まよらなブログ

44章5話。


「世界樹カンケーねえ!」な「世界樹の迷宮Ⅲ」妄想話です。


更新遅くなって申し訳ありません。
職場的に忙しい時期は乗り越えつつあるんですが、
もうちょっとのんびり更新が続きます。

1月中に……最終回を迎えられる……と思う。



それでは、興味のある方は「つづきを表示」からどうぞ。




44章5話
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「私の孫は生きている。」
 刀と左腕の斬撃を繰り出しながら、ヤライはそう断言をする。
「私が、あの少年を斬ろうとしたとき…、【魔】の触手が私に向かって伸びてきた。あの子の声も聞こえた。そして、あの子が【魔】の中に捕らわれていることも分かった。あの子は、【魔】さえも動かして、私を止めようとした。」
 ヤライの行く手を遮るように、ディスケが矢弾を地面に向かって撃ち出していく。それも紙一重で躱し、盾と槍を構えて迎え撃つシェリアクまで辿り着く。彼の盾がなければ、このパーティは瓦解する。だからこそ、ヤライはまずシェリアクから崩すつもりだ。力自体は負けていない。
「生きているのだ。」
 淡々とした声とは別に、振るわれた刀は盾とぶつかり重い音を立てた。シェリアクは息を止めて両足でその場に踏みとどまる。押される力と押し留まる力が拮抗した瞬間に、シェリアクは鋭く息を吐き、盾の陰から槍を突き出した。その槍を左腕で受け止めて弾き返す。
「私は、あの子を助けるぞ。例え、どんな犠牲を払っても。」
 槍が弾かれシェリアクが意識が逸れた瞬間を狙い、ヤライはその盾を踏みつけるように蹴りつけた。体勢を崩したシェリアクに突進しようとしたときに、そのシェリアクの背後から銃弾が飛んできた。
 銃弾は、ヤライの左の肩にぶつかった。ぶつかった、だけだった。どうやら左肩も鋼のような堅さを持つ体へと変質しているらしい。シェリアクの体勢が崩されることまで予測して発砲したエラキスは、右側を狙うべきだった、と呟きながら銃弾を込め直す。傷をつけることはできなかったが、ヤライの動きを瞬間的に封じることは出来た。その一瞬の時間があれば、マルカブがヤライに走り突剣を突きだすには十分だ。その突剣の攻撃は弾かれたが、マルカブは追撃はせず間合いを取る。その間に、シェリアクが床を踏み抜くような勢いで脚を下ろし、防御の構えを整え直す。その時間を作るだけの攻撃だ。
「……破りがたい鉄壁の陣だな。」
 とヤライが呟く。どっちがだよ、とマルカブは汗を手の甲で拭いながら呟いた。一人を、四人が相手にして傷一つつかない。
 ヤライは息を吐き、話題を先ほどの独白に戻した。
「…どうにかこじ開けたときには、…孫は死んでいるかもしれない。」
「………、」
 マルカブは一瞬何を言うか迷った末に、冷たさを装った。
「ご愁傷様、としか言えないな。」
「変な演技しない方がいいぞ。」
 と、ディスケの一言が飛んできて、マルカブは舌打ちをした。それから、彼はやっぱり迷った後に口にした。
「俺も、あんたの孫を助けてやりたい。だから、俺はアヴィーのやり方に力を貸す。」
 確かに自分は、思ってもいないことを口にできない。だから口にするのは、本心だ。
「あの子が生きてるって、アヴィーも言った。」
「あの少年は目がいいな。」
「…俺は、死んでいれば楽なのにな、と考えもした。」
 苦々しく呟かれた言葉に、ヤライは表情を変えずに……ある種の同意を返した。
「……私も、そうであれば諦めがついたかもしれない、と一瞬は考えたよ。」
「アヴィーは、そんなことを考えもしなかった。」
 奥から、爆発音。絶好調で星術を放っているのだろうか。
「今も、考えていない。」
 そういう子どもだ、とマルカブは呟いた。ヤライは何も言わなかった。
「あんたが、犠牲を払う覚悟なのは分かったよ。それを、非難するつもりもない。でも、アヴィーは犠牲は嫌だと言うんだよ。あんたですら一瞬考えたことを、あいつは一瞬だって考えない。」
 だからアヴィーには全部を救うために戦う権利があるだろう、とマルカブは言い、ヤライは天を仰いでから、
「……1000年。」
 と、まるで懺悔をするかのように言葉を絞り出す。
「この1000年で、人間の命も、随分重くなったものだ。」
「…よく分からないが、それは人間の進歩じゃないのか?」
 とマルカブの呟きを聞き、ヤライは嘆きのように囁いた。
「1000年前もそうであったら、何か違った結果があったのだろうか。」
「……そのときの最善は尽くしたから人間が生き残ってるんだろうと、俺は思うけどな。」
 ヤライは、息を呑んで、マルカブを見た。驚きを浮かべた目が、緩んで、かすかに滲んだ。
 ―― 理解をされた、と思った。
 そして、理解もした。
 この1000年後の世界でも、その時代を生きる人が最善を尽くそうとしており、この場の戦いもその一つなのだ。


*****

 先ほどから、予測も予想もしてなかったことが起きている。
 【昏き海淵の禍神】の本体を押さえ込みながら、【世界樹】は再び考える。【昏き海淵の禍神】は、小さな『アルゴー』の攻撃によって、少しずつ少しずつ体力を削られていく。その削った体力分だけ、【世界樹】は【昏き海淵の禍神】を抑え込んでいく。その結果、【世界樹】の根が、【昏き海淵の禍神】の触手を一本握りつぶして消滅させた。
 予測と予想が狂ったのは、いつからだったのだろう。力を込めながら【世界樹】は考える。―― 『アルゴー』がパスワードを言い当ててしまったときか?オランピア率いる兵たちが移民船の外で触手を狩りだしたときからか?この移民船の扉を開いたときからか。あの少年が記憶の奔流から立ち直ったときからか。『アルゴー』が
6層に辿り着いたときからか。ヤライ博士の侵入を許したときからか。深王が記憶を取り戻したときからか、はたまた深都が発見されたときからなのか、そもそもグートルーネ姫が100年も執念を抱えて生きると決めたときからか。それとも……、この世界を救ってくれるなら己の血族すら差し出すとグンターが申し出たときからなのか ――
 一つだけ……、人間のことは何も理解できない【世界樹】が一つだけ、理解をした。いずれにせよ、この予想外の展開は一朝一夕で起きたことではない。1000年を生きてきた人間たちが少しずつ積み重ねてきた結果なのだ。
 は…っ、と空間に笑い声が響いた。それが己のものだと【世界樹】は気づき、ぎょっとした。
「何が、おかしいの、【世界樹】…!」
 アヴィーがエーテルを圧縮させながら問いかける。ぶすっと膨れながら、ひどく子どもっぽく言った。(いつにも増して子どもっぽいのは疲労の所為だろう)
「僕、一生懸命、なんだけど…!?」
【君を笑ったわけではない。】
 【世界樹】は、【昏き海淵の禍神】を抑え込む力を強くして言い訳の様に説明した。
【私の、矮小さを笑ったのだ。】
「それだけ大きくて、よく言うよね…!」
 アヴィーはエーテルを放って、【昏き海淵の禍神】の赤い水晶のような器官の中心に当てる。エーテルは衝突と同時に変質。鋭い氷の刃が何本も水晶の表皮にぶつかっては折れ、新しい刃が伸びては折れ…を繰り返す。数秒の間に何十回を繰り返された後、一際大きな氷の刃が水晶の表皮を突き破った。
「…刺さった!」
 アヴィーが拳を握りしめて声を上げる。そこに振るわれてきた触手に気づいたレグルスがアヴィーの前に立ち、剣で触手を受け流した。防御を担当するセルファは、数本の触手の攻撃を一手に引き受けている。スハイルが近くを飛び回り、盾を引きつけてきてはセルファに次に攻撃がくる位置を教えている。
「アヴィー!あの氷を大きくしてください!」
 オリヒメの声に、アヴィーはエーテルを圧縮せずに素早く星術を放つ。【昏き海淵の禍神】に突き刺さった氷の刃に氷がぶつかり、氷柱となって地面まで伸びる。
 セルファが攻撃を引きつけているおかげで、アヴィーがエーテルを圧縮する時間も持て、オリヒメが【魔】に攻撃だけを考えて突っ込んでいく余地もできている。オリヒメは出来上がった氷柱を駆け上がっていく。セルファからオリヒメに狙いを変えた二本の触手の行く手をスハイルが飛び回って遮り、ミツナミが苦無を投げて妨害する。
 オリヒメは氷柱を登り切って、氷の刃が刺さっている部分へ、己の刀をねじ込ませた。一度破れた部分だ、刀は容易に水晶の内部に潜りこんだ。目玉と同じようなつくりなのか、中はどろりとした半液体のものが詰まっている感触がある。オリヒメは刀を横薙にして、その傷を広げた。【昏き海淵の禍神】が暴れ、氷の刃を折り、オリヒメを振り落とす。オリヒメは一本の刀を【昏き海淵の禍神】の水晶に突き刺したままにして、地面に落とされた。ミツナミが治療に走る。
 アヴィーは刀をめがけて雷を落とそうとしたが……、逡巡した。
【撃て!】
 【世界樹】が命じ、アヴィーは「できないよ!」と叫んだ。
「オリヒメの刀は内部に突き刺さっている。水晶体の中にいる女の子まで感電させるかもしれない…!」
【馬鹿な!こんなこと…、こんな機会は、私が【昏き海淵の禍神】を戦ってきた歴史において、一度もなかった!絶好の機会だ!あの少女はどうせ助からない!】
「…そんなの、分からないじゃないか!」
【っ分かるのだ!】
 と、【世界樹】が必死に叫んだ。その必死さは、思わずアヴィーが言葉を飲み込むだけの力があった。
【あの少女は、確かに、生きている…!だが、それは【昏き海淵の禍神】の器官としてだ!【昏き海淵の禍神】から引き離されれば、その瞬間に「死んで」しまう!【昏き海淵の禍神】を倒せば、当然死んでしまう!人間から、心臓を抜き取るようなものだと考えろ!頭を打たれた人間の心臓がいずれ動きを止めるように、生きている人間から引き出した心臓もいずれ動きを止めるように、あの少女はいずれにせよ助からない!】
「……でも!」
【……、ここまで、生きてきたことの方が、私は、信じられない。】
 【世界樹】はぎくしゃくと言葉を紡いだ。
【それが…これが、この星の人の、力なのか。もしかしたら、あのとき、博士を止めようとしたのも…、あの少女の力、だったのか…いや、そんな、非科学的な、そんなことは、私は、私をつくった神たちは、そんなものは、私の中に、与えては、くれな】
「っぴーーーー!!」
 スハイルが、【世界樹】に向かって甲高く鳴いた。【世界樹】は一瞬沈黙し、それから【昏き海淵の禍神】の抑え込みに戻った。
【…助かった、フクロウの子。私の中でシステムエラーが起きていたが、リセットし正常に作動した。】
「ぴよ!」
 言葉の意味などスハイルには分かっていないのだろうが、本能というものを人間より大切にしているスハイルは、【世界樹】にも本能があり、それに背いたことを言いそうになっていることに気がついたのだ。人間たちは本能と理性の葛藤、と軽々しく片づけている(とスハイルは思っている。本来、本能は葛藤する余地など与えないものなので、人間の言う本能は思考で押さえられない欲望だ…とスハイルは思っている)が、動物たちは本能が葛藤などしたら生存に関わってくる。その生存に関わることが、今、【世界樹】に起きたのだ。
「ぴぴ、ぴんよう!ぴぴぃー、ぴんよう!ぴぴぴう、ぴんよう!ぴよぴよ!」
 スハイルの言葉を【世界樹】が理解したわけではないだろうが、何となく意味は把握したらしい。自分とアヴィーと【世界樹】のもつ『本能』は違うのだ、と。
【…そうだ、私と君たちを作った神は違うのだ。君たちが、私の予測を超えるなど、当然のことだ。私とは、別の生き物なのだから。】
 三者の持っている『本能』は違う。だが、『本能』はそれぞれに存在している。それを認めれば、困難に立ち向かうやり方など無数にあるように感じられた。
 ならば、私は私の中で最初から決まっている役目を果たそう、と【世界樹】は言った。
【少年。私は【昏き海淵の禍神】を倒すために作られた。】
「…作られたんだ。」
 アヴィーはエーテルの圧縮を始めた。撃ち込むものは、また氷の星術らしい。確かに、中にいる少女に対して一番害がないだろう。
【私は、あの少女を助ける方法は知らない。私はあの少女を助けることが『正しい』とは感じない。そういう風に作られているからだ。私は、ただ、【昏き海淵の禍神】を倒すことが正義であり絶対であり真理だと、そう作られたからだ。】
「僕、君を作った人のこと嫌いだな。」
 アヴィーがそんなことを言い、スハイルに「そんなことを言うもんじゃないぴよ!生き物のルールは、それぞれぴよ!」と(は言ってはいないが、そんな意味だったのだろう)窘められた。
【だが、君たちはそうではないのだろう。あの少女を救うことが『正しく』、たとえ【昏き海淵の禍神】を倒せても、絶対の正義にはならないと、そういう風に作られている。そういう風に作られているのなら…、もしかしたら、知れるのかもしれない。あの少女を『救う』方法を。】
 だから、あの少女を助けるかどうかは君たちに任せよう、と【世界樹】は言った。
【君の星術は、【昏き海淵の禍神】に届いた。膨大なエーテルがあれば、【昏き海淵の禍神】のほとんどを失わせるだけの攻撃にもなるだろう。そして、私にはエーテルを生み出す機能が存在している。】
 賭けに乗らないか、と【世界樹】が囁いた。これは悪魔の囁きなのだろうか、とアヴィーは一瞬考えた。
「…成功率は高いとは言えないが。」
 と【世界樹】は付け足した。アヴィーは一瞬だけ苦笑して、
「嘘はついてないみたいだね、【世界樹】。」
 アヴィーは作り出していた氷の術をキャンセルし、
「いいよ。僕は君の賭けに乗る。その代わり、あの子のことは任せてもらう。」
 救うことは諦めないアヴィーのままで宣言した。



(45章に続く)


---------------あとがきのようなもの------------------

この話で一番の男前はスハイルなので【世界樹】だって助けますよ!(笑)


今回の話は、「相手のそれまでの努力を認める話」になったと思うんですよね。
「1000年前にその中で最善を尽くしたから、人間が生き残ってる」と言ってもらえたヤライと、
「1000年近く人間たちが頑張ってきたから、今がある」ってことに気づいた【世界樹】の話です。
実はテーマの一つで、第一部でも同じようなことを赤パイが何回か言ってます。


次回の更新は12月5日を予定しています
次章の45章で本編は最終章となります。もうちょっとお付き合いください。


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