まよらなブログ

43章5話。

「世界樹カンケーねえ!」な「世界樹の迷宮Ⅲ」妄想話です。

更新日がまちまちで申し訳ありません。
今回で43章終了ですが、次回の更新は休みを入れずに一週間後にしたいと思ってます。
(都合により、その次の週でお休みをいただきます。)


それでは、興味のある方は「つづきを表示」からどうぞ。



43章5話
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 得体の知れない生き物ではなくなったアヴィーに向かって、【魔】も触手を伸ばす。それを【世界樹】の根が絡め取り、ヤライに告げた。
「この少年は、予想がつかない。…あなたの計画を支持しよう。」
 ヤライは、面白くなさそうに鼻を鳴らした。軽蔑しきった声で、
「恐怖の対象は排除か。……根性無しが。」
「なぜ罵られているのか理解できない。」
 罵られていることは理解できるのか、とヤライは続けようとしたが、止めた。『根性』などこの生き物には存在しない。精神論など通用しない。感情らしきものもない(情動はあるようだが)が、内側から起こる動機と言ったものもないのだろう。つまり…、「努力する」「踏みとどまる」「矜持を賭ける」といったものもないのだ。あるのは、役目とそれを果たそうとする意志だけ。その役目も、創られたときから備わっている本能めいたもの。
(……本能にしか従えないなど、下等な生き物だ。)
 とヤライは思いながら、うずくまるアヴィーに視線を落とした。その視線に気づいたスハイルが「…ぴっ…!?」と小さく悲鳴を上げて震え上がる。だが、一人で逃げ出さずにアヴィーの袖を足で掴んで引っ張り、アヴィーを何とかその場から動かそうとし始めた。
「ぴぴぃー!ぴえよ!ぴえよ!」
 逃げろと言っているのだと、ヤライは察知した。自分は逃げずに飼い主(アヴィーはスハイルの飼い主ではなかったが、ヤライはそう考えていた)を逃がそうとする。根性のあるなしで言えば、この仔フクロウは【世界樹】よりもよっぽど上等な生き物だ。
 魔物と呼ばれるサイミンフクロウ以上に、【世界樹】は我々とは全く異なる生き物なのだ、とヤライは思い、その生き物に「計画を支持する」と言われた自分は何なのだろうな、と考えながら、一歩踏み出す。アヴィーを引っ張り続けているスハイルに「どきなさい」と言おうと口を開きかけ……
「びぃぃぃぃっ!!」
 それまでアヴィーを引っ張る素振りを見せていたスハイルが、いきなりヤライに飛びかかり、顔に張り付いた。最初から不意打ち狙いだったようだ。スハイルを振り払おうとしたヤライの耳に、サイミンフクロウ特有の「ホウホウ」と低く響く声が入ってきた。
 自分に眠りの術をかけるつもりらしい。効かなかったときはどうするのか、とか、ヤライを眠らせたとして【世界樹】と【魔】をどうするつもりなのか、とか、そんなことは考えていないのだろう。サイミンフクロウの最大の…そして唯一の武器は、この催眠の技だけなのだから仕方がない。それはサイミンフクロウという種の本能に刻まれた方策を取りながら、本能ではないもので仔フクロウは立ち向かってくる。
 やっぱり、よほど上等な生き物だ、とヤライは思いながらもスハイルを振り払った。力の限りに振り払ったので、スハイルは容赦なく吹っ飛んで、オリヒメの近くにばたりと落ちる。
 ヤライは自分の視界が回る事に気がついた。催眠の術が多少効いたようだ。足下をふらつかせながら、アヴィーに近づき…その背中に向かって【魔】の触手が伸びてきたことに気づき、素早く振り返ってその先端を切り捨てた。
「……私を「喰う」気か…!?」
「…他の者を気絶させたことが失策だった。今、この場で『感情』が動いているのは貴方とあの少年だけだ。食事を、と思えば、【魔】は二人の内のどちらかを狙う…」
 【世界樹】はそう解説しながらも、だが何故?と呟いた。
「…少年ではなく、博士を狙う?『負の感情』が強いのは…、少年の方だろう…?」
 膝を屈して、耳を手で覆い頭を床に付けるように垂らしながら、「ごめんなさい」と繰り返すだけの少年の方が、『負の感情』に支配されている。なのに、【魔】はヤライに触手を伸ばした。…まるで、アヴィーに向かうことを止めるかのように、鉤爪のない触手を伸ばした。
「少年を庇うつもりなのか…?」
 と【世界樹】は呟き、ならばこそアヴィーを葬らなければならないと考える。
 【魔】に庇われる存在など、それこそ得体のしれない生き物になってしまうからだ。

*****

 オリヒメはうっすらと目を開けた。脳の奥が脈打つように痛む。這うようにして身を起こし、自分の手元に仰向けになって落ちているスハイルに気づいた。
「スハイル…!?」
 あわててスハイルの身を起こさせる。スハイルは、は!?と意識を取り戻し(ヤライに払われた衝撃もあったが、仰向けになると固まる鳥の習性のせいで動けなくなっていたらしい)、すぐに「ぴぴぃー!」と叫んだ。オリヒメは顔を上げ、アヴィーを目で探し、アヴィーが床に崩れ落ちているのを見つけた。
「アヴィー!?」
 名前を呼んでみるが、アヴィーは反応せず、ただ「ごめんなさい」を繰り返している。そのアヴィーに向かっていた師が、【魔】の触手を斬ったのを見た。
「師匠様!?」
 オリヒメの声に、ヤライが反応する。
「目が覚めてしまったか…。まあ…その方が、絶望に落ちやすいだろうが。」
 そう言って、アヴィーに向かってよろめきながらも歩き出した。オリヒメは立ち上がろうとして……、足に【世界樹】の根が絡みついてることに気がついた。刀を探すが、見つからない。スハイルが「ぴー!」と上を見つめて鳴いたので、スハイルの視線を追うと二本の刀も【世界樹】に捕らえられていた。
「離しなさい…!」
 オリヒメは根を掴んで引き離そうとする。力をいれると、根の方も力を入れてきた。骨を折られるかもしれない。だが、そんなことはどうでもいい。
「離して…!」
 痛みも感じられない中で、オリヒメは嘆願なのか命令なのか分からずに
吐き出した。スハイルが、オリヒメを手伝うかヤライを止めるか、一瞬迷ったようだが、
「……っぴぃーー!」
 スハイルは、アヴィーの背中まで飛んでいき着陸をした。それから、翼を広げたかと思うと、
「……っ…ぴ!」
 そのままアヴィーの背中にしがみつくようにして覆い被さる。しがみついているのではなく、抱きしめて抱えているのだ。子どもを守ろうとする親のように。ヤライは一度眉を寄せてから、息を吐くように言った。
「…私はね、力のないお前まで斬る気はない。どきなさい。」
「…ぴ!」
 スハイルは首を振り、くっと顔をあげた。
「……ぴぴ、『ぴうよー』!」
 何を言っているのか分かったのはオリヒメぐらいだが、スハイルは主張した。
「ぴぴ、『ぴうよー』!『ぴうよー』!!」
 これが『アルゴー』なのだと、スハイルは主張する。仲間を置いて逃げるなど出来るはずもない。『アルゴー』の誰がそこにいても、絶対にそれだけはしない。
 ―― 絶対に独りにしない。
 と、スハイルの主張をヤライはその目で理解した。理解したのと同時に、誰かの声が聞こえた気がした。「やめて」という声がした。
 ヤライは思わず、オリヒメを見た。オリヒメは確かに「止めてください!」と叫んではいたが…、そのオリヒメの声と同時に別の声が響いてくる。
 ―― やめて、そのおにいちゃんを いじめないで!――
 ヤライは、移民船の奥を見た。まさか、と呟き、声を聞く。
 ―― やめてよ、おじいちゃま!――
 孫の声だ。ヤライは、一度は忘れた孫の名を反射的に呼び、移民船の奥に駆け出そうとした。だが、その道には無数の触手があり、彼はそもそもの目的に立ち返る。孫を救うために、この少年を殺すのだ、と。
「…生きているならなおのこと…!」
 ヤライは、アヴィーとその背中に張り付いているスハイルに向き直った。スハイルは震えて顔をアヴィーの背中に押しつけた。止めて!とオリヒメと孫の声が響く。その二人に止められないのならもう自分を止める存在などいないのだ、とヤライは息を吸い、刀を振り上げた。
「………っふ……っ」
 少し離れたところから、怒り吐くような声がして。続いて起きたのは、炸裂音。周囲の触手と根が、一緒くたに打ち落とされて、
「…ざけんなッ!!!」
 その合間を縫うように、声とともに男が走り寄ってきた。低く身を屈めて、ヤライに殺到。ヤライの懐まで潜り込むと、アヴィーに振り下ろされた刀に向かって、右足を振り上げた。
 自分に向かって伸び上がるその足も斬って、勇敢な仔フクロウも斬って、未来のある少年も斬る…つもりでいたヤライだが、金属がぶつかる音がして刀は弾き飛ばされた。伸び上がってきた脚によって、刀の刃は蹴り上げられ、その上、弾き飛ばされた。円を描いて宙に跳ね上がる刀をヤライは思わず見上げ、我に返って二本目の刀を抜く前に、今度は左脚によって顎を蹴り上げられる。振り上げた右足の反動でバク転をして左脚を振り上げる、そんな一連の動きだった。
 思わずヤライは背後によろめき、ブレる視界の中で前を見た。間に合った…!と安堵の息を漏らす男は、ヤライを見ながら意識は背後のアヴィーとスハイルにだけ向いている。
「おい、アヴィー、」
 声に反応したのは、スハイルだった。スハイルが顔を上げて、目の前で自分達を庇うように立つ背中を見…、アヴィーを呼んで背中をつつく。アヴィーは震えるばかりで、自分を呼ぶ声もスハイルがつつく感触も、全く認識していない様子だった。
 参ったな、と呟く声がしてから、軽く息が吸われ、
「――、アヴィオール!」
 大きめの声で、アヴィーの正しい名前が呼ばれた。アヴィーの体が思わず、ぴくり!と反応する。
「俺は帰ってきたぞ。」
 アヴィーの耳に、聴き馴染んだ声が入る。アヴィーは目を開いた。屈んでいるため、視界にはまず床が入ってきた。過去に起きた悲劇は視野の一部で見せられているが、同時に見ている床は悲劇の舞台ではなかった。かつての移民船であり、今の戦場の…硬質な床だ。
「だから、お前も帰ってこい。」
 続く声が、アヴィーの耳を支配していた恨みの声を小さくした。耳から手をそろそろと離す。アヴィーは、おそるおそる顔を上げる。その視界に、また悲劇を見せられることを怖れながらも顔を上げる。怨嗟の声を聞かされることを怖れながらも、耳を前にそばだてる。怖れ以上に、声の主の顔を見たかった。もっと声を聞きたかった。
 顔を上げた先で、赤を見る。一瞬、血で染め上げられた部屋を思い出し…、アヴィーはぼろぼろ泣き出した。自分にとっての赤は、血の色ではないと、改めて知ったからだ。
 自分にとっての赤とは、悲劇の起きた部屋の色ではない。誰かに犠牲を強いた部屋の色ではない。死者を冒涜した部屋の色ではない。
 ……自分にとって赤とは、信頼の色だ。
 色の持つ意味が変わるのと同時に、無理矢理見せられていた誰かの記憶や、無理矢理聞かされていた恨みの声が聞こえなくなる。目の前にはヤライの一撃を防いだ赤毛の男の背中があり、聞こえる音は矢弾の発射音とオリヒメが必死に自分を呼ぶ声と…、スハイルの「ぴよーぴん!」という声だ。
「ぴよーぴーーん!」
 スハイルが飛び上がり、べちっ!とその男の顔に張り付いて、「…顔に飛びつくなって何度も言ってるだろうが!」と小言を言われながら引き剥がされた。小言の後にスハイルを肩に乗せてその頭をわしわしと撫でる手を見て、アヴィーは確かに現実を取り戻した。
 アヴィーは、自分にとっての現実を取り戻した。自分にとっての赤は信頼の色であり、あの夜の海で確かにつないだ手はカリーナもので、自分達を助けてくれた腕は間違いなくマルカブのものだ。それは、自分が現実で体験した記憶だ。他の誰のものでもない、そして他の誰にも打ち消せない、自分の記憶だ。
 アヴィーは「うー…!」と唸り声を上げた。歯を食いしばって泣くまいとするのに、涙は出て声が漏れる。歯を食いしばりながら、噛みしめるのだ。もう一度、己の中に沸き起こる大事な記憶の数々を。
 泣くなよ、と言いながら目の前の男は振り返り、振り返った彼はアヴィーを見て、少し意外そうな…、嬉しそうな表情を作った。
「お前、背、伸びたか?」
 と、今、聞くことでもないことを聞く。アヴィーは唸ってから、
「…おかえり、マルカブ!」
 自分にとっての赤とは信頼の色だと思いながら、目の前の男の名を呼んだ。
「おう、ただいま。」
 いつも通りに、マルカブは応えた。



(44章に続く)

---------------あとがきのようなもの------------------

もう一度言うけど、この話で一番男前なのはスハイルです。

赤パイは2、3ヶ月ぐらい留守にしてたことになってます。意外と早く戻ってきた感が、正直ある。
あと、うちの赤パイが爺ショーであるヤライの一撃を止められるはずがない…という思いも、正直ある。





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