まよらなブログ

39章5話。


「世界樹カンケーねえ!」な「世界樹の迷宮Ⅲ」妄想話です。


「ムジュラの仮面」を買いましたが、無事に更新出来ました。(笑)



ちょっと、フラフラした話になってまいましたが、
興味のある方は「つづきを表示」からどうぞ。


39章5話
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 ヤライの話を聞いた後、アヴィーは夜まで宿にいた。
「…アヴィー…」
 オリヒメがスハイルを抱いて自室にいるアヴィーを尋ねる。アヴィーはぼーっと窓を見ていたが、オリヒメに気づいて「なあに?」といつも通りに問いかけた。
「……あの…、師匠様が…その……驚かせてしまったのではないかと思いまして……」
「驚いたのは僕よりもオリヒメの方じゃない?僕はエトリアでも似たような噂を聞いたこともあるし、ハイ・ラガードに遊びに行ったときも空飛ぶ城の話は聞いていたから…、驚いたけど…意外には思わなかったよ。」
 そして、アヴィーはぽつりと「…だから、オリヒメの先生の話は、嘘じゃないと思う。」と付け加えた。オリヒメも、ただ頷くだけだった。
「オリヒメ、あのね、僕に協力してくれるのは嬉しい。でも…、もし僕に協力することで、オリヒメの先生を裏切るようなことになったら、僕に遠慮はしなくていいからね。その時は、ちゃんと話をして。僕はオリヒメが悲しい思いをするのは嫌だよ。だから、そうならないために、どうしようか話そうよ。」
「…はい。」
 オリヒメは静かに頷き、アヴィーは「約束だよう!」と笑ってから、窓の外を見た。
「……僕、あの採集場所を調べ直したいな…。鉄の板は、舟の一部なんだよね。あれは星に行こうとしてた舟なんだ…。」
 後半はアヴィーの独り言だった。オリヒメは、あの、と声を出した。
「アヴィー…。それよりも…」
「それよりも?」
「……それよりもマルカブに会いに行きましょう。」
「ぴよ!ぴよーぴん、ぴぴぃー ぴよぴよ!」
 オリヒメの腕の中でスハイルが飛び跳ねた。アヴィーは、ぐっと言葉を詰まらせたような表情をしてから、
「いいよ。マルカブも忙しいだろうし。だから、今日は訪ねてこないんでしょう?」
「ですが、明後日の昼に出航だそうです。航海の期間は二ヶ月ほどと聞きました。それとマルカブは、私たちが探索とマリアさんに会いに行っている時間に、宿を訪ねに来たそうです。」
 アヴィーはただの意地を張ってるだけになっていますよ、とオリヒメは忠告をした。
「つまらない意地を張って、後から後悔するのは」
「…分かってるよ!」
 アヴィーは両手を振り上げて主張した。オリヒメは押し黙った。アヴィーは、大声を出してごめんね、と謝ってから、
「でも……僕は、マルカブにどんな顔で会ったらいいの?」
「……マルカブはどんな顔でも気にしませんよ。」
 オリヒメの一言に、アヴィーは首を振った。そうではない、と。
「……、オリヒメの先生も言ってたよね。お姫様は最初から崩壊することが決まってた体で100年も自我を保って生きてくれた…って。お姫様が本当に限界だったんだ。だからマルカブはちゃんと死なせてあげたくて、島に連れて行ってあげたんだ。誰だって死ぬのは怖いから、せめて怖い思いが少しでも軽くなるように、一緒に付いていったんだ。」
 アヴィーの言葉にスハイルは「ぴよ…」と力なく同意した。そうなんだね、とアヴィーは呟いて、
「僕は、ううん…僕とカリーナは、そんなマルカブが好きなんだよう。なのに、僕はそんなマルカブに怒ったんだよ。マルカブが一番大事にしてることを、僕はそれを、「勝手だ」って言ったんだ。ずっと、僕らはそれに守られてたのに。置いていかれるわけじゃないのに。」
「…だったら、謝りに行きましょう。私も一緒に謝りますよ。」
「ぴぴ!ぴぴ!!」
「そういう問題じゃないんだよ。」
 アヴィーはぷい!と窓を見た。
「謝らなくたってマルカブは許してくれるよ。でも、僕が僕を許せないんだからしょうがないよ。」
「……でしたら尚更です、アヴィー。マルカブはあなたの顔を見てから出航したいに決まってます。顔を見せてあげるのは、マルカブのため、としましょう。あなたが、あなた自身を許せないこととは別の問題として。」
 アヴィーはぶすっと膨れたままで黙った。オリヒメは何も言わずに待った。スハイルはじりじりと身じろいだが、オリヒメが待っているので待った。長めの沈黙の後、アヴィーが口を開いた。
「…………、明日、」
「はい。」
「明日の探索の帰りに、行く。」
「今日でなくてもいいんですか?」
「……今日は無理!」
「分かりました。明日、私も一緒に行ってもいいですか?」
「ぴぴ!ぴぴ!」
「好きにしなよう!!」
 アヴィーはそう言って、ぷいっとそっぽを向いた。

 しかし、その翌日の探索でアヴィーは負傷した。

*****

「…モリヤンマに不意打ちをされて…」
「…怪我はどの程度…」
「…胸を縫合…」
「…命に別状はない…」
「…あのとき、私がちゃんと止めていれば…」
「…気に病むな…」
 アヴィーは朦朧とする意識の中で、夢のように声を聞いた。声は続いているのだが、アヴィーは夢うつつの中で内容を把握できないでいる。
 声の主……オリヒメは、泣いたのだろう。目を赤くしながら、もう一人の声の主…アヴィーを訪ねてきたマルカブを見た。マルカブはアヴィーの枕元の椅子に座っているので、オリヒメが見下ろす形になった。
「本当に…申し訳ありません。」
「だから気に病むな。」
 マルカブは溜息をつき、寝ているアヴィーを見た。モリヤンマの前足で裂かれた胸の裂傷は縫合した。その際の麻酔が効いていて、アヴィーは寝ている。スハイルがマルカブの膝の上で、心配そうにマルカブを見上げた。何で俺を心配するんだ、とマルカブはスハイルを撫でてから、
「…数日、安静にしてた方がいいんだろ?明日の出航に来たがるかもしれないが…寝させといてくれ。」
「ですが…。」
「いいんだよ。無理させて何かあったら、それこそ大変だ。」
「ですが、マルカブ…!もしも、このまま…!」
 オリヒメは縋るように言い掛けて、そして、口を噤んだ。何だ?とマルカブが問いかけても、首を振る。マルカブは苦笑混じりに、
「…お前が言い淀むなんて珍しいな。出航の日に槍でも降らせる気か?」
 後半は笑えない冗談のつもりだろう。出航が延びるのならいっそ槍が降ればいいのに、とオリヒメは口を曲げながら思うのだ。その間にアヴィーがマルカブに会うだけの時間は持てるのに。
 口を曲げて何も言わないオリヒメに、マルカブは「調子狂うな」と頭を掻いて、
「…もしも、このまま?」
 言葉の続きを促した。オリヒメは首を振り、言葉の続きは口にしなかった。マルカブはじっとオリヒメを見つめ、自分の顎を一撫でしてから、
「…「もしも、このまま、帰ってこなかったら」……か?」
 と言葉の続きを予測した。オリヒメはきっ!とマルカブを睨み、
「…いいえっ!」
「…正解だからって、ムキになることないだろ……。」
「当てる必要もないことです!こんなときだけ、変な勘を発揮しないでください!カリーナの気持ちには全然気づかなかったくせに!」
「…もうカリーナのことは勘弁してくれ……」
「ぴーー!」
 スハイルにまで非難されて、マルカブは頭を抱えた。抱えてから、「いや、そういう話じゃないだろ。」と独りごちて顔を上げた。
「……オリヒメ。」
「……なんですか?」
「俺は、帰ってくるよ。」
 口調は穏やかだったが、有無を言わせない迫力があった。いつものマルカブらしくない迫力に、オリヒメは僅かに狼狽えた。マルカブの膝の上のスハイルは、安心した様子で羽を畳み丸まった。
「…マ、マルカブが、そう思っていることは分かっています。勿論、アヴィーも探索から無事に帰ってくるつもりです…。ですが……、ですが…そう願っていても、そう信じていても、必ず帰れるとは限らない……そういう場にあなたもアヴィーも私も、踏み入っていくんです…!」
「でも、俺は帰ってくるぞ。」
 マルカブはそう言って、己の脚…義足の脚をパン!と叩いた。
「俺は、アヴィーを後悔させない。だから、俺は死ねない。だから、帰ってくる。」
 簡単な話じゃないか…とでも言い出しそうな口調で、マルカブはそう断言した。あまりにも清々しく断言するのでオリヒメは頷きかけ…しかし、全く理論的ではないので、どう応えていいか迷っていると、マルカブの方が苦笑した。自分の言い分は全く理にかなってないことは、彼自身が分かっているのだ。……分かっているのに、揺るがない事実のように口にする。オリヒメを安心させるためにではなく、それ以外の選択肢がこの世界には存在しないかのように口にする。
「だから、安心しろ。」
 オリヒメは、困ったようにしながらも頷いた。スハイルが何も疑問に思わずに、目さえ閉じているのを見ながら。
「必ずですよ…!」
 もし、「帰ってくる」以外の選択肢がこの世界に用意されていないのなら、この一言にも意味がないのかもしれない、と思いながら頷いた。


 ―― 俺は帰ってくるよ ――
 と、アヴィーは夢うつつのままでその言葉を聞く。聞きながら、夢うつつの中で思い出すのは、父の記憶だ。5歳のときに亡くなった父。研究者で、執政院の命令で樹海の調査に行った父。魔物に襲われ、顔の半分を砕かれながらも自分に会うまでは、と執念だけで「生きて」街に帰ってきた父。
 将来の養母に抱かれて会った父は、もう言葉も発することもできないはずなのに、自分の姿を見て、何かを言って、事切れた。何を言ったのかは、分からない。だって、顔の半分は砕かれていたのだ。5歳の子どもには怖ろしい顔ではあったが、それは父だった。その時のことを、養母はよく「お前の父は立派だった。」と言っていた。「お前に会うまでは死ねないと、最期まで力を振り絞ったのだ。」と。それははお前への愛だったと養母が常々言ってくれたので、記憶の中の半分砕かれた父の顔をアヴィーは怖ろしくも厭わしいとは思わないでいられた。
 ―― 言葉の主も、父のように何があっても「帰って」来てくれるのだろうか?
 アヴィーはぼんやりとそんなことを思い……、ふと「既に、何があっても帰ってきたのではなかったか?」と思い至る。脚を失い掛けても、脚を失っても、ちゃんと目覚めてくれたのではなかったか、と。
 それは、自分と少女への愛情だったのではなかったか、と。
 そう思ったときに、瞼の奥で、白い光が真珠のように光って目が覚めた。


「……、そうだね…、カリーナ…!」
 アヴィーは涙ぐみながら、起きあがった。
「僕らは大事にされてたんだ…!僕らのために死ねない、と思われてたぐらいに、大事にされていたんだ…!」
 謝りに、感謝をしに、見送りに、それでもそれでも帰ってきてね、と言うために、アヴィーはベッドから転がるように降りる。寝間着の上にいつもの上着を羽織って、きしむ体を無理矢理に、痺れなど無視をして、部屋から飛び出す。
「あー、アヴィー、起きたんですかあ?良かったですぅ!」
 水を張った洗面器を持ったミツナミが、間延びした声で喜び、
「痛みはどうですかあ?お薬持ってきましょうかあ?」
「ミツナミ!今日は……何日!?」
「マルカブの出航まで、あと30分ですぅ。」
 と、質問の回答ではないが、アヴィーの聞きたいことに的確にミツナミは答えた。アヴィーは、30分…と呟いて、
「ごめん!お医者さんには内緒にしておいて!」
 そう言って、階段を駆け下りる。ミツナミは「しょうがないですねえ。」と呟いて、階段の下のアヴィーを見下ろした。
「港にはオリヒメたちがいますから、傷が開いたらすぐに言うんですよぉ!」
 そう言って、送り出した。

*****

 ―― 槍など、振らなかった。
 快晴で、海は穏やか。出航を妨げる要素もない。マルカブは挨拶も済ませて船に乗ってしまった。出航を告げる声がして、しつこくマルカブの肩に留まっていたスハイルが、いよいよ船から飛んで出てきた。
「スハイル、おとーさんは泣いてなかった?」
 肩に留まったスハイルにディスケが問うと、スハイルが「ぴー…」と泣き出した。泣くなよーとディスケがスハイルを撫で、
「マルカブは大事な仕事をしにいくんだから。」
「……ぴよ…っ!」
 スハイルが頷くのとほぼ同時に、船は錨を上げてゆっくりと動き出す。桟橋では、船乗りたちの家族や友人が手を振って、元老院の人間は胸を張って、警備隊の人間は敬礼で見送った。船の上では、この航路探索任務に出発する船員と警備兵と役人が、それぞれの仕草で見送りに応えている。マルカブの姿は見えない。本当に泣いてるんじゃないだろうな、とディスケは思い、隣で膨れている(無表情だが、絶対に膨れていた)オリヒメをちらりと見た。
「……仕方がないだろ、オリヒメ。」
「分かってます…!」
「アヴィーが起きたら話してやろうって。マルカブが順調に出発したって。」
「…分かって、ます!」
「クールな子だと思ってたんだけど、そうでもないんだなー。」
 ディスケの暢気な感想にオリヒメは何か言おうと彼を見上げ、
 そして、その中で声を聞いた。
「―― 待って…!」
 オリヒメとディスケとスハイルは、声のした方を向く。彼らから少し離れたところにいたレグルスやセルファも、そちらを見たのだから聞き間違えではないのだろう。
「…待って!マルカブ!」
 桟橋を駆けてくるのはアヴィーだ。泣きながら、見送りの人間をかき分けて駆けてくる。
「―― マルカブ!!」
 声は、どうやら聞こえたらしい。(アヴィーの声なら針を落とすような小ささでも聞き逃さないのだろう、とディスケは思った。)顔を出さなかったマルカブが、船縁を掴むようにして身を乗り出した。マルカブの視線はせわしなく動き、そして人混みの中の一点に定まった。同時に、彼の口が何かを呟き動く。「あのバカ…!」とか言ってるに決まっている。
「…アヴィー!走るな!寝てろよ!」
 マルカブの声で、誰かがアヴィーに気づいて「道を開けてやれ!」と言った。アヴィーの前の桟橋が開け、アヴィーは離れていく船を追う。
「ごめん!ごめんね、マルカブ!!僕……、……僕…っ!」
「いいから!分かってるから!もう走るな!傷が開く!」
 そのまま船から飛び降りかねないほど、マルカブは船から身を乗り出してアヴィーを止めようとした。アヴィーはそんな声など聞こえずに、
「マルカブ!僕、謝りたいんだ!言いたいことも、いっぱいあるんだ!カリーナの分も、マルカブに言わなきゃいけないことがあるんだよ!これからの探索のこと、楽しいことも珍しいものも辛いことも、きっと話したくなると思うんだ!」
 桟橋を駆けながら、泣きながら、アヴィーは船を追う。
「だから…!だから!僕は我が儘だけど、なんにも分かってなかったのかもしれないけど…、…でも!」
「―― 分かってる!俺はちゃんと帰ってくる!」
 だから約束しろ、とマルカブも叫んだ。
「お前もちゃんと帰ってこい!」
 アヴィーは足を止めた。マルカブが言った以上、彼はきっと帰ってくるのだ。だって、言ったことを忘れない人だから。約束を忘れない人だから。
 それに感謝をしているのなら…、それを尊敬もしているのなら。自分も同じように応えるのだ。
「――、うん!!」
 アヴィーは大きく頷いて、桟橋で大きく手を振った。アヴィーが足を止めたことに、とりあえずマルカブは安堵して手を振り返し……、何かに気づいて青ざめた。もう一度、船縁から身を乗り出し、アヴィーを追って駆けてきたオリヒメ(とスハイル)と、その後ろをのんびり走ってくるディスケに向かって、
「オリヒメ!アヴィーの傷が開いてる!急いで医者に見せてくれ!あと、ディスケ!オリヒメにアヴィーのこと任せてんじゃねえよ!……アヴィー!お前はもう動くな!手も振るな!」
「いってらっしゃい、マルカブ!僕、ちゃんと帰ってくるから!約束、守るから!僕、頑張るよう!」
「ぴよッ!ぴぴ!ぴぴ!!」
「…バカ!跳ぶなッ!スハイルも一緒に跳ぶな!落ち着け!」
 声が聞こえなくなるギリギリまで、相変わらず小言を言い続けているマルカブを眺めていたレグルスは、
「最後まで、アヴィーはアヴィーでマルカブはマルカブですねえ。」
 と呆れたように呟いた。セルファは首を傾げてから、
「……最後……ではないのではないでしょうか。」
 セルファの一言に、レグルスはきょとん、と臣下を見た。セルファは、僭越でした、と顔を赤らめた。
「……いいえ。セルファ、君の言うとおりです。」
 レグルスは首を振り、くすくすと笑いながら、
「帰ってきたときも、アヴィーはアヴィーでマルカブはマルカブですよ。」


(40章に続く)

---------------あとがきのようなもの------------------

というわけで、うちの赤パイはちょっとの間お留守になります。

次回の更新は、一週お休みをいただきます。
その後でプロローグシリーズの更新の予定です……
……が、実はこの39章の間にエラキスの記憶が戻ってるので、番外編を書くかもしれません。
ここで書かないと入れるところがないんだけど、どうするかなあ。

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