まよらなブログ

45章2話。

「世界樹カンケーねえ!」な「世界樹の迷宮Ⅲ」妄想話です。


今回が、本当に最後の「転」の部分です。
ところで、オリヒメの刀は一本、【昏き海淵の禍神】に刺していたのに
前回、自然に二本の刀を使って攻撃しているので、
前回の話にちょっと書き加えました。
結構、こういうミスあるんですが、書いてないところでキャラが動いてるんだ…
と思って見逃していただきたい。



次回の更新は、20日(日)のつもりではいますが、やっぱり自信ない……。
変更の時は、日記でお知らせします。


それでは、興味のある方は「つづきを表示」からどうぞ。





45章2話
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 ヤライが言った、【魔】には傷をつけることが出来ない……というのは、厳密には間違っている。もっとも、ヤライは嘘を言ったつもりはない。彼は本当に【魔】には傷をつけることができないと思っている。傷は付くのだ、実際のところ。アヴィーが、氷をその水晶体に突き刺したように。本当に…本当に微少で軽度で、傷とも呼ばない傷のうちから、有り余るエネルギーでもって傷を修復していたから、傷つかないように見えたのだ。傷が瞬時に治るのであれば、玉数の限られている人類の方が不利だ。すべての攻撃を撃ち込んだ後、覗いてみたら傷は修復されている。そんな体験が、【魔】を傷つけることができない、という思いこみに至った。
 アヴィーの星術で出来た氷の刃が【魔】の本体とも言える赤い水晶体に突き刺さったことも、不可能を可能にした奇跡ではない。ただ、起こり得る可能性が限りなく零であった事象を起こした点では、確かに奇跡めいていた。いくつかの要因が重なって、起きた事象ではあったのだ。要因の一つは、エネルギーを貯めていた触手が移民船の外でも狩られ、本体が傷ついてもそのエネルギーを回す事が出来なかったこと。二つ目は、【世界樹】が全力で抑え込んできたため、それに抵抗するために力のほとんどを使っていたこと。三つ目は、餌にしていた冷凍睡眠の乗客たちを1000年とこの戦いの中でほとんど食いきり、新たなエネルギー補充が出来なかったこと。そして、四つ目は『アルゴー』が恐怖を抱きつつも恐怖に支配されずに立ち向かってきたことだ。『アルゴー』からもエネルギーの補充は出来ず、しかも『アルゴー』は確実に正確に、【魔】の体力を削り取った。
 そこへアヴィーが叩き込んだ星術は、折れても折れても作り出される無数の氷の刃だ。修復に使えるエネルギーをほとんど失った【魔】に向かって、手数で勝負をしかけたのだ。(勿論、当のアヴィーは無意識だが。)修復に回せるエネルギーが無くなった時点で、氷の刃は赤い水晶体を傷つけ、突き破り、突き刺さった。
 【魔】…【昏き海淵の禍神】には思考、という術はない。言葉がないからだ。思考する道具がない。だが、判断はした。生きるための、反射のような、判断だ。
 ―― 辺りには、濃密なエーテルが溢れている。
 このエーテルを、己の中に取り込むのだ。このエーテルは、求めていたエネルギーそのものだ。そのエーテルが、さきほどまでは【世界樹】であったことなど、【昏き海淵の禍神】は知ってはいたが、もう忘れていた。必要なことは、己の生存。食い尽くし食い潰し、巨大になっていく、その過程こそが己の目的。それ以外に覚えておくことはない。宿敵のことも、己を作り出した存在の意志も、何も覚えておくことはない。
 【昏き海淵の禍神】は濃密なエーテルをむさぼる前に……、気がついた。目の前にいる小さな…本当に小さな存在が、そのエーテルを肩の機械の中に取り込んでいる。このエーテルは己の物だ、と【昏き海淵の禍神】は激怒した。
 そして、思い出す。この小さな存在が、自分の触手を灼いたこと。自分に立ち向かってくること。自分の精神攻撃からも立ち上がってくること。おそらく、この小さな存在はまた自分に攻撃をしてくる。そのエーテルを用いて攻撃をしてくる。自分の餌を勝手に使い、自分に攻撃をしかけてくるのだ。
「……そうだよ、」
 と、その小さな存在は言った。金色の瞳を己に向けて、口端を上げて、言った。(挑発的な笑み、という言葉を【昏き海淵の禍神】は知らなかったので、そうは認識しなかったが、アヴィーは挑発的に笑っていた。)
「君がこのエーテルを食べている間に、僕は君を吹き飛ばしてやるよ。」
 と(何故か、小さな存在は己の激怒を理解しているように)言った。【昏き海淵の禍神】は判断した。この、小さな生き物を消すのが先だ。
 幸い、辺りの濃密なエーテルは十分すぎるほど溢れていた。このエーテルを使って己に立ち向かってくる生き物を消し去り、その後で残りのエーテルを食らって自己を修復する。そうしたら、この水晶体の中のさらに小さな生き物など捨て、新しい餌を探しに動き出す……。ゆっくりとこの星そのものを食いつぶし、また巨大になる……。
 【昏き海淵の禍神】は、がれきの中から本体を起こした。わずかなエーテルを取り込み、水晶体につけられた傷だけ塞ぐ。それから、水晶体のある器官を大きく広げた。まるで吸い込むように周囲のエーテルを取り入れる。それは空気を吸うようでもあるのか、周囲には遠吠えのような音が鳴る。
 ……雷が、堕ちる。
 アヴィーは、【昏き海淵の禍神】の中で練り上げられていくエーテルを感じて、そう予測をした。彼は仲間たちに下がっているように言い、発動機を最大限に動かしながら、【昏き海淵の禍神】によるエーテルの練り上げが一瞬止まる瞬間を待つ。勝った。と、確信を抱きながら。
 そして、【昏き海淵の禍神】がエーテルを練り上げるのを止め、吼えた。
「僕の勝ちだ!」
 そのタイミングで、アヴィーは叫ぶ。【昏き海淵の禍神】が練り上げたエーテルは、空中の一点に集約されて雷となってアヴィーに降り注ぐ…はずだった。だが、その集約される場所に向かって、アヴィーはほんのわずかなエーテルを放つ。集約され、今にも雷に変わろうとしていたエーテルは、アヴィーのナイフのようなエーテルによって霧散した。
 星詠みの先見術だ。炎・氷・雷の攻撃を無効化する技。そして、熟練した星詠みは、そのまま反撃に転じることもできる。
 アヴィーは、熟練した星読みとなっていた。まるで釣り糸を引くような動作をし、一度は霧散させたエーテルさえをもう一度集め直す。【昏き海淵の禍神】が練り上げた高密度のエーテルに、自分がそれまで練り上げていたエーテルをぶつけ、融合させ、増幅させ、圧縮さえさせた。それから。
 それから、集約点から【昏き海淵の禍神】の体に向かって、エーテルの流れを逆走させた。その時間はわずか数秒。放ったはずの攻撃がそのまま…いやそれ以上に自分に流れ返ってくる数秒に、【昏き海淵の禍神】は何も出来ず……、己の中に取り込んでしまい、
 己が作り出そうとした雷を越える雷光を、己の中で弾けさせた。
 【昏き海淵の禍神】は激しく痙攣し、その巨体をどう!と倒した。その水晶体は黒ずみ、表面は乾いた瘡蓋のようになり、ぺりぺりと剥がれ出していく。一瞬のエーテル制御に全神経を使ったアヴィーは、すとん!と腰から地面に崩れ落ちたが、もう一度起き上がり、おぼつかない足取りで水晶体に向かっていく。それを追い越すようにオリヒメが刀を構えて水晶体に走り寄り、もはや弾力もなくなったそれに刃を突き刺し、水晶体を切り開いた。
 中には、胎児のような姿勢でいる小さな女の子がいる。ミイラのようにやせていて干からびているが、か細い呼吸が聞こえる。こめかみから、臍の緒のような紐上のものが伸び、水晶体の内側とつながっている。おそらく、これがこの少女に恐怖の記憶をなんども呼び起こさせ、その記憶を喰うための【昏き海淵の禍神】の器官なのだろう…
 …いや、【昏き海淵の禍神】の器官だったのだ。
 オリヒメは、女の子の眦に涙が浮かんでいるのを見て、唇を噛んだ。一秒でも速く、この少女を苦しみから解放しなくては、と、そのこめかみから伸びる紐を掴んだ。裸の少女にかけてあげてほしい、とアヴィーから上着を受け取ったミツナミも駆け寄ってきて、少女に外傷がないかを確認してから、その紐を見た。引き抜いていいものか、ためらいはあったが、【昏き海淵の禍神】が倒れた今、付いていても意味もないものだ。ミツナミは少女に上着を掛けながら、オリヒメに向かって頷いた。
 オリヒメは、刀でその紐を斬り落とそうとして……、どくん!!と紐が脈打ったことに気づき、手元を見た。
「ミツナミ!上を!」
 レグルスの声を聞き、ミツナミが瞳を上げる。乾いて枯れていく水晶体から細い触手が一本伸び上がり、オリヒメに向かって振り下ろされるのを見た。
 ミツナミはオリヒメの胴に腕を回して、触手から飛び退く。とっさのことでオリヒメは刀を落とした。ミツナミが飛び退きながら触手に向かって苦無を投げつけ、区内を受けた触手は痙攣してから干からびて地面に倒れる。
「……最後の、抵抗…?」
 セルファが枯れていく触手を見て呟いてから、レグルスへと視線を向ける。レグルスは、音が鳴るほど奥歯を噛みしめていた。
「………、まさか、」
 女の子のこめかみから伸びていた紐状の物は、脈打ちつづけている。脈打ちながら、何かを送り込んでいく。血管が血液を運ぶもので、臍の緒は母体から胎児へ栄養を送るもの。ならば、あの紐状のものは、一体何を『女の子』に送っているのか。
 女の子は、立てるはずもない干からびた体で、起きあがった。開けられるはずもない目が開かれる。それは、先ほどまでとらわれていた紅い水晶体と同じ色と形をしていた。人間の瞳ではなかた。
 アヴィーは瞬間的に理解をした。理屈ではなく感覚で理解をした。背中に走る悪寒で以て理解をした。【昏き海淵の禍神】は少女の中に入っている。そうして、生き延びようとしている。アヴィーは叫び声をあげながら走り、少女のこめかみについた臍の緒のような紐を引き抜いた。
 少女はそれでも立っていて、アヴィーを見上げて舌なめずりをした。そこに、甘露があるように。その美味に満足したかのように。お預けをくらっていたものを、やっと味わえたことに感動すら覚えた様子で。
 自分の、今の感情を喰われた…!
 まさか、という焦り。まさか、という怒り。まさか、という哀しみ。まさか、という絶望。その感情を、この少女…の中に入った【昏き海淵の禍神】は喰ったのだ。その一点で、まさか、は確信に変わる。この少女を依代にして、【昏き海淵の禍神】はまだ生きている。
 そして、同時に。この少女の体を壊せば、【昏き海淵の禍神】は今度こそ死ぬことも理解をした。少女は何も攻撃をしてこない。少女の体を人ではないものに作りかえるだけのエネルギーもないのだろう。【昏き海淵の禍神】はただ、少女の中にいるだけだ。
 しかし、その非力な存在の中こそが。自分の安全とともに力を蓄えるための、最良の場所なのだ。少女を人質に取りながら、アヴィーの絶望を喰っていける最良の場所なのだ。
 それに気づき、レグルスは激高した。アヴィーの絶望が喰われている。最後まで諦めないで戦った想いでさえも、あの化け物は喰っている。自分の友人であり、仲間であり、真逆の方法をとりながら共に戦っていこう、と約束してくれた同志の、必死に守りぬいた志が、喰われているのだ。
「アヴィー!どいてください!」
 レグルスは剣を抜いて駆けだした。
「その子ごと……、殺します!」
 アヴィーは、レグルスを振り返った。いやだ、と顔に書いてある。分かっている、とレグルスは心の中で叫んだ。しかし、口にするのは別の言葉だ。
「その子から、【魔】を追い出す方法は分からない…!【世界樹】もいない今、分からないんです!でも、今なら、その子ごと、【魔】を倒せる!」
「でも…!でも、僕…!」
 レグルスは、分かってます!と今度は答えた。
「…ボクは、君に諦めてほしくない!だから、…ボクがその子を…、いえ、その子ごと【魔】を殺し…!」
 枯れた、と思っていた触手が、レグルスの足をつかみ、一瞬で喉まで伸び上がってくる。
「「レグルス様!」」
 ミツナミとセルファが武器を構えて駆け出すと、枯れた触手はレグルスの喉を絞め上げた。二人が足を止めると、その絞め上げが緩む。
 アヴィーは、レグルスから少女へと視線を移した。少女は枯れた水晶体の中に手を入れている。アヴィーの視線に気づくと、その指先で水晶体をまさぐった。同時に触手がじわじわとレグルスの首を絞めていく。少女(【魔】)が、先ほどまで【魔】であったものを通じて、触手を動かしているのだ。
 アヴィーはぎぎ!と奥歯を噛んだ。こうして迷い、躊躇い、でもイヤだ、と叫ぶ感情が、【魔】の餌になっていることも理解する。自分が逡巡すればするほど【魔】に与える餌が増える。ある程度のエネルギーを得たら、【魔】は少女の体を作り替えてこの場から逃げるだろう。そうして、どこかで誰かの負の感情を喰いながら、また力を蓄え出す。【世界樹】が言っていた。人の感情をエネルギーの源に選んだのは、効率性と持続性からだ、と。人がいる限り、感情は存在しているからだと。まさに、今、自分がいるから生まれている感情で、【魔】は復活していく。
 アヴィーは一度、目を閉じた。もう見たくもないと思いながら目を閉じたが、目を閉じたことで今までのことに思いを巡らせる。
 【世界樹】が戦ってきた時間の長さ、ヤライが絶望に抗うしてきた時間の長さ、深王と姫の覚悟、仲間たちの協力と献身、ヤライを止めている大人たちの戦い、外で戦っているオランピアやミモザたち、【魔】を逃すことによる被害、それで傷つくかもしれない人々……。その中には、何も知らない人もいれば、少しだけ知っているカリーナたちもいる。それらのいずれを諦めることも、アヴィーには絶対に出来なかった。ここで【魔】を倒さなければ、少女がまた何千年も苦しむことも予測できた。
「……ごめんね。」
 アヴィーは鼻をすすりあげた。オリヒメとスハイルが息をのみ、駆け出そうとするが、レグルスの首に巻き付いた触手の動きを見て足を止める。
「アヴィー…!ボクが、やります、から…!」
 絞め上げられながらもレグルスが言う。アヴィーは目を開け、首を振った。
「僕の理想につきあってくれたのはレグルスだ。だから、僕が理想を諦めるのも、僕がやらなきゃ。」
 アヴィーは、そこに落ちていたオリヒメの刀を手にした。少女は動かない。触手を操作している間は、動けないのかもしれない。
「………、ごめんね、」
 とアヴィーは、もう一度言った。
「僕も、みんなも、君のおじいさんも頑張ったよ。…けど。きっと、君が一番、頑張ったんだよね。」
 その一言に、少女の顔はアヴィーを見上げ、そして、微笑んだ。それが少女のものなのか、【魔】のものなのかは分からなかった。
「…………ごめんね…!」
 アヴィーは刀を振り上げた。耳の奥で、声がする。「お前は、最後までお前のままでいろ。」そう言う声がするが、そう言ってもらったのが随分昔のようだった。
 ―― 理想通りにいかない現実に、ギリギリまで駄々をこねろ!
 耳の奥で聞こえる声に、僕はなんて返事をしただろう?
 そうアヴィーは考えながら、刀を振り下ろした。
 


(45章3話に続く)

---------------あとがきのようなもの------------------


この展開になることは最初っから決まっていたのに、もっと丁寧に書いてくればよかった。
二部は話の作り方がザルすぎるなって思ってます。


私は未だに裏ボス倒してない(神竜も倒してない)ので、
【昏き海淵の禍神】戦は本当にただの自分の創作になり下がっていて申し訳ありません。
結果、戦闘よりも話のテーマを書くの方に比重が偏ってしまってます。
ゲーム原作の二次創作なんだし、ちゃんとゲームでの戦闘を踏まえて書きたいんですが、
強すぎる裏ボスが悪いんだよ………

禍神は、新世界樹3が出たら(ピクニックモードで)倒します。
禍神には、首を洗って待っていてほしいものです。



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