まよらなブログ

44章1話。


「世界樹カンケーねえ!」な「世界樹の迷宮Ⅲ」妄想話です。


残り二章となりました。
ダラダラと展開してきましたが、もうちょっとがんばります。


それでは、興味のある方は「つづきを表示」からどうぞ。




44章1話
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 アヴィーは、マルカブに向かって手を伸ばした。
 マルカブは当たり前のように、その手に手を取った。その確かな感触に、アヴィーは、一度ぐっと唇を噛んでから、ぶわあああん、と泣き出した。マルカブは呆れた調子で、溜息をついた。
「泣くなよ。」
「だって…、だって…!!」
 ―― この手は確かに、僕らを助けたあの手だ。
 その確かさによってどれだけ安心できるのか、さすがにマルカブでも分からないだろう。アヴィーは、だって、と繰り返すが、続く言葉は見つけられない。一方で、マルカブは自分の言葉の続きを見つけた。
「だって、お前。もう、泣く必要ないだろ。」
 アヴィーが感じている安堵は、マルカブは的確に理解したらしい。だからこそ、もう泣かなくてもいい、と言う。アヴィーは、徹底的に、―― 容赦なくと言ってもいいくらいに ――、安心感を広げていくマルカブの言動に、また泣き出しそうになる。
 しかし、マルカブの手はアヴィーの手を掴んで引っ張って、アヴィーを立たせた。アヴィーはたたらを踏みながらも、両の脚で立ち上がった。立ち上がったアヴィーからマルカブは手を離し、その頭に手を乗せる。もう一度、泣くなよ、と言いながら。
 アヴィーは、「ん!」と頷いてから、鼻を、ずずずず、と啜り上げ、
「おかえり!それと、ただいま!」
 と、涙をこぼしながら満面の笑顔で応えた。スハイルがそれを見て「ぴよーん!」と声を上げ、
「ぴぴえぴ!ぴぴえぴ!」
 その頭上を飛び回り始めた。
 その様子を、ヤライは呆然と眺めていたが、我に返って弾き飛ばされた自分の刀を探した。さほど離れていない場所に刀は落ちていて、手に取ろうと手を伸ばす。…と、その刀の近くに矢弾が打たれ、刀は弾かれ床を滑る。刀はオリヒメの手元で止まり、オリヒメはそれを掴んで脚に絡みついいている世界樹の根を斬り捨てた。
 ヤライは舌打ちとともに刀を弾いたマルカブの右脚を見た。
「……、義足か。」
 刃によるズボンの切れ目から見えるのは、金属の脚だ。ヤライの呟きに気づいたマルカブは、鼻を鳴らし(アヴィーから見ても、それは子どもっぽいほど得意げだった)、
「いい脚だろう?」
 と己の右脚を叩くのだ。反して、ヤライは眉を寄せた。
「…それが、鉄の脚であったとしても、…私は斬るつもりだったのだ。」
 そんなことが出来るのか…と聞き返すことはしなかった。ヤライの表情には、気負いもない。ハッタリでもない。彼は、斬るつもりだった。本人はそのつもりだったし、そう出来ると考えていた。それだけだ。
「……アンタが何者でどれだけ強いのかは知らないが、この脚は斬れないよ。」
 ヤライが鉄も斬るつもりだったのと同じように、マルカブは絶対にこの脚を斬らせるつもりもなかったし、斬られるとは考えていなかった。あの刀が鋼を切り裂くことが出来るのだとしても、この脚は切れない。なぜならば、
「カリーナとクー爺の武器を元にして、ディスケが造って、アヴィーを守るために、俺が使った。斬れるわけがない。」
 マルカブの言葉に、アヴィーとスハイルが「え?」「ぴ!?」と声を上げて脚を見た。ヤライは、顔を顰めてから、
「……夢想家か。」
 と呟いた。その一言に、ぶッ!と吹き出す声がした。
「マルカブ!お前が実はロマンチストだって、いきなりバレてる!バレてるぞ!」
「うるせえぞ。」
 マルカブが文句を言い、アヴィーは振り返り、ぱ!と顔を輝かせ、スハイルが勢いよく飛び回った。
「ディスケ!」
「ぴぴぴ!」
 よかったよー間に合ってー、言いながら、弩を担いで駆けてくるのはディスケだ。さらにシェリアクとエラキスもいて、エラキスはまだ倒れているレグルスたちに気づいてそちらに向かって駆けていく。それを阻もうとした触手は、シェリアクの盾が防ぎ、槍で一突きにされた。
「やっぱりさー、アヴィーが最下層に行くんなら俺も行かなきゃなーと思ってたら、おとーさんが帰ってくるだもんよー。途中で『ファクト』に会えたのもラッキーだったよなー。」
 そう言いながら、ディスケはマルカブから少し後方に立ち、弩を構えた。…かと思うと、素早く矢を打ち出した。狙うは、オリヒメの刀を奪っている【世界樹】の根だ。根は矢に撃たれて千切れ、刀は床に落ちる。射撃は正確無比だ。先ほどからの矢弾の攻撃が、この弩から発射されたものだ。【魔】の触手も、【世界樹】の根も相当数が排除された。(とはいえ、また奥からわき出してくるのだが。)周囲の触手と根を打ち落とすことが、この射手の役目なのだろうとヤライは理解した。だから、視界を広くとるため、少し後方に構えている。
「…マルカブ!申し訳ありません…!」
 自分の刀を手にしたオリヒメが、それを支えに立ち上がる。よろけるオオリヒメにシェリアクが駆け寄り、支える。
「師匠様はアヴィーを殺すつもりです…!」
「何でそうなるんだ……と聞くには…ちょっと時間がない…か?」
 マルカブは奥から這いだしてくる触手を見ながら、己の細剣を抜く。その触手を見て、アヴィーとスハイルが首を傾げた。
「……減ってる?」
「ぴよ。」
「…あ?」
「さっきより数が減ってるし…一本が細いんだよ、あの触手。」
 そんなのお前たちの攻撃が効いたからだろ…とマルカブは言おうとして、アヴィーの真剣な表情に口を噤んだ。当然のように攻撃が効く…と考えられない相手にアヴィーは挑んでいたのだ、と知る。それでも結局は立ち上がっているアヴィーと相変わらず本能に逆らって戦うスハイルに、誇らしさで一杯になる。そして、アヴィーと同じ方向を向く。この誇らしい子どもと一緒に行く、と言ったのだから、同じものを見る。
「それさ、この船?…の外で、衛士たちが触手を狩ってるからじゃねえの?」
 と、矢を装填しながらディスケが言った。その目の前に、すう…!と【世界樹】の根が降りてきて、ディスケがぎょっと身を引いた。根から声が発せられた。
【…外の触手を狩っている?】
「あ、ああ。海都の衛士と深都兵と『ファクト』のお嬢さん方が。樹海の異常に気付いて、ここまで降りてきた冒険者たちも一緒にだ。指揮はオランピアがとってる。」
【馬鹿な…!オランピアと深都兵が、【魔】の近くまで人間を近づけるとは考えにくい。【魔】が人間の負の感情を食うことは、彼らはよく知って……】
「…ここまで来たら、賭けようってさ。」
 ディスケは肩を竦めた。ぎょっとしたように揺れを止めたのは、今度は根の方だった。
「アヴィーたちがこの最下層に行くつもりだって話は、元老院や親しい人間は知っていた。その中で、魔物が冒険者たちに目もくれず浅い階層に逃げていくだろ?これは、きっと最下層で戦ってるって、みんながピンと来たみたいだよ。」
「…え…、それじゃ、魔物は町まで出て行くんじゃない…?町が危ないんじゃ…」
 アヴィーが心配そうに聞くと、ディスケは「平気だよー」と気楽に答える。
「六階層にくるには実力不足な冒険者たちが、浅い階層を見て回ってる。こっちはクジュラが指揮をとってるし、町には町で引退したベテランも多いからさ。安心しろよ。」
 そして、ディスケは「地味に、総力戦だよな」と苦笑した。
「人任せには出来ないって、海都の衛士も深都兵もここまで降りてきた。調査も兼ねてこの階を探索しにきて、俺らと合流したわけだ。そしたら、ミモザちゃんが、この外にいる触手がエーテルを貯めてる事に気づいてさ。もしかしたら、そこがエネルギーの蓄積袋なんじゃないかって。」
 ビンゴ?とディスケは、へらりと笑う。アヴィーは「ミモザはすごいなあ!僕、気が付かなかったよ!」と無邪気に感心した。レグルスたちの処置を進めながら、エラキスがくすりと笑った。
【ならば…こそだ!エネルギーを貯める器官だからこそ、エネルギーになりうる人間が近づく危険性を、】
 わめくような根を、ディスケは指で小突き、
「じゃあさ。実際、その人間たちはエネルギーになってる?」
 と尋ねた。【世界樹】は押し黙り(その間に、移民船の外側に意識を巡らせた)、実状を確認する。押し黙ったままの【世界樹】が答えだと理解したディスケは、
「みんな、結構、必死に戦ってるだろ?人間覚悟決めちゃうと、変なテンション入って、恐怖って意外と薄くなるんだよ。」
 と軽く言った。違いないな、とマルカブが同意した。そして、
「……っ…は、」
 アヴィーは息を吐いて、笑い出した。
 驚いたように、動きを止めたのは【魔】と【世界樹】だけで、その場にいる人間たちはその笑いを当然のように聞き流した。エラキスの処置で意識を取り戻したレグルスたちもそれは聞き流し、エラキスに経緯を聞いている。
「泣いたり笑ったり、忙しいな、相変わらず。」
 とマルカブが一言伝えたが、そこには「相変わらず」であることを確認しているような喜びもあった。アヴィーは、うん、と頷きながら、
「あ…あはは…そうだね、僕、今日、忙しいや。」
 アヴィーは瞼を拭い、脚を開いて床を踏みしめた。笑い声は出さず、しかし笑みは絶やさずに、
「皆、戦ってくれてるんだね。」
「おう。」
「マルカブたちも来てくれたし、」
「そうだな。」
「カリーナとおじいちゃんも、きっと諦めたりしていないんだろうな。」
「当然だな。」
「じゃあ、僕も負けられないや。オリヒメのことを泣かさないって約束したし。」
「…お前な、そんな約束したんなら泣いてる暇なんかなかっただろ。」
「うん。ごめん。」
「オリヒメに謝れよ。」
「うん。オリヒメ、ごめんね!」
 アヴィーは発動機を広げながら、オリヒメに満面の笑顔を見せて、
「僕はもう、約束を忘れないからね!」
 と、発動機をいきなりフル回転させた。
 アヴィーに向かって風が吹き込みだす。それは風ではなくて、エーテルそのものの動き。アヴィーが発動機を使って集めているのはエーテルだが、集まる側から圧縮されエーテルはさらなるエーテルを呼び込んで自ら増殖し、体感できるレベルにまでなっていく。
【これは…、人間が…こんなレベルで、エネルギーを扱えるはずがない…!】
 そんなことが人間に出来るわけがない、と【世界樹】が叫んだ。わずかなエネルギーを圧縮し、何倍の力にする。それが出来れば、1000年前の人間たちは限られた資源の中で、汚染に立ち向かえたはずだ。しかし出来なかったから、彼らは自分に協力を求めたのだ。【世界樹】は、目の前のエーテルの増殖がありえないことを、一番分かっているはずのヤライを見る。なのに、ヤライは、少しも不思議には思わずに吹き荒れる風の中で移民船の奥を見つめている。
「君の言ってることはよく分からないけど、」
 吹き込む風の中心でアヴィーが首を傾げた。
「僕の信じる人間っていう生き物は、やっぱり僕の知っている人たちの方だよ、【世界樹】。君の知っている人間っていう生き物も間違いなく『人間』だろうけど、僕にとって確実なのはさ、僕の知っている方なんだ。」
 アヴィーは、だから、と続ける。
「だから…、その人たちもいるんだし、僕はもう道を作ってしまうよ。きっと、後から来てくれる。それが信じるってことのような気がしてきた。」
「……ああ、」
 風の音が周りを包む中で、ヤライは溜息のような声を出した。そして、【世界樹】にだけ聞こえるようにつぶやいた。
「彼のしていることは奇跡だが、彼は人を超えてはいない。超えてしまったのは、私たちだ。人であることを諦めてしまったのは、私たちだ。だからこそ…、私たちはお前と【魔】に勝てなかった。」
 スハイルが、ヤライを見て首を傾げた。耳のいいスハイルには聞こえたらしいが、そのスハイルの様子にはヤライは気づかずに、見えない天を仰ぐ。
「私も、賭けよう。」
 ごうっ、とアヴィーに向かって風が吹き込み、周囲のエーテルが発動機に取り込まれる。その大量のエーテルを全て、アヴィーは圧縮してみせた。発動機の中で金色の光を放ちながら、蠢いているエーテルの塊。発動機の中で安定して収まり、アヴィーにおとなしく従っている。アヴィーの命令を待っているが…、
 ……その量は異常だ、と気が付いたのは、少しばかりエーテルが見えるらしいセルファだった。
「…ふ…伏せてください!」
 セルファの警告に、全員が従った。アヴィーに向かって吹きこんでいた風がぴたっとやんだかと思うと、
「…っ行くよ!」
 アヴィーの声ともに、炎……というよりも爆発が【魔】に向かって走っていく。建物内の爆音と振動に、床に伏せながら耳を押さえる。業火…と呼ぶには異常な威力の炎に、【魔】の触手は先端から根本まで一瞬で焼き尽くされた。爆発が去り、一瞬で燃焼物がなくなったことで炎も去り、黒い煙だけが立ちこめる。
 アヴィーは、ふん!と得意げに鼻を鳴らし、
「道を作っておけば、誰かがくるよね!怖がっているだけじゃないならさ!」
 と宣言のように言い切った。
 黒い煙がはれていき、奥には一つの扉が見えた。



(44章2話に続く)

---------------あとがきのようなもの------------------

アヴィーが復活したり折れたりを繰り返していますが、そういうもんだと思ってます。


どうやって触手狩りを話に組み込むか…考えたら、総力戦になりました。
結果的に元老院も深都もそこに加わっているように書けて、よかったと思います。


次週は家族の事情によりお休みをいただきます。
土日出勤も続くので、平日更新が少し続くと思います。ご了承ください。



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