まよらなブログ

37章3話。

「世界樹カンケーねえ!」な「世界樹の迷宮Ⅲ」妄想話です。

先週はお休みをいただき、申し訳ありませんでした。

新世界樹2の情報がガンガン出ていますが、
なんか、発売日までの情報の出し方に計算間違いがあって、
今、慌てて出しているようなそんな印象を受けるのは私だけでしょうか。

まあ、情報が出てくる分には嬉しいですよね。


それでは、興味のある方は「つづきを表示」からどうぞ。


37章3話
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 快晴の中、カモメの声が聞こえている。
 高さも手頃な赤土の岸壁に向かって、船から板を渡す。スハイルが、ぴよ!と甲板から板に飛び乗った。板の強度と揺れを確かめつつ飛び跳ねて、陸へ。大地に無事に到着すると、振り返って「ぴよ!」と安全を伝えた。仔フクロウの体重では強度を確かめたことにもならないが、マルカブは礼を言う。スハイルは今度は飛んで、空を一周ゆっくりと旋回し、船まで戻って、
「ぴよ!」
 と周囲の安全を伝えた。
「そうか、安全か。」
 応えたのはザイフリートで、ディスケに支えられて船室から出てきたグートルーネを振り返る。
「…行こうか、グートルーネ。」
 姫は、はい、と頷いた。呼吸は荒く、額には脂汗が浮かんでいる。もう
、体の方も限界なのだ。支えるディスケの手に伝わる感触に、もう人間の暖かさはない。フカビトの湿り気のある弾力もない。ぐしゃりとした、腐った果実のような感触で、……実際、服で見えないところから、姫の体は崩壊に向かっているのだろう。100年生きた体の寿命、体にフカビトの力を宿したことによる反動、元々の病弱さ、そして「魔」の呼び声に逆らい続けた体力と気力の限界…、それらが一斉にグートルーネの身を襲い、彼女の身を比喩でもなく削り取っていく。ザイフリートはディスケから妹を受け取り、すっかり軽くなった体を抱き上げた。
「…礼を言う、『アルゴー』。」
 卿らには何から何まで世話になった、とザイフリートはゆっくりと頭を下げた。兄にしがみつきつつ、グートルーネも目礼する。
「…、海都兵の前で、王様が冒険者に頭を下げるもんじゃない。」
 マルカブは腕を組み、嘆息した。ザイフリートは首を振り、
「卿らには、「魔」のことも託してしまう。そなたらには、…我々のことを仲間にも黙っていなければならないという心労もかける…。頭など、いくら下げても足りるものではないが…、」
「じゃあ、頭を下げたついでに、もっと頼んじゃいましょうよ。」
 と、ディスケは軽い口調で肩を竦めた。
「マルカブは航路探索の仕事をやるつもりだし。俺もアンドロの整備もやれるようになりたいし。アヴィーは「魔」をどうにかするつもりでいる。カリーナや爺さんだって、アーモロードの街が幸せになるように祈ってるに決まってる。まだまだ深都も含めたアーモロードの力になるつもりですよ。」
「ぴぴ!ぴぴ!」
「勿論、スハイルも。」
「心強い。」
 とザイフリートは笑い、
「…では、卿には一つ頼みごとを。オランピアのことを、どうか頼む。」
「…オランピアが、俺に頼まれてくれるかどうか。」
「…卿は、トゥレイスによく似ている。トゥレイスはオランピアの、初期の教育係だった。……だから、頼む。」
 ディスケは驚きに目を開いてから、「…初耳なんだけど。オランピアもそう言うことは早く言えよなー。」と呟いてから、
「…分かりました。出来る限り、あの子の力になります。」
 真面目に頷いた。もう一度、よろしく頼む、とザイフリートは言った。
 グートルーネが囁くようにマルカブを呼び、
「…航路探索を、お引き受けくださるなら…、今後、元老院と、関わりも増えましょう…?フローディアを、…時折でいいですから…気にかけてあげて、ください。」
「あ、それは安心してください、姫様。」
 とディスケが横から口を出した。
「誰にでも優しいけど女と子どもには絶対に優しいのが、うちのおとーさんだから。」
「ぴよ!」
 スハイルがディスケの肩に留まって同意する。マルカブは溜息を吐いてから、
「…まあ、そういうわけだから、安心してください。」
 否定はせずに頷いた。グートルーネは、そうでしたね、と頷いた。
「…この、船の中でも…ご親切にしてくださって…、私、嬉しかった。」
「そういうことなら、スハイルに。姫様を喜ばせようとしていたのは、誰よりもスハイルです。」
「ぴよ!」
 スハイルは否定せずに、ザイフリートの肩まで飛んでいった。
「ぴぴえぴん、ぴよぴよ?」
「…ありがとございます、たった2日だけど、楽しかった…」
「ぴよ!」
 スハイルは満足そうに鳴いてから、…ぴー…と神妙そうな声を出し、それからぷるぷると首を振って、改めて兄妹を見た。
「ぴぴえぴん、ぴうぴん、ぴぴよぴぴよ!ぴぴよぴぴよ!!ぴぴ、ぴよぴよ!」
 スハイルはグートルーネとザイフリートにそれぞれ頬ずりしてから、ディスケの肩に戻っていく。ザイフリートは『アルゴー』に順々に視線を送り、グートルーネに「では行こうか。」と声を掛けた。そして迷いなく、板を踏み、船から陸へと向かっていく。
 100年も戦ってきた王の花道が一枚の板であることに、マルカブは哀しさに覆われた憤りも感じるのだ。板は、スハイルが確認したとおりに、割れもせず落ちもせず、ザイフリートとグートルーネは対岸に渡した。そこで、ザイフリートは振り返った。その腰帯に、銃が差し込まれている。
 ザイフリートは、船の上の海都兵と船乗りたちをぐるりと見回した。
「そなたらも大儀であった。これからも、そなたらの故郷に尽力せよ。」
 それが最後の命令だった。王は船に出航を命じるわけでもなく、そのままマントを翻して島の奥へと進んでいく。スハイルが飛び出していこうとするのをディスケは止めてその背を見送り、見えなくなってからもしばらく見送ってから、
「………行くか?」
 マルカブに尋ねる。マルカブは、ダメだ、と呟いた。マルカブにしては鋭い、有無を言わせない強さだった。
「最期まで、見送らないと、駄目だ。」
 彼の言葉に被さるように、島の奥から、ターーン…という銃声を聞き、ディスケは口を噤んで島を見た。その後、少しの間の後に……、己の妹が苦しまずに逝ったことを確かめる程度の間の後に…、もう一回、銃声が響いた。
 マルカブが帽子を外し、黙祷をする。スハイルが、ぴ…!と姿勢を正してそれに倣い、海都兵たちも倣った。ディスケはしばらく島を眺めてから、同じように黙祷をした。
 黙祷の時間は長かったが、三度目の銃声は聞こえなかった。王は何も躊躇わず、己で幕を引いたらしかった。


 長い黙祷の後、マルカブが出航を命じた。だが、一人の海都兵が、少し待ってほしい、と言い、数名で上陸しようとする。
「…なんだ?元老院から命じられていることがあるのか?」
 マルカブが尋ねると、兵士たちは言いにくそうにしてから、
「…王と姫の死亡を確かめてくるように、と命じられています。」
 と、最初に「待った」を掛けた兵士が言った。マルカブは心底嫌そうな顔をした。
「…あの銃声が嘘だと思うか?」
「…「死亡」の証拠には、なりません。」
 まあ、そうだな、とマルカブは呻き、それでも食い下がった。
「…なんで、王様がここから離れた場所で銃を撃ったか…それを考えてみないか?」
「…我々に死に様を見せないためだと考えています。決して、美しいものではないでしょうから。姫様も、王も、そのような姿を兵士に見せたいとはお思いにならないでしょう。姫様は苦しまれているお姿を、我々に見せることはありませんでした。」
「そうだな。俺もそう思う。それは王族のプライドだろうとも思う。…それを、わざわざ見に行くのか?暴くように?」
「もう一度、お答えします。我々にはお二人の「死亡」を確かめてくるように、という命令が下されています。」
 マルカブは天を仰いだ。
「…元老院のトップである婆さんは、そんなことを命じないと思うんだが。」
 兵士は眉を寄せた。姫の体のことも知っている兵士なのだから、フローディア寄りの立場にいるのかもしれない。
「政治の世界が一枚岩とは限りません。我々には預かり知らぬことですが、我々が命令に違反することでフローディア様のお立場を悪くするとしたら、…責任を感じます。」
 マルカブは呻く。政治の世界は面倒だな、と思いながらも、その世界に戻っていったカリーナを思えば、「面倒だ。俺は知らない。」で済ますこともできなかった。そして、政治の世界の駒にされている兵士たちを思えば、「関係ない。」と言い捨ててはいけないとも感じていた。
「…元老院には二人を危険視してる奴らもいるって聞いてる。実は生きていて、後々になって海都に乗り込まれても困るって考えてるんだろうが…」
 政治の世界や兵士の規則からかけ離れた世界に住んでいる冒険者が、己の考えと相容れないものを感じ、疑問を投げ続けながらも、決して「そんなことは知るか!」と投げ出さない様に、兵士は少し好感を抱いたらしかった。
 兵士は、余計なことかもしれませんが、と付け加えた。それは忠告めいていた。
「『アルゴー』が王たちを逃がすかもしれない、とも考えている方もいます。あなた方の人の好さは、有名ですから。」
「………、馬鹿馬鹿しい。」
 さすがのマルカブも、それには投げ出すような応えを返した。兵士は頷いた。
「我々もそう思います。ですが、そう考えている人間もいるのです。あなた方の人の好さを知っている一方で、あなた方が逃がした王と姫と手を組み海都を乗っ取るかもしれない、とまで妄想を膨らませる人間もいるのです。あなた方は海都の英雄です。あなた方の影響力は、あなた方が考えているより大きいのです。…疑惑は早めに潰しておいた方がいいかと思います。」
 マルカブは兵士をじっと見つめた。兵士は静かにマルカブを見つめ返した。どうやら、本当に忠告だったようだ。お前たちも気をつけろ、名声を得ればどんな疑念が降りかかるかは分からない…、そう兵士は忠告している。マルカブは視線を下ろした。
 人の好さで言えば、この兵士も相当なものだ、と思った。その命令で、この瞬間に傷ついているのは、きっとこの兵士たちなのに。
「…俺らのことは、いいんだよ。」
「それは僭越でした。」
「今、問題にしてることは、王様と姫様の矜持だよ。」
「…我々も長年姫様にお仕えしてきました。姫様の最期の思いこそ尊重したい。…しかし、命令ですから。」
「…それと、俺が今、気になっていることは、」
 マルカブは少し考えてから、
「姫に忠誠を誓ってきたお前たちの矜持が、傷ついていないかってことだよ。」
 マルカブの一言に、兵士ははっと顔を上げた。そして、
「………、しかし、命令ですから。」
 と、同じ言葉を違う強さで答えた。マルカブは鼻で溜息を吐き、何か言いたそうなディスケを視線だけで制して、
「…分かった。誇り高い海都の兵士は、死者に敬意を持って会うと信じてる。…それとディスケ、何か言う前に、まずは倉庫からショベルか何か持ってこい。文句も慰めも帰りの船の中でいいだろう?」
「……、え?なんで?」
 突然の提案にディスケは怒りもどこかに消えて、ただ疑問を口にした。マルカブは、さも当然のように、
「俺は、こんな嫌な命令に従わなきゃならない兵士に、主の墓ぐらい作らせてやりたい。それには、お前も反対しないだろ。」
 と、言った。長年姫に仕えてきた兵士たちは一瞬顔を見合わせて、
「……、ありがとうございます!」
 マルカブに頭を下げた。つまらなそうに鼻を鳴らすマルカブの腕を、ディスケは肘でぐりぐりと押しつつ、
「おとーさんったらー。また一つ、お人好し伝説が増えちゃうよー?」
「ぴよーぴん、ぴぴよぴぴよ!」
「うるさい、お前らは倉庫から道具を取ってこい。」
 マルカブはディスケの腕を払った。自分では何が変えられるわけでもないのだから、せめてそれ以上、彼らが傷つかないようにしたいだけなのだ。


(37章4話に続く)

---------------あとがきのようなもの------------------

ずっと前に、真ルートEDの兄妹は無責任だ、という感想を読んで
「はてさて、本当に無責任だと断じていいものか。
 もし無責任でなかったとしたら、どんな理由があるのか。
 …では、私なりに理由を考えて書いてみようか。」
と思ったことから、出来上がっていった話です。
やっと書けた…というか、やっとここまで着いた……



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