まよらなブログ

35章5話。

「世界樹カンケーねえ!」な「世界樹の迷宮Ⅲ」妄想話です。


35章は5話で「1~4(及び新世界樹)を繋げるための志水的設定」を書くつもり…と
以前書いた通り、本日の話はマイ設定にもほどがあるのでご了承ください。

でも、公式で書かれていない隙間に
マイストーリーを詰め込んでいくのが二次創作の醍醐味だと思ってる。
(逆に公式で書かれていることを「無かったことにする」のは、私は「無し」だと思ってる。)


それでは、興味のある方は「つづきを表示」からどうぞ。



35章5話
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 妙な浮遊感の中のマルカブは、歌を聞いた。
 子どもの声だろうか。歌詞はうろ覚えなのか、鼻歌も混じっていた。歌のサビは『そばにいてほしい』という歌詞を繰り返す。
 こんな真っ暗闇の中、いったい誰がいるのだろう?そんな疑問を持ったときに、歌は止む。歌い手が、こちらを認識したことが分かった。
「……、驚いた。」
 やはり子どもの声だった。とは言え、幼子ではない。声変わりはしていない少年の声だ。アヴィーと同じぐらいの年齢なのかもしれない。
「こんなところに紛れ込む人が、未だにいるんだ。」
 声は子どものものだったが、口調は大人びていた。マルカブは暗闇の中で光を探しながら問いかけた。
「……ここはどこだ?俺は手術を受けていたはずだ。なんで、こんな真っ暗なところに…」
「真っ暗…。そうか、うん、そうだね。」
 マルカブは誰かが自分の額に触れたことに気づく。冷たい。
「少し、あなたの記憶をいただくよ。ああ、これがいいかな…大切にしているんだね。とても暖かい。」
「ちょ…ちょっと待て…!」
 慌てたマルカブに対して、声は笑った。暖かな微笑だった。
「安心して。オリジナルとは違う僕たちは、人の記憶をまるごと食ったりしないよ。」
 額にぴりっとしたものが走るのと同時に、暗闇は消え去った。…といいうか、周囲は暗闇だったのだが、目の前に一人の少年が立っている。
「……アヴィー?」
 目の前にいるのは、アヴィーだった。アヴィーの姿をしていた。少しだけ縮んだように見えたが、確かにアヴィーだった。しかし、その表情。立ち振る舞いは、アヴィーではなかった。老成された、穏やかだが諦めも知っているそんな微笑を浮かべている。
「君の記憶の中の、大切な人の姿を借りたよ。もう一人いたけど、そっちは女の子だったから。」
 と、アヴィーにそっくりの少年は笑った。
「君の記憶にある、この子のある日の姿だけを『食べさせて』もらった。君はその日のこの子の姿は思い出せないが、その日以外のこの子の姿は覚えている。実害はないよ。」
 それでも、とアヴィーの姿をした少年は自分の手を見て笑った。
「僕たちは、幸福な記憶で生きているけれど…。姿の記憶だけなのに、こんなに力が湧くなんてなあ。君は彼のことが本当に大好きなんだね。」
 マルカブは「そんなんじゃない。」と答えた。『大好き』なんてレベルではない。だが、まあ、それはともかくとして、
「…それで、ここはどこなんだ?」
「何て言えば伝わるだろう?」
 少年は頭を掻きながら首を捻る。アヴィーは子犬のように、こてん、と首を傾げるが、彼の場合は首を回すようだった。同じ顔で違う仕草をしないでほしいな、と思いつつ、考えている彼を邪魔しないように待つ。
「…少なくとも、ここはあの世ではないよ。あの世の手前でもない。それは、安心して。」
「当たり前だ。俺は死んでない。」
 手術は終了した。激痛に次ぐ激痛が続き、やっと「終わったぞ」と伝えられたのだ。その後に気を失ったように思うが、あれだけの激痛に耐えきったのに死んでしまうわけがない。アヴィーが帰ってくるまでは、死ぬわけにはいかない。少年は、そう、と笑い、
「ここはねえ…、そうだな、君たちの生きてる世界の舞台裏。那由多の記憶が集う場所。魂の道の通過点。この星を浄化するために張り巡らされたネットワーク。」
「………、さっぱり分からないが、人間には分からないものなんだろうってことは分かった。」
「そう。君は賢いね。身の丈をよく知っている。」
 それは誉められたんだろうか、と思ったが、少年は話を進めた。
「お帰りよ。君の世界へ。その世界は、僕たちを作った人たちが守ろうとして、僕たちが汚れを祓い、意志を継いでいる人たちが困難を打ち破って出来た世界だよ。醜いものも綺麗なものも、沢山だ。」
「俺も帰りたいんだが…」
 マルカブは周囲を見渡した。
「どこが出口だ?それに…お前はどうするんだ?」
「僕のことを心配してくれるの?」
「…ガキを置いていけないだろ。」
 一緒に来るか、とマルカブは手を差し出した。少年はその手をじっと見つめ、首を振った。
「…ありがとう。君はいい人だね。」
「来ないのか?それとも、来られないのか?」
「行けない、に近いかな。僕は、ここで役目もあるし…」
 少年は溜息を吐く。マルカブは、少し考えた後に
「お前は、神様か何かなのか?」
「……ううん。」
 少年は力のない微笑を浮かべた。
「僕をご神木と言う人もいるけどね、ただの、世界のシステムだよ。」
「……ご神木…?」
 マルカブは眉を寄せ、
「…まさか…世界樹、じゃ…ないだろうな?」
「当たり。でも、外れ。僕は、君の知っている世界樹ではない。僕は、そのクローン体の子どもみたいなものだから。」
「………、ああーっと…?」
「まあ、分からなくていいよ。僕たちも『オリジナル』とは違うしね。」
「…世界樹だっていうのなら、尚更ここにいる必要もないだろう?世界樹も、俺たちの世界にあるんだから。」
「……君はおもしろいね、そんなに僕のことが心配?」
「アヴィーを独りにするようで気が引けるし…」
 マルカブは鼻の頭を掻いてから、
「お前、歌ってただろう?「傍にいてほしい」って。」
 少年は、きょとんとマルカブを見つめた。それは本当に、アヴィーにそっくりだった。だが、我を取り戻した少年が微笑んだのは、アヴィーよりずっと大人びていた。嬉しそうに寂しそうに微笑んだ。
「…あの歌、今の世界でも歌われているの?なら、嬉しいな。僕を作ってくれた人がね、大好きな歌なんだ。子守歌代わりみたいなもんなんだよ、僕たちにとって。」
 「僕たち」という言葉が気になったが、マルカブは「…そうか。」とだけ答えた。「うん。」と少年は頷いてから、マルカブを見上げた。
「さあ、優しい人。キミの世界にお帰りよ。」
「…どこが出口なんだ?」
「そうだな…、そうだ、折角だし見せてあげようかな。まず、足元を見て。」
 少年に言われ、マルカブは自分の足下を見た。
 ……自分の真下に一つの赤い光。
「その光は君自身。鼓動のように瞬いている。生きているから、瞬いている。その光を追いかけていけば、ちゃんと帰れるよ。」
 赤い光を見下ろしたマルカブは、遠くの場所で白い光が瞬いたことに気づき視線を上げた。左の彼方に、真珠のように光る灯があった。
「………、カリーナ。」
 思わず、呟いた。少年は、白い光を驚いたように見つめてから頷いた。
「共鳴なんて、久し振りに見た。あれは君を強く想い、君が強く想っている人の光。」
 自分の足下のさらに真下で、青く光る灯も見える。では、あれはアヴィーか。マルカブはよく目をこらそうとして…、
 己だという赤い光の下に、数多の光の粒が見えた。光は集まり重なり、帯のように連なっていく。光の帯はまるで、巨木の根のように広がり広がり、遠くの地平まで続いていた。地平の彼方まで続く光を見つめるマルカブに、少年はそっと告げた。
「…キミには見えたんだね。」
 何を、とは聞かなかった。見えた、と答える。
「…その光の帯は、木の根のように枝のように、つながっている。遠くに離れていても、辿っていけば、必ずつながっている。」
 マルカブは、ああ、と溜息を吐く。
「…この光は、…命なのか。」
「そう。光は人々。人々とは命。その帯は、人のつながり。命のつながり。数十億という年月の命と、今を生きる人の思いのつながり。」
「…じゃあ…」
 マルカブは呟いて、ずっと前方を見つめた。その視線の先には、闇がある。
「何で、あそこで光の帯が途切れているんだ?」
 ある地点までは光の帯は続いている。細いものでも繋がっているのだが、遙か北の位置で光の帯は途切れていた。ある地点から先は、一面の暗闇。
「あそこで…命が途切れるのか?」
「…そうだね。あそこで、命は捨てられた。もう、千年も前の話だけど…、世界の半分を救うために、世界の半分を捨てたんだ。」
「……もしかして…、」
 マルカブは途切れた帯の先端を見つめながら、
「…先に進めない海域があるって話を聞いたことがある。…そこか?」
「そうだよ。世界を襲う毒をあそこで封じ込めた。」
 少年は淡々と告げた。マルカブはじっと光の途絶えた場所を見つめて、
「……でも、」
 見えるものを口にした。光の帯の途切れた先に、弱く弱く、光が点在していた。
「その先で、光っている。」
 少年は感心したように息を飲んだ。
「……すごいね。そこまで見えるんだ。」
 少年が囁くのと同時に、幾重もの声が囁きだした。
 《 そう。/そうなの。/みんな苦しんで何とかしたいと思ってそして戦ってきた。》
 《 独りで戦っている人もいる。/その手を私は取りにいきたい。》
 《 今、生きようとしている人たちがいる。/その人たちを助けたい。》
 《 毒に犯された大地がある。/その毒を祓いたい。》
 事実を告げる声と意志を告げる声が交互に響く。悲惨な事実とそれをを覆そうと願う意志の声に、マルカブは思わず問いかけた。
「俺が手を貸せることはあるのか?」
 声は一斉に返事をした。
 《 私/僕のところまでやって来て!光の帯を繋げてきて!私/僕に名前を付けて!その名を呼んで、手をとって!》
 帯が途絶えたその先で、いっそう強く光る場所が幾つかあった。どうやら、そこに彼らがいるらしい。
 《 そうすれば、そうすれば!私/僕はもう一人ではないの!》
 響く声の中で、いっそう強く光る場所を見つめていた少年が、唇をふるわせてマルカブを見上げた。勇気を振り絞って、自分のわがままを初めて伝える…大人しい子どものような視線だった。
「…僕にも、」
 少年が、おそるおそる問いかけた。アヴィーの顔でそんな表情をするな、とマルカブは思った。…断れるはずもない。
「名前を、付けにきてくれる?」
 マルカブは少年の額を指で弾いた。少年は「はう!」と声を上げて額を押さえ、それからそろそろとマルカブを見上げた。
「してほしいことがあるなら、そう言え。よっぽどの我儘じゃない限り、俺はガキの頼みを断らない。…そしてお前の頼みは、まったく我儘じゃない。誰だって名前は欲しいし、独りは嫌だ。」
 少年は目を見開いて、そして頬を染めて泣くのを堪えるような顔をして大きく頷いた。光の帯の先。暗闇の中で強く光るものがある。おそらくそれが、この少年がいるところだ。遠い彼方に、彼は一人でいるのだろうか?
 少年は瞼を拭ってから顔を上げる。
「今の声は、僕たちだ。」
「…僕たちって…」
「アーモロードの世界樹を元に作られた7本の世界樹と、その根から芽吹いた第二世代。」
「何だって…?」
 マルカブの驚きに、少年は答えなかった。ただ、詩でも朗読するように、続ける。
「一本は災厄に弾け飛んだが、別の一本では災厄は祓われ全ての正義への一歩を歩み出している。別の一本では、天と地の人が結ばれた。今、君のいる場所で、己の役目を果たそうとする人たちがいる。ここより北方、世界の半分を封じた街で、独りで苦しむ手に小さな手が差し伸べられる。それがどれだけの意味を持つか、その時は分からなくとも、いつか忘れられたとしても、僕たちは忘れない。君がここにきたことも、いつかきっと、とても大きな意味を持つ。それこそ世界を変えるような意味を持つ。」
 だから、と少年は告げた。
「小さな冒険者の一歩が迷宮の踏破につながるように、小さな行為がいつか大きな意味を持つ。だから、お願い。その一歩を、僕らのところまで繋げてきて。」
 あの暗闇の先にか?とマルカブが聞こうとしたときだ。白い真珠のような光が瞬いた。カリーナの光が瞬いた。
 ―― 行こうよ、マルカブ。
 カリーナの声が聞こえたのは、幻聴だったのか。
 ―― 行こう。私も、そこに繋げていくから。
 白い光の周囲の光が筋のように連なっていくのを見て、マルカブはきっとあそこでカリーナは人を守っているのだろう、と思った。人々の繋がりを、地の果てまでも背負うのがカリーナの王道ならば。
 …その繋がりの一部を担おう。どこにでも連れて行くと言ったのは自分じゃないか。
 マルカブは手を伸ばし、少年の頭を撫でた。
「分かった。必ず、行く。必ず、お前のところに繋げて行くから。」
 だから泣かないで待っていろ、とマルカブは告げ、少年はぎゅうっと瞼を閉じてから、それこそアヴィーそのものの動きで、
「…うん!!」
 大きく頷いた。
 頷きを見たマルカブの視界が暗転する。少年の姿が見えなくなり、カリーナの光も、他のどの光も見えなくなる。見えるのは、自分の足下の赤い光だけだ。
「…時間切れだね。今は、君の光を追って。」
 少年の声がする。赤い光がゆっくりと下降する。マルカブの意志とは別に、マルカブ自身も下降した。
「僕は待ってる!寂しさも超えて、待っていられる!ありがとう!」
 まだ何もしていないのに礼なんか言うな。そう言おうとしたが、マルカブはすぐに意識を失った。


*****


 その頃、ネイピア商店の奥の工房にディスケはいた。工房にまで顔を出した店主が、ディスケの真っ青な顔を見て眉を寄せた。
「…そんな顔色で突っ立っておったら倒れるぞ…。」
 呆れと心配半々で、店主は職人が使っている椅子を算盤で指し示した。ディスケは礼を言いつつも、それをやんわり断った。店主は鼻で溜息をつく。
「…手術は成功か?」
 少しの間を開けて、店主が問いかけた。ディスケは青い顔色のまま、おうよー、と答えた。
「いやー…でも、さすがの俺もあの手術はビビったわ…。ケトスと戦ったときに大出血したマルカブを引きずったけどさー…、やっぱ手術に立ち会うもんじゃないね。」
「…立ち会ったのか?」
 店主は驚きでディスケを見上げ、ディスケは思い出したくないのだろう。苦虫を口に含んでいるような表情で頷いた。阿呆じゃな、と店主はため息混じりに呟いた。
「医者に任せておけばよいのに。お主の仕事は、義足を作ることじゃ。」
「だからだよ。どんな思いをして手術をするのか、見ておかないとさ。」
「見られたくない、とは言わなかったのか。お主らのギルマスは。」
「嫌がってたけど、俺のお願いに押された。それが、俺の為になるならってさ。優しいよなー、うちのおとーさん。」
「…お前、甘え過ぎじゃないかの?」
「俺もそう思う。」
 ディスケは笑い、工房の炉が赤く染まっていくのを眺めて真顔になった。血の気は引いているが、手術の記憶から鍛冶へと意識を向けている。
「…良いのじゃな?」
 店主がもう一度問いかけた。ディスケは頷き、炉の傍らにある布に包まれた荷を見た。
「勿論だよ。カリーナと爺さんだって、喜んで使わせてくれるさ。」
 ディスケは笑いなおしてから、工房の職人に向かって、
「やっちゃって!とびきり強い鋼に生まれ変わらせてよ!」
 そう、大声で告げた。職人は頷いて、傍らにある布をめくった。中には、一振りの剣と一つの槌。職人は慣れた手つきで、柄を取り外す。そして刃の部分を炉の中に入れた。
 刃が赤くなり、柔らかくなり、鍛冶の音が響き出す。ディスケは仲間の武器がただの鉄の板に生まれ変わっていくのを見ながら、
 その鉄を、いかに仲間の脚に生まれ変わらせようか、考え続けた。



(36章に続く)

---------------あとがきのようなもの------------------

冒頭の鼻歌は「stand by me」です。だーりん、だーりん、すてん・ばい・みー


志水の世界樹世界観の裏設定をチラ見せしました。公式じゃないよー。
第二世代世界樹ってなんだよなあ(笑)って話ですが、今後もチラ見せしていきます。
次は、そんな世界樹を作った1000年前の人の話で番外編になりますが、
章の変わり目のお休みを一回いただきます。ご了承ください。

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