まよらなブログ

40章3話。


「世界樹カンケーねえ!」な「世界樹の迷宮Ⅲ」妄想話です。


一週お休みして申し訳ありませんでした。
しかし、次回の土日は出勤のため、また不定期な更新日になります。
4月8日ごろの更新になるかな…と考えてはいるのですが、
近くなったら、どこかでお知らせします。


それでは、興味のある方は「つづきを表示」からどうぞ。



40章3話
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 『アルゴー』が奥へ奥へと進むことで、【魔】は徐々に徐々に目覚めていく。目覚める…というよりも、警戒レベルが少しずつ上がっていく…と言った方がより適切かもしれない。【魔】は眠らない。ただ、活動しない時もあり、活動量も状況に応じて変わるだけだ。
 【魔】の警戒レベルが上がり、外敵(『アルゴー』のことだ)を排除しようと動き出す。その動きを抑えているのが【世界樹】だ。【魔】が目覚めるごとに、【世界樹】が【魔】を抑える力も強くなる。それは、【世界樹】に余力がなくなっていくことでもあった。【魔】を抑えることに全力に近いエネルギーを割くため、他のことにはエネルギーを割り当てられない。それは、【世界樹】が自分にとっての『侵入者』を検知することを遅らせた。
 【魔】を抑えている【世界樹】は、【魔】に絡まるように……もしくは【魔】に絡まれているような第六階層の木々そのものだ。よって、六層のどこにでも、【世界樹】は存在していた。【世界樹】は六層で起きていることを、余力があれば全て把握できた。しかし、今はその余力はほとんどなく、【魔】を抑えることと『アルゴー』の動きを追うことが、【世界樹】のできることであった。
 『アルゴー』の動きを追っていた【世界樹】は、アヴィーの推測を聞くことができた。そして、【世界樹】はアヴィーの推測を聞いて、『アルゴー』への注意に使っていたエネルギーを6層の中の捜索にエネルギーを当てた。アヴィーの推測は、ほぼ正しいものと考えられたから。6層の中で探すのは、1000年前から因縁の続く相手だ。彼が、1000年後の今になって、この6層に弟子を送り込んできた理由に思い当たることがあったから。
 世界樹は『アルゴー』への注意に割いていたエネルギーを、己の体でもある枝に走らせる。その先端で見つけだしたのは、21階で魔物と交戦中のヤライだった。

*****

 モリヤンマの羽音が響く中、ヤライは辺りの木々が微かに蠢いたことに気付き舌、打ちをした。刀を一振り、構えていたヤライは、腰に佩いたもう一本の太刀の柄に左手を持って行ったが、しかし、抜かなかった。左手は腰の太刀の柄に掛けたまま、右手の刀の切っ先をモリヤンマに向ける。
 鈍い羽音を響かせて、その前足をだらりと垂らして……、力を入れていないように見えるが、それがモリヤンマが最速で攻撃に移れる姿勢なのだろう……。モリヤンマはゆらゆらと浮きながらヤライに対峙する。その複眼でヤライを捉えているのだろう。
 トンボの視野は270°だったな…とヤライは、今はどうでもいいことを一瞬考えた。270°の視野。ヤライを見ている複眼は、ヤライがいない空間も捉えているのだろう……
 複眼を見つめながら、ヤライは右へ駆けだした。モリヤンマを中心に円を描くように。モリヤンマは下降しながらヤライを追ってくる。重力(そう呼べるものが、【魔】の中ともいえるこの空間にも存在しているのだ、とヤライは今更感心した)によって、速度は上がり、重さになる。そのまま激突をしても十分すぎるほどの打撃。その刃のような前足に加速が付けば斬撃になるだろう。ヤライは、今持っている刀を盾代わりにして応戦するつもりでいた。モリヤンマの速さには、人の脚では適わない。一撃を防ぎ、接近状態のまま腰の太刀を抜いて斬る……と考えていたのだが……、
 ……空中を滑空してきたモリヤンマが、何かに気付く。そのままヤライに向かっていくか、素早く羽ばたきの動きを換えて滞空して様子を窺うか迷った、……ようだった。
 ヤライは理解した、複眼が、ヤライとは別の何かを捉えたのだ。そして、その別の何かはヤライと同程度か……、それ以上に脅威だということも。
 ヤライは左手を、腰の太刀から離した。右足で地面を力強く踏み、右への移動を止める。さらに右足を深く強く踏み込み、体を捻り、右足をバネにして左側へと飛び出した。モリヤンマの左の複眼がヤライを、右の複眼が『何か』を捉えているようだが、ヤライは構わなかった。刀を両手持ちにして、モリヤンマに殺到。金属がぶつかるような音がし、モリヤンマは長い腹をしねらせて衝撃に悶えたが、…斬られてはいなかった。モリヤンマの体は鋼のような強度があり、物理攻撃はあまり効かない。ヤライの斬撃もモリヤンマの体を切ることはできず、ただの打撃となっている。
 だからこそ、ヤライはモリヤンマと激突した後にさらに踏み込んだ。刀をモリヤンマに押しつけて、モリヤンマを押す。そして、モリヤンマが気にしていた『何か』……、モリヤンマを挟んでヤライの向かい側に位置する『何か』に向かって、モリヤンマを盾にして殺到した。
 『何か』は、細く伸びた蔦だった。自律するように揺れており、モリヤンマを盾にした突進に、蔦は木々の間に隠れようとする。ヤライは最後の踏み込みを行って、モリヤンマを圧し斬った。モリヤンマが斬り割れた間から、ヤライは蔦に肉薄する。蔦は己の先をヤライの刀に向かって伸ばし、蔦はヤライの持っている刀に絡まった。鋼のようなモリヤンマを突進の力だけで斬り伏せた刀に絡まっても、ギチギチと音を鳴らしながらヤライと刀の奪い合いをしても、蔦は斬れなかった。
「…………、私にかまけている、余裕は、あるのか?【世界樹】?」
 刀を奪われまいとしながら、ヤライは蔦に向かって尋ねる。蔦……それは【世界樹】の一部であり、【世界樹】はどこからか声を出した。
【現在、最大の障壁は貴方だ、ヤライ博士。】
 ヤライは舌打ちをした。
「『アルゴー』は、もう少し、奥まで進んでいるのか、と思っていたが、そうではないようだな…!計算違いだった。」
 私の弟子を買いかぶっていたようだ、とヤライは苦笑さえ浮かべて……、それから上空に投げるようにしながら刀から手を離した。蔦の先は刀とともに上空に投げ上げられ……、蔦は素早く刀から絡まりを解く。
 その隙に…といっても2秒程度の間だったが、ライは、腰に佩いたままだったもう一つの太刀を抜いた。装飾が全くない……、だからこそ美しい黒漆の鞘の中から現れたものは、浅く反りのある太刀だった。小乱れと湾れを交えた刃文は、刀身全体にたなびく雲のように伸びている。切っ先は長く鋭い大鋒。刀身のほとんどが緩やかな印象を与える作りなのに、その切っ先の鋭さがその印象を覆す。そして、その印象通りに自分に向かってきた蔦を切り裂いた。
 ひゅうん、と風を切る音がして、投げ上げられた刀がヤライの前に落ちてくる。刀の切っ先が、切り裂かれた蔦の先に突き刺さった。生きたまま捌いたタコの脚のように、切り裂かれた蔦はうねうねと動いている。ヤライは舌打ちをした。
「……こんなことをしても、お前が斬れるわけではない。無駄な体力を使わせるな、【世界樹】。」
【 同じ言葉を返そう、ヤライ博士。私は、この星の生き物を己の手で殺めることはない。しかし、貴方は何度も向かってくる。我々は、無駄なエネルギーを使うべきではない。】
「殺すことはできない、か。利用し、見捨てることはできるのにな。」
 ヤライは蔦から刀を抜き、二刀を鞘に収めた。
【……貴方も、同じことをしようとしているのではないか?】
 【世界樹】の声は、この空間を震わせるように響いた。ヤライは鋭い一瞥を、蔦に向けた。そこに【世界樹】がいるわけではないと、分かってはいるのだが、他に向ける先もない。
【『アルゴー』の星詠みの少年が、貴方が自分たちを囮にするつもりなのではないか、と推測していた。】
「……無邪気そうに見えて、賢い子だ。」
 オリヒメが気に入るわけだ、とヤライは呟いてから、沈黙で続きを促した。
【この星の上で、直に【魔】の脅威を知っているのはもはや貴方だけだ、ヤライ博士。ヴィズル博士もヴァレンディア博士の意志も消えてしまった今、貴方だけだ。】
「……ヴィズルのことは知っていたが、ヴァレンディア女史もか。」
 少しだけ安堵したかのようにヤライは呟いたが、1000年を生きる孤独と苦痛からかつての同志が解放されたことに安堵した…ことなど、【世界樹】は理解できない。ヤライの感慨など【世界樹】は関知せず、己の話を続けた。
【貴方は、自分が【魔】を倒せるとは考えていない。】
 ヤライは表情を変えずに、蔦を見た。だからこそ、【世界樹】は核心をついたことを理解した。
【【魔】の脅威を知っている貴方こそ、人が【魔】を倒せるなどと信じてはいない。あの1000年前に、誰も彼も敗れた。あの当時の力が、この時代にはない。貴方ができることは、もう一度、生け贄を【魔】に捧げ……、時間を稼ぐことだ。あの1000年前の文明を超える力を、人間が手にするまで。】
 ヤライはやはり表情を変えずにいる。あの当時、彼が「誰」を救おうとしていたのか…。今となっては、それを唯一知っているのは【世界樹】だけだ。
 仇敵とさえ感じている存在だけが、真意を理解できる。その皮肉に、ヤライは強烈な孤独を感じるのだが……、表情一つ変えないでいた。
 表情一つ、変えるわけにはいかない。そう思った。

*****

「……ぴ?」
 2時間の探索…を目安にしていた『アルゴー』は、一度街に戻るために地下21階の磁軸に戻ってきた。磁軸に入る前に、魔物から得た素材を整理する。それを側で眺めていたスハイルが、顔を上げた。
「どうしたの、スハイル?」
「ぴ……」
 スハイルは羽毛を逆立てて、抜け道の方を睨みつける。アヴィーもそちらを見……、抜け道の奥に向かいエーテルがじわじわと流れ込んでいくのを『見た』。
「……何か、いる……の?」
 アヴィーが寒気も感じつつ、抜け道の奥を見つめる。と、木々がざざざ…と音を立てて蠢いた。ざざ…ざざ……と、静かで定期的な音が続いた後に、抜け道の奥から蔦が伸びてきて、オリヒメを絡めとって抜け道の奥へと瞬時に戻る。
「オリヒメ!?」
「ぴぴぴえーー!」
 スハイルが蔦を追うために飛んでいき、アヴィーも抜け道へ飛び込んだ。レグルスたちも、それを追う。先行し蔦を追うスハイルが「ぴーーー!」と鳴き続けているおかげで、追う方向を見失うことはない。追う距離はそれほど長くもなく、蔦から丁重に地面に降ろされているオリヒメに追いつくのにもさほど時間は掛からなかった。
「ぴぴぴえ!」
 スハイルがオリヒメの胸に抱きつき、オリヒメは反射的にスハイルを抱きとめたが視線はスハイルに向かない。オリヒメの視線は、前にいる己の師匠・ヤライに向けられていた。
 ヤライは奥歯を噛み、弟子を連れてきた蔦を睨んだ。【世界樹】である蔦はゆらゆらと揺れながら、
【 貴方は、『アルゴー』を囮にして【魔】を倒そうなどとは考えていない。】
 ヤライとの会話を続けた。
【この娘と『アルゴー』を、【魔】の餌にすることが貴方の目的だ。1000年前に、【魔】への生け贄として封じられた貴方の孫娘の代わりに。】
 オリヒメは、え?と間の抜けた声を上げて師匠を見たが、師は表情一つ変えなかった。表情一つ変えずに、……しかし、頷いた。


(40章4話に続く)

---------------あとがきのようなもの------------------

ショーグンは刀を「差す」のではなく「佩いて」いるのか……?
と、今更、考えています。まあ、気にしない。

以前、描写したオリヒメの刀と今回書いてるヤライの刀には、
モデルになってる刀があり、資料本の写真を見ながら書いてるんですが……
……この刀剣ブームの中では恐ろしくって言えやしない。


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