まよらなブログ

37章2話。

「世界樹カンケーねえ!」な「世界樹の迷宮Ⅲ」妄想話です。

先週はお休みをいただき、申し訳ありませんでした。
無事に親知らずは抜けました。

ところで、
新世界樹2の情報がバンバン出てきてますが、
料理がおいしそうでたまりません、じゅるり…


それでは、興味のある方は「つづきを表示」からどうぞ。


37章2話
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「ぴぴ!ぴぴ!ぴぴー!!」
 スハイルがミアプラキドゥス号のマストにびた!と張り付いている。蝉みたいだな…と思いながら、木の義足に松葉杖をついたマルカブは甲板を歩いていった。港に停泊している船は、時折強い波を受けて揺れる。慣れない義足と杖で陸では何度もつまづいていたマルカブが、船の上では器用に歩く。アヴィーは転びそうになりつつもマルカブを追い、やっぱりマルカブは船乗りなんだな、と思った。
 マストの下ではアーモロードの船乗りと衛兵が数名、困った様子でスハイルを見上げていた。彼らが、王たちの船出に共についてくる海都の海兵たちだ。事情を知っている少数精鋭。…その精鋭たちが、駄々をこねている仔サイミンフクロウ一匹に手を焼いているのが妙におかしい。
 どうした?と聞くと、スハイルが船から下りたがらなくて、と船乗りが説明をした。アヴィーがととと!とマストの下まで駆け寄ってきて、
「スハイル!帰るよ!今日は、ミアプラキドゥス号を見に来ただけなんだから!みんな、明日の準備があるんだから邪魔しちゃだめだよ!」
「ぴぴ、ぴぴうぴぴぴうよー、ぴよ!ぴよ!」
「ミアプラキドゥウス号に乗りたいの?」
「ぴよ!」
「帰ってきたら乗せてもらおうよ。ほら、帰るよ。」
「ぴーー!!」
 スハイルはマストにしがみついたままでイヤイヤと首を振る。マルカブは溜息を吐き、
「スハイル、降りてこい。」
「…ぴー?」
「いいからまずは降りてこい。そこにいると、帆の確認も出来ないんだ。」
「…、…ぴよーぴん…、ぴぴ、…ぴぴ、」
 スハイルはなんだか泣きそうな声を出している。…気づいているな、とマルカブは確信した。動物の勘なのかどこかで小耳に挟んだのか、明日の出航の本当の目的をスハイルは気付いているようだ。
「…、おいで。」
 マルカブは鼻で溜息を吐いた後、軽く手招きをした。スハイルは少し迷ったようだったが、「ぴよ…!」とマストを蹴って飛んできた。(マルカブの口調が優しくなる時は、譲る気はないが文句は聞く、と決めた時だ。そのときのマルカブは、どんなに駄々をこねても絶対に譲らない、とスハイルは知っていた。)杖をついているマルカブの肩に留まることを、スハイルは躊躇ったらしく甲板に着地した。マルカブは船乗りたちに帆の確認を頼んでから、スハイルにもう一度「おいで。」と言った。スハイルは飛び上がって、出来るだけそうっとマルカブの肩に着地した。
「お前、一緒に来たいのか?」
「ぴよ。……ぴぴえぴん、ぴうぴん、ぴー…?」
「…王様と姫さんが心配か。」
「ぴよーぴん、ぴぴぴ、ぴー…。」
「むしろ、俺とディスケのことが、心配か。」
 マルカブは苦笑し、アヴィーはちょっと困ったように眉を寄せてから、
「…ねえ、マルカブ。スハイルも一緒に連れて行ってあげられる?」
 と、尋ねる。マルカブは、どうして?と問いかけた。
「うん。スハイルは面白いから(そう言われ、スハイルは猛烈に抗議した)、お姫様も船旅の間、退屈しないんじゃないかなって。体調もまだ良くないんでしょう?だったら、楽しいことがあった方がいいよ。」
 スハイルはうるさいし我が儘だけど楽しいからね、とアヴィーは笑い、スハイルはアヴィーに向かって飛びかかり、「ぴぴ、ぴぴよぴぴよ!!」と主張しながらアヴィーを蹴りつけた。それを仲裁してからマルカブが、アヴィーに尋ねる。
「探索にスハイルがいなくて大丈夫なのか?」
「うーん…。魔物が急に襲ってきたときスハイルが教えてくれるのは助かるんだけど…、まあ、大丈夫だよ。慎重に進むから。」
「…お前等がよくて、」
 マルカブはもう一度肩に留まったスハイルを見た。
「…スハイル自身がいいなら、俺は構わないけどさ。」
「…」
 スハイルは神妙になってから、
「…、ぴよ。」
 大真面目に頷いた。マルカブは溜息をこっそりと吐きながら、スハイルを撫で、
「分かった。レグルスたちとも話して、スハイルが抜けても探索に支障がないって意見なら、スハイル、明日は船に乗れ。」
「ぴよ。」
「いいか、今の『アルゴー』がいいって言ったらだぞ。」
「ぴよ!」
 スハイルは大きく頷き、アヴィーが手を差し出した。
「じゃあ、レグルスたちに話をしにいこうよ。一度帰ろう、スハイル。」
「ぴよ!!」
 スハイルがアヴィーの差しだした腕に留まった。アヴィーは、お仕事の邪魔してごめんね、と言いながら、
「また来るね。」
 と手を振ってミアプラキドゥス号から降りていく。マルカブもそれに手を振り返し、
「…スハイル、連れて行っちゃっていいのかよ?」
 ディスケの声を聞いて、振り返った。背後では、ひょこっと船室から顔を出しているディスケがいる。マルカブは溜息を隠さなかった。
「…お前な、聞いてたんなら顔を出せよ。」
「いやー、スハイルがごねると長いからさ、おとーさんに任せようと思って。…、あ、錨の巻き上げ装置の点検、終わったから。歯車一つ軋んでたから、変えておいた。」
「おう、ご苦労さん。」
「で、スハイルを連れて行っちゃっていいの?」
「アイツ、気づいてるぞ。お前、何か言ったのか?」
「言うわけないだろー。コロネにだって言ってないんだから。スハイルは勘がいいからさあ。」
「…その割には、全然分かってない時もあるけどな。」
「スハイルだって、何が起きてるかは分かってないよ。けど、お前と俺が何かを隠してることは気付いてるんだよ。俺らがアヴィーに知らせない出来事が、…俺らにとっても辛い出来事だってことは、もう分かってるからさ。」
「…仔フクロウにまで心配されて、情けねえな。」
「それは、今更、しょうがないだろー。」
 ディスケは苦笑した。
「実際、俺たちは情けない大人なんだから。」


******


 王と姫が、新しい地へ旅立つ…と島民に発表されたのは急だったが、二人の旅立ちの日は多くの人が港にやってきて、船を見送った。政治を取り仕切っているのはすでに元老院だったため混乱はなかったものの、王家はアーモロードの旗印として大きな存在だったのだ。
 アヴィーたちも見送りにきたが、レグルスは薄々気付いているのかもしれない。神妙な顔で船を見上げているのに、出航前のマルカブは気が付いた。
 ともあれ天候に恵まれ、姫様の門出を祝っているようだ、と言いながら街の人間たちは船を見送った。


 出発したその一日は、天候と風に恵まれ順調だった。…皮肉なまでに順調だった。夜になった今も満天の星空で、どこにも天候が荒れる兆しが見られない。きっと明日も順調だろう。二日後には、目指す島に順調に着くのだろう。
「嵐が来いとは言わないが、」
 マルカブは満天の星空を見上げながら、溜息をついた。
「…多少は、足止めを食ってもいいと思うんだけどな。」
「まあ、そんなもんだよなあ。」
 ディスケは腕を組んで、空を見上げ…そしてマストの上にもスハイルがいないことに気が付いた。
「あれ?スハイル、どこにいったか知らない?そろそろ寝る時間だから、降りてくると思ったんだけど。」
「……、さっき船室に入ってい…」
 と、マルカブは言葉を区切り、何かに思い至ったらしく、
「………、ちょっと見てくる。」
 慌てた様子で船室へと入っていった。

*****

「ぴ~ぴ~よ~、ぴ~ぴ~よ~、ぴ~よ~よ~~」
 船の内部から、スハイルが歌っている声とグートルーネのころころと笑った後で咳込む声を聞き、マルカブは慌てて姫のいる部屋の戸をノックをした。
「失礼します。姫様、うちのスハイルがそこにいますか?」
「ぴよーぴん!」
 スハイルののんきな声がする。何やってんだよ…とマルカブは呻き、グートルーネの「どうぞお入りになって」という声を待ってから扉を開けた。スハイルが「ぴよーぴーん!」と姫のベッドの上で飛び跳ねている。
「スハイル、勝手に部屋に入るなって言っただろうが…!」
 こっちに来い!と言っても、スハイルはグートルーネのいるベッドから動かない。そればかりか、ぴ!とそっぽを向いていつも以上に反抗的だ。マルカブは、年頃の女の子が寝ているベッドに近寄ろうとしないことをすっかり分かっているらしい。
「スハイルを叱らないで、くださいな…。」
 ベッドで横になっている姫は、咳込む胸を押さえながら微笑みを浮かべた。
「ノックをして…入ってきました。お行儀のいい子で…」
 言葉は咳で止まってしまう。マルカブは慌てて尋ねた。
「姫様、水を飲みますか?」
 グートルーネは咳込みつつ頷いた。スハイルが心配そうにグートルーネを見つめる。マルカブは、部屋の扉を開けたまま(年頃の娘が寝ている部屋に男が入るのだから、そうすべきなのだ。)中に入り、水差しを手にした。身を起こそうとする姫の腕が紫に変色しているのを見ないようにしながら、背中を支えて水差しを口に寄せてやる。ほんの少し水を飲んで、グートルーネは「ありがとうございます。」と微笑んだ。
「ぴぴえぴん、ぴよぴよ?」
 スハイルが、首を傾げて姫を見上げる。もう大丈夫です、と姫はスハイルを撫でた。そして、少し起きていたいのです、とマルカブに告げた。マルカブはクッションを積んで、背もたれ代わりを作ってやった。
「ぴぴえぴん!ぴぴ!ぴぴ!」
 姫の呼吸が落ち着いたのを見てから、スハイルはベッドの上でぴょんぴょんと跳ねてから、また歌い出す。スハイルが歌っている曲は『白鳥』を表したもの…とマルカブは気が付いた。スハイルは優雅に踊っているつもりらしいが、丸々としたスハイルではシーツの上をころころと転がっているようにしか見えないのだった。
「ぴ~~よ、ぴよぴよぴよぴよぴ~~~!」
 …と、曲の盛り上がりに合わせて、くるりとターンするスハイルを見て、グートルーネもマルカブも吹き出してしまうのだ。スハイルは飛び跳ねながら、抗議した。
「ぴーー!?」
「ご、ごめんなさい…。可愛らしくて…」
「ぴぴ、ぴーー!!」
 ボクは可愛くないピヨ!とアヴィーみたいなことを言っているのだろう。しかし、ごめんなさいね、とグートルーネに撫でられて、スハイルは許すことにしたらしい。姫の手はもう人間のものではなかったが、撫でられて機嫌を直すスハイルはいつものスハイルだった。腕の形など、些細な問題だとばかりにいつも通りだった。そんなスハイルを見て、連れてきて正解だったかもしれない、とマルカブは思う。
「…船旅は、」
 マルカブはスハイルの羽毛の柔らかさを楽しんでいる姫に、そっと声をかけた。
「快適ですか?」
「…ええ。とても。」
 グートルーネは息苦しそうにしながらも、嬉しそうに答える。それが逆に辛く、マルカブは畳みかけるように問いかけた。
「…何か、ご希望があれば用意しますが。」
「いいえ。十分。…皆様の…おかげです。…兄様も、この船はとてもいい船だと、仰っていました。操舵も、お上手ね。ほとんど、揺れません。」
「天候にも恵まれたおかげです。」
「今は…夜ですか?星も綺麗にでていますか?」
「雲一つない天気です。明日も晴れますよ。」
「順調に、島に着きますね。」
 速さよりも安全を重視に進めてはいるが、あっさりと島に着いてしまうだろう。死地への旅というには短すぎだ…、そう思ったマルカブは少し迷ってから、
「…星を、」
 口を開けば、もう迷いはなかった。
「見ますか?」
 グートルーネが「え?」と聞き返し、スハイルが「ぴぴえぴん!ぴよぴよ!」と誘った。マルカブはもう平然と続けた。
「甲板で。歩けないなら、背負っていきます。」
「で、ですが、」
「俺が姫様を背負えればいいんですが、こんな脚なので。代わりにディスケに背負わせます。…いや、こればっかりは王様に頼んだ方がいいかな。」
「で…ですが、…」
 グートルーネは己の腕を見つめる。もう人でない腕。脚だって、同様にもう人の形はしていない。
「…皆様に、このような、姿を、見せるわけには…。事情を知っている方々とは言え…、怖がらせるわけには…いけません。…私が、外にでることを賛成しない方も、きっと、いらっしゃるでしょう…」
「この船の、」
 マルカブは平然と続けた。平然としていろ、と、自分に言い聞かせながら。スハイルの様にいつも通りにしていろ、と言い聞かせながら。動揺や迷いなど、この少女の最後の夜に見せるべきではないのだ。そんなものを見せたら、この少女はささやかな夜さえも遠慮してしまう。
「この船の船長は俺です。だから、全ての最終権限は俺にある。俺が、大丈夫だと言ったのなら、大丈夫です。この船に乗っている誰であっても、姫様のご希望の邪魔はさせません。」
「ぴよ!ぴよーぴん、ぴよん!」
 スハイルが、胸を張った。「こんな時だけ、『うちのおとーさんは偉い』とか言うな。」とマルカブは的確につっこんだ。
「……。」
 グートルーネはマルカブを見上げ、それから、くすりと微笑んだ。
「カリーナエ様が、貴方様のことが大好きだった理由が分かる気がします。」
「…そのことには、あまり触れないでください。」
 マルカブはがっくりと肩を落とし、スハイルが「ぴよーぴん、ぴぴよぴぴよ~。」と慰めた。グートルーネは、慌てて「ごめんなさい。」と言ってから、
「…本当に…よろしいのでしょうか…」
 グートルーネは囁いた。
「私は、最後まで我が儘を言い続けて…よろしいのでしょうか?」
「…俺は、カリーナに最後の最後で我が儘を言わせられなかったことを後悔してます。」
 あの子が辛い選択をしたことに気がつけなかったことを後悔しているんです、とマルカブも囁いてから、
「これは、そんな後悔をしている男の自己満足かもしれません。けれど、俺に二度目の後悔をさせないでください。…どうか、ご自身のご希望を聞かせてください。」
 グートルーネは、お優しいのね、と微笑んでから、
「…お願いします。どうか、最期の星空を見せてください。」
 マルカブは、姫の腕が一瞬人間のそれに戻るのを見て、
「喜んで。」
 芝居がかったお辞儀をしてから、ディスケを呼んだ。


(37章3話に続く)

---------------あとがきのようなもの------------------

前に、アモロの北にある無人島に行くつもり、と書きましたが、
ゲームで確認したら半日で付いてしまったので、
テラロッサを手に入れる島(南海B-1)まで行くことにしました。
(それに伴って、以前の文章も書き直してます。)


スハイルが歌いながら踊っているのは、サン・サーンスの「白鳥」です。
「白鳥の湖」では暗いので、こっちにしたそうです。曲を教えたのはカリーナです。

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