まよらなブログ

40章4話。


「世界樹カンケーねえ!」な「世界樹の迷宮Ⅲ」妄想話です。

更新日がずれ込んでて申し訳ありません。
予告の通り、本日更新です。

この世界樹話、
自分の精神状態が内容というより書き方に反映されるので
今回はものすごい分かりにくい話になってると思います。
悶々とした感じが伝われば、とりあえず幸いです。


それでは、興味のある方は「つづきを表示」からどうぞ。


40章4話
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「…以前、」
 ヤライは、弟子のことは見ずに、しかし明らかに弟子に向かって、訥々と話し出した。
「移民船の話をしただろう?宇宙に飛び立ち、【魔】に取り憑かれて戻ってきた移民船の話を。移民船と【魔】は地中に潜り、その上に【世界樹】が降りて移民船ごと【魔】を封じた、と。」
【…それは事実と多少異なる。私は、確かに【魔】の上に降り、【魔】を地中へと封じた。だが、最終的に移民船を封じたのは…、貴方たちだ。】
 【世界樹】の訂正は、ヤライには横やり…それ以上の冒涜とも感じられたらしい。奥歯を噛んで、蔦を睨む。【世界樹】は、【事実だ。そして、その事実を伝えた方が、『アルゴー』たちに真意を伝えやすくなるのではないか?】と言った。【世界樹】が親切心など理解もしない存在だとヤライは分かっていた。その提案はただの事実でしかない。それが実に憎々しい。
 だが、事実だったのだ。もうこの事実を知る存在は、自分と憎々しい【世界樹】しかいない。ヤライは息を吐き、
「…あの時代、汚染が浄化され始め、この大地で生きる光が見えたとき…。【魔】を目覚めさせては、その光も失われる。だから、科学者たちは【魔】に移民船を餌として捧げた。移民船に眠る人の悪夢を、それによる恐怖を、【魔】が食っている限り【魔】はこの地から動くことはない。【魔】が腹を満たしながら安穏と眠っている間に、大地は浄化され、人が生きていく方法を見つける…。それが、1000年前に唯一残された希望だった。」
「待ってください。移民船の人々も1000年を生きている、ということなのですか?」
 レグルスが至極冷静に尋ねた。『コールドスリープ』と聞き慣れない単語をヤライは呟いた。
「詳細は省くが、人間の体を冷凍保存して眠らせる技術があった。それを以て1000年を眠りながら生きている。」
「今も?」
「ああ、この瞬間も。」
「……あなたの、お孫さんも?」
 幾つかの問いを繰り返す中で、さすがのレグルスもこの問いを発するのにはわずかな間を必要とした。ヤライは眉を寄せてから、「…ああ。」と頷いた。
「今、この瞬間も、【魔】の餌として恐怖の記憶を呼び起こされている。」
「だから、オリヒメに【魔】のところにたどり着けという命令を下したわけですね。それは、」
「レグルス…!」
 アヴィーがレグルスの腕をつかみ、それ以上はダメだと首を振る。レグルスは言い直すことにした。内容はそれほど変わらないが、もう少しオリヒメを傷つけない言い方で。
「…お孫さんの代わりに、ボクら『アルゴー』を餌にするため。」
 『アルゴー』という集団にすることで、オリヒメ個人への衝撃を和らげる。オリヒメに命じられたのは、【魔】の元にたどり着けという一点だ。どのような手段でたどり着くかはオリヒメに任されており、だから彼女は可能性のありそうな『アルゴー』に入ってきた。ヤライが「餌」として捧げようとしたのはオリヒメであり、『アルゴー』は付属物でしかない。…そのことにオリヒメが気が付かないように、言い方を変えたものの、
(あまり効果はないのかもしれませんが…。)
 レグルスは、ちらりとオリヒメを見る。彼女の蒼白の顔色に、彼女は師の命令の意味に気付いたことを知る。己の行動に意味を見いだせなかったレグルスは、心の中でため息を付いた。レグルスの溜息に反するように、息を吸う音がして、
「…ア、」
 レグルスの斜め前にいたセルファが、珍しいことに声を出した。
「『アルゴー』を(彼女は『アルゴー』という単語を強調した。レグルスの気遣いを精一杯尊重した。)、餌にした上で…、お孫さんを救いだす、のでしょうか…!?それはつまり、我々を餌にしている隙に…【魔】を倒す、というお考えでしょうか!?」
「…それが重要なのかね?お嬢さん。」
 ヤライは質問を返す。答えがすぐに返ってくると思っていたらしいセルファは一瞬ひるんだが、オリヒメに視線を向けぐっと唇を掻んでから、必死に続けた。
「じゅ…重要、です…!あなたが、囮として我々を使い、その隙に【魔】を倒すつもりならば、それは戦略です…!あなたが、【魔】を倒した後なら…【魔】の餌になってしまった我々も救うことができるでしょう…!仮に、あなたが【魔】を倒せなかったとしても、それは結果でしかありません…!この場合、あなたが、私たちに危害を加えようという意志は…最小限のはず、です!」
「そう答えてほしいのか。」
 オリヒメのために、とヤライは囁き、セルファはその通りなのだがそうとも答えられず、ただ唇をへの字に曲げた。立ち尽くすセルファの背を眺めたミツナミは、ヤライに腹を立てた。顔には出さなかったが。
 ヤライは蔦を一瞥し、それから『アルゴー』に視線を向けた。
「先ほど【世界樹】も言っていただろう?この星で、【魔】の脅威を性格に知るのは私と【世界樹】だけになってしまった。人類の中で、私だけが、【魔】の脅威を知っている。……あれを倒せるなどと思っていない。」
 まして分かりあえるなど、とヤライはアヴィーを見ていった。アヴィーはそれには反論をしなかった。【世界樹】とも分かりあえない予感を持った彼には、もう反論はできなかった。
 ヤライは息を吐いた。もういいだろう、と呟いた。もう、事実を伝えてもいいだろう、と彼は覚悟をするのだ。弟子には仲間ができており、その仲間たちは小さな気遣いを弟子に向けてくれるような子たちだ。仔フクロウさえ、弟子に寄り添っている。
 ―― もう、いいだろう。考えを伝えても。支えの手は傍にある。
 と、彼は心の中だけで呟いた。そして冷酷に口にした。
「君たちは囮ですらない。私はオリヒメを孫の代わりに【魔】に差し出す生け贄だ。孫は、【魔】に寄生され、脳をいじられながら恐怖の記憶を再現させられている。【魔】が生かしているとはいえ、もう肉体も脳も限界だ。そこに、新しい餌が与えられれば【魔】はその餌に取り憑き、限界に近い孫を捨てる。そうして、私は私の孫を助け出す。孫は、肉体と脳の限界で生きてはいられないだろう。だが…恐怖を刻み込まれたまま死ぬよりは……はるかに救いがある。」
「……でも、それは!」
 アヴィーが拳を握りしめて、叫んだ。
「それは…、1000年前に移民船を餌にした人と同じ選択でしょう!?オリヒメの先生はそれがイヤだったんじゃないんですか!?同じことを、するの!?」
「では、君は、どうしろと言うのだね?」
「…ま、…【魔】を倒す…」
「それが出来ると信じていないから、この方法をとったのだ。」
「じゃ…じゃあ!【魔】を眠らせる…!」
「…ぴよ!ぴぴ!ぴぴ!!」
 スハイルが「自分が催眠の術を掛ける」と主張してアヴィーに同意をしたようだった。ヤライは、今がまさに寝ている状態なのだ、と言った。
「【魔】…その【世界樹】もだが、そもそも眠らない。活動を最小限に抑えるという意味では、餌を求めて動かない状態が最前だ。身近に餌があることが、【魔】を最も静かにさせる。」
「……ぴっ…!!」
「じゃあ、【魔】を宇宙に追い出す!」
 ヤライの代わりに、【世界樹】が応えた。
【【魔】が自ら飛び立つにも、【魔】の目覚めが必要になる。宇宙に飛び立つまでに、【魔】はこの星を喰いつくすだろう。】
「……じゃあ…!」
「無理なのだ。だから、…生け贄を捧げて封じる。1000年前もその方策を取った。」
「でも、それじゃあ、何も変わらないじゃないか!」
 アヴィーはオリヒメの前に踏み出して両手を広げた。
「何で、オリヒメを騙すようなことが出来たの!?お孫さんが『餌』にされたとき、辛い思いをしてるのに、なんで同じことを繰り返すの!?僕は、オリヒメの先生はオリヒメのことを大事に思ってるんだって、そう思ってるんだ!こ、こんなこと言っちゃいけないんだろうけど、オリヒメじゃない人だっていいはずだ!」
「大事に、か。」
 ヤライは静かに息を吐いた。微笑も苦笑も浮かべなかった。
「そうだな。大事な弟子だ。【魔】のところまでたどり着く…、それが可能となる時期に、それだけの力量を持った弟子はオリヒメだった。」
 それはつまり。そのために育てた、ということだ。アヴィーはヤライに飛びかかろうとして、オリヒメに抱きつかれるようにして止められた。
「は…離してよ!僕は許せない!」
「駄目です!斬られます!師匠様は本気です!」
「そうだな、今は斬るつもりでいた。」
 ヤライはそう呟き、しかし、もはやそのつもりもないのか、刀を納めた。
「ある意味では、君たちのせいでもあるのだぞ、『アルゴー』。君たちが、神殿の封印を解き、真祖を倒さなければ、【魔】までの道は開かれず、【魔】に捧げられる私の弟子は、オリヒメではなかったはずだ。フカビトを倒さなければ、それをきっかけに【魔】の活動が増すこともなかったし、グートルーネが体が崩壊していくこともなかったろう。ザイフリートの記憶を取り戻さなければ、今、この地を進むのは深都の兵やアンドロだっただろう。そう考えていくと、君たちが深都にたどり着いたことで始まった結果だな。」
「詭弁にも程があります!」
 レグルスが珍しく激高した。ヤライは、そうだな、と呟いただけだった。
「巡り合わせだ。あきらめろ、とは言わない。だが、君たちが私に諦めろと言う資格もない。そのための1000年だ。1000年、孫は苦しんでいるのだ。」
 ヤライは、とうとう…オリヒメを見た。オリヒメはアヴィーに抱きつく腕に力を込めた。それは止めるためではなく、縋りつくためだった。
「私は卑怯だ。お前が私をどう思おうと、それは正当な怒りだ、オリヒメ。だが……、謝罪はしない。私は、孫を救いにいく。そのために、利用できるものは利用する。それがお前であってもだ。」
「……、はい。」
「オリヒメ!?」
 アヴィーが振り返ろうとしたが、ぎゅうとオリヒメの腕に力がこもり、アヴィーは背筋を伸ばす。
「例え、利用されるためであっても、師匠様が私を救い、育ててくれたことは事実です。ですから、ここで、」
 オリヒメは言葉に反して、涙ぐんだ目を閉じて、アヴィーの背中に顔を埋めた。
「ここで、師匠様と決別します。」
「……よい返事だ。」
 ヤライは微笑し、そして歩き出す。『アルゴー』とすれ違いながら、
「君たちがどのような選択をするか、それは君たちの自由だ。逃げ出すか、それとも【魔】に戦いを挑み餌となるか。私は、君たちが逃げるなどとは考えてもいないが。」
「……戦って勝つ、という選択肢もあるはずですが。」
 レグルスの言葉に、ヤライは答えずに迷宮の奥へと進んでいく。レグルスは奥歯を音が鳴るほどに噛みしめてから、
「世界樹、なぜ、オリヒメをここに連れてきたんですか!?」
 蔦に向かって叫ぶように問いかける。
「【魔】は負の感情を餌にする…!この状態で、ボクたちが【魔】に近づけば、【魔】はさらに力をつけ……」
 言い掛けて、レグルスは言葉を止めた。
「まさか、お前もそれが狙いか!?」
 蔦はあざ笑うかのように揺れて、木々の間にしゅるりと抜けていった。
「…待ちなさい!」
 レグルスがそれを追おうとしたが、鋭くミツナミに止められる。レグルスはミツナミを振り返ると、彼女はレグルスを見つめたまま軽く顎でオリヒメを示した。アヴィーの背中にしがみついて、己の背中を震わせているオリヒメを見たレグルスは、一息吐いて、
「……街に戻りましょう。オリヒメ、顔を上げられますか?」
 オリヒメが頷く感触を感じたアヴィーは背中に視線を投げながら、
「オリヒメ、ゆっくりでいいんだよ!だって、だって、」
 アヴィーはそして項垂れて
「こんなの…無いよ…!」
 と吐き捨てた。


*****


 『アルゴー』の探索はしばらく休止とすることになった。
 絶望感を抱えながら、【魔】の近くを探索することは餌を振りまいているようなものだ。それに、ヤライの意図が発覚した中、【魔】から逃げ出すことも正しい選択の一つだ…とレグルスは提案した。オリヒメを探索に向かわせるのは酷すぎたし、置いて探索に向かうことも酷すぎたので、アヴィーはそれを了承した。
 オリヒメは、少し1人にさせてほしいと宿の自室にこもっている。こもっている、といっても、窓の外にはスハイルがいたし、ミツナミとセルファが時折声をかけると、返事は返ってきた。その様子を見た上で、アヴィーは1人で街に出てきた。
 ……僕のやってることは、誰かを不幸にすることなのかな。
 そう考えて、息を吐く。真祖を倒してもグートルーネ姫は助からなかった。【魔】を倒しに行こうとすれば、オリヒメと自分たちを餌にすると言われる。せめてオリヒメを守りたいと逃げ出せば、ヤライは別の誰かを探すだろう。第6階層に踏み入れる実力のあるギルドは『ファクト』ぐらいなので、彼らに白羽の矢が立つことは想像できた。)それが叶わなかったときは、ヤライの孫娘はまた何年も捕らわれるのだ。
 アヴィーは港まで来て、なんでマルカブがいないんだろう、と思った。今日起きたことを話して、オリヒメが可哀想だよう!と嘆けば、彼は「だったらお前は泣くな!」と叱責してくれたに違いない。そうしてアヴィーと一緒に宿に戻り、オリヒメが部屋から出てくるまで一緒に待つに違いない。
(僕はオリヒメの傍にいるべきなのに。)
 そう思いながら、アヴィーはその場から動けなかった。
(…僕は弱虫だ。)
 動けない足を見つめて、アヴィーは拳を握りしめた。オリヒメの方が傷ついているのに、自分が泣きそうになっている。どうしていいのか分からずに、どこへも歩いていけないでいる。
 そこにへたり込んで、膝を抱えて泣きそうになったとき、
「アヴィーくん?」
 知っている声が背中にかかった。アヴィーは振り返り、そこに娘を抱いたマリアを見つけた。
「どうしたの?」
「マリアさん……も、どうしたんですか?」
「私はドルチェとお散歩中。ミアプラキドゥス号はいつ帰ってきますかねーって見に来たのよねー?ドルチェは、マルカブおじさん大好きだもんねえー。」
 と娘に話しかけると、ドルチェはよだれを出しながら、「あー、まー」と喃語で応えた。マリアはドルチェをよしよしとあやしつつ
「アヴィーくんももしかしてマルカブさんに会いたくなったのかしら?」
 冗談として聞いた一言が、アヴィーの心を強く打つ。アヴィーは俯き、ずずず、と鼻をすすり上げて、顔を上げた。
「……はい…っ…!」
 アヴィーが泣きながらはっきりと頷くのを見て、マリアは「何か、大変なことが起きたのね」と囁いて、
「…何があったか、聞かせてくれる?ウチにいこうか?」
 と、声を掛けた。


(40章5話に続く)

---------------あとがきのようなもの------------------

括弧の使い方にある程度のルールがありまして、
志水の設定上の固有名詞は『 』、ゲーム内の用語は【 】、
世界樹のセリフ(というか、正確には音声ではないセリフという設定)は【 】になっているものの
ポメラで打つときは全部「 」でくくっているため、
直すのが結構手間取ります。やめておけば、よかった。(笑)


次回の更新ですが、13日(月)を予定……というか希望してます。

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