まよらなブログ

36章2話。


「世界樹カンケーねえ!」な「世界樹の迷宮Ⅲ」妄想話です。

新・世界樹2の発表がされました。
新たに加わるストーリーを、この話の裏設定にどう組み込んでやろうかと
何も知らない旅人を泊めて包丁を研ぎ始める山姥のような気持ちでいっぱいです。


それでは、興味のある方は「つづきを表示」からどうぞ。


36章2話
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「…本当に連れて来やがった…!」
「何が不満なんだよー!こんな夜中にわざわざ流れ星を見に来てやったのにー!」
「ディスケ、静かにしてください。お医者様が「静かにするなら」という条件で許してくださったんですから。」
「悪い悪い。」
 宣言通り、オリヒメはディスケを病室に連れてきた。時刻は日付を回った頃だ。ディスケは窓を開けて窓の外にいるスハイルを撫でながら、マルカブのベッドに突っ伏すようにして寝ているアヴィーを見て、
「スハイルも頑張って起きてるのに、アヴィーったら寝ちゃってんの?お子ちゃまなんだからー」
 ぷーっと笑う。それをオリヒメは睨みつけ、
「アヴィーは真祖を倒してきたばっかりなんです。肩も怪我しているし。眠って当然です。」
「ぴよ!」
 スハイルにまで抗議され、ディスケは「悪かったよ。」と手を振った。マルカブは「お前もアヴィーに甘くなったなあ…」と感慨深げにオリヒメに言い、「貴方ほどではありませんよ。」とオリヒメにぴしゃりと返された。それをニヤニヤ笑って見ながら、ディスケが問いかける。
「マルカブ、お前は起きてられるの?」
「正直、痛くて寝てられない。お前等がいる方が気が紛れる。」
「…すげえ手術だったもんな。よく耐えたと思うよ。」
「手術を見ているお前が倒れやしないか心配で、痛がってる場合じゃなかったよ。」
「またまた~。」
 とディスケは笑ったが、他人への心配性の塊なのがマルカブだ。意外と事実かもしれない、とオリヒメは思いつつ、タオルを洗面器の水に浸して絞り、マルカブの額の汗を拭いてやる。礼を言うマルカブに、医師から聞いたことをオリヒメは確認した。
「すぐにリハビリも始まるそうですね?」
「あんまり間が開くと、筋肉が落ちるんだと。それでかえって、動きにくくなるらしい。」
 オリヒメの問いにはディスケが答えた。
「リハビリと平行して義足の作成だな。調整も必要だからちょっと時間がかかるかもしれない。何せ初めてのことだからさ。」
「…ひとまず、木の義足で過ごせるようになるといいんだけどな。」
 マルカブは、シーツの下の足を見つめて呟いた。オリヒメは「何でもいいんですが、」と呟いて、
「アヴィーにこれ以上の心配をさせなければ、何でも。」
「……やっぱり、お前もアヴィーに甘くなったなあ。」
「しょうがないよなー、アヴィーは可愛いから。」
 マルカブが呆れ、ディスケが笑うと、寝ているアヴィーが「うーん…」と唸り、
「…僕…、かわいくないよう…」
 と寝言で抗議するので、病室には三秒の沈黙が訪れた後で大爆笑が起こった。アヴィーが驚いて起きるのがその直後、看護師が怒鳴り込んでくるのは2分後。
 窓の向こうでは、ぽつりぽつりと星が流れている。
 その流星群を小さな窓から四人で眺めるのは、20分後だ。


*****


「【魔】を倒す…ためには、【魔】の居所を突き止めなきゃいけないだろ?」
 流星群の夜から一週間もしないうちに、マルカブのリハビリは開始された。とはいえ、いきなり立つわけではなく、ベッド上で足を動かすことから始まる。治療師の指示で、マルカブは横になりながら膝(は無かったが)の上げ下ろしをしており、その横では、
「四階層からさらに下に、【魔】はいるんだろうってことなんだけど、どうやっていくかは分かんないんだって。今は、オランピアが中心になってその道を探してる。『アルゴー』も街の人の依頼を受けながら、探索して、道を探すってさ。」
 ディスケが樹海探索の現状を報告している。マルカブは、息を上げながら「そうか」と呟いただけだった。治療師から動作の終了を伝えられると、改めて息を整え、
「…道が見つかっても、塞いでしまえばいいのに。」
「おとーさんはそう言うと思ってたけど、それは無しだろうよー。」
 マルカブは治療師からタオルを受け取り、額の汗を拭きつつ、「ありだよ。」と呟いた。治療師は話の内容を聞かない振りをしつつ(街の人たちには【魔】の存在は伝えられていないが、治療を受け持つ治療院には『アルゴー』たちがまだ未知の存在に戦いを挑むことは知らされていた。)、本日のリハビリは終了ですよ、と告げる。それから、汗で湿った足の包帯を取り替え始めた。包帯の下には、マルカブの足の先端を覆う金属。機械製の義足の接合部だ。切断面を縫い止めた糸がまだ残っている。
 ディスケは生々しさが残る手術跡から、壁に寄せておいた車椅子に視線を移し、
「少し休んでからでいいけど、義足の図面、見てほしいんだ。そんな気力、ある?」
「おう。大丈夫だ。何か飲みたいから、休憩所まで連れて行け。」
「はいよー。」
 ディスケは車椅子を取りに行き、その隙にマルカブはタオルを口に当てて重い息を吐いた。消毒用のガーゼを患部に重ねた上で包帯を巻き直す治療師が、無理はしないでくださいよ、と小声で告げた。
「無理してた方が痛いのが誤魔化せるんだ。」
 治療師は眉を寄せた。クー・シーさんがいれば誤魔化しきれないのに、と呟かれ、マルカブは薄く苦笑しただけだった。

*****

「…ディスケにマルカブ。何を見ているんですか?」
 治療院のロビーで図面を広げている二人に、ディアデムが声を掛けた。
「お、ディアデム。どうした?『ファクト』の誰かが、怪我した?」
 ディアデム自身が治療院に用があることはない。(彼女を『治す』場合は、ディスケの家かネイピアの工房に行く。)ディアデムは、いいえ、と答えてからマルカブの前まで来て、
「お見舞いです。」
 と、その辺で摘んできたのだろう。小さな花を差し出した。虚を突かれたようなマルカブの表情に、ディアデムは
「お見舞いについて、エラキスに教わったのですが、間違っていますか?」
「…いや、概ね正解だ。」
 マルカブは花を受け取ってから、ディアデムの頭を撫でた。アヴィーやカリーナにするよりも、随分優しい手つきだった。本当に小さな子どもにするような動作だったが、マルカブにとってディアデムは赤子も同然なのだろう。最近、寝返りができるようになったドルチェよりも、ディアデムの方が後から生まれているのだから、赤子よりも赤子ではある。
「ありがとな、嬉しいよ。」
「はい。私の電流の波長もいつもより早く、しかし安定して一定のリズムを刻んでいます。これは、人間が『嬉しい』と表現することを、私が経験したときに私の中に起こる変化です。私も、『うれしい』ようです。」
「そうか。」
 マルカブはまた虚をつかれつつも、それは表に出さず頷くだけだった。ディスケは「成長したなー、ディアデムー」と笑った。以前のディアデムは自分の中の変化には気づけても、それを感情として結びつけることは無かったからだ。
 ディアデムは、はい、と頷いてから、頭(といっても帽子のようなデザインだ)に触れ
「しかし…まだ分からないことが。シェリアクやエラキスも頭を撫でてくれますが、マルカブが撫でてくれたときに私に生じた変化は、二人が撫でてくれたときとまた違います。シェリアクたちがそうしてくれるときには長い波長の電流が流れますが、先ほどはもう少し短い波長でした。これは、おかしいのでしょうか?」
「それでいいんだよ。」
 と、ディスケは笑い、マルカブも同意した。ディアデムは、そうなのですか?と聞きながら、図面を見下ろし、
「アンドロの脚の設計図ですか?」
「それを元にした、マルカブの義足。」
「構造はアンドロの脚ですが…形はまるで人間の脚ですね。」
 アンドロは骨格標本が鎧を来たような形をしている。図面にかかれた脚は確かに機械なのだが、筋肉がついた人間の脚を模している。
「筋肉の収縮をバネで代用してるんだ。片足が生身の脚だから、構造を似せておかないとバランス悪くなるだろー?」
 たとえばこの辺とかさーとディスケは図面を指して説明をする。ディアデムとマルカブは図面を覗き込んだ。
「一つ質問なのだがね、」
 と、その頭上から声がした。
「この義足は、水に浮くのだろうか?」
 マルカブが振り返ると、港の管理人である老人が同じように図面をのぞき込んでいる。老人はマルカブを見て、
「…ふむ、少しやつれているが、思っていたより元気そうで何より。これはお見舞い。アヴィーたちと食べてくれ。」
 と老人は箱を差し出す。中身は菓子のようだ。礼を言って受け取ってから、
「…そうだ。ミアプラキドゥス号は、」
「勿論、港できちんと管理している。先日、港の船乗りたちが甲板掃除をしたよ。君の体調が悪くないようだったら、見舞いにくると言っていたから、そのときに礼を言っておくれ。」
 それを聞いてディスケが、意外そうにマルカブを見た。
「お前、意外と知り合い多いよなー。昨日も、小さな女の子とお母さんが見舞いに来たじゃん。やらしいよなー。」
「迷子を送っていって、知り合った親子だ。妙な言い方をするな。」
「でも、あの女の子、絶対にお前のこと大好きだって。」
「君は、女子どもに優しいからな。」
 と老人もベンチに座る。話題に変な入り方をしないで欲しいマルカブは、話題を変えることにした。
「…ああ、そうだ。さっきの爺さんの質問はどうなんだよ、ディスケ?」
「え?なんでマルカブが小さな女の子にモテるかってこと?」
「それ、誰も質問してねえだろ…。義足が水に浮くのかってことだよ。…そういえば、ディアデムは浮くのか?」
 話題を振られ、それまで静かにしていたディアデムは頷いた。
「はい。アンドロの体の中には意図的に作られた空洞があり、浮き袋代わりになっています。ただ、私たちは空気を必要とはしませんから、沈んで歩くこともできます。その際は空洞から空気を抜くのですが、一度抜いてしまうと水の中で空気を補充できないため、浮き上がることは難しいのです。」
「そのときは岸まで歩いていくのかね?」
 老人の質問に、ディアデムは頷いた。
「はい。もしくは、ジャンプで水面に出るか、です。」
「義足が浮き袋代わりになれば、便利だな。海に落ちても、浮かんでいられる。救援がくるまで耐えられれば…」
「いや、脚が浮かんでしまうから上体が沈む。バランスを取るのが難しいと思うが。」
 マルカブと港の老人は船乗りらしいことを口にした。ディスケは顎髭を撫でながら、
「悪いなー。俺にも工房にも、空気を入れる空洞を作る技術は無いわけよー。むしろ、金属製なので沈みます!」
「…おい。それじゃあ、俺は海に行けないじゃねえか。」
「自在に動く金属製の義足と従来通りの木の義足を用意するから、船に乗るときは木の義足で勘弁してよ。そのうちさ、水中でも装着できる義肢が開発できるように頑張るからー。」
「…そうか、沈むのか…。自在に動く義肢があれば、マストにも登れるのだが…、沈むものをつけて船上に出ているわけにはいかないな…」
 マルカブより港の老人の方が、残念そうにしている。船乗りの中に、手足を失った人間がいるのだろうか。何かを思い出すようにしていた老人は我に返り、失礼と手を軽く振った。
「まあ、義肢のことは専門家に任せるとして、」
「おうよ!任せとけー!」
「私は、見舞いついでに私の専門の話をしにきたのだよ、マルカブ。君にとっても専門の話だが。」
「…どっちがついでなんだか。」
 マルカブは軽く溜息をついた。老人は肩をすくめるだけだった。ディスケは、老人が何を話にきたのか、素早く気がついたが口は挟まなかった。
「以前、話した航路探索の任務のことだ。勿論、君のリハビリが終わってからではあるが、引き受ける気はないか、と尋ねに来た。」
「リハビリが終わるのは随分先の話だぞ。それまで、元老院が待っていてくれるかだな。」
 アヴィーたちがそれまでに【魔】を倒してくれば良いけど、とマルカブは答えた。それはもはや、
「…引き受ける、という返事だと思っていいのかね?」
「…引き受けなきゃならなくなってな。コイツが折角、俺の足を作ってくれるんだから、俺はアヴィーやカリーナやコイツの背負ったもんと同じくらいのものをやり遂げなきゃ、コイツ等が全く割に合わないんだよ。」
 と、マルカブはディスケを指した。ディスケは「いやー、照れるなー」とわざとらしく笑う。老人は意外そうにしつつ、さらに質問を重ねた。
「それが、航路探索なのかね?君はアーモロードの未来を背負うと?」
「俺がやりたいと思ったのは、人の繋がりを作ることだよ。この国が交易で栄えることはその次だ。繋がりができれば…、この国だけじゃない。世界のあちこちでいろんなことが変わるだろう?俺のやりたいことは、その下地だよ。」
 それに、とマルカブは囁くように続けた。
「名前を付けに行くって、約束したしなあ…。」
「…誰に?」
 そう問いかけるディスケに、何でもない、とマルカブは答えつつ、しかし、しっかりと覚えているのだ。術後の夢…のようなものを。アヴィーそっくりの少年に…自分は世界樹の一本だと言った少年に、名前を付けにいく、と言ったこと。光の帯がとぎれた先に、命の光を繋げていくこと。光の帯のとぎれた先に、「行こう」とカリーナが囁いたこと。
「…理由はいろいろあるし、脚次第ではあるんだが、」
 マルカブは老人に告げた。
「受けるよ。航路探索任務。そう、元老院に伝えてくれ。」


(36章3話に続く)

---------------あとがきのようなもの------------------

義肢関係の資料を読んだところ、切断手術後3、4日で訓練開始、らしいですね。
術後の傷がふさがってないのにマジか…という思いが書かせた話。

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