まよらなブログ

39章1話。

「世界樹カンケーねえ!」な「世界樹の迷宮Ⅲ」妄想話です。


本日から39章です。
おそらく、45章+エピローグで終わると思うのですが、
先が見えてきた分、書き上がるのが早くなってきました。
でも、取りこぼしがないかがちょっと心配です。


それでは、興味のある方は「つづきを表示」からどうぞ。



39章1話
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 アヴィーは宿に帰ってくると、一晩部屋に篭もってそこから出ては行かなかった。オリヒメが扉を叩いても、スハイルがぴーぴー泣いても、マルカブが扉の向こうで謝罪を口にしても出て行かなかった。一度、廊下が静かになったときでも、部屋から出ていかなかった。廊下が静かになってからしばらくして、再度ノックをされたときには思わず肩を跳ね上げたが、それでも出ては行かなかった。
「…、アヴィー。」
 躊躇いがちに自分の名を呼ぶのは、マルカブの声だ。呼ばれる名前は、いつも通りの愛称だった。
「…お前は謝ってほしいと思ってないかもしれないし、お前が謝ってほしいことは別かもしれない。…けれど、…いや、だから。俺が謝りたいと思っていることを、謝る。一方的かもしれないから聞かなくてもいいが、言わせてくれ。」
 マルカブは、許してほしい、とは口にしなかった。おそらく、分かってほしいとも言わないのだろう。いつか分かってほしい…とか、分かってくれたら嬉しい、ぐらいは言うかもしれないが。
「お前を、ひっぱたいたことは、悪かった。すまなかった。」
 本当に、―― マルカブ自身が言ったとおり――、それは謝ってほしいことではなかった。叩かれたことは理不尽だと思うし、もっと別の方法があっただろうとも思う。だが、自分が、言うべきではない…言う必要のない…少なくともフローディアの前で言ってはいけない部類の発言をしたから叩かれたのだ、と分かっていた。だが、じゃあ謝ってほしいことが他にあるのか、と聞かれたら、アヴィーにだってよく分からないし、マルカブには謝る必要はないのか、と問われれば、膨れて「そんなことはない。」と言うだろう。自分が間違っていたのかとも思わない。マルカブが間違っていたのかは分からない。事情は分かる、だが憤っている。
「…すまなかった。」
 もう一度、マルカブは言い、扉の向こうに沈黙が降りる。マルカブのこんな不器用さは誠実さの現れでもあるし、アヴィーはそんな彼だから信頼しているのだが…、このときは苛立ちに変わるのだ。知らないよ!とは言わなかったが、ベッドに潜り込んで枕をかぶるようにして耳をふさぐ。
 …別にアヴィーの返事を期待していたわけでもないのだろう。(マルカブだってアヴィーのことはよく分かっているのだ。)扉の向こうでは、沈黙の後、静かに息を吸う音が聞こえ、
「…天候に恵まれれば、数日後に出航する予定になってる。」
 アヴィーは枕を掴んでいる手を、一瞬ゆるめた。
「その間、俺はミアプラキドゥス号にいる。また、お前に会いに来るから…、…」
 ―― 会いに来るから、どうなのだ?
 マルカブは、言葉を止めた。そして、言い直した。
「また、会いに来る。」
 そう、言い直した。事実だけを予告した。
 僕に会いに来たらそれはそれで困るくせに、とアヴィーは思いながら、枕を掴んだ。


*****


「今日は探索に出てこないんじゃないかと思ってました。」
 翌日、樹海に向かうまでの道で、レグルスはそんなことを唐突にアヴィーに言った。オリヒメがぎょっとしてレグルスを遮ろうとしたが、
「オリヒメ~、たまには女子三人でお話でもしながら樹海まで行きましょうかあ!はい、セルファも遅れず付いてきてえ!」
 と、ミツナミがオリヒメの首をホールドするように腕で固め、そのままずずず…と引きずっていった。スハイルが、ぴっぴっ!と鳴きながらミツナミを蹴り飛ばすが(おそらく「オリヒメを離すぴよ!」と言っているのだろう。多分。)、セルファがそのスハイルの足を掴んでミツナミの後を追った。
「離してください!何で邪魔をするんですか!?」
「ぴー!ぴうあ、ぴっぴっ!」
「何でって…理由は明白じゃないですかあ!」
 とそんなことを言い合いながら自分たちより先にずんずん言ってしまう女性三人と仔フクロウを眺めてから、レグルスは、
「アヴィーは昨日のことで拗ねたままで、今日は探索に行かない!と言うんじゃないかと思ってたんですよ。」
 と、これっぽっちの気遣いも遠慮もなく、思っていたことを口にした。アヴィーはむっとした様子で、やはり遠慮なく言った。
「レグルスはイヤなやつだよね。」
「ボクはマルカブのような気遣いは出来ませんからね。」
「オリヒメから聞いたの?」
「ええ、聞きましたよ。廊下で、あんなに一生懸命に扉を叩いているオリヒメは目立ちますし…、」
 レグルスは「ボクも、姫と王の最期を黙っていたという点では同罪ですしね。」と続けようか一瞬迷ったが…、言うのをやめた。言ってどうなるものでもない。真実を聞いたのは(盗み聞きだったが)、そもそもアヴィーのためではない。アヴィーのためだったら聞かなかっただろうし、聞いたとしても『聞いたこと』をマルカブたちには言わなかっただろう。誰のためかと言えば、スハイルのためだった。真実を知っているのに今の「アルゴー」と共有できないスハイルのためであり、そんなスハイルをそのうち心配するであろうマルカブたちのためだった。だから、自分が事実を知っていたことをアヴィーに伝える必要も、それを謝る必要もない。そう、レグルスは容赦もなく判断した。
 アヴィーは、そうなんだ、とそっけなく相づちを打っただけだった。いつもの元気は無いようだったし、寝ていないのか目の下には隈もあった。レグルスはいくつか聞いてみたいことがあったのだが…、必要なことを聞くことにした。
「拗ねて探索に出てこないなら、それは怠慢です。でも、探索に支障があるようなら、休むことは英断ですよ。昨夜は眠れたのですか?」
「…明け方に、少しだけ。」
 アヴィーは正直に答え、そして溜息をついた。
「―― いろいろ考えてたら、頭の中がぐちゃぐちゃになっちゃったんだよ。こんなんじゃきっと眠れないって思ったし、眠れないのが当然だって思うのに…結局、僕は寝ちゃったんだ。……僕が、怒っていたのや悲しんでいたのは、そんなに薄っぺらいものだったのかって、」
 アヴィーの独白のような言葉を、レグルスは笑った。
「笑わないでよう!本当に、レグルスはイヤなやつだな!」
「…失礼しました。こういうの、あれでしょう?古い言葉で『チュウニ』っていうらしいですよね。14歳ぐらいが患うと聞きましたから、ああ、アヴィーは正しく14歳ですね。」
「……なんか違うような気がするんだけど。何となくだけど。」
「そもそも、アヴィー。睡眠はどうして人間に必要なんですか?」
「え?…ええっと…寝ないと疲れがとれないから?」
「休息は睡眠の主要な目的ですよね。休息が必要なときは疲労しているときで、疲労っていうのは身体に限った話じゃないでしょう?頭を使いすぎたときや心を使いすぎたときも、疲労します。逆をいえば、疲労したときに眠るのは当然ですし、その当然のことが出来ないことを『病んでいる』というのでしょう。そして、怒りや悲しみは非常にエネルギーを使います。アヴィーは怒って悲しんで、疲れたから、アヴィーを睡魔が襲った。単純な話でしょうに。」
「そうだけど…。」
 なんだかレグルスに言われるとごまかされてる感じがするんだよなあ…とアヴィーは頬を膨らませ、信用がないですねえ、とレグルスも真似て頬を膨らませて見せた。
「では、ボクではない人が言ったら納得するんですか?」
「うーん…、先生やマリアさんにそう言われたら納得すると思う。二人は科学者だから、事実や理論で証明する。」
「それは、ボクの言ったことが事実だって認めてるってことですよね?」
「そうなんだけど、レグルスは事実を伝えたり、証明したいわけじゃないでしょう?レグルスは、自分の目的のために人を動かしたい人だ。だからさ、レグルスが事実を言ってるときでも、レグルスは何かを僕にやらせたいんじゃないかって考えちゃうんだよ。」
「――、素晴らしい。才能はあるバカだと思ってましたが、人をよく見てますね、アヴィーは。」
「……本当にイヤなやつだよね、レグルスは。」
 アヴィーは心の底から思っていることを口にしているが、だからといってアヴィーに嫌われていないことをレグルスは知ってもいたので、むしろ心地よささえ伴ってそれを聞く。(もっとも、レグルスは他人に嫌われたところで揺るぎもしない人間だ。とはいえ、揺るがないことと傷つかないことは別ではあるが。)レグルス自身は、アヴィーのことが大好きだ。なぜなら、彼はレグルスを理解しているからだ。君は自分の目的のために人を動かしたい人だよね、と非難も批判もなく事実として口にする程度にアヴィーはレグルスを理解しているからだ。アヴィー自身は、自分の目的に他人を利用することを良しと出来ないくせに、レグルスのやり方は批判せずに「君はこういう人だよね」と言ってのける。「僕では出来ない方法で、僕に足りない方法で、君は僕と同じものを守ってよ。」と、そんなことさえ言ってのける。
 だからレグルスも、アヴィーが…「アルゴー」が大事にしてきたものを、もう否定はしない。単純に「君は、こういう人ではないですか?」と返すのだ。
 自分の目的ために人動かしたいボクは絶対にやらない方法だと思いますが、とレグルスは口にした上で、
「マルカブやディスケが船を出した意図も、アヴィーに黙っていた意図も、スハイルも同行した意図も、分かりますよ。アヴィーには言うまでもないことでしょうけど。」
「……優しいからそうしたってことは、僕が一番分かってる。」
 アヴィーは呟いてから、でも、と少し強く呟きなおした。
「だからって、僕は素直に許せることじゃないんだよ。」
「別に、許せなんて言いませんよ。許さないことで、君が探索に集中できないとか、【魔】を止めるか倒すことを諦めるって言うんなら、否が応でも許させますけど。君は、【魔】と止めるか倒す、と一度は決めたのだし、…姫に『この街を守ってほしい』という願いを叶えると約束しているんですから。君にその宣言を守らせるためには、ボクは何だってしますよ。」
 それに【魔】をどうにかしないと、いずれはボクの国が災厄に見舞われる可能性だってあるんですし…とレグルスは言う。彼の目的は、ここだった。アヴィーは少しだけむくれて、
「じゃあ、何だっていうんだよ。僕は、ちゃんと探索に向かってるよ。」
「ええ。ですから、別にいいんじゃないかって。」
 レグルスは少し考えてから、
「君は、必要なことをやっている。別に明け方に睡魔に襲われようと、大切な仲間を許さなかろうと、別にいいんじゃないですか?だって、君は、逃げてないんですからね。」
「…慰めているの?」
「そのつもりはないんですが、そう聞こえたら僥倖ですね。ボクは君が嫌いじゃないですし。――ただ、アヴィー。ボクは、君と同じくらいにマルカブたちが己の役目を果たしたと考えてもいます。ですから、これは慰めではないんでしょう。」
「…ちょっと意外だな。」
 アヴィーは気を悪くした様子もなく、ささやいた。
「レグルスは、マルカブたちのことを『甘い』っていうんじゃないかって思ってたよ。」
「嬉しそうですね。」
「…そういうこと、言わない方がいいと思う。」
「失礼しました。前にも言ったような気もしますが、ボクは己の役目や目的を果たそうとする人が大好きです。ボク自身にもそれを課していますし。ただ、目的なんて、人それぞれ違うでしょう?与えられた役目だって違います。『誰かを傷つけない』ことを目的や役目としている人が、そうしたのなら、それは『甘さ』ではないでしょう。」
「その目的が『甘い』とは言わないんだね。」
「本気で達成しようとしてるなら、そこには覚悟がいることです。それを『甘い』というほど、ボクは独善的ではないと思ってます。真相をアヴィーに黙って墓まで持って行くっていうのだって、覚悟ですよ。」
 レグルスは、慰めに聞こえたら僥倖ですが、と呟いた後で、
「君が、拗ねながらも部屋から出てきて今日も探索に向かうことだって、覚悟の形なのだろうと思いますよ。」
 と、告げた。アヴィーは、少し考えてから
「慰めだって思うことにする。」
 と答えた。レグルスはにこりと微笑んだ。
「それは良かった。」


(39章2話に続く)

---------------あとがきのようなもの------------------

レグルスとアヴィーの関係が『チーム』として最高の形だと個人的には思ってます。


14歳が中二病を発症するのは発達段階的にむしろ健全、という志水の考えが、
「『チュウニ』っていうらしいですよね。
 14歳ぐらいが患うと聞きましたから、ああ、アヴィーは正しく14歳ですね。」
に現れています。のちに、顔を覆って恥ずかしがるまでがセットです。



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