まよらなブログ

プロローグ6


「世界樹カンケーねえ!」な「世界樹の迷宮Ⅲ」妄想話です。

本日は、プロローグシリーズの更新です。
プロローグシリーズの前に番外編を書くかも…と言っていましたが、
話をぶつ切りにするような気がしたので、やめました。
最終回を迎えた後に、「没ネタシリーズ」としてまとめたいものです。


それでは、興味のある方は「つづきを表示」からどうぞ。



プロローグ6:
 「『世界の終わりを見にいったとき』、我々は決意した。」
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 天変地異とさらなる汚染に襲われた土地で、ヤワンは苦渋の決断をする。この地に植えられた【世界樹】の第一クローンの浄化機能を、最大出力にまで上げる。それは世界樹クローンを人為的に暴走させることを意味していた。暴走の結果予測はいくつか立っており、暴走を止めることが出来なかった時は【蟲】を放ち、世界樹の根を食い尽くすことで暴走を止めると極秘に決定されていた。【蟲】の危険性も認識した上で、ヤワンはそれでもその決定を下した。何かを示さなければ、明日にでもこの研究所兼避難所内で人が人を喰いかねない。それほどまでに、食料も未来への展望も枯渇していた。
 ヤワンはこの地の世界樹を制御するために必要な道具の一つ……、通称【心】を前に息を吐いた。【心】と呼ばれる道具は人の形を成しながら、培養液の中で眠っている。一度も目覚めることなく、明日には【心】は世界樹の中に埋め込まれる。
「……すまない。せめて、名前ぐらいつけてあげたかったのだが。」
 少女の形をした【心】に謝罪をして、ヤワンはもう一度溜息を吐いた。
「……すまない。君が、この世界で目覚めることがあるのか、私には分からない。ただ……、その時、君が正しき者のところに生まれ落ち、名前を付けてもらえると……私は未だに信じている。……人間の弱さを私は知っているが、同じくらい尊い生き物であることも知っている。」
 そして培養液に満たされた強化ガラスのタンクに触れて、
「私の二人の息子……、長男は私ともに計画の進行を、次男は暴走時の避難民の保護を行うことになってね。私に何かあっても、息子等がこの避難所の人々を守ってくれる。我々にはイクサビトもウロビトもついている。」
 それは自分に言い聞かせるようでもあった。ぽこぽこと【心】から息が泡となって出た。笑っているのだろうか、とヤワンは泡が上っていくのを見つめながら、
「……いつか、君が、私の息子たちの手をとってくれることを祈っている。」
 そう、可能性の低いことを口にしながら、ヤワンはおそらくこの計画の一番の犠牲者になるであろう【心】に、……敬礼ではなく頭を下げて、そして部屋から出ていった。


 ……結論から言えば、計画は失敗だった。この地の世界樹は暴走し…、巨人の姿に形を変えた。【世界樹】のエネルギーの法則を無視して、有害物質を別の物質に作り替える機能……その機能の暴走だろうか。巨人と化した世界樹は、周囲の動物を植物に変えていった。生き物の特性を作り替えながら、巨人は東へ向かって歩き出した。そのまま進めば被害は広がり、この大地から動物がいなくなってしまうだろう。
 ……それは平和な世界なのかもしれないが…、とヤワンは皮肉めいたことを思いながらも被害を食い止めるために、三重の封印を施すことにした。地形を利用した風の生成。それによって、世界樹の暴走による被害を内側にとどめ、その中で巨人となった世界樹と戦う。長男には殿を任せて最後の封印を守るように命じ、次男には民を率いて世界樹の反対側に避難するように命じ、己はその決壊の内側で僅かな人間と【使徒】と呼ばれた作られた存在たちと共に戦った。
 結果的には巨人は世界樹の姿に戻り、しかし動物を植物に変性してしまう機能は失われないまま、存在し続けた。

 その、世界樹が持っていたエネルギーや物質を変換する機能の暴走は、長い年月の中で【世界樹の呪い】と呼ばれ、外側の封印を守るための拠点はいずれ【タルシス】と呼ばれるようになる。聖書に登場する西の果ての街の名を、あえてその拠点に名付けられたのは封印の先に進めないからだ。そこが、現時点での『西の果て』の街となったからだ。
 その西の果ての拠点から、南の土地にいる本来の【世界樹計画】の推進者たちにその地で起きたことが伝えられた。天変地異から始まる新たな汚染、世界樹の暴走、ヤワン将軍の死が伝えられた。同時に、封印を解き、世界樹の暴走を止め、人間に協力し封印内に残った【使徒】たちと世界樹の向こう側に避難した民間人たちの救出が要請された。しかし、【世界樹計画】の中心者たちは、封印を解くことは禁忌とするという決定した。封印を解くことで、汚染と【世界樹の呪い】が全世界に蔓延することを恐れたからだ。
 封印の先の世界と人々を、封印の外側にいる人々は汚染と呪いとともに捨て去ることにした。それは、移民船のサルベージを諦め、移民船を【魔】に捧げる生け贄とした決定と、何も変わらないものだった。


*****

 ―― グンターは、現状に絶望している。
 現状に絶望をしている……?違う、人々に絶望している。…それも違う。『人間』という生き物に絶望しているのではない。彼が失望し絶望した相手は、封印の先の世界を忘れようとしている人々のことだ。そうしている科学者のことだ。本来、科学とは人を助ける技術のはずだ。科学とは起きた事象に目を瞑らない学問のはずだ。どっちを救った方が得か、といった政治的な判断など、科学には必要がないはずだ。なのに科学者たちは、それが賢い選択だ、と言い世界の半分を捨て、封印の先に起きた異変をなかったことにしようとしている。
 ……なかったことにしようとしている。
 グンターは、世界樹の根本をじっと見た。その下に、移民船が埋まっている。【魔】に取り付かれ、恐怖を感じさせられ、【魔】の餌となりながら【魔】にとらわれている。移民船の人々が餌となることで、【魔】は地中の中で大人しくしている。移民船が救い出されれば、【魔】は新たな餌を求めて移動をするだろう。災厄を振りまきながら、移動をするだろう。
 だから移民船を救わない。犠牲を広げないために、犠牲を留めるために、敢えて移民船を救わない。議会はそう決定した。その決定に異を唱えたグンターの師は拘禁されてしまった。
 封印の先の世界も、移民船も、生け贄にされたのだ。
 グンターはぐっと拳を握りしめた。これから自分がしようとする選択は、間違いなく愚かだろう。だが、……だが。自分以外の生け贄を捧げるやり方ではない。
 脳裏に妹の姿がよぎった。彼女のためでもあると言い聞かせ……、きっと師が妹を守ってくれるとも信じて、グンターは【世界樹】の名を呼んだ。傍らに置かれた碑文のような機械から、わずかな間を置いて(間があることは珍しいことだったが)返事がした。
「―― 何だ、グンター。」
「【世界樹】、君は君の第一クローン体に干渉は出来ないのか?」
「……余にどのような干渉をさせたいのだ?」
「僕たちが【白亜の供物】と呼ぶ、あのエネルギー体…。あれを、第一クローンの土地に届けることは出来ないか?かの地の汚染を僅かにでも改善したい。」
 世界樹の返事は、今度は淀みなかった。
「クローン体たちとのネットワークは構築していたのだが……、【魔】に逆走されたせいで断絶がある。断絶箇所で疑似回路を作成しながら進み、三重の封印の合間を縫っていくと、力のほとんどが削がれた状態で第一クローンに到達する。【白亜の供物】と呼ぶ、あのときのエネルギーの…85%は削がれるだろう。そのエネルギーでは汚染によってかき消されるであろう。」
「……ならば、送り出すエネルギーを、あのとき以上のものにする。」
「……考えがあるのか、グンター。」
「君は言っていた。己は、『感情』をエネルギーとして摂取していると。『心地よい』としている感情を、エネルギー源として摂取しているんだろう?その、エネルギー源を提供する。君は、それを使い、可能な限りの最大出力で、第一クローンに向かって力を伸ばすんだ。」
 【世界樹】は、どこかしら興味深そうに問いかけた。
「そのエネルギー源はどこから提供されるのだ?」
「僕の、感情を喰えばいい。喜びや暖かさを感じさせる、記憶ごと。僕を奮い立たせてきた意志ごと。それは、北の地の汚染の改善だけじゃない。これからもずっとそうして、君は【魔】と対抗する力を得ていけばいい。」
「…過去も未来も余に渡すと?」
「そうなるね、きっと。」
「余の眷属になる、ということか?」
「そうなるんだろうね。」
 グンターはじっと地中を見つめながら、
「だが、君の駒として生きよう。僕と僕の子孫は、君とこの地を管理するために生きていく。いつか、【魔】を倒す方策が見つかるその日まで、僕は移民船の人々がこれ以上誰かに利用されないように、君を悪用する人間や君に利用される人間が現れないように、人類が【魔】の存在を忘れないように、君と移民船と【魔】を管理しよう。」
「己の子孫も差し出すと?」
「それで、いつか【魔】が倒される道しるべになるのなら、」
 グンターは、どこからでも見える【世界樹】を見上げた。
「僕が、適任だろうと思う。」
 巨大な【世界樹】の枝葉が揺れた。風が揺らしたのかは、グンターには分からなかった。だが、碑文から、
「了解した。君の快感情を生み出してきた記憶と意志の全てを、力として変換しよう。」
 準備が出来たらこの地に来い、と【世界樹】は告げ、沈黙した。グンターは礼も言わず、恨みも言わず、ただ「分かった」と答えて、その場を去った。


*****


 拘禁されている部屋の扉が突然開いた。部屋に拘禁されていたヤライは、「それでも、移民船は救われるべきだ」とガリレオみたいなことを言いかけ……、扉の向こうにいる人間を見て言葉を止めた。扉を開けたのは、議会の決定を最終的に承認したヴィズルの部下でもあるツスクルだ。少女は走ってきたのか、息を上げている。
「……ツスクル?何かあったのかね?」
「グンターが、私に、メッセージを送ってきて、」
 と、彼女は手のひらに握りしめた機器を操作し、送られてきたメッセージを再生する。宙に文字が浮かび、グンターの声で読み上げられた。
『……怖いものは、誰も見たくない。だからこそ、目を逸らしているかもしれないと考えておかねばならない、と言った ツスクルへ。君の、その誠実さを信じて、君にヤライ博士への伝言を頼みます。――【世界樹】に、僕の快感情とそれを生み出す記憶から、【白亜の供物】のようなエネルギー体を生み出してもらうことにした。それを以て、第一クローンの土地の汚染の改善を狙うつもりだ。』
 ヤライは、ただ文字を見つめるだけだった。だが、弟子が取り返しの付かない交渉をしたことは理解をした。
『……残念ながら、【魔】を倒すことも、【魔】に影響を与えず移民船を救い出すことも、今の段階では難しい。しかし、移民船は救い出されるべきだ。【魔】を倒すか、完全に封じることが出来る方法が見つかるまで、この地は守られるべきだと思うんだ。それには100年単位の時間が必要だろうね。移民船の人々のことを考えとき、悠長なことを言っていると、ヤライ博士はお怒りになるかもしれないが…、僕はそれ以上の時間の短縮は難しいと考えている。』
 ヤライが奥歯を噛んだ音がした。彼とて分かっているのだ。
『……【魔】を倒すか、封じるか…もしくは無力化する方策が見つかるか…、その時は必ず来る。それまでこの地は守られなくてはならない。君の大学のあった街で起きた暴動によってこの地が壊されたり、【世界樹】の力を無理に発動させて第一クローンのような呪いをまき散らしてしまうような事態は、【魔】から移民船を救う術の研究を、何十年も遅らせるからね。』
 少し、間をあけて文字と言葉は続いた。
『……この地と移民船を守るために、僕の感情と記憶を【世界樹】に捧げるつもりだ。今、汚染の浄化機能とこの地で人々が生きていくための知識と【魔】を抑える力を持っているのは、やはり【世界樹】なんだ。僕や僕の子孫が【世界樹】の力になり、この地と【世界樹】を守っている間に、どうか【魔】から移民船を救い出す方法を探してほしい。……そう、ヤライ博士に伝えてほしい。』
 そして、とグンターの声は続いた。
『きっと、僕は妹のことを忘れてしまうだろう。どうかヒルデを……妹を頼むと、ヤライ博士にお願いしてほしいんだ。そして、ツスクル、君がもし妹に会うことがあったら、友達になってやってほしい。』
 迷惑でなかったら、とグンターは遠慮がちに付け加えた。それから、しかしもう決めたことなのだ、と開き直って、はっきりと続けた。
『……勝手なことを押しつけて申し訳ない。また、僕と会うこともあるだろうが、感情と記憶を喰われた僕が君のことを覚えているかは分からない。君とは短い期間だったが、それなりに友情を育めたと僕は思っているから、僕にとっては快い感情と記憶なんだ。君のことも忘れてしまうかもしれない。…許してほしい。それでも、どうか、後のことは頼むよ。』
 そう言って音声は途切れ、ツスクルはヤライを見上げた。同時に、強化ガラスの窓の向こうで、光が舞うのが見えた。
「……【白亜の供物】…」
 ヤライはその光を見てつぶやき、弟子が自分の大切なものと引き換えに北の地とこの地を守ろうとしたことを知った。


*****


 なお、三重の封印が施された先の地まで【白亜の供物】が届いたのかは分からない。中の様子を外の人間は窺いしれないからだ。
 だが……、世界樹の反対側に逃げた人々が細々とながらも1000年を生き抜いたことを考えれば、大地の汚染は改善され、痩せた土地と動物を植物に換える【世界樹の呪い】だけが残ったのだろう。
 その封印が解かれ、人が世界樹の元にたどり着き、巨人となった世界樹と戦って【世界樹の呪い】が止まるには、1000年と少しの時間が必要になる。
 封印の中で命を落としたヤワンの願いが全て叶うには、1000年もの時間が必要になるのだが……、
 ―― しかし、彼の願いはいずれ全て叶うのだ。



(プロローグ7に続く)


---------------あとがきのようなもの------------------

今回は世界樹4が下敷きです。
もうちょっとヤワンは書きたかったなあ。


解説しなきゃいけない気がするところの解説です。

・タイトルの「世界の終わりを見にいったとき」:
 シルヴァーバークの短編から。
 『ここがウィネトカなら、きみはジュディ 時間SF傑作選』に収録されてます。

・少女の形をした【心】と、ヤワン将軍の二人の息子:
 この【心】は、あの巫女と思ってもいいし、そうではないと思ってもいい。
 そして、息子の一人が辺境伯の、もう一人が帝国の先祖だと思っていいし思わなくてもいい
 ……んですが、辺境伯の先祖と皇子の先祖が同じなら、
 皇子が辺境伯の跡を継ぐときにロマンあふれるな……と志水の夢とロマンが暴走しました。

・「巨人は東に向かって歩き出した」の一文
 タルシスから北西に向かうと世界樹がある……と思って書いてました。
 ゲームの地図上では北なので、志水のこだわりでしかありません。
 理由は、聖書のタルシシュが「西の果て」の街だからです。

・グンターのあれこれ
 深王様の、全世界を一人で背負い込んでる性質は遺伝なのかもしれない。
 ちなみに彼のこの決意がヴァレンディア女史に、
 「自分だけ方舟に逃げてしまったのではないか」と考えさせてしまい、
 彼女が新世界樹2の「黒の護り手」の研究を開始するというイメージでいます。


来週からは本編40章です。

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