたのだ、と理解した。
 真祖は、自分の力を解除させたレグルスを見た。気功術の応用だろうが、原理はよく分からない。自分の力を霧散させた人の子は、意識を取り戻した少女を見てほっと安堵のため息を吐き、改めて真祖を見た。真祖は最後のあがきを見せた。恐怖を喰って生きながらえようとしたのだ。真祖はレグルスの記憶を覗こうとし・・・
 その記憶の中で、震えながらもこちらを見つめる小さな子どもを見つけた。手に持つ毒杯を、しかし捨てられない子どもを見つける。その毒を持っていることが、罪だと考えていながら自分には必要なのだ、と訴えている。恐怖はここにある、と子どもは毒杯軽く掲げた。
(この恐怖を食うなら食えばいい。)
 子どもが目に訴える。
(だが、これはボクの力でもある。・・・恐ろしいけど、力でもある!)
 その毒杯は、真祖にとっても甘露のような毒だった。子どもにとって『恐怖』でありながら、同時に『希望』でもあった。恐怖と思って飲み込めば、希望で腹の中を焼き付けられるだろう。真祖は目を閉じ、再び開いた。目の前には、剣を持つレグルスがいる。そこが現実だった。
「・・・怖れるか。人の子の王の子よ。」
 と、真祖は笑い、
「僕を倒しておきながら、なおも怖れるのか。それが貴様の道だというなら、怖れてくれるな。」
 レグルスは溜息を吐いた。人の恐怖や哀しみを食らう眷属に対して、
「怖れます。」
 きっぱりと言い放った。
「ボクが進む道は、覇道であって王道ではない。数多の人間を、貴方のように斬り捨てるでしょう。大を救うために小を切り捨て、国を生かすために人を殺し、技術を進め想いを置き去る――、そんな道に違いない。そんな道を怖れない人間など、もう人ではないのです。」
 でも、とレグルスは囁いた。
「その先に、せめてボクらよりも幸せな未来があるのなら、我が身は血にも浸りましょう。ボクが大きなものを守ることで、幸せな小さな世界が守られるなら、ボクは大を救い小を捨てていきましょう。その道を、怖れながら進みましょう。怖れは、ボクが人でいる証拠なのですから。」
 真祖は一度顔を歪めた。その拍子に顔の表面がぽろぽろと崩れ落ちる。そして真祖は口から笑い声を放った。
「抱いた恐怖を僕に見せつけ、しかし僕に食わせぬ人間は初めてだ!」
 心地よささえ感じさせ、真祖は笑いを放った。
「だが・・・孤独だ、孤独だな、人の王の子!誰にも理解されずとも、その覇道を独りで進む気か!?その孤独すら抱いて往くというのか!」
「ボクの方法で変わる世界もあるでしょう。そして、ボクが捨てたものを拾おうとする人がいるでしょう。ボクの方法で救えるものもあるでしょうし、ボクとは違う方法で救われるものもあるでしょう。ボクが己の力を見誤らず、拾う存在を信じている限り、ボクは孤独ではないのでしょう。」
 レグルスはため息をついた。
「世界と繋がっている限り、誰しも孤独ではないのです。」
 おそらくは貴方でさえも、とレグルスはただの事実を述べるように淡々と告げた。真祖は顔を、瞳を歪めた。
 アヴィーがその真祖の前に屈んだ。
「・・・お姫様に、伝えたいことは?」
 遺言を聞き取ろうとするアヴィーに、真祖は歪めた瞳を今度は大きく見開いて、そして、力なく笑った。
「無い。【白亜の供物】が全てだ。あれを・・・お前たちが姫に渡してくれたとき・・・僕は全てを伝えきった。」
 代わりに、と真祖はアヴィーを見つめる。その顔が、頭部から離された体がゆっくりと崩れていく。
「聞け、人の仔ら・・・。父にして母なる座の最後の言葉を・・・」
 花びらをまき散らすかのように崩れていく真祖は、遺言の相手をアヴィーにして語り出す。周囲にわずかに甘い匂いが漂った。いつかグートルーネ姫に届けた、アマラントスの匂いに似ていた。
「・・・さらに下層・・・地中深くにいるフカビトの神・・・、僕はその『神』とともに、天の底、深き星海を越えてこの地へと下りたのだ・・・」
 思い出を語る真祖の瞳は、もうアヴィーを見ていない。かつてやってきた方角の星か、地の底の神か、長い年月の向こうか。遠くを見ている。
「その『神』には、敵対する勢力があった。それは、【世界樹】と呼ばれる存在・・・。彼の者また、漆黒の海を越えてこの地まで訪れた。」
 我らと世界樹、ともにこの星の存在とは異なるものなのだ・・・と真祖は息を吐く。
「その時に、大地に降り注いだものが【白亜の供物】・・・。漆黒の海から、高純度のマナが霙となって降り注いだのだ・・・」
 先に渡したのは、その最後の一欠けら・・・、と真祖は呟く。つぶやく口も崩れていく。
「マナの滴と、僕がかつて持っていた『霊的なる存在を相転移し凝固』する冠・・・。それらが合わさり【白亜の供物】が蘇った。」
 真祖は瞳を回して、己の身体に視線を向けた。その腕はもう崩れ落ちていて、どこにも無かった。その事実に、真祖はむしろ笑うのだ。
「僕が出会った少女は、人に還り、渇望していた邂逅を果たしたであろう。」
 真祖と呼ばれたフカビトは、満足そうな声でそこまで語る。体が一気に崩れ落ち、崩れて花びらのように舞う真祖だったものの欠けらは、部屋の蒼い暗闇に溶けていった。まるで、彼が来たという星の海に溶けていくかのようだった。
 蒼く深く暗い海へと消える王は、最後の言葉を告げる。
「・・・血を血で洗う覇道を行く者たちよ。」
 何かを認めたような言葉だった。
「その血の重みを感じ取り、その血の尊さを知る者は、血に溺れず、血に酔わず、道はいつしか清められよう。」
 血を流させ浴びることを畏れながら、血を流し浴びて進む。怖れも迷いも抱えて進む、と口にした冒険者への祝福にも似ていた。
「全ての争いに終止符を打つ為・・・、深海の底、深き地の底、死すら眠る大地へ赴け。すれば神が汝らの存在を裁断しよう!」
 ―― 己が正しいと思うのならその裁断すらも越えていけ。そう言っているようにも聞こえた。
 そして、真祖のすべては崩れ落ち、かつて真祖だった欠けらは闇に溶けきった。真祖がいた場所には、漆黒の色をした多面体の石が落ちているだけだった。
「・・・・・・、」
 アヴィーはその石を取ってから、立ち上がった。
「・・・・・・誰も、死んでないよね?」
 そっと問いかけながら振り返り、全員がいることを確認する。
「はい。セルファも気が付きました。相対的に見て、一番の大怪我人はアヴィーです。」
 オリヒメの言葉に、アヴィーは小さく笑った。笑ってから、
「・・・・・・・・・、良かった・・・」
 溜息を漏らすようにアヴィーは呟き、その場にへたり込む。
「・・・良かったよぅ・・・」
 しゃくりあげ出すアヴィーに、スハイルが飛びつき、「ぴよ!」としがみついた。アヴィーの右手の甲が一度光り、印が現れたと思うと宙に消える。レグルスは、ミツナミにセルファの治療を命じてアヴィーの前に進み出た。
「帰りましょうよ、アヴィー。マルカブが待っていますよ。それに、ボクの記憶を覗かれたこと、聞いてくださるんでしょう?」
「う・・・うん。レグルスが嫌じゃなければね・・・」
「嫌ですよ。」
 レグルスは即答だった。
「思い出したくない記憶をもう一度思い出すようなこと。」
「ご、ごめん。それなら、別に・・・」
「でも、貴方には、自分の言ったことを果たしてほしい。」
 レグルスはアヴィーに手を伸ばした。
「それは貴方の強さでしょう?そして、ボクには叶えられない夢でもある。だから、どうか、ボクにはできない戦いをして、ボクが捨てざる得ないものを拾ってください。」
 アヴィーはじっとレグルスの手を見つめた。それから、レグルスを見つめた。
「・・・君は迷わないのかな、って思ってたけど・・・、そんな人はいないんだよね。」
「そうですね。でも、ボクは迷いながら捨ててしまうでしょう。迷った挙げ句に捨ててしまったものを、きちんと拾ってくれる人がいると知っているのなら、ボクは迷うことも怖くはなく、しかし迅速に判断はできます。」
 だから、どうか、と今度はレグルスがアヴィーに頼む。
「どうか、ボクと一緒に戦って。」
 アヴィーは、この年下の割に妙に大人びた少年に、自分が認められたことに気が付いた。おそらく、互いが「やろう」としていることも取るであろう手段も真逆だろう。理想は同じかもしれないが、導き出す結果は真逆かもしれない。だが、それでも真逆の中で一本線だ。それを分かって、レグルスが頼んでいる。
「・・・いいよ。」
 アヴィーはレグルスの手を取った。
「僕ではきっと間に合わないことや守りきれないものが、いっぱいあるんだと思う。それをレグルスが守ってくれるなら、僕はレグルスとは違う方法で一緒に戦うよ。」
「ぴぴ!ぴぴ!」
「スハイルも、だって。」
 二人の拳の上に、スハイルは留まって「ぴよ!」と鳴いた。心強いですね、とレグルスは笑った。
「ボクの覇道を往くために、まずは目の前の脅威を祓いましょうか。アヴィーは【魔】の元まで、行くんでしょう?」
「・・・まあ、放ってはおけないよね。」
「お付き合いしますよ。」
「じゃあ、君たちも『アルゴー』だ。いいでしょう?」
「その体験も悪くはなさそうです。」
 そう言って、レグルスはアヴィーの手を引き、立ち上がらせた。でも、その前に、とアヴィーは苦笑し、
「街に帰らなきゃ。」
「いいえ。違います、アヴィー。」
 オリヒメがメディカを取り出して、
「まずは、あなた方の治療です。」


(35章5話に続く)

---------------あとがきのようなもの------------------

真祖があまり強そうじゃなくて申し訳ないです。
志水にとって、ボス戦で一番緊迫感があったのケトス戦と海都ルートボス戦なので・・・。

ここまで書いて、レグルス一行が『アルゴー』入りってことになるよな・・・と思っていたので、
目次記事のキャラ紹介にレグルス一行を加えてませんでした。
次回更新とともにキャラ紹介も変えますので、よろしかったらそちらもご覧ください。

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