まよらなブログ

37章5話。


「世界樹カンケーねえ!」な「世界樹の迷宮Ⅲ」妄想話です。


11月になりまして、新世界樹2の発売も近付きました。
今回は、体験版出ないんでしょうかねえ……


それでは、興味のある方は「つづきを表示」からどうぞ。




37章5話
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 レグルスが宿に帰ってくると、アヴィーがぶすっと頬を膨らませてラウンジのベンチに座っていた。待ち人がいつまで経っても来ないので、いよいよ我慢の限界らしい。レグルスは、わざと頓珍漢を装った。
「アヴィー、夕飯は食べたんですか?」
「まだ!」
「もしかして、待たせてしまいましたか?」
「別に!」
「食堂に食べにいきませんか?」
「いかない!」
 そうですか、とレグルスは頷いて、セルファを振り返った。
「では、ボクたちは先にいただいてしまいましょう。ミツナミとオリヒメは部屋でしょうか?」
「知らない!」
 そうですか、とレグルスはもう一度頷いた。そして階段を上がろうとして、アヴィーの腹の虫が大声で鳴いたのを聞く。
「アヴィー、夕食を食べてはどうですか?」
「いいんだよっ!僕はマルカブたちを待ってるの!」
 一緒にご飯食べるんだよう!とアヴィーは座ったままで地団駄を踏む、という器用なことを始めた。そうですか、とレグルスはやっぱり頷いて、
「では、先に夕飯をいただいてしまいますね。」
 と淡泊に言って、階段を上っていく。セルファは、アヴィーに軽く黙礼をしてそれに続き、
「…レグルス様、アヴィーはあのままでいいのですか?」
 と二階に上がってから問いかけた。レグルスは、いいんですよ、と振り向かずに答えた。
「アヴィーはマルカブと食事をしたいんですよ?」
「…ええ。」
「一緒に待とうかとも思いましたが、そうなるとボクらも一緒に食事をとることになります。まあ、邪魔するわけにもいかないでしょう?」
 先に食事をすませてしまう方が適切な気遣いですよ、とレグルスはくすくすと笑いながら廊下を歩くのだ。セルファは主の小さな背中を眺めて、
「…レグルス様、楽しそうですね。」
 と感想を伝えた。セルファは考え抜いたことは伝えるが、感想はあまり口にしない。(一方、ミツナミは感じたことをすぐに口にするが本音はあまり言わない。)珍しいこともあるな、とレグルスは振り返ると、セルファは己の発言を失言と感じたらしく、口を押さえて「申し訳ありません」と慌てた。
「いいんですよ、セルファ。ただ、君が感想を口にするのが珍しかったので。」
 君はその瞬間に反応することが苦手ですからね、とレグルスは微笑んだ。それも君らしさですね、とは言わなかったが、セルファの不器用な様も愛でているのは明白だった。セルファは首まで赤くなって口を噤む。レグルスはますます微笑を濃くするのだ。
「当たってますよ。ボクは、楽しい。こういうね、…ほとんど役に立たないような気遣いが出来るなんて。……むしろ、ボクは、損得のない気遣いが出来る人間なんだと分かって、嬉しいのかもしれませんね。」
 微笑に反して、言葉は哀しいものだった。セルファは、二つに結わえた髪が円を描くほどにぶるぶると首を振り、
「レ…レグルス様は、ずっと以前からお優しい方です!私やミツナミは、これ以上ないほどのお心遣いをいただいております!」
「…、」
 レグルスは何か言いたげに口を開いたが、
「ありがとう。」
 と、それだけを柔らかく伝えるのだ。

*****

 それから一時間経っても、まだ待ち人は帰ってこない。
 不機嫌を通り越して泣きたくなってきたアヴィーの隣に、ぼすっとレグルスが腰掛けた。その膝の上にはスハイルがいて、「ぴぴぃー、ぴー?」と問いかけた。アヴィーはごしごしと目元を袖で擦り、
「何だよう、二人とも!?」
「いえ、夕飯も食べたので、ボクも『待つ』を体験してみようと思いまして。」
「気を使わなくていいんだよう!僕は好きでやってるの!」
 と、癇癪を爆発させながらレグルスをぐぐっと押してベンチから降ろそうとする。アヴィーよりも小柄なレグルスだが、両足で踏ん張りつつも軽やかに笑ってみせた。
「ボクも好きでやってることですから。」
「絶対に違うと思う!」
「ぴぴぃー!ぴぴよぴぴよ!!」
 スハイルがアヴィーを窘める。アヴィーを自分の子分か弟分のように思っているスハイルと、自分はスハイルの飼い主かリーダーだと思っているアヴィーが喧嘩を始める前に、レグルスはスハイルを脇に避けた。スハイルを撫でつつ押さえて、
「どうしてそう言えるんですか?ボクは『待つ』を体験しようと思っただけです。気を使ったとは言ってませんよ?」
「そんなのは、き、…き…、ええっと何だっけ……そうだ!詭弁っていうんでしょう!?」
「…詭弁?」
 きょとんと問いかけると、アヴィーは慌てだした。額を指で押さえて、
「あ、あれ…?間違えたかな…ええっと…、き…なんとかって…」
 うーん…と考え出すアヴィーに向かって、レグルスは笑いかけた。
「詭弁、で正解ですよ、アヴィー。」
「なんだよう!合ってたじゃないか!」
 アヴィーはぷ!と膨れ、スハイルが「ぴぴうう、ぴっ!」とレグルスを叱った。申し訳ありません、とレグルスは笑い、アヴィーは頬を膨らませ続ける。
「僕をからかいにきたなら、あっちに行ってて!」
「ですから、言っているでしょう?ボクは、『待つ』という行為を体験しにきたのです。」
「じゃあ、黙って待ってて!」
「分かりました。」
 レグルスはそれっき黙り、スハイルは翼で嘴を押さえて沈黙を保った。沈黙に耐えられなくなったのはアヴィーだったが、そんなこともレグルスは予想済みだった。
「やっぱり黙るのは無し!!」
「分かりました。」
「……、やっぱり、レグルスは僕をからかいにきたでしょう!?」
「からかいに来たわけではないのですが、結果的に面白いと思ってます。」
「僕は面白くないからね!僕、マルカブのことを待ってるだけなのに…!いつになっても帰ってこないし…!お腹すいたし!」
「飴、舐めますか?」
 とレグルスはポケットから飴玉を取り出した。さっき、オリヒメから貰いました、と言いながらアヴィーに一つ渡す。アヴィーはむすっとしたままで飴を受け取った。
「…オリヒメは、僕に渡してって言ったんでしょう?」
「ええ、そうですよ。」
 レグルスは飴の包み紙をはがしながら、あっさりと暴露した。中身はべっこう飴だった。アヴィーも包みをはがしながら、小さく舌打ちのような音を出した。
「………なんだか、僕、バカみたいだ。」
「まあ、14歳には見えませんよね。」
 と12歳のレグルスに言われてしまい、アヴィーはふくれっ面で飴を口に放り込んだ。
「僕だって、僕が子どもっぽいことをしてるのは分かってるんだよう。でも、僕はマルカブにちゃんと『お帰り』を言いたいんだよ。…脚のこともあるし、僕は心配なんだから。」
「ええ。アヴィーに出迎えて貰ったら、きっとマルカブも喜びますよ。」
「…マルカブが辛いのは脚のことだけじゃないよ。」
 アヴィーはぽつりと口にした。レグルスは、どきりとした。もしかして、アヴィーは姫と王の最期のことを知っているのだろうか……
「マルカブはこういうことを僕には言わないけど、王様とお姫様が国から出て行くのを見て、カリーナのことを思い出してないのかな…。お姫様の体のためでもあるけど、王様たちが利用されないために海都から出て行ったんでしょう?それって、国のために出て行ったってことだよね。…カリーナはいろんな人のために国に帰って行ったんだ。そういうこと、思い出してないのかな。」
 …アヴィーは真相を知らない。それが分かって、レグルスは顔に出さないままで安堵した。けれども、アヴィーの心配が全くの的外れかというとそうでもないのだろう。姫と王の最期に対する衝撃が大きくて、それ以外のことが霞んでいるとしても、霞の先には『アルゴー』だけが感じる何かが存在している。
「…なるほど、それが『アルゴー』としての心配なのですね。」
「うん。誰も気にしないだろうけど、だから、僕は気にしておきたいんだよ。だって、マルカブはカリーナのことが本当に大切だったんだからね。」
「…確かに、それはアヴィーにしか気にすることは出来ないでしょうね。」
「ぴ!?ぴぴ!ぴぴ!!」
「ああ、スハイルもですか。」
「ぴよ!!」
 と、スハイルは胸を張ったが、実際のところは不明だった。スハイルもまた真相を知っているからこそ、霞んでしまったものが見通せない。アヴィーがころころと飴玉を口の中で転がしつつ、
「だから、僕、マルカブに「大丈夫?」って聞きたいんだよ。マルカブは「大丈夫。」って言うに決まってるけど、でも、僕は聞きたいんだよ。僕は分かってるよって、伝えたいのかもしれない。」
「…分かっている人がいれば、耐えられることもありますからね。」
「そうなんだよ!」
 アヴィーはぱっとレグルスを見つめた。
「それを、カリーナが帰って行くとき、僕もマルカブもやろうとしたんだよ!だから、僕は、今度もやりたい。我慢しなきゃいけないことはしょうがないけど、耐えられないのは辛いんだよ。カリーナは我慢しなきゃいけなかったけど、僕らはカリーナの我慢を分かってるってことは、きっとカリーナにも分かってもらえたと思う。」
 レグルスは、そうですか、と繰り返す。隣のスハイルが、ぴー…ぴー…と泣き出した。カリーナと別れた時のことを思い出しているのだろうか、それともグートルーネと別れたときのことを思い出しているのだろうか。レグルスはスハイルをよしよし、と撫でた。
「きっと、カリーナエ様も、この街でいろんな自分を発見されていたんでしょうね。」
 ボクがそうであるように、とはレグルスは口にはしなかった。アヴィーは、そうだったらいいな、と囁いた。かの姫にこの街で会ってみたかった、とレグルスは思う。そのためにこの街に来たはずなのだが、当初の目的とは別に、そう思う。この街と『アルゴー』によって変えられたこと、発見させられたこと…それを話してみたかった。孤独な城の孤独な記憶が塗り替えられたこと。一番分かってくれそうな人に、知ってもらえるのなら……

「…ねえ、レグルスはカリーナの国の敵の国の人なんでしょう?」
 アヴィーが急に尋ねてきて、レグルスは我に返った。
「…そうですね。戦争をしているわけではありませんが。かの国からしたら仮想敵国第一位でしょうね。」
「…レグルスの国にとっては違うの?」
 レグルスは一度黙ってから、
「国力が、違います。アヴィーは第一階層の魔物を脅威に感じますか?」
「ううん。」
「それと、同じです。いつ取って食ってやろうか、と考えているので、敵と言うよりももはや捕食者です。」
「…カリーナも力が違いすぎるって言ってた。」
「適切な認識の持ち主です。そういう王が国を治めているうちに、平和的に国土を我が国のものに出来ればいいのですが。」
「…カリーナはね、きっと「国の人を幸せにしてくれるなら、どうぞ。」って言うよ。」
 アヴィーは静かに言った。
「誰かを幸せにするために国に帰ったから。」
「なるほど。目的が逸れない人は、ボクは尊敬しますよ。」
「うん。だから、レグルスとカリーナはホントは似てるんだと思う。カリーナは、レグルスみたいにイヤなこと言わないけど。」
「ぴよ!」
 スハイルが力強く同意をするので、レグルスは「失礼ですね。」と苦笑した。苦笑しながら、
「だから、アヴィー。ボクは君たちに『アルゴー』も尊敬していますよ。仲間を大事にして、約束は忘れないで果たそうとする。」
 数時間前のマルカブとディスケを思い出す。…『アルゴー』はそういうギルドだ。誰も、そのあり方から逸れていない。
 アヴィーは、レグルスをじっと見てから目を逸らした。
「…そういうの恥ずかしいよう。」
「そうですか?」
「そうだよ!だって、みんな、『アルゴー』は緊張感がないとか、言うんだよ!そんな風に誉められることなんかないんだよう!」
 アヴィーはパタパタと腕を振り、
「それに、レグルスも『アルゴー』なんだからね!レグルスも、僕が寂しくないようココにいるんでしょう!?絶対に、そういう気持ちがあるんだよ!だから、レグルスは他人事みたいに言ったらダメなんだよう!」
 そんなアヴィーの言葉に、レグルスは瞬きをし、
「…そう、ですか?」
「そうだよう!」
「ぴよっ!」
「そう、ですか…。」
 レグルスは溜息をつき、そして、いきなり笑い出した。
「え!?何がおかしいの!?」
「ぴ!?」
「す、すみません…。そんな風に言われる自分がおかしいのと…」
 レグルスは浮かんだ涙をぬぐった。
「そして、嬉しいんです。」
「…嬉しいの?」
「ええ。」
「…それなら、まあ、いいんだけど。」
 それでもアヴィーが何か言いたそうにした時だ、宿の扉が開いてやっと待ち人が帰ってきた。
「…マルカブ!おかえり!でも、遅いよう!僕、ずっと待ってたんだよ!!」
「ぴぴ、ぴぴ、ぴぴーー!!」
 アヴィーとスハイルがマルカブに駆け寄った。悪かったよ、とマルカブは手を振ってから、改めて、
「ただいま。」
 とアヴィーの頭を撫でるのだ。それで、アヴィーはもう機嫌を直したらしく、マルカブの手を引いた。
「マルカブ!ご飯食べにいこう!僕、お腹ぺこぺこだよう!」
「ぴぴ!ぴぴ!」
「スハイルはさっき食事をいただきましたよね?」
 レグルスがおかしそうに聞くと、スハイルは「ぴー!」と怒り出した。お前、ますます丸くなるぞ、とマルカブは言いながら、レグルスに視線を向けた。そして、少しも意外そうにせずに、問いかけた。
「レグルスも、アヴィーに付き合ってくれてたのか。」
 それをレグルスが肯定も否定もする前に、
「ありがとな。」
 と、まるで全てを分かっているかのように、礼を言った。


(38章に続く)

---------------あとがきのようなもの------------------

アヴィーが言っている通り、20年後にカリーナは
「国の人を幸せにしてくれるなら、国の土地も私の命もどうぞ。」とレグルスに言うことになる…
という設定が存在しているんですが、まあ、設定が存在しているだけです。


来週はお休みをいただいて、その後に1000年前の話を挟んでから38章へ入ります。


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