まよらなブログ

36章5話。

「世界樹カンケーねえ!」な「世界樹の迷宮Ⅲ」妄想話です。


ちょっとうまくまとめられず、更新時間が遅くなりました。



それでは、興味のある方は「つづきを表示」からどうぞ。


36章5話
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 アヴィーたちは今日、白亜の森の奥、【魔】のいる階層に進むらしい。彼らを「突撃はするな」「まずは様子を見ろ」「危険ならすぐに帰ってこい」と言って送り出したマルカブは、やっぱり心配で吐きそうになりながら、今の自分のやるべきことをやるしかないとリハビリに励むつもりでいた。そろそろ仮の義足をつけて、立つ訓練も始めることになっていた。
 …そう、なっていたのだが。
「……俺の脚の状態を知ってるのに、元老院に呼び出すなんて、」
 馬車の中で、マルカブは呻き、
「…どんな事件が起きてるんだ…。」
 と、胃を押さえた。
「んー…」
 向かいに座るディスケは腕を組んで唸り、…しかし、何も言わなかった。マルカブはディスケを半眼で見て、
「お前、何か知ってるんだろ?」
「知ってるって言うか…、」
 ディスケは溜息をつき、
「察したっていうか。」
「…とりあえず、良いニュースか悪いニュースかを教えろ。」
「…あのさー、脚の抜糸も終わってない大怪我人を呼び出すニュースに、良いものがあると思う?」
 マルカブはずるずると背もたれをずり落ちて、
「…分かった。聞かない。」
「それが賢明だと思うよ。」
 ディスケは苦笑もせずに、そう答える。あの姫の異常な様子がこの呼び出しに関連しているのだろう、とは察している。しかし、それなら何故、自分たちが呼ばれるのか。今のマルカブが何らかの力になれるとは思わない。
(…じゃあ、近い将来は力になれるってことか?…それにしたって何で今?…アヴィーたちが更に奥の階層に進んだことが関係するのか…?)
 ディスケがそう考え出したときには、馬車はもう元老院に着いていた。

*****

 元老院には、兄王・ザイフリートとフローディアがいた。フローディアの目が赤くなっていることに、マルカブもディスケも気が付いた。
「…すまぬ。本来は、我らが向かうべきなのだが。」
 ザイフリートは車椅子に座っているマルカブを見つめて、本当に申し訳なさそうに告げた。ああ、もうこれ絶対に悪いニュースだ、とマルカブは覚悟した。
「王様。」
 ディスケがマルカブの方は見ずに、軽く手を掲げた。
「俺だけ話を聞くってわけにはいかないんですか?」
「…おい。」
 マルカブが非難の声を上げたが、ディスケは無視をする。ザイフリートは瞳を伏せて、
「船を操れる人間で、我らの事情を知っている者に、頼みたいのだ。」
「…じゃあ、エラキスっていう人選も」
 言い掛けたディスケの腹に、マルカブは遠慮なく肘を打ち込んだ。ディスケの声が止んだ隙に、手短に伝えてくれ、とザイフリートに用件を促した。
「……我とグートルーネは、このアーモロードから去る。」
 ザイフリートは本当に結論だけを先に口にした。
「そのための船を、出してほしいのだ。船員はこちらで用意するが、指揮は貴公に任せたい。」
「…ミアプラキドゥス号で?」
「…ああ、貴公が操りやすい船で構わない。」
「そんなの、」
 ディスケが腹を押さえながら、
「王宮の船でいいじゃないですか。なんで、マルカブなんですか。こいつは、まだ脚だって…」
「『アルゴー』の英雄が乗っている、という事実が欲しい。失礼を承知で言うが、その事実「だけ」が欲しいのだ。」
 ザイフリートは、本心剥き出しの考えを口にした。だからこそ、その背景にある本当の本心を隠していることぐらい分かった。マルカブは溜息を吐き、
「いつ頃、どこまで行くつもりなのか教えて欲しい。」
「あまり時間はないが、貴公が義足で船に乗れるタイミングで構わない。行き先は、ここより西の方角にある島だ。無人島のはずだ。」
 無人島…とマルカブは呟いてから、ぐっと顎を引きザイフリートを見つめた。
「…死ぬ気か?」
「…、」
 ザイフリートは無言で視線を返す。その後ろに控えるフローディアがとうとう嗚咽を漏らしたので、マルカブの問いかけが正しいとディスケは知った。ザイフリートは、フローディアを振り返らず、ただマルカブに告げる。
「…貴公らの仲間たちが、グートルーネのために真祖を倒してくれた。本当に…感謝をしている。………、」
 そして言葉につまるザイフリートに、「そうだよ、」とディスケが呻いた。
「…そうだよ、…アヴィーが倒してきたんだよ。カリーナが国に帰って、マルカブがこんなになって、頼れるヤツがほとんどいなくなってるのに、それでも倒してきたんだぞ!?アヴィーが戦ってきたのは、姫様のためでもあるんだよ!それなのに…、それなのに何で、姫様は死ぬ気でいるんだ!?アンタはそれを許してるんだ!?」
 ディスケはザイフリートに掴みかかろうとし、マルカブはその腕を素早く掴もうとした。マルカブの動きの方が間に合わず、ディスケがザイフリートの胸ぐらを掴むのだ。以前…アミディスの葬儀の後で、同じように掴みかかろうとしてオランピアに阻まれたが、そのオランピアはこの場にはいなかった。…もし、オランピアがいたとしても、今はディスケを阻むことはないかもしれないが。
「…、すまない。」
 ザイフリートはもう一度、謝罪した。自分の胸ぐらを掴むディスケの手はそのままに、
「だが……、だが、もう、妹はもう、……人ではないのだ。」
「戻っただろう!?」
 ディスケが珍しく激高した。
「【白亜の供物】で、人の身体を取り戻しただろう!?アンタだって記憶を取り戻した…!それでも真祖の力の影響を受けやすいから、アヴィーたちが真祖を倒してきた…!…そうだったはずだ!」
「そうだ、そうだった。しかし……、…そうではなかったのだ。」
「…もしかして、」
 マルカブは車椅子をディスケとザイフリートの間に押し込むようにして、二人を離す。そして、ディスケを車いすの後ろに押さえ込むようにしつつ、ザイフリートに確認をした。
「…姫さんは【魔】の力を直接受けてるのか…?」
「………、ああ。」
 ザイフリートは、重く頷いた。
「グートルーネに移植された力は【真祖】の一部だった。それ故、【真祖】からの影響を受けていると考えていたのだが…、【真祖】が倒されても妹の身体はフカビトに作り替えられようとしている。いや…、フカビトではなく、より…異形のものへ、」
 ザイフリートはそして溜息を吐いた。
「…【魔】の姿に似た何かへ。」
「…アーモロードから出て行くことが、その解決法なのか?」
 マルカブは静かに問いかけた。ザイフリートは静かに頷いた。
「【魔】がその力を色濃く放出できるのは、このアーモロード周辺のみだ。このアーモロードの【世界樹】が【魔】を押さえこんでいるため、遠くに力を放出することは難しいようだ。物理的な距離を持つことで、【魔】の影響力は軽減できる。」
 しかし、とザイフリートは続けた。
「しかし、影響力はゼロではない。いずれは、【魔】にすべてを作り替えられてしまう。ならば…、この街の人間に真相は知らせず、…かつグートルーネが人のままで死ねる時間を…稼ぎたい。」
 フローディアが呻くような声を漏らす。マルカブはザイフリートの後ろに控えている老婆が、ハンカチを握りしめているのに気が付いた。
「…婆さん、席外せ。先に王様から話を聞いてるんだろ?…こんなの、何度も聞くような話じゃない。」
「…ば…馬鹿を言うんじゃないよ!あたしだって、この話を聞かなきゃならないんだ!あんたに王様と姫様の旅立ちを任せるのなら…、その命令は元老院から出さなきゃいけないんだから…!」
 ハンカチを握りしめてヒステリックに叫ぶ老婆に、マルカブは頭を掻いた。何を言えばいいか2秒で考えてから、「あのな、」と囁いた。
「いいか?俺が、女が泣いてる中で話をしたくないんだ。相手が婆さんでもだ。」
 気障にも聞こえる一言に、フローディアが鼻白んだ。半分は事実だろうが、マルカブが自分の所為にしてフローディアをこの話題から遠ざけようとしていることは、ディスケには明白だった。姫の「死」の話など、ともに百年生きてきた親友に聞かせるものではない。だから、ディスケはフローディアの肩を押して、
「な?うちのおとーさんは優しいだろー?その紳士っぷりに免じて、ちょっと外に出ててよ。」
 と、扉の外に押し出した。フローディアは「青二才どもが!生意気言うんじゃないよ!」と杖を振り上げたものの、最後はディスケに抱えられて廊下に出されてしまった。扉を閉めた途端に、その扉が乱暴に叩かれ喚き声が聞こえる。ディスケは扉を背にして、マルカブに向かって肩を竦めた。
「…後が怖いぞ?」
「まあ、そのときはそのときだな。」
 マルカブも肩を竦め返しただけだった。
「…すまない。」
 ザイフリードが小さく謝罪をし、ディスケは鼻で溜息をついた。
「王様は、うちのおとーさんの紳士っぷりを少しは見習った方がいいと思うな。…まあ、理由は気障だよなー。女が泣いてる中で話をしたくないってかー。」
 からかうようなディスケの言葉に、マルカブは呻いた。
「…五月蠅いな。実際、嫌だぞ、俺は。」
「ま、俺もイヤだけどさ。」
 ディスケは溜息をもう一度吐いた。
「…それでさ、アヴィーの頑張りは…、俺たちが【白亜の供物】を持ってきたことは…無駄だったのか?」
「そんなことはない!」
 ザイフリードが声を大きくして否定した。
「卿らのおかげで、我と妹は短くとも幸せな時間を取り戻したのだ…!そして、世界にとっても、真祖が倒されたことは大きな意味を持つ…!すべては卿らのおかげだ…!………ただ、…ただ…、妹にとって、すべてが解決されたわけではないだけのこと…!そのグートルーネとて…あのままフカビトと化すよりは…更に100年を停滞の中で過ごすよりは…、よほど…!」
「…姫さんは、」
 マルカブが静かに問いかけた。
「何て言っているんだ?」
「…、」
 ザイフリートは一度視線を浮かせ、
「このまま…【魔】に意識を奪われ忠臣を傷つけてしまうのなら、…人として…終わりたいと言っている。」
「…兄として、それでいいと思ってるのか?」
 マルカブの声のトーンが下がり、ディスケはぐっと唾を飲んだ。ザイフリートはマルカブをただまっすぐに見つめて、
「…いい、と思っているわけはなかろう。」
 と、口にした。
「だが…、だが…もう限界だ。我らは、貴公らが必ず【魔】を倒すと信じている…。だが…グートルーネへの侵食は、もう…!あの子の精神力だけで、侵食を抑えているようなものだ…!」
 それに、とザイフリートは声を絞り出した。
「グートルーネが【魔】の眷属に作り替えられていることに、気がつき出している者もいる…。その情報を元に、実権を奪おうとしている者も…。我も妹も、アーモロードにいらぬ混乱と紛争を巻き起こしたくはない…。元老院は、王室に代わり100年この街を治めてきた。それを私欲で奪おうとする者に、我らが攻撃の口実を与えるわけにはいかない…!」
「……それで、無人島で死ぬ気なのか。その実権奪おうっていう連中は、王様と姫さんの危険性を大義名分にする。自分たちが死んだとなれば、その大義名分はなくなる。」
「ああ。…この現状を知る者の中にも、船の中でグートルーネが異形と化したとき抑える者がいるのか、という疑問を持っている者もいる。…それで『アルゴー』の名を借りたいのだ。英雄が我らを護り監視し…非常時には討つべく同行している、という安心のために。」
「こんな脚でも?」
「名を借りられれば良い。実体は別だ。仮に非常事態が起きても、我で収める。」
「…なあ、オランピアは同行させないのか?」
 ディスケが尋ねると、ザイフリートは一度ぴくりと動いた後に、首を振った。
「させぬ。彼女には深都を任せた。そして、【魔】と戦う者たちへの援助も、だ。…それに…」
 ザイフリートは続けようとして、口をつぐんだ。マルカブは重い息を吐いてから、ザイフリートが続けようとしただろう言葉を続けた。
「……姫さんを死なせて、自分も死ぬ気か。」
「……彼女を、死地への道程に付き合わせる気はない。クジュラもだ。…二人とも、よく仕えてくれた。それで、充分だ。」
 ザイフリートはしばらくの沈黙の後に答えた。
「グートルーネの死を他人に任せるつもりはない。…そして、グートルーネを死なせて、自分が生きるつもりもない。」
 それまで声を揺らしつづけたザイフリートは、そこでやっと、全く揺らがずに答えた。
「…100年生きた。我らの肉体の限界も近い。未練もない。」
「…でも、マルカブのことは付き合わせるのか。」
 ディスケの問いかけに、ザイフリートは「すまぬ」と答えた。マルカブは溜息を吐いてから、
「…それでも、この役にアヴィーを選ばなかったことには、感謝はしている。」
 重くも、慰めるように答えた。ディスケが自分を睨んだのは無視をした。
「俺は納得はしていない。こんな方法が、残された唯一の方法だとは思っていない。だが…時間がないことも理解はした。姫さんが苦しんでることも、あんたが迷ったことも。」
 船は出すよ、とマルカブは答えた。ディスケが一歩踏み出した。
「おい!?」
「出しても出さなくても、きっと姫さんは自分で死を選ぶだろう。そうじゃないなら、王様が殺すだろう。」
 ザイフリートは反応しなかった。だから、それは真実めいていた。
「…船は出すよ。少しでも遠くにいけば、その分、人間でいられるんだろう?その間を生きることも出来るし、…親しい人に死を見られるっていう心配をせずに逝くこともできる。それは、ただ、あんたたちに更に迷えっていう時間を与えるだけかもしれないけど。」
 ザイフリートは、微笑んだ。やっと、微笑んだ。
「…構わぬ。その迷いは、よりよく生きようとする証拠だ。」
 一方でディスケは表情を堅くして、
「…マルカブ。このことをアヴィーが知ったら…!アヴィーはきっと、いくらお前だって、許さないぞ…!」
「お前もアヴィーに許さないっていわれたよな。」
 マルカブは苦笑した。そして、車椅子の上で、少しだけ身を乗り出した。
「あの時と同じことを言うぞ。王様と姫様の決意は二人の決意で、俺らの痛みは俺らの痛みで、アヴィーの怒りはアヴィーのものだ。お互いの決意や痛みが分かっても、生き方は変えられない。だから、…」
 マルカブは、静かに続ける。
「俺は船を出すことしかできない。でも、せめて、姫さんの最後になるかもしれない船旅を快適なものにしたいし、怖い思いや寂しい思いをさせたくない。王様だって事情を知ってる人間に「辛い」と言うことも出来るだろう。船を出さない、と俺が答えても、いずれくる結末は変わらない可能性が高いのなら、…俺はせめて二人が最後まで寂しい思いをしないですむ方法を選びたい。」
 それは俺が大事にしたいことなんだよ、とマルカブは囁くのだ。ディスケは苦虫を噛みしめたような顔をしながらも、この男が誰のことも独りしないための選択をしたことに気づき、
「…お前、ここだけはブレねえな…!」
 額を押さえて呻くのだ。


(37章に続く)

---------------あとがきのようなもの------------------

深王が行こうとしている島は、テラロッサが手に入る南海B-1の島という裏設定。


真ルートEDの兄妹について、
なんで島を去ったのか、と自分なりに考えたら、正直これしか思いつかなかった。
なんかうまくまとまらない話になってしまいましたが、
次週は一回お休みをいただき、その後1000年前の話を一本挟んでから、37章に続きます。

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