まよらなブログ

41章1話。


「世界樹カンケーねえ!」な「世界樹の迷宮Ⅲ」妄想話です。

今回から41章です。
久々の日常パートになるかと思います。
ここを逃すと、しばらく出てこなかったキャラは
土壇場まで出てこない予感がするので、
出来るだけ顔を見せておく方向で書きたいです。



それでは、興味のある方は「つづきを表示」からどうぞ。



41章1話
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 カタカタと、カップが揺れて音を立てる。ディスケがテーブルの上のカップを押さえ、天井へと視線を移した。天井からぶら下げているランプが、ぶらぶら揺れている。別の部屋から「ぴよえー!」とスハイルの声がした。スハイルは揺れに驚いて(もしくは驚いた振りをして)、コロネに抱きついているのだろう。
 揺れは徐々に収まって、ディスケは息を吐いた。
「……最近、多いなあ。」
 なあ?と視線を向けられたアヴィーは、そうだね、とだけ答えただけだった。最近のアーモロードでは地震が頻発している。実害はほとんどないが、不安になる大きさの揺れ。そんな地震が頻発している。
 【魔】の活動と関連して海底地震が頻発しているようだ…とオランピアから『アルゴー』は告げられている。【魔】は手近にいる人の恐怖をむさぼりながらほぼ眠っている状態…らしいが、『アルゴー』たちが近づくことでその眠りは浅くなっているようだ。地震は【魔】が寝返りを打つと起きるのだろう、とレグルスが冗談半分に言ったが……、本当に半分は冗談でもないのだろう。
 アヴィーがぼんやりと思考を巡らせている様子に、気が付かないディスケではなかったが、触れないことにした。ディスケが触れるべきことは、アヴィーなら…今のアヴィーなら自分から言う。そう、考えたからだ。
「今日、探索は休みなのか?」
 と、押さえたついでにカップを取り、茶をすすりながらディスケが聞く。アヴィーは、うん、と頷いて、カップを持った。
「セルファが肩を打撲して。鎧を着るのも痛いみたいだから、休みにした。冷やして休めば早く痛みも引くって、ミツナミも言ってたし。」
 6層はセルファがいないとすぐやられちゃうからね、とアヴィーは事も無げに言う。魔物の攻撃が苛烈になる深い階層では、盾役にその攻撃を防いでもらうか、速攻で倒すかの戦法をとらないと(もしくはその両方を取らないと)、魔物の一撃でやられてしまう。
「そりゃあ、酷い階層だなあ。」
 ディスケは、俺が行ったらすぐにやられちゃうんだろうな、と思ったが、それも口にしなかった。口にすることで他人事になるように思えたからだ。
「お前は?怪我はしてないの?」
「うーん……。大きな怪我は、この前の胸の怪我ぐらいかなあ。」
「ああ、おとーさんに大心配させながら出航させたときのね。」
「あれは、たまたまだよう!僕だって、マルカブに心配かけたくなかったんだから!それに、シェリアクさんが教えてくれた護身術で、僕も結構、魔物の攻撃を受け流せるもん!」
 アヴィーがぷう!と膨れるのを見て、ディスケは少しだけ安堵した。子どもらしい仕草がだいぶ減ったように思ったが、以前のアヴィーらしさも残っていて安堵する。
 ディスケは、へーそうかー、と気の無いような返事を装い、アヴィーはますます膨れた。
「休みになったから会いに来たのに、来なきゃ良かった!」
 ぷん!とそっぽを向くアヴィーに、ディスケは笑い、悪かったよーと、やはり気のない様子で謝った。
「でも、まあ、なんか久しぶりのような気がするよなあ。2ヶ月半ぐらい会ってないような気がするよー。」
「大げさだなあ。」
 アヴィーはそう言ってから茶をすすり、部屋を見回した。その部屋は、ディスケの家の作業部屋だ。何回か入ったことがあるが、部屋には物体を空に打ち上るための道具……、弩や投石器を改造したものや、より遠くへ飛ぶように矢を削りだしたもの、鳥の翼の模型などが置いてあった。今も置いてはあるのだが、それらは部屋の中央にはない。部屋の片隅に無造作に……、無造作を装いつつも壊れないように大切に、置かれている。
 今、部屋の主な部分を占めるのは義肢だった。義肢そのものもあれば、これから義肢になる素材も置かれている。アンドロの設計図が何枚も掲示され、人間の骨格標本も置かれていた。壁に貼られたメモの中に、腕のスケッチがある。その横に、人の名前と身長や手足の長さが書かれていた。特定の人物の腕の絵だと分かる。
「……あの絵は、これから義手をつける人?」
「ああ。……あんまりジロジロ見るなよー。体のことをメモしてあるんだからさー。」
「ディスケに義手を作ってほしいって人が、もういるんだね。」
「作ってほしい…というより、協力者だなあ。実験台になってもいいっていう人だよ。データが欲しい俺たちと一緒に、賭けに乗ってくれた協力者。」
「賭け……だなんて。マルカブの義足はすごかったよう。」
「そうだなあ。すごく上手く行きすぎて、作った俺たちも正直奇跡だと思ってるんだよなー。」
「そうなのかなあ…。」
「まあ、なんで上手く行ったのかも検証しなきゃいけないし、壊れたときに何で壊れたのかも検証しないといけない。そして、奇跡を奇跡じゃないものにしていかないといけないんだよ。そのためにはデータが欲しい。依頼人は、同時に協力者でもあるんだよ。マルカブも含めてさ。」
「研究の積み重ね……ってやつ?」
「そうそう。星詠みだってそうだろ?何年も観測をするから、どの星が昇った時期に洪水が起こるとか、どの作物の種をまくといいとか、分かるわけだろ?」
「……うん。」
 アヴィーは頷いたが、考えることは星詠みの研究ではなかった。マリアに言われたこと、1000年を生きてきたエトリアの前・執政院長のこと、ヤライのこと、1000年の犠牲になってきた移民船の中の人たちのこと。そして、オリヒメのことだ。
「ねえ、ディスケは、この後も義肢を作り続けるの?」
「そう言ったじゃんかよー。俺がどれだけの覚悟をこめて言ったと思ってんだよー。」
「世界がちょっとでもよくなるために?」
「そんなことも言ったような気がするなー。」
「みんなが幸せになったらいいよね。」
「まあ、それは技術屋の至上命題だよなあ。」
「……あのね。義肢を作ることってすごく立派なことだと思うんだけど……、ディスケは、良かったの?」
「うん?」
「月まで行く研究…は、良かったの?」
 アヴィーが部屋の片隅に追いやられたかつての制作物を見ながら尋ねる。ディスケは息を吐くように笑い、
「未練がないといったら嘘にはなるんだけどな。でも、いいんだ。コロネと決めたことだしさ。」
「……マルカブの義足もできて、ディスケが月に行く研究も諦めない方法って無かったのかなって思ったんだ。」
 誰かが諦めなきゃいけないのかな、とアヴィーは囁いた。ディスケは、ううむ、と唸るように息を吐いてから、テーブルに腕を付き、
「探索で、何かあったか?」
 と尋ねた。アヴィーは、うん、と頷いて、
「海都の人には話すなって、フローディアおばあちゃんには言われてるんだけど、ディスケは『アルゴー』なんだし、いいよね。」
「……どーでもいいけど、お前すごいよなー。元老院の婆さんをそんな風に呼べるなんてさー。」
 そうかな?とアヴィーは首を傾げてから、
「ちょっと、大きすぎる話になるんだけど、嘘じゃないんだよ。聞いてくれる?」
「嘘だなんて思うかよー。樹海は奥に行けば行くほど、俺らの考えが付かないことばっかりってことは知ってるんだからさー。」
 そう笑って、ディスケは身を乗り出した。

*****

「1000年前から、ねえ……」
「やっぱり嘘っぽく感じるでしょう?」
「まあ、実感が湧かないけど、王様も姫様も100年生きてたんだし…、根性だけで100年生きてる元老院の婆さんもいるし、無くもない話とは思うよ。」
 ディスケは、でも1000年かあー、と呟いて、窓の外を見る。
「この町の下にあるものを巡って、1000年の戦いがあるんだなあ。」
「1000年、犠牲になった人を助けるために、オリヒメの先生はずっと待っていたんだって。」
「その方法が、オリヒメを犠牲にする方法なわけか…。あれだな、おとーさんが帰ってきたらオリヒメのお師匠さんをブン殴りにいくな、きっと。」
「どうかなあ…。オリヒメの先生は、お孫さんを助けたいんだよ。そういうの聞いたら、マルカブは怒れないよ。」
「怒れないけど、殴りにいくんだよ。理由に対しては怒らない。むしろ同情…っていうか共感する。でも、うちの子を傷つけたことを許さない。うちの子が一番大事っていう、優先順位だよ。」
「…だから、オリヒメの先生もお孫さんが一番大事なんでしょう?」
「優先順位が違う人間同士なんだから、ぶつかるんだよ。」
「ぶつかって…どっちかが負けたら、どっちかの大切なものが犠牲になるんだよね?」
 アヴィーが、両手で拳を作り、軽く打ち合わせた。
「僕は犠牲になりたくないし、オリヒメを犠牲にさせられないよ。僕、オリヒメにはすごく助けてもらったもの。だから、……本当に申し訳ないって思うんだけど、オリヒメが助かるんならお孫さんの犠牲は、僕にとっては仕方がないんだ。」
 こんなことをアヴィーに言わせたくなかったな…とディスケはぼんやりと思う。命を天秤にかけてどちらが重いかなんて、本当は言わせたくはない。どちらも等しく重い。それは建前のようでいて、真実だからだ。そこに重さを付加するのは、人のエゴだ。
 だが……、今のアヴィーには必要なことかもしれないとも思う。誰の命を優先するか……、その判断をするのは今やアヴィー自身だ。今や勝手に守ってくれる大人は、側にはいないのだから。
「僕らが犠牲になるときは……戦って負けた結果だと思うんだ。それは……僕らの戦いの結果だから僕らの責任だし、僕らが進むって決めてやってきたことにオリヒメは付いてきてくれたんだから、犠牲になるときだってオリヒメと一緒にいるのは、僕は当然だと思う。その時になったら泣くかもしれないけど、でも、僕は勝っても負けてもオリヒメと一緒にいる。」
「……お前…………」
 ディスケは感慨深げにアヴィーを見つめた。そして、眼鏡を掛け直して立ち上がり、窓をがばっ!と開けて、
「おとーさーーーん!アヴィーがいつの間にか男になってたーーー!!」
「何言ってるの!?何でわざわざ外に向かって言うの!?」
「だから早く帰ってこーーーい!」
 と、そこまでを外に向かって言ってから、ディスケはアヴィーに向き直り、
「お前、オリヒメに惚れたの?」
 アヴィーは、え?と聞き返してから、
「ち…違うよう!!そういうんじゃないよう!オリヒメにはすごく助けてもらったから、だから放っておけないだけだよう!あんなに助けてもらったのに放り出したら……、そんなのは絶対にダメだよ!」
 アヴィーはバタバタを腕を振って、反論をした。最後の一言にディスケは感銘を受けたらしいが、「お前もイッチョ前に責任を取るようになったんだなー」と何か誤解をされそうな呟きをしている。
「ディスケ!僕はそういう話がしたいんじゃなんだよう!」
「おう、じゃあ、どういう話だよ?」
「だ…だから、その……、」
 アヴィーは少し言い淀んでから、
「……これは、僕が、オリヒメのことを特別な女の子として好きなんじゃないっていう証明でもあると思うんだけど、」
「ん?」
「僕は、オリヒメの先生のお孫さんたちより、オリヒメを取るよ。そう決めてる。でもね…、でも、僕はそう決めてることが正しいって、信じられてないんだよ。本当に選ばなきゃいけないとき、僕はオリヒメを助けて、お孫さんや移民船の中の人を見捨てるって決めてる。だけど、それをまだ迷ってる。」
「迷ってる?」
「うん。決めてるけど、迷ってるんだ。本当にそれでいいのかって、迷ってる。……もしもだよ、僕がオリヒメのことを好きなら、迷わないと思うんだ。だって……、…その、好きな子って特別でしょう?ディスケはコロネさんを選ぶことに迷う?」
「俺は、迷わないな。後悔もしない。」
「…でしょう?だから、僕はそこまで、」
「でも、マルカブは間違いなく後悔するんだろうな。カリーナは、好きだって気持ちの方を諦めた。人それぞれだよ、それは。」
「……ディスケは、僕にオリヒメが好きだって言わせたいの?」
「お前に好きな子が出来たら赤飯炊くぞ、俺たちは。」
「俺たちってことは、マルカブもなの?」
「おとーさんが炊くに決まってるだろうよー。俺、赤飯炊けないもん。」
「……僕はどこにツッコんだらいいのかな……。」
「そうだなあ、」
 ディスケは苦笑してから、席に座り直し、アヴィーの額に指を押しつけた。
「この、頑固な頭じゃないか?」
「…僕の?」
「オリヒメを犠牲にしない、自分も犠牲にならない。でも、戦いには負けることもあるから、その時は、責任とってオリヒメと一緒に苦しむ。もし、負けなくても勝てなかったときは、移民船の人たちに犠牲になっててもらう。お前が言ってることってそういうことだよな?」
「……、うん。そうかも。」
「それは結構なことだと思うんだよ。お前なりに筋も通ってるとも思う。でもさ、アヴィー。そこから先を、ぼんやりとでも考えておけよ。」
「…そこから、先?」
 マリアさんともそんな話になったよな、とアヴィーは思いながら瞳を上げた。
「勝っても、負けても、勝てなくても、お前はその後も生きてる。【魔】の餌になってしまったときは、まあ、どうなるのか想像も付かないけど、もし【魔】に勝てなくて移民船の人を犠牲にし続けた時、自分はその後をどう生きていきたいだろうってさ。」
「……、僕は、」
 きっと、諦められないだろうな、とアヴィーは心の中で答えた。答えなんかその時にならないとはっきりしないだろうけど、とディスケは言い、
「でも、そこで終わりじゃないんだよ、アヴィー。それだけは、分かっておけよ。勝ったときだって、同じだよ。」
 ディスケは、少し考えてから、
「勝っても負けても勝てなくても、お前はきっと、諦めたくないって言うんじゃないかって、思うけどさ。」
 と口にした。それは、アヴィーが心の中で答えたこととほぼ同じだった。アヴィーは小さく頷い他のを見て、ディスケは続けた。
「迷ってるのは、諦めたくないからだろ?諦めたくないのがお前の生き方なら、迷うことも付いて回るんだ。つまり、迷ってるうちは諦めてないってことだよ。迷う自分を悪く捉えるなよ。それは、お前がお前だってことだよ。」
 そしてディスケは、アヴィーの額から指を離す。アヴィーは額を押さえて、
「ディスケとまじめな話をするのは、なんだかくすぐったい。」
 と大まじめに感想を述べた。ディスケは、一瞬きょとんとした後で、
「俺もだよ!」
 と大笑いをした。

 
(41章2話に続く)

---------------あとがきのようなもの------------------

アヴィーがディスケに煙草を貸してほしい、と頼んで
「おとーさーん!アヴィーが不良になったー!」と窓に向かって叫ぶネタがあったんですが
使えないままここまで来てしまったので、今回放り込んでみました。
なお、煙草は吸うためではなく「空気砲」の中に煙を溜めるために必要だったようです。
(そして「だったら線香にしろ」と赤パイに怒られるまでがオチです。)

次回の更新は、9日(土)か12日(火)のどちらかになります。
無事に書きあがるかどうかで日付が変更しますのでご了承ください。


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