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まよらなブログ

39章3話。


「世界樹カンケーねえ!」な「世界樹の迷宮Ⅲ」妄想話です。


更新遅くなって申し訳ありません。
来週も土日更新が難しいので、11日(水)の更新になると思います。
ご了承ください。



話の内容もちょっとダラダラしちゃってますが、
興味のある方は「つづきを表示」からどうぞ。



39章3話
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 マリアに樹海で見つけた繊維と鉄の棒のようなものを預けてから、三日後。地下22階と23階の探索は困難を極めており、その地図はなかなか埋まっていかなかった。生息する魔物の猛攻と23階の床を埋め尽くす赤い花によるダメージも大きく、すぐに体力は消耗する。そのため、探索に時間をかけることも出来ず、探索を午前中に切り上げることも多くなってきた。
 マリアが、結果を知らせる、と言った三日後だったので、『アルゴー』は探索帰りにフィニック家を尋ねた。話には聞いているものの、レグルス一行と初めて顔を合わせたマリアは彼らを歓待し、「あらあら、可愛い子ねえ。またお洋服作ろうかしら~。」とか言い出している。「可愛い子」がセルファやミツナミを指しているのか、レグルスも含んでいるのかは不明だったが、アヴィーは突き詰めないことにして、
「…あの、マリアさん。分かったことを、教えてもらってもいいですか?」
「ああ、そうね。そのためにアヴィー君たちは来たんだものね。ダメねえ、私ったら。お客様が来ると嬉しくなっちゃって。」
 そんなことを言いながら、マリアはお茶とお菓子の広がっているテーブルに何十枚もの紙を乗せた。
「これが実験結果のレポートね。詳しいことは読んでもらえれば分かるけど(と、言われたが、読んだところでちんぷんかんぷんだろう…と『アルゴー』の全員が思った。)、繊維の方は鉄以上の強度があって耐熱性も高くてね、炉にかけてもなかなか燃えにくい素材。でも、硫酸に溶けたわ。樹脂を繊維にしているようなんだけど、松ヤニとかゴムとかが材料ではないわね。おそらく、人工的に作られた素材のようなんだけど材料は特定できてないの。…私の…というか今の科学技術で解明できるかは、疑問ではあるけれど。」
「はい、マリアさん。よろしいでしょうかあ?」
 と、ミツナミがお菓子を摘みながら手を上げた。
「それは、あれでしょうかあ?ミズガルズ図書館から公表された、古代のカガク文明による発明によるものですかあ?」
「あら。ミツナミさん、ミズガルズの報告書、読んだことあるのね。」
「む。ミツナミ、それならそうと言ってください。あの図書館は誰にでも開けている一方で、知識の保護と隠匿も役目としています。研究員の報告書は、誰でも読めるものではないんですよ。内容を教えてほしかった。」
 レグルスが唇をとがらせると、ミツナミは「前の仕事をやってたときに読んだんですぅ。すみません~。」と悪びれずに謝った。正式なルートで読んだわけではないことは、レグルスとセルファだけが理解した。マリアが、話を戻すわね、と言ってから、
「私も、エトリアとハイ・ラガードの世界樹を探索してる。それで…、今回、あなたたちが持ってきた採集物はその二つの世界樹で採集されたものによく似てる。古代の遺都と空を飛ぶ城の中で採集されたものとよく似た解析結果がでているの。」
「では、実験の結果だけではなくマリアさんの経験からも、古代のカガク文明のものと考えられる…ということでしょうか?」
 レグルスが問うと、マリアは「レグルス君は小さいのに賢いわねえ。」と感心したように笑ってから、
「特にね、ハイ・ラガードの世界樹の迷宮……5階層にあたる空飛ぶ城での採集物に組成が似てる。ああ、どう似てるかは書いておいたから読んでちょうだいね。私たちは空飛ぶ城の一部を切り出すことで、採集をしてたんだと思う。古い遺跡から、石材を掘り出してくるのと一緒ね。」
 マリアは腕を組んだ。
「でも、話を聞く限り、あなたたちが探索している階層は、エトリアやハイ・ラガートの5階層の様子とはまるで違うみたい。この採集物は階層を作っているものを切り出してきたわけではなさそうなんだけど…、近くに大きな建造物はなかった?」
「……建物は無かったですけど…」
 アヴィーは両手を広げ、
「これくらい大きな…分厚い鉄の板が落ちてました。」
「ぴーよぴーぴー!」
 スハイルも一緒になって翼を広げ、補足説明しようとしている。
「そうそう。三階層を守ってたゲートキーパーみたいに、鉄の板の間には細い繊維……ディスケは『はいせん』って言ってたけど…繊維がいっぱい詰まってました。」
「…板の中身が見えてるってことね?…じゃあ、ここの第六階層は、破壊された古代文明の建造物の上に出来たのかしら…。エトリアみたいに…。」
「上に出来たというより…混ざってるようでしたね。」
 セルファがつぶやき、ミツナミがそうですねえ、と同意した。
「あの蛸足が絡まっていましたあ。蛸足が何かを壊した、その残骸を持ってるのかもしれませんねえ。」
「…じゃあ…、エトリアのように遺都の上に出来たと言うより……、……古代文明を破壊して取り込んだ…?もしくは…内部に侵入した…?」
 マリアが口に手を当てて、ぶつぶつと呟く。エトリアやハイ・ラガードの樹海は…おそらく1000年前の文明によって作られたものと考えられる。それは探索の結果とマリアとフェイデンの研究から導き出される考えであるのと同時に、同時期に同じ樹海と遺跡群を探索していたミズガルズ図書館の調査員の報告書からも言い切れる事実のようなものだ。しかし…もし、その当時の文明を取り込んで出来たのが、アーモロードの第6層ならば……
(あの高度すぎて魔法のような文明を、滅ぼすことが出来る力だってことよね…)
 マリアは思考をやめて、アヴィーを見た。アヴィーは「なんですか?」と首を傾げる。何でもないのよ、とマリアは首を振るのだが、この少年が挑もうという存在は彼の養母や立場上の叔母が倒したものよりも、遙かに強大なのかもしれない。
「……、なんだかごめんなさいね。「魔」の弱点が分かったら良かったんだけど、古代文明の遺産じゃないかってことぐらいしか言えなくて。これじゃあ、探索の役には立たないわよねえ。」
 マリアは頬に手を当てて、溜息をつく。レグルスが微笑みながら、お茶の入ったカップを持ち上げ、
「いいえ。マリアさんに書いていただいたこのレポート、ネイピア工房に渡してよろしいですか?職人の皆さんが、素材の特性を理解することにも役立ちます。その結果、探索に役立つ道具が開発されれば、マリアさんの解析のおかげでしょう。」
「…あらあら!レグルス君は、小さいのにしっかりしてるわねえ!」
 レグルスが一国の王子だと知っているのかいないのか、ご近所の出来のいい少年に対する感想のようなことをマリアは口にする。レグルスは、むしろそれが心地よいらしく、微笑みを濃くして「ありがとうございます。」と応えるのだ。
「そのレポートは、工房に渡すなり深都の方に渡すなり、好きに使ってちょうだいね。…ささ!お菓子も食べて食べて!そうだ!異国の珍しいお菓子をいただいたのよ~。レグルス君たちの故郷に近い国の物だから、懐かしい味なんじゃないかしら。持ってくるわね~!」
「あ、お構いなく。すでにこんなに沢山、いただいているんですから。」
「いいのよ~!沢山食べていって~!」
 とマリアは立ち上がりキッチンに入っていく。「マリアさんっていい人ですねえ!」とミツナミがぼりぼりクッキーを食べながら言い、スハイルが「ぴーーっ!」と首を振って否定した。セルファはレグルスに勧められ、おずおずとお菓子を口にしたと思うと、美味しさにぱっと瞳を輝かせている。
 オリヒメは、「ぴぴぴぴん、ぴー!ぴー!」と騒いでいるスハイル(おそらく「マリアさんは怖い人ぴよ!だまされちゃダメぴよ!」ぐらい言っている。)の嘴をふさぎつつ、レポートをぺらぺらとめくって読んでいるアヴィーに対し、
「アヴィーはその内容が分かるのですか?すごいですね。」
「…あ、うーんと……、分かるところもあるけど、分からないところのほうが多いよ。」
「そうなんですか。熱心に読んでいるので、興味があるのかと。」
 アヴィーは、うん…、と力なく頷いて、
「…僕、お父さんのことを思いだしたんだ。」
「……マルカブのことですか?」
「―― 違うよッ!オリヒメまで何を言い出すの!?」
「失礼しました。アヴィーの実のお父様ですか。」
「僕のお父さんも錬金術師だったんだよね。こういうレポートも書いてたんだろうなって。」
 アヴィーが幼い頃に父親を亡くしていることは知っているので、オリヒメは「そうですか」としか答えなかった。アヴィーは、うん、と頷いてから、
「ちょっと読んでみてから、ネイピア商店の工房に持って行っていいかな?」
 と、お菓子の食べ比べをしているレグルスたちに問いかけてみる。彼らは「勿論ですよ」と返事を返した。


*****

「…と言っても、アヴィー、歩きながら読むのは危険ですよ。」
「………うん…」
「…アヴィー。」
「…………うん……もうちょっと…」
「分からないのに、よくそこまで読めますねえ…。」
 フィニック家からの帰り道、歩きながらマリアのレポートを読んでいるいるアヴィーにレグルスが呆れて言うと、アヴィーはレポートから顔を上げ、
「錬金術は占星術と関係が深いって聞いてたけど、星詠みの考え方と似てるところあるんだよう!細かいことは分からないけど…もうちょっとで暗号が読みとれるような…!」
「暗号じゃないでしょうに。」
「…細かいことが分からないと、内容は分からないのではないですか?」
 とレグルスとセルファにつっこまれ、いいんだよう!とアヴィーは声を上げた。良くないだろう、と全員が思ったが、意味はなさそうなので口にはしなかった。オリヒメが咳払いをし、
「いずれにせよ、アヴィー。歩きながら読むのは危険です。宿に帰ってからにしてください。」
「……分かったよう。」
 アヴィーが頬を膨らませてレポートを閉じる。ミツナミが「膨れるアヴィー、可愛いですぅ!」とアヴィーに抱きつき、アヴィーは「や、やめてよう!」とミツナミを押して離そうとする。しかし、ミツナミは「可愛い可愛い」と頬ずりまでし始めるので、二人を引き離すようにオリヒメは鞘に納めた刀を二人の間にぐいぐいと突き入れた。騒ぎによってレポートの一枚が剥がれ、すうっと宙を飛んでいく。レグルスがレポートの回収をスハイルに頼み、レグルス自身は、ミツナミが「オリヒメはヤキモチですかぁ!?一緒に抱きついちゃえばいいんじゃないですかあ!?」とさらに状況とアヴィーの締め付けを悪化させているのを窘めた。
 スハイルは得意げにレポートを追い、そのレポートが地面に落ちたのを嘴で持ち上げようと地面に着地する…のだが、そのレポートは人に拾われた。
「ぴ?」
 スハイルはレポートを拾った人間を見上げる。その人はレポートにざっと目を通し、
「…この街にも気鋭の科学者がいるようだ。」
 と呟いてから、スハイルにレポートを差し出した。スハイルは、
「ぴよ!ぴぴぴようぴぴぴぴうー!」
 と、頭を下げてから、その紙を受け取った。スハイルが「ありがとうございます」と言っているのを聞いて、アヴィーがミツナミに抱きつかれながらも視線を向け……
「…オ、オリヒメ!」
 ミツナミが全くアヴィーから離れないので、抜刀しそうになっているオリヒメを呼んだ。
「オリヒメの先生がいる!」
「いいえ!そんなことより、ミツナミをあなたから離すことの方が先です!」
「やっぱりヤキモチですぅ!オリヒメ、可愛い~~!」
「いいえッ!アヴィーが悪い女にだまされたりしたら…、マルカブに顔向け出来ないからですッ!」
「え!?そこ、マルカブなの!?」
「ふむ、ヤキモチか。結構なことだ。」
 と、オリヒメにとっては降って湧いたような声で、彼女は我に返った。スハイルがレポート用紙をくわえたまま、紙を拾った男性を見上げる。そこにいるのは…、分かっているのはオリヒメとアヴィーだけだが…、オリヒメの師であるヤライだった。
「初めまして…の子たちもいるかね。オリヒメと仲良くしてもらっているようでありがとう。」
 と、保護者のようなことを言う。スハイルが「…ぴよーぴん?」と呟いて、レポート用紙を落としかけ、慌てて咥えなおした。
「師匠様とマルカブは似てません!スハイルはこっちにいらっしゃい!」
「ぴ、ぴよ!」
 スハイルは再度レポート用紙を咥え直し、オリヒメの方に飛んでいく。それをおかしそうにヤライは眺めてから、ため息混じりにスハイルが咥えているレポートを見つめた。
「そろそろか…と思っていたが、このレポートを見る限りではちょうど良かったようだ。君たちは……、見たこともない素材を見たのだね?」
「……採集物です。ご存じなのですか?」
 レグルスが静かに問いかけると、ヤライは頷いた。
「その解析結果を書いた人は…この世界の成り立ちを知っているようだ。…おそらく、エトリアでヴィズルがいなくなったことに絡んでいるのだろう。」
「……前の執政院長さんを、知ってるんですか…。」
 アヴィーの呟きに、ヤライは「エトリアの子か。」と呟いた。そして、何かを決めたようで
「では、君たちに隠す必要は無いだろう。君たちが採集したものは、1000年前に宇宙に向かって飛ばした船の残骸だ。」
 と、そう言った。



(39章4話に続く)

---------------あとがきのようなもの------------------

マリアさんが解析しようとしたものは、「ケブラー繊維」のようです。



新世界樹シリーズの方で登場する『ミズガルズ図書館』設定、ぶち込んでみました。
ミズガルズ図書館に所属する人間がエトリア、ハイラガに行っているということは
→図書館経由で、ある程度の情報は公表されているだろう…
→つまり世界設定をキャラが共有してるという前提で書けるな…
→助かった!新シリーズ最高!!……とそんな気持ちです。


なお、
「サイモンとフラヴィオがミズガルズに報告書をだしてる。」
「知識層には、過去の文明の存在が明らかになってる。」
「図書館側は、調査が必要な部分を除いたレポートの一部を公開。」という設定です。

隙のなさそうなサイモンの報告書が先に読まれているので、
隙のありそうなフラヴィオの報告書はそれと比較されてしまい、
「客観性に欠ける」とか「誤字が多い」とか言われているんじゃないか、と夢想無双。

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