まよらなブログ

40章1話。


「世界樹カンケーねえ!」な「世界樹の迷宮Ⅲ」妄想話です。


ほとんどの情報は出そろった感じで40章が開始してます。
あとは一本道だなあ。



それでは、興味のある方は「つづきを表示」からどうぞ。



40章1話
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 開いた傷の手当をしてから、アヴィーをベッドに押し込んだ。傷のせいで体力もない中、マルカブの見送りでかなりエネルギーを使ったらしいアヴィーは、ぱたりと寝てしまった。見送りができたことで、気も済んだらしい。アヴィーは傷が熱を生じているだろうに、穏やかに寝息を立てている。その枕元で、スハイルが翼を畳んで同じように寝息を立てている。
 オリヒメはアヴィーの額に濡れたタオルを乗せてから、一息ついた。おそらくアヴィーはこのまま寝続けるだろうし、大人しくしていれば傷も開くこともないだろう。昨日からミツナミと交代で看病をしているオリヒメは、大欠伸をする。寝不足だった。
 オリヒメは椅子の背もたれに寄りかかってから、目を閉じた。少しだけ眠ることにする。アヴィーは騒いだ後にぱたっと寝て、そのまま朝まで起きないタイプなので、数時間は熟睡するだろう。安静にしていれば傷が再度開くとも考えにくい。だから、安心して仮眠をとることにした。
 オリヒメは、この南海一帯の秩序を護るショーグンとして教育された娘だった。(つい数日前に、南海の秩序を護るというのは表の理由だと師匠に聞かされたばかりだったが。)ショーグンは有事の際に、人を率いて戦いにでる。多数対多数の戦いを指揮するのがショーグンだ。ある意味では、オリヒメは戦争を指揮することを教育された娘だとも言えた。
 戦では好きに休息をとれるわけもない。休んでいる中に、敵襲もある。だから、オリヒメは寝るべきときに寝れるような訓練も積んでいた。オリヒメは寝ることに集中して、体というより頭と気持ちを休めることにした。
 そんな風に寝たときは、短い間に深い眠りをとるため夢は見ない。普段は、夢は見ないのだが。
 ―― その日は、懐かしい夢を見た。



******


 夢の中で、5歳になるかならないかの少女が、焼け野原を歩いている。
おぼつかない足で、誰かいないかと探す。そこにもう家族がいないことは、分かっていた。もう涙も出てこなかった。でも、一人で生きていけないことも分かっていた。何より、一人は怖かった。だから、焼き払われた街の中を、必死に歩く。どこかに抱き上げてくれる人がいるなんて、少女はもう信じてはいなかったが、他にできることもないので歩き、探す。
 そのうち、躓いて転ぶ。転んだままで、少女は立ち上がろうとはしなかった。瞼が下りて来るままに任せてしまう。もう体力も限界で、気力はとっくの昔に切れていた。
 ……どれくらい、そのままでいたのかは分からなかったが、近くで、かたん、と乾いた音を聞く。少女は目を開ける気持ちもなかったが、誰かが息を飲むのが聞こえた。
「…生きているのか…!?」
 声は少女にかけられ、少女に手を伸ばされる。少女はどうにか瞼を開けて、そこで太陽を背にした初老の男性を見つけたのだ。


*****


 ―― 懐かしい夢を見ている。
 星空を見上げている幼い少女の姿。空気が淀み空が掠れて、本当の星空を見ることができなくなったこの土地で、見上げる星空は投影された映像だ。
 少女が見上げる星空の一点……、全天の中でもさして目立たない星を拡大して、天井に投影する。川の星座の一部の星は、他の冬の星の輝きに比べて暗かった。しかし、そこは希望の星だった。太陽系に近く、太陽に比較的似ている星。惑星がある可能性も高く、500年以上前から地球外知的生命体探査計画の対象になった星だ。到達可能な距離にあり、居住可能な惑星がある可能性が全天の中で最も高い恒星だった。その星を指して、「お前が目指す星はここだよ。」と教える。少女はその星を見上げて頷いた。
「このほしに いくのに、ひかりのはやさで、10ねん かかるんでしょう?」
 と、少女は言った。両親に教わったのだろう。そうだね、と頷くと、少女は少し考えて、
「たなばたの おほしさまは、いちねんにいっかい あうけど、もっと、とおいんだね。」
 と、そう言った。そうだね、と言いながら少女の頭を撫でる。少女は自分を見上げて、
「おじいちゃま、さみしい?」
 さみしいよ、と答えると、少女は唇を曲げて、
「おじいちゃまも、いっしょに いかないの?なんで?」
 お仕事があるからだよ、と言うと、少女は首を振った。
「おとうさんも おしごとあるけど、おふねにのるよ!」
 お父さんはその船を動かすのが仕事なんだよ、と言おうかと思ったが、それは少女の求める答えでもないだろう。自分がこの星に残るのは、少しでもこの地の汚染を改善しておきたい……、せめて、汚染とはなんだったのかを解明し、後世に情報を残しておきたいからだ。それは、少女たち移民船の乗組員がいずれ見つける(かもしれない)新天地で同じ間違いをしないためでもあり……、少女たちの末裔が何千・何万という年数の後に再びこの星で生活できるようにしたいたらだ。お前のためなんだよ、と言っても、少女は納得はしないだろう。だが……、光の速さで10.5年かかるほどの距離が在ったとしても、お前を思って研究をすると伝えたかった。自分たちは繋がっているのだと……それは知ってほしかった。
 ……その少女、……少女は自分の孫娘だった……、少女の横に屈んで、その少女の名前を呼ぼうと口を開きかけ…
 そして、少女の名前を覚えていないことに、気が付いた。あのときは、確かに呼べたのに。あのとき、少女は「おじいちゃまの おはなし、よくわかんない!」とむくれたことも覚えているのに。沢山の思い出は覚えているのに。彼女が生まれたときのことも…、婿から無事に生まれたと知らせる電話のことも、自分を「じちゃ」と呼んだときのことも、蓄音機を模した音楽プレイヤーをのぞき込む姿も、星の映像を投影させて織姫と彦星の絵本を読んだことも覚えているのに。
 自分の孫である少女の名前を、今はもう忘れてしまった。


*****


 ―― 懐かしい夢を見ている。
 少女は自分の名前も覚えていなかったので、助けてくれた男性が名前をつけてくれた。その日はよく晴れていて、夜になったら星が見えた。星が見える空を男性は感慨深げに眺めてから、天の川を指す。
「七夕の話は知っているかね?」
 少女は首を振った。それは古代の言い伝えで、この時代には残らなかった風習だった。あの星とあの星が、一年に一度会う日だよ、と男性は天の川を挟んで輝く星を指す。
「……長く生きたがこんなに明るい星空は初めてだ。」
 と男性は呟いた。少女は小さく首を傾げた。確かに晴れていて星空は綺麗に見えたが、星はいつもと同じように輝いている。男性は考えを決めたように頷いた。
「あの星の名前を、君の名前としよう。」
「…ほしの なまえ?」
 男性は、「オリヒメ」と少女を呼んだ。少女は与えられた名前をつぶやき、もう一度呟いてから、はにかんだ。
「…気に入ったかね?」
 男性が尋ね、少女は頷く。それは良かった、と男性はほほえんだ。
「君が、自分の名前を思い出すまで、使うといい。本当の名前を思い出すまで、大切に使ってほしい。……その星は、私にとっても…、大切な思い出のある星だから。」
 男性は『オリヒメ』と名付けた少女に、懇願するように伝えた。
「大切に、してほしい。」


*****


 ――、懐かしい夢は終盤に差し掛かっている自覚があった。
 孫娘が出発する日。自分で描いた絵を持ってきた。孫と祖父が手を繋いで絵で、空には星と太陽が描かれていた。おじいちゃまにこの絵をあげるね!と孫娘は言い、一緒に持ってきた絵本を抱きしめる。それは以前、祖父があげた七夕の絵本だった。
「この ごほん、もっていくね!もし、おふねが、あまのがわを とおったら、あたし、おりひめさまを ひこぼしさま の ところに つれていってあげるんだ!」
 彼女らが目指すエリダヌス座ε星は天の川と方向が違うし、この星から見える星のように星々は宇宙空間に配置しているわけではない…のだが、賢いとは言え4歳の女の子に夢のないことを言ってもしょうがない。重要なことは、一年に一度しか会えない恋人を会わせてあげようという少女の優しさだ。そして祖父としての喜びは、自分が教えた話を孫が覚えていてくれていることだった。
「…その時は、織姫星が天の川の上を動くのかな?」
「うん!」
「それは、おじいちゃまも是非見てみたい。そのために空を綺麗にして、星が見えるようにならないとね。空が綺麗になるように、おじいちゃまもお仕事を頑張らないと。」
「うん!おそらが きれいになったら、おふねも みえるよ!おじいちゃまも おそらを みていてね!あたし、とんでいるからね!」
 宇宙船が見えるはずもないが、祖父は当然のように約束した。空を見上げてお前の無事を祈っているよ、と約束した。約束ね!と孫娘は笑って、小指を差し出してきた。


*****


 懐かしい夢から、オリヒメは目覚めた。目を擦り、周囲を見る。アヴィーが落ち着いた寝息を立てていて、その枕元ではスハイルがごろんと転がっていた。
「……ぴぴーぴ…」
 カリーナの夢でも見ているのか、スハイルは寝言で彼女の名前を呼び、それを聞いたせいなのか、アヴィーが「カリーナ…これ、おいしいよう…」と寝言を言った。カリーナに食べ物を勧めている夢を見ているらしい。
 幸せな夢のようで何よりだ、とオリヒメは思いながら、背もたれに掛けていたブランケットを膝に掛けた。自分の見た夢はずいぶんと……
「古い夢…」
 もう思いだそうとしても霞む記憶だ。久しぶりにはっきりした形で思い出した。戦災で親も家族も失って、ヤライに拾われ、名前を貰って、以降、ヤライを師と呼びながらと一緒に過ごした。剣技も知識もだが、生活のほとんどを彼から教わったし、彼もオリヒメが成長するために心を砕いてくれたことは分かっている。
「……師匠様の…大切な思い出……」
 1000年生きてきたのなら、その思い出はいつのことなのか。それを抱えて1000年生きてきたのなら、その重さはどれだけなのか。その大切な思い出のある星の名を、自分に与えたのは何故なのか。
「……知らないことばかり、でした…」
 オリヒメは再び目を閉じた。師が真意を話してくれることがあるのかは分からないが……、その真意を知りたいと思う。
 師の大切な思い出に、ふさわしいように、生きたいと思うからだ。
 いつかちゃんと聞けるといい…と思いながら、オリヒメは再び眠りについた。


******


 懐かしい夢からヤライは目覚めた。瞼を手で覆い、呻く。
「…………、思い出せない。」
 孫娘の名前が思い出せない。1000年も生きれば忘れることも多かったが、それでも最も重要な記憶だ。記憶を喰われたわけでもないのに、思い出せない。脳の劣化が進み出している証拠だろうか。
 不老の処置を施して1000年生きてはきたが、やはり限界も近いのだ。エトリアではヴィズルがその地の世界樹と埋め込むことで劣化を抑えて生きていたが、世界樹を嫌悪するヤライはその方法をとるつもりはない。(後から分かったことではあるが、ヴィズルも世界樹に意識を乗っ取られていたようなので、その方法は絶対に使えなかった。)一人の体で、1000年生きてきたのだから、むしろよく持ったと思う。
「…………、もう少し、持ってくれ…」
 ヤライは己の胸を押さえて、宿代わりにしている屋敷の窓を開けた。(南海に影響力を持つヤライは、アーモロード内に懇意にしている人間もいる。その家を回って、アーモロードに滞在していた。)窓の外には、世界樹。1000年前から姿は変わらず…、しかし本体は地中に潜った世界樹が見える。
「やっと……行ける。」
 第六階層への道が、『アルゴー』によってやっと開いた。深王と姫は国を去り、【世界樹】の人質になっている存在もいない。『アルゴー』が奥へと進むことで、【魔】と【世界樹】の意識はそちらに向き、『アルゴー』に対抗するためエネルギーをそちらに回すことになる。自分に対する結界を解除して、そのエネルギーを『アルゴー』に回すだろう。そうすれば、第六階層に自分も踏み込める。
「やっと、救いに、行けるんだ。」



 
(40章2話に続く)

---------------あとがきのようなもの------------------

むしろプロローグシリーズみたいな話になりました。


移民船がエリダヌス座ε星に向かって飛び立った…という設定をすっかり忘れ
ケンタウルス座α星のつもりで書いていたのですが、
アップ直前の推敲で気が付き、慌てて書き直しました。

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