まよらなブログ

38章5話。

「世界樹カンケーねえ!」な「世界樹の迷宮Ⅲ」妄想話です。

2014年最後の更新です。
本年もお付き合いくださり、ありがとうございました。
来年も書き続けると思いますが、どうぞお付き合いください。
もしかしたら2016年にも同じことを言うかもしれませんが、
よろしくお願いいたします。


それでは、興味のある方は「つづきを表示」からどうぞ。



38章5話
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「アヴィー!待ちなさい、アヴィー!!」
 樹海への入り口から夜の街に向かって、走るアヴィーをオリヒメが追いかける。その後ろから、スハイルが飛んで追いかけた。
 野営地でスハイルを責めるアヴィーの声で目が覚め、事情を聞こうとしたところ、アヴィーは一人で磁軸に向かってしまった。オリヒメは同じように起きたレグルスたちに撤収を頼み、アヴィーを追いかけた。アヴィーの向かう先は、街の中央のようだ。
(元老院に向かっている…?)
 その道がどこに続いているか気がついたオリヒメは、眉を寄せる。こんな時間にフローディアやクジュラに用事があるのか…と考えてから、あ、と小さく声を出した。
「…今は、マルカブがいるはず…」
 今日、元老院と航路探索について話をする。探索にでる前に、マルカブ本人からそう聞いた。そして、航路探索の任務を公式に引き受けることになるだろうとも。フローディアの都合もあって、夕方に会うことになったらしく、夜までかかるかもしれないな…とマルカブは言っていた。探索から帰ってきたアヴィーが、マルカブがいなくても心配しないように、そう言っていた。(野営地を見つけたので、今夜はそこで過ごすことになったのだが。)アヴィーはその話を覚えているのだ。
 つまり、アヴィーはマルカブに用があるのだ。
 オリヒメは、スハイルを呼びながら腕を伸ばした。スハイルがその腕に留まる。
「スハイル、アヴィーを止めるべきだと思いますか?」
 どうしてアヴィーがマルカブのところに向かっているのかが分からないオリヒメは、スハイルに尋ねた。スハイルは押し黙った。
「…分かりませんか。」
「…。」
「それとも、迷っているんですか?」
「ぴよ。」
「…迷っているんですね。」
 勘もよく「アルゴー」をよく見ているスハイルは、アヴィーに何が必要かを判断することには躊躇わない。それが躊躇っているのだから、
(…さらに事情が分からない私はアヴィーに付いていくしか、出来ない。)
 オリヒメはため息を吐いてから、アヴィーを追った。

*****

 100年前の古地図を見ながら、航路探索に必要な人員や荷物をマルカブはフローディアに告げていた。フローディアからは、先日、姫と王を送り出したときに船に乗っていた兵士と船乗りが数名、この任務に手を上げているが人員は足りないか?と逆に質問された。「面白そうだから」という理由でその場に同席していたディスケが、それを聞いて、
「あー、そいつら、あの時にうちのおとーさんに惚れ込んだんだー。」
 と茶化すと、フローディアは大真面目に頷いた。
「話は、聞いているよ。…あたしからも、礼を言わせておくれ。……姫様たちのお墓を…、彼らに作らせてくれて、ありがとう。」
「…いつか、ちゃんとした墓を作りにいけるといいな。」
 とだけマルカブは応えると、フローディアはもう一度「ありがとう」と言った。何と口を開いていいか分からずに、沈黙が降りると、
 廊下からバタバタと音が響いてくる。その中に、「アヴィー!待ちなさい!」というオリヒメの声も聞こえたので、マルカブとディスケは顔を見合わせた。
「悪い、婆さん。ちょっと席を外…」
 マルカブはそう言って、廊下に出ようと扉を開ける。開けた途端に、アヴィーが走り込んできて、マルカブに正面衝突をした。
「…っ…アヴィー…!お前、何をして…!」
 小言を言おうとしたマルカブをアヴィーは見上げた。ぎゅっと唇を噛んでから、
「…お姫様と王様は、今、どうしてるの?」
 そう、尋ねた。マルカブは一度、眉を寄せてから、ほんの一瞬だけ視線をアヴィーから外した。マルカブの視線が動いた先は、フローディアだった。アヴィーはその視線の動きに気が付いて、フローディアに詰め寄った。
「おばあちゃん。お姫様と王様は、今、どうしているの?」
「…おい、アヴィー…!」
 マルカブがアヴィーの腕を引き、止めようとする。アヴィーはその腕を振り払い、
「生きているの?」
 そう問いかけた。オリヒメとともに部屋にやってきたスハイルが、
「…ぴぴぃー!ぴー!ぴー!!」
 それはダメだ、とアヴィーの服を脚でつかんで引っ張る。ディスケは、アヴィーが真相を知ったのだと気が付いて、追ってきた衛士に「あとはこっちでやるから」と伝えて、彼らを部屋から追い出した。
 パタン!と扉が閉じる音に被さるように、「それとも、」とアヴィーは囁いた。
「…それとも…本当は、死んじゃったの?」
 フローディアが目を開き、アヴィーを見つめる。アヴィーはさらに詰め寄った。
「死んじゃったの!?」
「…、アヴィー!」
 マルカブが強くアヴィーの腕を引く。アヴィーはマルカブを振り返り、
「そうなんだね!?マルカブもディスケも、知っていたんだ!?なのに……、分かってて、船を出したの!?死なせに行かせたってことでしょう!?」
「坊や。」
 フローディアが静かにアヴィーを呼んだ。その顔は穏やかではあったが、杖を持つ手は震えるほどに握り込まれていた。
「二人を責めないでおくれ。姫様と王様が、お願いされたんだ。」
「…でも!真祖を倒せば、お姫様の体は元に戻るって…!そう言ったのはお姫様とおばあちゃんだよ!?」
「そうだったね…。そう思っていた。…でも、そうじゃなかった。」
「でも、そう言われたから…!だから、僕は、真祖を倒したんだよ!?」
「…ああ、分かっている。坊やには感謝をしている。」
「……何で、お姫様を止めなかったの!?どうして、今度は【魔】を倒してきて、と僕に言わなかったの!僕は何で真祖と戦ったの!?僕は、こんなことのために戦ったんじゃない!」
 分かってるよ、と言ったのはマルカブだった。
「分かってる。アヴィー、お前が姫さんのために真祖と戦ってきたことは、知っている。分かってる。」
「僕が真祖を倒してきたのは、無駄だったっていうの!?」
 マルカブは、答えを躊躇った。だが、フローディアに答えさせるつもりはなかった。だから、彼は答えた。彼だから答えられる答えを、答えた。
「姫にとっては、無駄じゃなかった。」
 人として死ねたのだから、無駄ではなかった。死ぬ前の夜に、星空を見て微笑んだ少女を思い出して、マルカブはきっぱりと答えた。しかし、「お前のおかげなんだよ」とは言わなかった。そう言うことで、アヴィーが納得するとは思わなかったから。そう言うことで、アヴィーに姫の死をより背負わせることになると考えたから。
 アヴィーは首を振った。
「死んだら、全部終わりなんだよ!マルカブだって、分かってるでしょう!?」
「…ああ。」
 分かっているよ。だから、俺は死なないって決めたんだ。―― とはマルカブは口にはしなかった。アヴィーは首を振り、
「…何だよ、それ…!分かっているなら、何でだよ!?僕は、お姫様に笑って生きてて欲しかったから、…頑張ってきたんだよ!今だって、王様たちが「魔」のことを心配しないで暮らせるように、頑張ってるんだ!なのに、何で…!何で、その本人たちは死んじゃったんだよ!これじゃあ、僕、バカみたいじゃないか!」
「ぴー…!ぴー…!」
 スハイルがぷるぷると首を振る。うるさいよ!とアヴィーはスハイルを怒鳴りつけ、スハイルはぷるぷると首を振りながらただただ立ち尽くすのだ。オリヒメが、ディスケを見上げた。「本当なのですか?」と視線だけで尋ねてくるので、ディスケは頷いた。
「マルカブだって、僕がそのつもりで探索をしてること、知ってたでしょう!?なんで…なんで、王様たちを止めてくれなかったの!?」
「…そうだな…。…お前には不誠実なことをしたと思ってる。」
 マルカブは淡々と答えた。アヴィーを思ったからこそアヴィーに何も言わなかったのだ、ということはアヴィーにも分かっている。そういう男だ、ということも十分分かっている。自分への気遣いであり優しさであることも、十分すぎるほど分かっている。姫と王が死にに行く、と知りながら、何も感じずに船に乗せられるマルカブでないことも分かっていた。フローディアやクジュラやオランピアにどう伝えたら彼らが哀しまずにいられるか、考えて考えて、海都に帰ってきた様だって、もう手に取るように想像が付く。
 だからこそ。だからこそ、だ。マルカブの淡々とした答えは、アヴィーの癇癪のような抗議を…むしろ抗議のような癇癪を一層激しくさせるのだ。
「なんでそんなに冷静なの!?まるで、諦めてるみたいだ!」
 マルカブは、何も答えなかった。もしかしたら…諦めだったかもしれないからだ。アヴィーがきっと【魔】を倒してくるから、もう少し待て、と言わなかったのは、もしかしたら諦めだったかもしれないからだ。
「アヴィー、…お前、マルカブと婆さんが平然と、姫様たちを送ったと思ってんのか…!?」
 ディスケの方が、腹に据えかねたらしい。アヴィーの肩を掴んで、自分に向き直させる。アヴィーは、思ってないよ!とその手を払った。
「僕だって、おばあちゃんがお姫様と仲が良かったことも知っている!マルカブが優しいことも分かってる!でも…!だったら!…何でなの!?なんで止めなかったの!?もっと別の方法があるかもしれないって…何で止めてくれなかったの!?」
「そんな時間は無かったんだよ!船の中でも、姫様の半身は腐」
「…、ディスケ、」
 マルカブがディスケを制した。その声はものすごく静かだったが、有無を言わさずにディスケを止めた。ディスケは口を噤み、マルカブを見る。マルカブはただ、首を振るだけだ。スハイルがそっとフローディアの前に移動し、カタカタと震えだした杖を止めるように身を寄せた。
「…、アヴィー。話の続きは宿でしましょう。」
 オリヒメがアヴィーの隣に歩み寄る。
「…少し休んでから、話をしましょう?」 
 フローディアに聞かせる話ではないことと、アヴィーもディスケも冷静さを欠いていることから、オリヒメはひとまずこの場から離れることを提案した。時間が必要なこともある。アヴィーも、今は感情が収まらなくなっている。このまま話を続ければ、何かが爆発するかもしれない。アヴィーはぎっ!と奥歯を噛んでからオリヒメをにらみつけた。
「…、オリヒメが聞きたくないなら帰っていいよ!」
「アヴィー!そういうことではないんです!」
「じゃあ、どういうことなんだよ!?それとも、オリヒメは知っていたの!?みんなで、僕に黙っていたの!?」
 オリヒメに掴みかかるように問いただすアヴィーの前に、ディスケが割って入った。
「お前…!いい加減にしろ!オリヒメのことまで疑うな!オリヒメはお前のことを心配して言ってくれてるんだぞ!?」
「そして、マルカブもディスケも、僕のことを心配して僕に黙ってたって言うんでしょう!?僕のやったことが無駄になるかもしれないのに僕に黙ってたことを、そう言うんでしょう!?」
 勝手だよ!!とアヴィーは吐き捨てるように叫んだ。アヴィーの叫びの後には、沈黙が残り、アヴィーの息だけが聞こえる。
「…………、勝手だよ、」
 今度は振り絞るように、アヴィーは呟いた。
「みんな、勝手だよ…!お姫様も王様も勝手だよ…!僕に頼んでおいて、何で死んじゃうんだよ!?戦うことが自分の役目だ、って言いながら、なんで死んじゃうんだよ!最後まで戦ってよ!僕だけ置いていかないでよ!無責任だよ!」
「…アヴィー、あまり王様たちを悪く言うな。」
 マルカブが、静かに制した。アヴィーは首を振る。
「…だって!だって…!!そうじゃないか!僕に【魔】のことを押しつけるじゃないか…!王様たちは逃げたようなものじゃないか…!」
「…アヴィー、」
「死んじゃうなんて、そんなこと…、………弱いから、やったんだ!逃げたんだ!」
 アヴィーのその一言に、それまでアヴィーの言葉には反論をせず静かに返答していたマルカブが動いた。アヴィーの頬を平手で打つ。乾いた音は響いたが、人間の平手以上の重さはない。樹海の魔物の一撃の重さはない。しかし、容赦なく重かった。
 アヴィーは一瞬、何が起きたか理解が出来ず、しかしすぐに理解をして、マルカブを見上げた。マルカブの方がもしかしたら、自分が何をしたか理解できなかったかもしれなかったが…、彼はじっとアヴィーを見つめ返した。アヴィーが口を開き、
「…何だよ!マルカブ、もう、何も言えないから、僕のことを叩いたんでしょう!?僕は、…、叩かれても、言ったことを、取り消さないよ!だって、…だって!!王様とお姫様は、」
「アヴィオール、」
 マルカブは、アヴィーを、そう呼んだ。彼の本当の名前で呼んだ。マルカブがアヴィーをそう呼ぶことは初めてだった。間違いなく、初めてだった。アヴィーは、平手で打たれた時よりも、より一層、衝撃を受けたような顔をした。愛称でない名前を親しい人に呼ばれることなど、一度も経験がなかった。まさか、マルカブにそう呼ばれるなんて想像もしていなかった。
「…もう、」
 マルカブは平手でアヴィーを打ったときと何も表情を変えずに、
「いい加減にしなさい。」
 と、それだけを伝えた。アヴィーはやっと、打たれた平手を押さえた。痛いと感じなかったのに、今になって熱いと感じる。アヴィーは唇を震わせて、
 ……間違いなくマルカブを抉ることも分かっているのに。これは全く別の問題だと分かっているのに。それでも言わずにいられない、精一杯の反抗であるかのように。
 …絶対に言ってはいけない、と決めていたことを。震える口で言葉に出した。
「………カリーナもマルカブも、僕を置いていくくせに!」
 そう言い捨てて、部屋から飛び出る。
「待ちなさい、アヴィー!それは、言ってはいけないことです!マルカブに謝りなさい!」
 オリヒメがそれを追いかけようとして、その背中にマルカブが声をかける。
「…いや、言わせてやってくれ。」
 オリヒメが振り返ると、マルカブはやはり静かに告げるのだ。
「…アヴィーから見たら、そう思って当然だ。」
「…ですが!」
「悪いな、アヴィーを追ってくれ。…俺も後から行くから。」
 オリヒメはぐっと唇を噛んでから、「…っもう!」と年相応の娘らしい声を出し、
「カリーナがあなたたちを置いていったと、マルカブは思っているんですか!?もしあなたが勢いにまかせて、カリーナに「置いていった」と言ったら、傷つくのはあなたの方でしょう!?アヴィーだって、同じなんですよ!」
「…、そうか。」
「出来るだけ早く、来てくださいね!……スハイル!行きますよ!」
「ぴ!?」
 スハイルはおろおろと周囲を見回し、そしてフローディアを見上げた。行っといで、とフローディアに促され、スハイルは駆けだしたオリヒメを追って飛ぶ。
 スハイルも出ていった後に、マルカブはやっと息を吐き、近くの椅子に落ちるように腰をおろす。そして、右の掌を見つめ、
「………俺は、何をしたんだろう。」
 そう呟いた。


(39章に続く)

---------------あとがきのようなもの------------------

かなり初期から「書く!」と決めていた、赤パイに平手を食らうアヴィーの回。

アヴィーの言い分が支離滅裂なのは、
抗議ではなく納得できない気持ちの八つ当たりでしかないからです。
八つ当たりが自分たちに向かってくるうちは怒らないけど、
他人に…それも死者に向かったら怒るのが赤パイです。
志水も昔、八つ当たりして、滅多に怒らない父に怒鳴られたなあ…と思い返します。

さて、次回の更新は、一週お休みをいただきます。
1月10日ごろに、1000年前のプロローグシリーズを更新の予定です。
こんなところで年を越すことになりますが、来年もよろしくお願いいたします。

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