まよらなブログ

44章3話。


「世界樹カンケーねえ!」な「世界樹の迷宮Ⅲ」妄想話です。


更新遅くなって申し訳ありません。
書く内容は決まってるんで、書き出すと早いんですが、
気力と体力が割と限界です。最近、10時には寝る日々です。




それでは、興味のある方は「つづきを表示」からどうぞ。






44章3話
-----------------------------------------

 【魔】……、真の名前は【世界樹】が叫んだ通り【昏き海淵の禍神】と言うのか…、【昏き海淵の禍神】は、口なのか目なのか分からないものを広げた。【世界樹】の根が壁を這うように走ってきて、四方八方から【昏き海淵の禍神】を押さえつけた。【昏き海淵の禍神】は地面に抑え込まれ、その口なのか目なのか分からないものが、アヴィーたちの視線の高さに落ちてくる。【昏き海淵の禍神】は、口か目なのか分からない部位を広げた。その奥の、瞳かどうかも分からない赤い水晶を見せつけるかのように。
 その水晶の中に捕らわれている、小さく細くやせて干からびた少女が見える。ミイラのようで、『生きている』はずもない…と、まず思い……、
 その肩が、胸が、小さく上下することに、アヴィーは気がついた。呼吸をしている。
「生きてる…!」
 と、叫ばなければ良かったものを、アヴィーは叫んだ。気づかない振りをしてしまえば、見なかったことにもできたものを、アヴィーは叫ぶのだ。悲痛に、困惑しながら…しかし『生きている』ことを喜び、『生きている』からこそ女の子が感じているだろう苦痛を思って憤りながら。その『生きている』という事実が、この後でどれだけ自分を苦しめるかなど、アヴィーはまったく考えもしない。
「生きてるよ…!」
 誰に告げたわけでもないが、アヴィーは声を上擦らせてもう一度告げた。顔も目も輝いている。細かいことは考えないスハイルが、一緒になって喜んだ。
 …それで、いいのだ。アヴィーはそうでなくてはいけない。
 と、少女が生きていることで、決して楽な戦いにはならない(そもそもが楽な戦いではないが。)可能性に気づいた大人たちとレグルスは、だからこそ「それでいい」と救いさえ見る。命があることを単純に喜べない…「死んでいた方が戦いやすかった」などと考えてしまう自分たちを許せないからこそ、アヴィーの後先も考えないで喜ぶべきことを喜ぶところに救いも見る。
「……っヤライさん!僕、あの目…みたいなやつに星術をぶつけてみます!」
 アヴィーは発動機を唸らせて、両足を開き、エーテルを集め始めだす。呆然と己の孫を見つめていたヤライは、その声に我に返った。アヴィーは前を見つめながら、
「少しでも、あの目を傷つけられれば…!あの子を引っ張り出すことも……」
 そう続けている間に、その頬がいきなり刀の柄尻で殴られた。横合いに転がるように倒れたアヴィーに向かって、ヤライの刃が振り上げられる。しかし、すぐにシェリアクがアヴィーの前に割って入り、その盾が刃を阻んだ。シェリアクの影からアヴィーはマルカブによって猫の子のように引っ張り出されて、ミツナミに治療のために渡された。
「………、孫を、助けるための、」
 刃を盾で受けながら、シェリアクはヤライを睨んだ。その言葉が途切れ途切れであることにディスケが気づき、盾を持つシェリアクの腕が小刻みにふるえていることと、床に踏ん張る彼の踵が少しずつ後ろにずらされていくことに気づく。エラキスに視線を向けると、その視線に気づいたエラキスも、信じられない、というように首を振った。シェリアクが押し負けていることが、常に共に戦ってきたエラキスだからこそ信じられないでいる。しかも、初老の男が、巨体のシェリアク相手にだ。
 奥歯を噛んで全力で押し返すべきことは、シェリアクも分かっているのだろうが、それでも彼は言葉を続けた。それは怒りの表現で、言わないと気が済まない、というものだった。
「…提案、を、してくれた、アヴィーに…、刃を向けるとは…っ、」
 どういう了見なのだ、と、もう言葉にはならず、ただ全力でその刃を押し返す。ヤライは押し返された力も使って、シェリアクから間合いを取り、
「……私は、彼らには最初から伝えている。あの【魔】は…今の人類では倒せない。その少年がどれほど才能のある星詠みだとしても、…あの【魔】に傷をつけることなど不可能だ。むしろ傷の修復のために私の孫の命は使われ、今にも果てそうなあの子のトドメにもなるだそう…。」
 だから、とヤライは口内に軟膏を塗られ(口の中も切ったのだろう)、頬には薬と布を当てられているアヴィーを見つめながら、彼に告げた。
「私は、当初からの私の目的を果たす。君の申し出は善意でなされたものだと分かっている。だが、私は君を殺し、オリヒメを【魔】の餌とし、【魔】が自ら孫を手放す事を目的とする。」
「…オリヒメを餌にするのに、なんでアヴィーを殺す必要があるんだよ……」
 とアヴィーの手当を見ていたマルカブがぼやき、「なんて言うか、鈍いですよねえ」とミツナミが思わず手を止めてマルカブを呆れた様子で見て、オリヒメが唇を噛みしめながらミツナミの後頭部をごん!と叩いた。
「……、傷もつけることが出来ない?」
 アヴィーがミツナミの処置の手が止まったタイミングで、ヤライに問いかける。ヤライは目だけで頷いた。
「あの当時…、【魔】に攻撃をしたこともある。だが、傷などつかなかった。あの当時の武器以上の威力を、今の人類が手にしてるわけではない。君が星術と呼ぶ大気中の微粒子を取り込む技術も、錬金術師の触媒反応を利用した技術も、当時の科学技術を今の文明レベルで使えるようにしたものにすぎない。無理なのだ。」
「………、僕には、そう思えない。」
 処置がすんで、アヴィーは立ち上がった。立ち上がらない方が、と言ったミツナミを手で制して、立ち上がった。
「その理由は、たった一つです。あなたが、【魔】の餌になっていないから。」
「…どういうことかね?」
「1000年前のことを知っていて、もう味方もいなくて、【魔】と戦っても勝てないことを知っていて、その上、お孫さんが【魔】の中にいて、お孫さんを助けるたった一つの方法がオリヒメを代わりにすること……。ヤライさんは、今、そういう状況にいるんですよね。」
「聞くまでもないな。」
「…ヤライさん、本当はオリヒメを身代わりにさせたくはないはずだ。」
 オリヒメはアヴィーを見て、アヴィーは「だって、」と言いながらマルカブをちらりと見た。
「マルカブがカリーナのことを大切にしてたのと、同じ感じがしたから。」
 マルカブは、ヤライは見ずにアヴィーを見返した。マルカブはひらめきのように確信を持った。コイツはとても重要なことに気づいている、と。重要なことに気づいている自覚はないまま、重要なことに気づいている。そんな確信を持ちながら。
「もし、マルカブが僕を助けるためにカリーナを代わりに……、僕とカリーナは逆でもいいけど…どちらかの代わりにどちらかを差し出さなきゃいけないなら、マルカブはどおうするか決める前に死んじゃいます。」
「胃に穴が開いてなー。」
 と、ディスケが答えて、スハイルが「ぴよ。」と神妙に同意した。
 アヴィーの言葉は聞き流しながら、マルカブは考えた。もし自分が、アヴィーを助けるためにカリーナを身代わりにする(勿論、逆の場合も同様だ)方法をとらざる得ないなら、……自分はどうする?
「どこをとっても八方ふさがりで、自分の弟子も傷つける選択しかできないなんて、…絶望する状況です。なのに、【魔】はあなたを餌にしようとはしない。あなたは、どこかで信じて……、ううん、『知って』るんじゃないんですか?【魔】に勝てる方法を。」
 それが分の悪い賭けでも、とアヴィーは言い、マルカブは自問への問いかけの答えを見つけた。……自分だったら、自分を身代わりにする。
 答えを見つけて、マルカブはヤライを見た。ヤライはその視線に気がついたようだったが、マルカブをちらりと見ずに、しかし静かに微笑を顔に湛えた。
「……君は、強い。」
 そして、と背後を振り返り、開いた扉を見つめた。
「彼女も、強かった。」
 ゆっくりとヤライはもう一度アヴィーに向き直る。そして、刀を構えた。
「1000年という時間は長かったが、それでも私がここに立てる可能性は低かった。君たちが私をここに連れてきて、彼女は君たちが現れるまで私を阻んでくれた。君たちは強い。だが、私は、こうする他ない。こんな形で成し得たくはなかったが、当初の目的を果たすだけだ。」
 アヴィーはヤライに応戦するか、【世界樹】が抑え込んでいる背後の【昏き海淵の禍神】に対峙するか、迷いながらも発動機を広げた。ヤライは一瞬の間を置いて、まるで大切なことを伝えるかのように、口にした。
「強い君が、君のままでいるから、私の望みは叶うのだ。」
 ヤライの言葉は、未来を指している。その一言を聞いたマルカブは、発動機を駆動させようとしたアヴィーの前に腕を突き出した。ヤライを見ながら、アヴィーの攻撃を止めるように腕を出して、アヴィーに問いかける。
「…アヴィー、ここに何をしにきた?」
「…え…、」
「…、【魔】を、倒しに来たんだよな…?」
 マルカブはとても慎重に言葉を選んでいる。決定的に大事なことを伝える時、マルカブは少し臆病になりながら、ちゃんと伝えようとしてくる。それを知っているアヴィーはマルカブを見上げながら、うん、と頷いた。ここから先はきっと忘れてはいけないことだ、と思いながら頷いた。
 そうだよな、とマルカブは呟いてから、
「だったら……、『アルゴー』は【魔】の方へ。…俺らが、あの爺さんを引き受ける。」
「でも…、」
 アヴィーはオリヒメに視線を向けた。マルカブたちにヤライを任せて自分たちは【魔】に向かう…。生きて戻るか、保証もない。オリヒメとヤライは二度と会えないかもしれない、ということだ。オリヒメはぐっと唇を噛んだ後、
「……お任せします!アヴィー、私たちは、先へ!」
 そう言って、ヤライに背を向け、オリヒメは【昏き海淵の禍神】へと向かっていく。アヴィーは、でも、ともう一度繰り返したが、マルカブに呼ばれて、彼をもう一度見上げた。
「…いいか、アヴィー。お前は、最後までお前のままでいろ。理想通りにいかない現実に、ギリギリまで駄々をこねろ。」
「僕らしさって、駄々をこねることなの…?」
 とアヴィーは呟いてから、オリヒメの背中を視線で追い、一度ぎゅっと目を閉じてから目を開けて……、先を見た。
「…分かった。気をつけて!死なないで!あと…出来ればでいい、死なせないで!!」
 そう言い、スハイルとレグルスの名前を呼んで、アヴィーは【昏き海淵の禍神】へと駆けだした。スハイルはマルカブの肩から飛び立ち、レグルスは従者を引き連れて駆けだした。
「出来ればでいい、とか言うなよな…。」
 とマルカブが呟き、これでいいだろ?とヤライに聞き返した。ヤライは、そうだな、と頷いて、
「……君を殺せばあの少年が【魔】の餌になりそうだ。」
 マルカブは何か言いたげに口を開いたが、すぐに閉じて剣を抜く。一歩、シェリアクが盾を構えて前に出た。マルカブが、シェリアクの背中と背後で弩を構えるディスケと銃を抜いたエラキスの気配に謝った。
「…悪いな、巻き込んだ。」
「そのつもりで来たから構わない。」
 シェリアクはそっけなく返事をし、一度奥歯を噛みしめた。額に汗が浮いていくのは、シェリアクが正しく相手の力量を見定めているからだ。…常に首に刃が当たっているようなイメージが湧くが、いつでも首を斬ることが出来る力量を持っている…という意味では、あながちイメージでもないのだろう。アヴィーが「出来ればでいい」と言ったのも、アヴィーがヤライの力量と大人たちの力量をきちんと把握しているからなのだろう。
 シェリアクは焦りを隠すようにしながらも、把握した現状を口にした。
「……手加減などしたら、やられる。何か考えがあるようだが、時間稼ぎは難しいぞ。」
「……考えは、俺にあるんじゃない。」
 マルカブは、突剣を構えながら腰を落とした。
「あいつに、あるんだよ。」
 言葉と剣先は、ヤライに向いていた。


(44章4話に続く)

---------------あとがきのようなもの------------------

もう少しいろいろと入れたかったんですが、うまく入らなかったなー

次回更新日も未定とさせてください。不定期になりますが、2週間以上は
開けないようにします。


スポンサーサイト

PageTop

コメント


管理者にだけ表示を許可する