まよらなブログ

プロローグ8


「世界樹カンケーねえ!」な「世界樹の迷宮Ⅲ」妄想話です。

本日は、プロローグシリーズの更新です。
このシリーズは残り1話です。
自分勝手に設定造って書いてますが、お付き合いください。


それでは、興味のある方は「つづきを表示」からどうぞ。






プロローグ8:「『まだ人間じゃない』と決めるのは誰?」
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 ヴィズルとヤライが己の体に施した『不死』の術については秘匿されたため、世界の現状は何も変わらない、とほとんどの人は考えていた。…もっとも、『不死』の術(実際は不死ではないが)を施したところで、現状に対して何か出来るようなこともなかった。それは、永遠なる時間稼ぎのための方策だからだ。
 現状が何も変わらないのなら、せめて悪化をさせない…ことが、取り得る最良の手段である。世界樹の暴走の危険性、いずれ有害物質をため込んだ世界樹がどのような動きをするかは分からないという疑念があったものの、浄化は進んでいる。ならば、浄化の速度を緩めることで世界樹の出力を抑え、暴走の危険性と有害物質をため込む速度を可能な限り抑えていこう、と議会が決定するのも無理はない。また、最大の爆弾である【魔】を起こさない、という決定をするのも無理はない。そして、【魔】を起こさないためには、その餌となるものが近くにいればいいことまで分かっている。
 と、なれば、導き出される対応はシンプルだ。シンプル過ぎる故にか、それは人間の初期文明にも見られた対応だった。
「…ミノタウロスの神話の再現を、まさか今の時代にするとはな。人間を、人間と人間でないモノに振り分ける行為に、数千年後に立ち戻るとは。」
 ヴィズルが素っ気ない様子で呟き、ヤライは何も答えなかった。いずれ糸玉を持った英雄が来ることを願うとするか、とヴィズルは期待もしない様子で呟いてから、…やっと感情の入った声で言葉を発した。
「…取引に応じて、良かったのかね?」
 とはいえ、そこに込められた感情とは何だったのか。それは聞かれたヤライにも、発したヴィズルにも分からなかった。侮蔑が込められていればまだ良かった、と二人とも思ったのは事実だった。苦い後悔と無色の諦観が滲む声ではあった。
 同じような声で、ヤライは答えた。
「あれもこれもと追いかけても仕方あるまい。…私は、家族を助けに行く。」
 覚悟は決めた…ような言い方だが、要は諦めたのだ。全てを…全てと言わずとも出来る限りを、救うことを。救おうとしながらも救えないと言う実状に、諦めていくのではない。救おうともしない。そう決めた、ということだ。
 ヴィズルは少し沈黙してから、そうかね、とだけ呟いた。妻を亡くした男にはヤライの諦観すら羨ましく、己が出来なかったことを成してほしいという思いもあった。
「…では、決定通りに。【魔】の贄となる人々を送り込み…その間に移民船の人間たち救い出す。君の家族は優先的に救いだす。」
 ヴィズルの宣言に、ヤライは頷き、よろしく頼む、とだけ伝えて踵を返した。

*****

 ツスクルは、自分は人間というものを信じていない……と、そう思っていた。
 だからこそ、人間ではなくロボットやコンピューターを相手にすることが多く、それに才能を示した。作りだし教える人間が間違えなければ、ロボットは誠実に人に応えた。人間よりもよっぽど信頼できるパートナーに恵まれた(それを作り出したのも彼女だが)彼女は、尚更、人間は信用できない、と思っていた。
 ……そう自分は思っていると、思いこんでいた。
 信じていなかったのならなぜ裏切られたと思うのだろう、とツスクルは爪を噛む。現状を悪化させないという目的だって、間違っているとは考えない。だが……
「…グンター!」
 すっかり変わってしまった若い科学者を見つけて、呼び止める。自分にとっては珍しいことに、それなりに親しくはなった相手だと思う。相手は、自分を友人と呼んでくれたし、大切な妹の友達になってほしいとまで言ってくれた。
 ツスクルは、自分は人間を信じていない…と思っている。一方で、ロボットたちは信じていた。なぜなら、彼らは人間の信用に応えるからだ。それが在るべき姿だと彼女は考えているから、ロボットを信じているのだ。…つまり、ツスクルは、自分も誰かの信頼に応えたいのだ。
 妹と友達になってほしい、と言ってくれた相手の信頼に応えたいのだ。
 グンターはツスクルの姿を認めたが、通り一遍の挨拶をしただけだった。彼女に関する記憶はなくなり、この研究機関を動かす凄腕のプログラマーとだけ認識している。
「議会の…決定を聞いたわ…。移民船に調査団を送るっていう…」
「ええ。決まりましたね。」
「ただの調査団ではないんでしょう…!?【魔】の餌になりに行く人なんでしょう…!?」
「……結果としてはそうなるのかもしれませんが。」
「その結果をねらっているんでしょう!?」
 ツスクルをよく知る人間なら、その彼女の声に驚いただろう。ぼそぼそと喋る彼女は、声を大きくすることも激高することもほとんどない。しかし、グンターはもう、彼女のことをよく知らなかった。宥めるように、ツスクル嬢?と問いかける声は、彼女のことを知らない誰かだ。
 ツスクルは、せめて…せめてこの名前だけは覚えていないかと、どこにもそんな希望もないのに奇跡を願って、口にした。
「ヒルデが、調査団に入るって言うの…。」
 グンターからは何も反応がない。
「元気になった体で、あなたやヤライ博士の役に立ちたいって言うの…。ヒルデは、あなたがシンジュクで、世界樹の研究をしているって思ってる…。あなたが、世界樹のせいで記憶を無くしたなんて知らないで…、移民船を調査してあなたたちの研究に役に立つものが得られればって…そう言うの…!裏切られてることを知らないままで、餌になろうとしているの!ヤライ博士は、ヒルデの申し出を了承した…!あの人はもう、ヒルデの味方じゃない…!」
「ヒルデ…?」
「……あなたの妹!」
 ツスクルはグンターの白衣を掴んで、訴えた。訴えたが…グンターは、静かにツスクルの手を掴み、
「ツスクル嬢。私には(その他人行儀な一人称も彼がツスクルを覚えていない証拠だった。)、妹はいない。」
 そう、静かに伝えるのだ。ツスクルは首を振り、そしてグンターを通して話を聞いているだろう世界樹に向かって言った。
「よくも、こんなことが、できるわね…世界樹…!」
「君が何を言っているのか分からない。」
 そういうグンターの声と
【しかし、その決断をしたのは君たちだ。】
 と言う世界樹の声が重なった。
【人を欺き、生け贄にすると、そう決めたのは君たちだ。】
「背中を押したのはあなたでしょうに!」
【私はもっとも可能性の高い方法を提示したまで。大いなる時間稼ぎをすると決めたのは…、私ではなくヴィズル博士だ。】
 ツスクルは、唇をかみしめた。…その通りだった。その通りだったのだ。その通りだからこそ、
「…くそったれ!地獄に堕ちろ!」
 世界樹の発言も理解できず立ち尽くすグンターから手を離し、精一杯の呪詛を吐き捨てて、その場から駆け出すことしか出来なかった。

*****

 レンは、自分が信じている人間はたった一人だと確信していた。
 救われた命を救ってくれた相手に使うことは至極当然なことで、秤にかけるまでもないと考えていた。自分と関わりのない人間を切り捨てることに良心は痛んだが…、信じている人間を裏切ることに比べれば痛みなどないのも同然だった。彼女は、たった一人以外の人間は、自分にとってどうでもいい…と思っていた。
 だから、彼女が信じるたった一人のヴィズルに対して、相棒であるツスクルが疑念を抱くような事態になれば、彼女を止めるなりどこかに飛ばすなり粛正するなりするべきなのだ。ツスクルがヴィズルに反してヤライを部屋から逃がしたり、議会の記録をハッキングした事実は揃っている。彼女のコンピュータープログラムの能力は今後も必要になるだろうが、それは脅威でもある。【イブン・ガジ】も移民船の管理システムも世界樹の下で街の様相を持ち始めた研究所も【箱庭計画】で飛ばした空の城も、結局はコンピューター制御だ。彼女がその気になれば、メインコンピューターを手中に納めることなど造作もない。そして、それを人質に、ヴィズルと反する己の意見を押し通すこともできるのだ。もっとも、そんなことをする娘ではないが。
 …「そんな娘ではない」と言えるのは、自分だけかもしれない。
 と、レンは溜息を吐いた。彼女自身がヴィズルに救われたように…、もしくは救われたからこそか、ツスクルを助けたのも彼女だった。だから、これは、親バカにも似た思いこみかもしれなかったが。
 頭はいいが何も知らなかった子どもが、今や自分が唯一信じる人間に反抗できるとは。さすがにそれを喜べはしなかったが、数年の成長というものは感じ入る。
 ……面倒を見るようになって、最初に与えたものは何だったかな……。
 と、レンは思い出を愛でるように、最初から振り返った。振り返りながら、刀を鞘から抜き、その光の鋭さに変化がないことを確認する。…そうだ、最初に与えたものは絵本だった。思い出して、レンは一つ頷いた。確か、『アラビアンナイト』の絵本だった。小難しい数学の知識はあるのに文字が読めないという彼女に、文字を教えるために与えた絵本。
 与えた絵本が、何故『アラビアンナイト』だったのかと言えば、そこに理由はなかった。たまたま見つけたからかもしれないし、装丁の綺麗さにツスクルが欲しいと言ったからかもしれない。ただ、あの物語が不信にかられた一人の王が心を開くまでの話だと考えれば、信頼など知らない少女に与えた最初の一冊となるのは当然だったのかもしれない。千と一の夜(正確には、千も話はないそうだが)をかけて王が変わっていく話に、少女が変わっていくことを願ったのだ…と、今になって思うのだ。
 もう何年も前の話だ……と、言えるほど、昔の話でもない。昔のことのように感じるのは、それだけツスクルが変わったからだ。
 レンは刀を鞘に戻す。人が変わることは、おそらく正しいことだ。一人の少女が文字を覚え、誰かを信じ、何かを生み出し、誰かと友人になることに、何の間違いがあるだろう?
 しかし、信じるものを裏切ってまで変わることを、レンは良しとしなかった。その点において、彼女自身は何も変わらなかった。


*******

 妹と友達になってほしい、と言ってくれた相手の信頼に応えたい。
 そう思ったのならば、ツスクルが応える方法は限られていた。
「…ごめんなさい。」
 ツスクルはディスプレイを見つめて、囁いた。
「これじゃあ…私は、ヴィズルやヤライ博士と一緒ね…。あの人たちを非難することなんか、出来やしない…。」
 でもね、と彼女はパスワードの入力画面を見つめて囁いた。
「私は、もう少しだけ、あの人たちより、人間を信じているみたい。」
 そう囁いて、パスワードを書き換える。無邪気な子どもなら最初に試すかもしれず、大人でも自棄を起こしたら試すかもしれない魔法の言葉に書き換える。そこにたどり着いた人なら誰にでも、その先に進める可能性があるパスワードに書き換えた。パスワードは、彼女が最初に与えられた絵本の言葉でもあった。
「……必要なことは、」
 彼女はデータの入ったカードを抜き出し、
「【魔】を倒そうっていう意志よ。」
 カードを納めたケースをリュックの中に放り込んで、部屋から出た。


(プロローグ9に続く)

---------------あとがきのようなもの------------------

1~4の背景を繋げる…という目論見で書き始めたこのシリーズ、
すっごく分かりにくい話になってますよね。すみません。


解説が要りそうなところの解説です。

タイトル:ディックの短編から取ってます。
     ディックの小説タイトルはカッコよく、
     オマージュされることも多いですが、最高の広報だよな…!と思います。

セリフの中の「ミノタウロスの神話の再現」云々:
  「アリアドネの糸」が必須アイテムな世界樹シリーズにおいて、
  どうしても入れなくてはいけない神話。(笑)やっとちょっとだけ入れられて満足です。

妹を覚えてないグンター:
   ツスクルが去った後に
  「自分に妹はいない、いた記憶もない。
   だが、自分を見上げ、楽しそうに笑う少女…。何故か知っている気がする…」
  とか深王様と同じセリフがあったのですが、ネタっぽすぎて自重。

アラビアンナイトの話:
 「不信にかられた一人の王が心を開くまでの話」っていうのは
 シェヘラザードが語り部をしている物語の構造の部分のことですね。
  
レンツスについて:
  二人は、1とは別人なのでご了承ください。
  こちらでは、二人とも汚染からくる紛争による孤児で、
  ヴィズルに助けられたレンとそんなレンに拾われたツスクルという裏設定です。
  こっちのレンは20代半ば、ツスクルは10代半ばのイメージです。
  


次回は42章に入り、そのあとでプロローグシリーズの最後の1話を書きます。
こちらはこちらでお付き合いいただければ嬉しいです。



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