まよらなブログ

36章1話。


「世界樹カンケーねえ!」な「世界樹の迷宮Ⅲ」妄想話です。


ちょっとだけ日常パートに戻る36章です。
しかし、それも長くは続かないので、
この36章は思いっきりアヴィーを甘えさせたいものです。


それでは、興味のある方は「つづきを表示」からどうぞ。


36章1話
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 アヴィーたちが街に帰ってきて、真っ先に向かった先は治療院だった。マルカブの手術はもう終わったころだろう。ディスケは手術に立ち会う、と言っていたが、その後すぐにネイピアの工房に向かうとも言っていた。術後のことはコロネに任せてあって、…アヴィーたちが帰らなかったときのことは『ファクト』に任せてもあった。
 治療院の廊下…待合い所でもあるベンチに妙に人が集まっていた。コロネはもちろんのこと、『ファクト』が全員揃っていたし、他にも数名そこにいた。アヴィーが早足で廊下を歩いてくる音を聞き、ミモザが顔を上げる。
「…あ!アヴィー!」
「アヴィー、おかえり!!」
「アヴィー!無事だったか!?」
 ミモザとアル・ジルとサビクが真っ先に駆け寄ってきた。その後ろではベンチに座ったフェイデンが「ほらー、言ったじゃないかあ。もうすぐアヴィーたちは帰ってくるってー。」とのほほんと笑う。
 アヴィーは、サビクとアル・ジルに「怪我はない?」と帽子を外されたり頬を引っ張られたりしながら、
「マルカブのお見舞いにきてくれたの?」
「うん!あと、アヴィーに「おかえり!」を言いにね!」
「マルカブの手術は終わって、今は寝てる。手術は成功だって。」
 サビクの言葉にアヴィーは、ぱあああ!と顔を輝かせて「マルカブに会える!?」と聞き返す。コロネが進み出て、
「マルカブさんはまだ寝てる。静かにしてれば、病室で付き添いしてもいいってお医者様は言ってくれてるよ。ただ雑菌が厳禁だから、まずは着替え…」
 コロネは言葉をとめて、
「ううん。まずは、治療が先だね。あなたたちも。」
 と、アヴィーと他の4名にも声をかけた。「ほらあ、言ったじゃないですかあ!」とセルファに肩を貸しているミツナミが頬を膨らませた。
「まずは自分の治療してくださいって!アヴィーは肩を刺されてるんですからあ!」
「い、痛くないし血も止まったよう!」
「痛くないのは、痛み止めを打ったからですぅ!オリヒメ、アヴィーを引っ張っていってくださあい!」
「分かりました。アヴィー、真っ先に治療してもらいますから、言うことを聞いてください。」
「ちょっとだけならいいでしょう!?ちょっとだけだよう!顔を見るだけ!」
 アヴィーが駄々をこね出したが、オリヒメがアヴィーの襟をつかんで治療院の奥へと引きずって行く。レグルスは、ミツナミに小さな声で先に行くように告げて、一人その場に残った。
「元老院に報告に行きたいのですが、」
 レグルスはコロネに尋ねた。
「どなたか一緒に来てはもらえないでしょうか?ボク一人では、元老院も話をどこまで信用してくださるか、分かりませんので。」
「…真祖は倒してきたのかね?」
 シェリアクの質問にレグルスは頷き、手の中に握った漆黒の多面体を見せた。
「真祖の核です。これが証拠として認められるかは分かりませんが。」
「…分かった。私が共に行こう。君は、治療はいいのかね?」
「ボクは大きな怪我はしていませんし、アヴィーには元老院に行くよりもやらなければいけないことがありますから。」
 レグルスの言葉をシェリアクは意外そうに聞く。やっぱり意外そうに聞いていたコロネが、あ!と我に返り、
「ディスケにも『アルゴー』が帰ってきたって言いに行かなきゃ!」
「ああ、それじゃここには私が残るわね。ディスケも心配してるでしょうから、行ってきて。」
 とエラキスが申し出た。僕もいるしなーとフェイデンがのんびり言うが、あまり頼りにはならなそうだな、と子どもたちは思った。
「お言葉に甘えて!スハイルも外にいるんでしょ?声かけてあげなきゃ!」
 とコロネはとっとと駆けていく。ボクたちも行きましょうか、とレグルスはシェリアクに頼み…、頼みながら廊下の先を見つめた。
 廊下の奥からは、「僕はマルカブに会うんだよう!」というアヴィーの声と「治療が終わったら好きなだけ会えますから今は我慢なさい!」と叱責するオリヒメの声がして、「少し静かにしてください…頭が痛いです…」というセルファの呻き声がする。レグルスはそれをおかしそうに眺めるのだ。そんなレグルスをシェリアクは見つめて、
「…君も、変化があったようだが、」
「ええ。まあ。」
「何よりだ。」
 そう言い、後をエラキスに頼んでレグルスと共に治療院から出ていった。

*****

 自分の治療を終えたアヴィーはマルカブの病室に走ってきて、それ以降ずっと彼の枕元にいる。
 陽が落ちて暗くなった部屋で、アヴィーはずっと座ったままだ。その部屋の扉がノックされて、おずおずとミモザとエラキスが顔を覗かせた。エラキスに促されてミモザが一歩中に入る。
「…あの、アヴィー。おにぎり、作ったの。食べて。」
「あ、うん。ありがとう。」
 アヴィーは差し出されたお盆を受け取り、礼を言ってから盆をサイドテーブルに置いた。しばらく食べる気はないらしい。ミモザはちらりとエラキスを見、エラキスが頷くのを見てからアヴィーに視線を戻した。
「…あとね、アヴィー。それどころじゃないかもしれないけど…」
「うん?」
「……今日、流星群の極大の日よ。」
 おずおずと告げられた言葉に、アヴィーは瞬きをした。ミモザは早口で続けた。
「わ、忘れてるのはしょうがないと思うの!で、でも…でも…アヴィー…!カリーナと約束したんでしょう…!?流星群を、見ようねって…!」
 アヴィーの目がみるみる開かれた。ミモザは泣きそうになりながら続ける。
「きっと…カリーナは、空を見てる…。アヴィーが空を見てるって思って、空を見てる…と思うの…!こんな時に、こんなこと言うのは…おかしいって思うんだけど…、でも、あたし、」
 ミモザはぎゅっと自分の手を握り、
「アヴィーとカリーナに流星群を見てほしいの…!」
 そう、一生懸命に告げるのだ。アヴィーはがたんと立ち上がって窓を見て、それからミモザの前まで走り寄る様にして、
「ありがとう、ミモザ!それとお願いしてもいい!?」
「う、うん!?」
「望遠鏡を貸してほしい!」
 ミモザは、顔を真っ赤にしながら大きく頷いて、
「あたし、パパから借りてくる!窓に置けるやつでしょう!?」
 そう言うなり、病室から走って出ていった。エラキスは微笑を浮かべて、
「ミモザはいい子でしょう?優しくしてあげてね。…ちょっと待って、ミモザ。私も一緒に行くわ。」
 と言って、ミモザを追っていく。アヴィーは窓まで駆け寄って、窓を開けた。
「ぴぴぃー?」
 窓の外にはスハイルがいた。アヴィーはスハイルの頭をなでながら、空を見た。「ちょうど一ヶ月後に流星群が見える」とカリーナに言ったあの日から…一ヶ月後なのだ。
 あの時、方角と時刻も調べた。カリーナにも教えた。幸いなことに(もしかしたらミモザが気を回してくれたのかもしれないが)、流星群が見える方角に窓は向いている。
「…窓を開けっ放しにしたら、マルカブ、風邪引いちゃうかな…」
 アヴィーは眠っているマルカブを振り返り、
「でも、カリーナとの約束を破りたくないし…マルカブのことはオリヒメに少し見てて貰って…」
「ぴー…?」
 スハイルがひょこっと窓から中をのぞき込み、アヴィーとマルカブを交互に見やった。アヴィーは黄昏時の空をもう一度見上げる。雲もない。カリーナの国でも晴れているだろうか…と身を乗り出すようにして、彼女の国の方角を見た。
「………、カリーナと…」
 掠れ声がベッドからした。アヴィーは窓から身を乗り出したまま、振り返った。
「…どんな約束したんだ…」
 呻きながら、ベッドの上のマルカブが窓の方へ顔を向ける。アヴィーは窓枠に頭をぶつけながら、部屋の中に戻ってた。スハイルは窓枠に留まって、ばさばさと翼を羽ばたかせた。アヴィーはマルカブの顔を覗きこむ。
「マルカブ!具合はどう!?」
「ぴよーぴん!?ぴー!?」
「大声だすな…傷に響く…」
「先生、呼んでくる!?」
「ぴー!?」
「だから、大声出すなって…」
 マルカブが荒く息を吐く。術後の痛みも熱もあるのだろう。それでもマルカブはアヴィーを、何も見逃すまい、と見つめ、
「お前…怪我してないか…?」
「した。でも、治療も済んだし、痛いけど元気だよ。オリヒメもレグルスたちも皆戻ってきた。」
「…それなら…良かった。」
「……きっと、一番傷が深いのはマルカブだよ。」
「それなら、安心だ。俺が生きてるなら、誰も死んでない。」
「うん。」
 そこでやっと、マルカブは本来最初に尋ねるべきことを尋ねた。
「真祖は…倒したのか?」
「うん。」
「…そうか。」
 マルカブは手を伸ばして、アヴィーの頭を撫で、
「よく頑張った。」
「…、」
 アヴィーは瞳に涙をじわっと浮かべてから、ごしごしとその瞼をこすり、
「…マルカブもね!」
 そう笑う。そうだな、とマルカブは微笑を浮かべて、アヴィーの頭を一度強く撫でてから、
「それで…、カリーナとどんな約束をしたんだって?」
「…ええっと…」
 アヴィーはちらりと外を見る。マルカブに言ったら「俺も見る。」と言うだろうと簡単に想像できた。が、手術その日に窓を開けて流星群を見せていい、とは、いくらアヴィーでも思わなかった。
 アヴィーの視線を先を見て、マルカブは「外か。」と呟き、
「カリーナとどんな約束をしたんだ?」
 もう一度、はっきりと尋ねるのだ。アヴィーは、唇をへの字に曲げて頷いて、
「流星群を、見ようねって…!」
 答えながら声が震えて、アヴィーは泣きだした。
「僕、忘れてたんだよ…!僕が言ったことだったのに、忘れてたんだ…!でもきっとカリーナは忘れてない…!僕、約束を破るところだった…!」
 泣きながら、そう答えた。答えを聞いて、マルカブは額の上の濡れたタオルを外し起きあがろうとした。アヴィーが肩を押さえて起きあがらせまいとする。
「マルカブ!起きちゃダメだよう!」
「平気だ。少しぐらい…」
 いつもならマルカブがあっさり押し返すところだが、さすがにその力もなく、二人はぐぐぐぐ…!と押し合いになりながら
「ダメだよ!寝てないと!」
「いいから、俺の背中にクッションいれろ。」
「起きちゃダメだよおおお!!!」
 アヴィーは、うわああん!と泣きながら、マルカブの腹にタックルをした。ごふう、と妙な息を吐いてマルカブは押し倒された。
「起きちゃダメなんだよう!絶対安静なんだから!」
「…お…お前…、絶対安静の人間にタックルするな…!」
「マルカブが言うこと聞かないからだよ!」
「バカ言うな、カリーナとの約束なんだろ。」
「そうだけど、僕もマルカブに流星群見てほしいけど、でもマルカブには安静にしててほしいし、でもカリーナもきっとマルカブも空を見てるって思いながら見るだろうし、でももしマルカブの具合が悪くなったらカリーナだって悲しむし…」
 アヴィーはオロオロとうろたえた後に、
「…何でマルカブは今日手術したの!?本当にタイミングが悪いよう!」
「………俺のせいなのか…!?」
「…マルカブのせいだよ!だから、わがまま言わないの!」
 アヴィーが地団駄を踏み出しそうになったときだ、扉が開いて、
「何を大騒ぎしてるんですか…。お医者様に怒られますよ。」
 オリヒメが呆れた様子で入ってきた。
「オリヒメもマルカブを叱って!ちゃんと寝なきゃダメだって!」
「マルカブ、ちゃんと寝てください。いい大人なんですから。」
「………いや、アヴィーが騒いでることを注意しろよ…」
 マルカブは、お前もアヴィーに甘くなってきたよな…とつぶやいてから、彼女がてるてる坊主を持ってきたことに気がついた。
「…なんだそりゃ?」
「先ほど、ミモザから聞きました。アヴィーは今日、流星群を見る約束をカリーナとしたんでしょう?」
 ですから晴れるように、と思いまして、とオリヒメは窓にてるてる坊主をくくりつける。アヴィーは空を見て、首を傾げた。
「雲なんかないよう?」
「カリーナの国が晴れるように、ですよ。」
 オリヒメの一言に、アヴィーは「おお…!」と目を輝かせて頷いた。
「ありがとう!オリヒメ!きっとカリーナの国も晴れてるよね!」
「…オリヒメは、たまに気が利くよな…」
「たまに、とはどういうことですか。」
 オリヒメはじろりとマルカブを睨み、
「お医者様の許可を取ってきましたのに。」
「…あ?」
「ベッドから起きあがらないこと。ベッドは窓に寄せても構わない。アヴィーと騒がないこと。体を冷やさないこと。30分以上は起きていないこと。」
 オリヒメは淡々と告げてから、
「これらのことが守れるのであれば、特別に、…いいですか?特別に、です。流星群鑑賞を許すそうです。…まあ条件を守った上で、病人が眠れなくて窓の外を眺めている分には、個人の自由と言っていました。」
「お前…最高に気が利くな…!」
「お礼が先ですよ。」
「ありがとう。」
 素直に礼を言うマルカブを見て、オリヒメは小さく鼻を鳴らした。アヴィーは、30分かあ…と呟いて、
「じゃあ、マルカブ!一番たくさん流れ星が見える時間が近くなったら起こしてあげる!それまでは寝ててね!」
「その時間っていつだよ…?」
「うーんと、午前1時ぐらい?」
「お前、起きてられるのかよ…?」
「頑張るよう!ほら、寝て!寝て!」
 アヴィーはマルカブの顔の上に枕を押しつけて、眠りを強要した。オリヒメは、それを見て溜息を吐き、
「アヴィーは静かにしているんですよ。」
「うん。オリヒメ、どこか行くの?」
「カリーナに縁のある方々に、流星群のことを教えに行きます。それと、私たちが無事に帰ってきたことも。マルカブはちゃんと寝ててください。」
「…悪いなオリヒメ、気を使わせて…。」
「いいえ。では、午前1時に。」
「……お前もここで流星群見るの?」
「いけませんか?」
「…興味がないと思っていた。」
「流星群には興味はあるとは言えませんが、」
 オリヒメの一言に、アヴィーは「えー!」と抗議の声を上げた。オリヒメは静かに、と人差し指を己の唇に当てた上で、
「カリーナは、きっと、『アルゴー』はみんなで流星群を見ていると思っているでしょうから。」
 と、答えた。その一言に、マルカブは「ありがとう。」と告げ、
「ですから、ディスケも連れてきますよ。覚悟してください。」
 と続けたオリヒメの一言と、わーい!と喜ぶアヴィーの様子に、「あ、コイツも俺を安静にさせる気がない。」とマルカブは理解した。
 …しかし、いつも通りの『アルゴー』に頭を抱えていた方が、回復も早い気もした。


(36章2話に続く)

---------------あとがきのようなもの------------------

『アルゴー』は通常運転に戻りました。
あまりにいつも通りなので、足に痛みも熱もある赤パイも通常運転です。


カリーナに『一か月後に流星群が見える』と言った日から、
一か月になっているように計算はしてたんですが、
もしかしたら数日ずれているかもしれません、ご了承ください。

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