まよらなブログ

43章1話。


「世界樹カンケーねえ!」な「世界樹の迷宮Ⅲ」妄想話です。


お盆休みを利用して(Wikiの攻略法で)裏ボスを倒そうか……
と思ったものの、結局それもせずに43章へ入ることになりました。



それでは、興味のある方は「つづきを表示」からどうぞ。




43章1話
-----------------------------------------

 アーモロードでは、今朝から地震が続いている。
 最近、頻発する地震に人々は不安を高めつつも、いつも通りに生活を送っていた。地震は棚の中のものを倒すことことあったが、被害と呼べるようなものを出してはいない。周囲の海の様子が変わることもなかった。地面は揺れつつも、何かが変わってしまう事態は起きないと誰もが信じていた。
 しかし、ディスケはこの地震は兆しにすぎないことを分かっていた。
(…今日にも、今の生活がぐるっと変わっちまうかもしれないのにな。)
 この地震は【魔】の胎動だ、とディスケは知っている。アヴィーたちが樹海を進むごとに揺れは大きく、頻発している。今朝からいつにも増して揺れているのは、『アルゴー』が【魔】と接触したからだとも気づいている。今日は、階段の先……地下25階に進むのだとアヴィーは言っていた。おそらく、そこが。迷宮の最奥だろう、とも。
 ディスケは樹海入り口前にある石に腰掛けて、煙草の煙を吐いた。傍らには弩がある。一人で樹海に入る予定もないのだが、弩があった。
 もう自分は冒険者ではないのだし、義肢を作っていくのだと決めたのだから、本来はここにいるべきではない。アヴィーが戦うように、自分も義肢を作っていくのだと決めたのだから、ここではなく工房にいるべきであり、弩ではなく工具を握っているべきなのだ。それが、自分の戦い方だと決めたのだから。
(……俺は中途半端だな。)
 アヴィーたちの無事を祈るなら、祈りにふさわしい場所にいるべきだ。ここにいて、何ができるというのか。では、自分は何故、ここにいるのだろう、とディスケは考えて……
 ……待っているのだ、と思った。
 そのディスケの背後で、慌ただしく土を踏む音がした。そして、ディスケに気づき、驚いたような…予測していたような、何かを諦めたような、そんな声で彼を呼んだ。
 俺の勘ってすごいな、と思いながらディスケは立ち上がって、
「よ、おかえり。」
 そう告げながら振り返り、
「じゃ、行こうか?」
 と、当然のように弩を担ぎ上げた。


*****


 【魔】の青い瞳が光る度にエーテルが一瞬で集められ、何もない宙に炎や氷や雷が走る。
 しかし、それはエーテルによる技だったので、アヴィーが一歩先んじてそのエーテルの集合を打ち消し続けた。アヴィーが使う技は、先見術と呼ばれる星術の上級術だ。次にどの属性となる攻撃が来るかを一瞬で読んで、それを打ち消すエーテルの形を組み上げて、【魔】が集めたエーテルにぶつけて崩していく。エーテルに対する一瞬での理解力と緻密な構成力。師に教わった知識と戦いで得た嗅覚をフル動員して、アヴィーは【魔】による攻撃をすべて無効化していく。
 【魔】の攻撃が無効化されている間に、仲間たちは総攻撃を加えていく。だが、無数の触手がその攻撃を受け流し、効いている様子はない。スハイルが触手の目玉をツツこうとしたが、逆に捕らえられて甲高い悲鳴を上げた。
「セルファ!代わって!次は雷撃!」
 アヴィーが一方的に言って、術を発動させた。先見術ではなく、氷を発生させる星術だ。言われたセルファは盾を構えて前へとでる。彼女も多少はエーテルを扱えるらしく、構えた盾に薄い電気を纏わせた。
 【魔】からの雷撃をセルファは盾で受け止め、纏った電気がその雷を別方向へと誘導する。上空へと雷は流されて、頭上でバリン!と音を立てて弾けた。セルファが【魔】の攻撃を防いだ間に、アヴィーはスハイルに巻き付いている触手を一瞬で凍らせた。(器用にもスハイルのいるところに氷が発生しないように調整している。)その固くなった触手を、レグルスが剣の柄で叩き氷ごと触手を割る。触手が氷になって崩れ、スハイルはぴよ!とその絡まりから飛び出した。
「スハイル!無事!?」
「ぴよ!」
 スハイルは返事をし、すぐに【魔】に飛びかかっていった。本来なら本能が「逃げ出せ」と命じるような相手にも、スハイルは果敢に飛びかかっていった。(それが効果的かといわれると疑問ではあったが。)オリヒメは、再びスハイルに巻き付こうとする触手を切り捨てながら、奥から…青い瞳のある顔?のような器官の背後から、新しい触手が湧き出してくるのを見た。
(…キリがない。)
 オリヒメは一度唇を噛んでから、
「再び前進します!いいですか!?」
 と仲間たちに問いかける形を取りつつ、宣言した。雷撃を弾いたばかりのセルファが盾を構えたままでオリヒメのすぐ後ろに移動し、
「私が、防ぎます。アヴィー、【魔】の攻撃の予測をお願いします。」
「わ、分かった!」
 アヴィーは頷き、ミツナミがアヴィーに向かってアムリタを投げる。術の使いすぎで消耗した気力を回復しておけ、と言うことらしい。アヴィーはアムリタを素早く口に含み、刀を構えて先頭を走り出すオリヒメの背を追い、同時に【魔】の青い瞳を見る。瞳の瞬きとエーテルの揺らぎから、次にくる攻撃の属性を掴み、セルファに大声で告げていく。セルファは声が聞こえる度に、盾に纏わせたエーテルを変化させてオリヒメの前に出て、降り注ぐ攻撃を受け流していった。
 触手の間をくぐり、行く手を阻む触手は切り捨て、オリヒメは青い瞳を持つ顔のような器官に殺到する。青い瞳に刀で斬りつけようとしたオリヒメを、周囲の触手が抑えつけようとするが、オリヒメは構わずに攻撃モーションをとる。アヴィーの炎がそのうちの触手を数本灼き、駆け込んできたレグルスがさらに一本に斬りつけた。自分を抑えようとする触手は仲間が狩ってくれると信じていたオリヒメは、そのまま瞳に切りかかり……
 その眼前に鉤爪が現れた。触手の抑えようとする動きが実はフェイントだった、と気づく。仲間たちの攻撃をそちらにむけ、フォローに入ることができないタイミングで、オリヒメを攻撃する。オリヒメは鉤爪に肩を刺され、彼女をひっかけた鉤爪は黒く開いた口…のような穴へと向かう。
 喰われる…!
 オリヒメは最後まで抵抗を示し、鉤爪に刺されていない方の手に握った刀で鉤爪に斬りかかった。出来れば自分の体を捕らえている鉤爪を斬り落とすことで、地面に落ちたかった。しかし、宙を急降下する中で力も入らず鉤爪の表面を傷つけただけだった。そのまま黒い奈落へ押し込まれそうになり……
 真下へと急降下していたオリヒメの体が、いきなり横へと投げ出された。
 方向を変えて宙を舞うオリヒメは、別の二刀が鉤爪を根本から斬り落とし、オリヒメは肩に鉤爪を刺したままで宙に放り出されたことに気づく。二刀を交差させるようにして鉤爪を切り落としたのは、彼女に二刀の使い方を教えた師匠だった。
 固い床に落ちたオリヒメは、肩の負傷も無視して起きあがり、
「師匠様!」
 と、【魔】に対峙する師を呼ぶ。刀を抜いたままのヤライはオリヒメを振り返りもせずに、【魔】に告げた。
「……そのような食べ方をするんじゃない。同じ『喰う』なら、私の孫を解放してから、その代わりの餌にしてもらおう。」
 その一言に、スハイルが「ぴー!」と鳴いてヤライに体当たりをした。ヤライはそれを無視したが、仔フクロウの体当たりを甘んじて受けたのか、受けたところで大したことは無いと思って無視したのかは、分からなかった。
「……結果、今は助かったから良しとしましょう。」
 ミツナミがオリヒメの前に屈んで(ヤライの姿が見えないようにしたのだろう)、憮然としながらもそう言い、オリヒメの肩に刺さったままの鉤爪を抜くために手を掛けた。アヴィーが、スハイルにミツナミを手伝うように言いながら、自分は先見術の準備をしつつオリヒメたちより前にでる。アヴィーが【魔】の攻撃を無効化するつもりなので、セルファはヤライからの攻撃に備えるために盾を構えた。レグルスは治療を始めるミツナミの前で剣を構える。(スハイルはオリヒメの前まで飛んでいき、止血用の布の片方を引っ張って手伝いだした。)
「……この1000年…」
 ヤライは奥を見ながら、誰かに告げた。自分に告げている、とアヴィーは気づき、背筋を伸ばし、1000年を生きてきた男の背中を見た。彼がそこに立っていることで、【魔】が攻め倦ねていることが分かる。
「私は、この「世界樹の迷宮」に足を踏み入れることが出来なかった。…王家の者の命を【世界樹】に人質にとられ、…六層への入り口には厳重な結界が貼られていたからだ…。深都が見つかり、王家の者が【世界樹】と「フカビト」から放たれ、君たちが六階層にたどり着いてくれたことで、やっとここまで、近づくことが出来た。」
 感謝をしている、とヤライは囁き、
「……この奥に、」
 とヤライは刀の先で【魔】の向こう…移民船の奥を指した。
「冷凍睡眠区画がある。そこに、私の孫も、眠ったままの乗員も、【魔】の本質も、そこにいる。だが、そこに入るための扉は1000年前に閉ざされたままだ。誰も、開け方を知らない。」
 ヤライはそこでやっと振り返り、アヴィーを見つめる。
「君は、開けてしまうかもしれない。」
「……僕が?」
「深都にたどり着き、フカビトの真祖を倒し、ここまでやってきて、なお生きている。それらを成し得る者がいるとは、元老院も王家も…1000年前の議会も私の同志も、考えてはいなかった。それを成した『アルゴー』が、もう一度、予測を覆すことを否定は出来まい?」
「…僕に扉を開けてほしい…ということですか?」
「開けたら、君は【魔】の本質と戦うだろう。【魔】は君の攻撃を防ぎ、君に攻撃をし、君につけられた傷を癒す。そのためのエネルギーは、私の孫や移民船の乗員に恐怖の記憶を再現させて得る。戦いが激しいものになるほど、彼らにかかる負荷は大きくなる。その死闘の中で記憶と命を吸われ、死んでしまうかもしれない。例え、死闘の果てに君が【魔】を倒しても、それでは救いがない。」
 だから、とヤライは切っ先をアヴィーに向けた。セルファが、アヴィーとヤライの間に入るため盾を構えなおして駆けだそうとしたが、アヴィーはそれを止めた。セルファは鎧を鳴らして立ち止まり、ヤライとアヴィーを交互に見て迷い、レグルスに指示を求めて視線を向けたが、レグルスはただ頷くだけだった。だから、セルファはいつでも飛び出せるようにしながらも、そこに立ち止まった。
「…私は、【魔】と戦う意志のある君に、扉を開けさせるわけにはいかない。」
「……でも、それじゃ、あなたのお孫さんは助けられない。」
 アヴィーは淡々と伝えた。私情は見せず、事実だけを述べる。ヤライは頷き、
「だから、私は君を斬る。私が君を斬れば、君を大切に想っているオリヒメに強い絶望が生じる。その感情は【魔】の絶好の餌になる。【魔】は今や死にかけた移民船の乗組員よりも、新しく生じた絶望を餌にしようと扉を打ち破って出てくるだろう。そのときに、私は内部に入り、孫を救う。」
【……博士!あなたは、【魔】を解き放つつもりか!?】
 と、【世界樹】の声がどこからかした。【魔】の本質に近い、ということは、【世界樹】の本質も近くにあるのかもしれない。声はいつもよりはっきり届く。
【例え、ほとんど食べる部位のない餌であっても、あの悪食は餌を奪われることを良しとしない。全てを喰らい尽くすことが、あれの目的だ!己の餌を奪われたと気づいたら、あなたの孫を追って這いだしてくる。それが、【魔】を目覚めさせる行為だと、知らない貴方ではないはずだ!】
 ヤライは鼻を鳴らし、少し視線を上げて宙を見た。その視線の先に、もしかしたら【世界樹】の本質があるのかもしれない。
「冷凍睡眠装置から出れば、孫も生きてはいられない。生命維持装置によって、辛うじて生かされているのだからな。…ただ私は、あの子の尊厳が踏みにじられていることが我慢ならないのだ。…だから、あの子をこの手に戻し…あの子が人として死ねるのであれば、私が死のうと世界が滅ぼうと【魔】が全てを喰って宇宙に飛び発とうと…知ったことではない。」
 自棄にもほどがあるな、とレグルスは思いながら、自分の後ろで動く気配に気づいて振り返った。ミツナミが止めるのも聞かずに、オリヒメが立ち上がっている。オリヒメは、ヤライを見るがその視線が揺らいでいる。
「…つまり…、私が、アヴィーを大切に思わなければ……、師匠様は、アヴィーを巻き込まなかった…ということでしょうか…?」
「…そうだな。私に裏切られるという形で、お前に負の感情を湧き起こさせて、餌にしたかもしれない。」
 ヤライは静かに答えてから、確実にお前を傷つける方法を選ぶ必要があるんだよ、と言った。オリヒメは息を吐き、アヴィーに向かって言った。
「…ごめんなさい、アヴィー……」
「謝らないで。悪いのはオリヒメじゃ…」
 アヴィーは反論したが、「でも!」とオリヒメが声を出したので言葉を止める。
「………っ…でも…!」
 オリヒメは涙を瞳に溜めながら、顔を上げ、
「お願い!私に哀しい思いをさせないで!!」
 手を胸の前で組んで、ただの少女のように懇願をした。アヴィーは、はっと息を吸ってから、真顔になった。それから笑みも浮かべて、頷いて、
「うん!僕は、オリヒメを泣かせたりしない!」
 肩の星術の発動機がブン!と音を立てて唸り出す。背中の翼のような器具も全開に広げた。アヴィーは笑みを浮かべなからも、顎を引き、真剣さの塊でヤライを見る。アヴィーが胸に抱いたものは、たった一つの得心だった。
 ―― ああ。僕は、死ねないんだ。
 と、アヴィーは理解した。その重さを理解したが、その重さを『重い』とは感じなかった。自分をしっかりと、この場にこの世に留めてくれる重さだ。嵐の中の錨のような安心を腹の底に沈めなから、アヴィーは宣言する。自分のことを、大切だ、と言ってくれた人を哀しませないという、とても簡単でとても困難なことをやってのけるために。
「僕は、負けないよ!」
 

(43章2話に続く)

---------------あとがきのようなもの------------------

すごく暗く終わらせるつもりだったのに、何故こんなオチになったんだろうか……


冒頭で、久々に「弩」という文字を使った気がして、何かほっとしています。
(実際には、最近ミツナミの台詞の中で使ってますが)


スポンサーサイト

PageTop

コメント


管理者にだけ表示を許可する