まよらなブログ

エピローグ



「世界樹カンケーねえ!」な「世界樹の迷宮Ⅲ」妄想話 最終回です。


上手く書けたとは思ってないし、書ききれないことも沢山あるし、
間違いも矛盾も誤字脱字も、それはそれは沢山あったと思います。
でも、書いてきてよかった、と思ってます。
そして、最後まで書けてよかった、とも感じてます。
何より、私自身のために書いてきて良かった、と思います。


それでは、興味のある方は「つづきを表示」からどうぞ。






エピローグ
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 海都・アーモロードは快晴だ。
 港の桟橋には小型の帆船が停泊している。ミアプラキドゥス号と名付けられているその船が停泊している桟橋には数名の人がいて、帳簿を見ながら何やら話し込んでいる。
 そこに、少女が駆け寄っていった。金色の巻き毛と青い目をした4歳ほどの少女は、フクロウを抱き抱えている。ぴくりとも動かないフクロウはぬいぐるみのようだった。だが、少女が抱きやすいように、誤って爪で傷でも付けないようにと、必死に動かないフクロウだった。
「マルカブおじちゃん!こんにちは!」
 少女の声に、帳簿を持った男…マルカブが振り返り、駆け寄ってきた少女の目線に合わせて身を屈めた。
「おう、こんにちは、ドルチェ。どうした?散歩か?」
「うん!あたし、スハイルちゃんとアヴィーおにいちゃんと、おさんぽしてるの!」
 ぬいぐるみのように動かなかったフクロウが、「ぴよ…!」とだけ鳴いたが体は全く動かさなかった。お前、頑張ってんな…、とマルカブはフクロウに視線だけを投げた。
「ドルチェ、」
 と、少女の背中の方から、柔らかいテノールの声がした。
「マルカブはお仕事中だよ。邪魔しちゃだめだよ。」
「じゃましてないもの!」
 頬を膨らませる少女の顔を見て、溜息をつくのは青年だ。18になった青年だった。声も低くなり、背も伸びて、中性的な雰囲気は残ってはいるものの間違っても「可愛い」とは言われはしない青年だ。
「じゃましてないもの!」
 と、少女はもう一度主張し、その腕の中で「ぴよ…!」とフクロウが同意をした。微動だにしないでいるのも限界らしく、ぷるぷる震えだしている。しかし、少女がきゅっと抱きしめると涙目でぴたりと止まる。
 マルカブは帳簿を他の人間に渡し、一声かけてから、
「丁度、休憩しようと思ってたとこだ。」
 と言いつつ、フクロウの頭のむんずと掴んで、自分の肩に載せた。「…っぴよぉぉぉお!」とフクロウは声を上げて、肩の上で文字通り羽を伸ばした。マルカブはフクロウを労うように撫でながら、
「ドルチェ、アイスでも食いに行くか?」
「いく!」
 少女がぱあああ!と顔を輝かせると、背後の青年が小言を言った。
「ちょっとマルカブ!またマリアさんに怒られるよ!」
「じゃあ、ママには内緒にしてな、ドルチェ。」
「うん!いいよ!」
 もうそれ、ただの孫に甘いおじいちゃんだよ…!と青年が頭を抱えた。マルカブは、少女…、フェイデンとマリアの娘であるドルチェの手を取って、
「アヴィー、お前は食わないのか?おごってやるぞ。」
 と、青年に聞く。青年はぐっと言葉を飲んでから、答える。
「……食べるよう…!」
 と、青年になったアヴィーは、青年の声と表情で14の頃とあまり変わらない反応をした。

*****

 4年前に比べて、船から降りてくる人は少なくはなった。
 迷宮が踏破されて4年。踏破直後は『アルゴー』の冒険を聞き、同じような栄誉を求めてやってきた冒険者が急に増えたが、それも落ち着き始めている。アーモロードの【世界樹の迷宮】に挑む冒険者は確実に減った。しかし、元老院が押し進めている航路探索によって、周辺国家との国交が開始され交易は盛んになっている。意気揚々と船を下りてくる冒険者は減ったが、アーモロードにやってくる人も物も常にある。また逆に、アーモロードから旅立っていく人も物もあり、船は忙しなく出立し港はいつも船を迎え入れていた。
 今のアーモロードを支えているのは、迷宮ではなく交易だ。冒険者ではなく、船乗りと商人だ。その下地を作っているのが、この隣に座っている赤毛で隻眼で義足でお人好しな男である。アヴィーはそう思いながら、ベンチの隣に座るマルカブをちらりと見た。
 マルカブは元老院の元で、航路探索任務を続けている。航海をして地図を埋め、辿り着いた島や国の住民を知り、交わり、取引をする。いずれ商人たちは交易し、有益だと思えば元老院が国交を結ぶために事前交渉を進めておく。権限も後ろ盾もない外交官のようなもの…らしい。マルカブはアヴィーに仕事の苦労など話さないのでアヴィーは想像するしかないが、国が絡んだ交渉事の厄介さは想像するまでもないだろう。よくやるな、と正直思う。この街で漁師をやればいいのに。
 当のマルカブは、アイスを食べ終えてスハイルと追いかけっこをしているドルチェに呼ばれ、手を振り返している。それだけ見れば、気のいい近所のおじさんだ。本当にこの街で漁師にでもなって生活すればいいのに、とアヴィーは思い、
「……向いてないのによくやるよね。」
 と、アヴィーは思わず口にした。あ?とマルカブは聞き返す。アヴィーは自分が漏らした一言に唇を歪めてから、
「マルカブの仕事のことだよ。今度は、どこにいくの?」
「アユタヤの辺り。持ってきてほしい物があるらしくてな。それを届けながら、元老院の方の手紙も届けることになってる。」
 と、マルカブは答えながら、向いてないか、と呟いた。分かっている、とばかりに苦笑も浮かべている。
「まあ、そうだな。向いてない。」
「でも、よくやってるなあって。マルカブは真面目だよね。国の事業だもの、面倒くさいこともあるんでしょう?」
「ああ、面倒くさい。」
 と、マルカブは同意をしたが、その面倒さの内容は口にはしない。機密だから、というよりも、アヴィーに聞かせる話じゃない、と思っているからだ。
「でも、カリーナやレグルスは毎日毎日もっと責任重大なことを悩んでやってんだろうな、と思えば、大したことねえよ。」
「……。」
 アヴィーは溜息をついた。
「僕が、レグルスと約束したのに。」
「あ?」
「………、僕、留学、取りやめようかな。」
「……何でだよ。留学先は【ミズガルズ図書館】なんだろ。本、いっぱいあるぞ。お前、読みたいだろ。」
「読みたいけど。あと、図書館って名前についてるし、実際に本もたくさんあるだろうけど、ミズガルズは図書館じゃないからね。」
「いいだろ、そんなこと。……で、一体どうした?エトリアに一旦里帰りしてから、その足でミズガルズに向かうって話なんだろ?エトリアには、ずっと帰ってないんだ。立派になった姿、母ちゃんに見せてやれよ。」
「僕、自分が立派になってるとは思わないよ。」
「………お前、俺より背ぇ高くなっておいて、それはないだろ……。」
「背の高さは関係ないと思う。」
「関係あるだろ!!俺より3センチ高くなっておきながら!3センチだぞ!?」
「たった3センチだよ。」
「そうだよ、3センチだよ!たったの、な!でも、昔のお前はこんなに小さかったんだぞ!」
 と、マルカブは自分の腹の辺りを手で示す。アヴィーはじとっとそれを眺めて、
「そんなに小さくなかった。」
「そんなもんだろ。可愛かったし。」
「可愛くもなかった。」
「いいや、可愛かった。それが今や、『カッコいい』部類だぞ。ふざけんなよ。あんなに可愛かったのに。母ちゃんが見たら、びっくりするぞ。」
 誉められてるのか怒られてるのか残念がられているのかよく分からない言い回しだ。アヴィーは、確かに声変わりをした声を聞いてシルンは僕だと気づけないだろうな、と思いつつも、マルカブの話には同意はできなかった。
「僕、そんなに変わってないよ。」
「…そう思うなら尚更だ。留学しろ。勉強してけば、変わることもある。」
「……勉強してる場合なのかなって思うんだよ。」
「……何を焦ってるんだ、お前は。」
 俺の半分ぐらいしか生きてないくせに、とマルカブは言った。アヴィーは唇を尖らせた。
「僕は、ずっと考えてるんだよ。あの時、あの女の子を切り捨てようとしたこと。」
「切り捨てなかったろうが。」
 アヴィーの一言は唐突だったが、マルカブは彼が何を指したのか、しっかりと理解した。【昏き海淵の禍神】に囚われていたあの少女のことを、アヴィーは片時も忘れない。
「…迷ったけど、最後はきっと切り捨ててたよ。」
 そして、今も同じだけ迷って同じ決定をするよ、とアヴィーは言う。そういうお前でいてほしいよ、とマルカブは思ったが、もちろん口にはしなかった。マルカブが口にしないから、アヴィーは安心して続ける。
「結局、4年前のままだ。同じことが起きても、迷って躊躇ってそれでもって言いながら、他の方法を見つけられない。先生のところで勉強できることは勉強したし、知ってることも出来ることも増えた。メテオも呼べるようになったしね。でも、僕は4年前のことに、少しもまともな答えが見つけられてない。」
 僕は勉強している場合なの?とアヴィーは呟いた。マルカブは頭を掻いてから、
「……今のお前でも解決できない問題に、14だったお前は立ち向かったんだよな。」
 35にもなった自分だって解決できやしない問題だった、とマルカブは思い、息を吐く。アヴィーは、「マルカブは僕に優しすぎだよ。」と文句を吐いた。
「世の中、解決できない問題ばっかりだって、僕も分かってきた。」
「そうか。大人になったな。」
「それこそ、カリーナやレグルスは毎日そんな問題に悩んでるんだと思う。オリヒメも、きっとそうで、それでもヤライさんのやってきたことを引き継いでいるんだと思う。マルカブだって、どうにもならないことに取り組まなきゃいけないときもあるでしょう?(と、聞くが、本人は肩を竦めただけだった。)ディスケだって、自分が悪くないのにお客さんに頭を下げてたよ。」
「そうか。後で酒でも持って慰めにいこう。」
「でも、僕だけさ、いつまでも勉強してていいのかな。世界を見ろって先生も言うけどさ、見てるだけで調べてるだけで知識を蓄えてるだけで、僕は世界に何か出来るようになるのかな。」
「……勉強が役に立たないと思ってるのか、お前は。」
「……そういうわけじゃないけど。今、大変な思いをしてるカリーナやレグルスやオリヒメやマルカブの助けにはならないでしょう?」
 マルカブは頭を掻いた。少しの沈黙は、考えをまとめる時間だろう。それから、彼は一つ頷いて、
「あのな、アヴィー。」
「うん?」
「俺は、お前に助けてほしいわけじゃない。」
「そりゃ、マルカブはそう言うよね。マルカブは自分のことを、僕の保護者代わりだと思ってるし。」
「思ってるけど、それが理由じゃない。俺がお前にしてほしいことはさ、…俺を助けることじゃなくて…、」
 何て言うかなあ、とマルカブは己の手を見ながら考えて、
「……いつか、誰かを助けることなんだよ。」
「だからさ、それなのに勉強してる場合なのかって、」
「お前に説明する必要なんかないだろうけど、」
 マルカブは珍しくアヴィーの言葉を遮った。そのときのマルカブは圧倒的な熱意で以て想いを伝えてくるので、アヴィーの方が口を噤んだ。
「航海技術は、古代の天体観測から発達しただろ。海は360度どこへでも行けるけど、星を見なきゃ方角は分からない。…俺が今、航海で使ってる技術は、お前の大先輩たちが作り上げたものだけど、別に今の俺らを助けるために星詠みが積み上げてきたものじゃない。でも、そのおかげで俺はお前のとこにも行けるし、カリーナが助けを叫んだら駆けつけられる。そんな風に、お前が遺したものが、いつか俺みたいな人間を後悔させない方法になってほしいと思ってる。」
「……それって、引用文献の話と同じだよね。」
「あ?」
「前にマリアさんにされたことある。」
「よく分かんねえけど、そうか。」
「でも、…、積み重ねていった先に、本当に見つけられるのかな。あの時のあの子を切り捨てずに済む…誰かを犠牲にしないで助けられる方法って。」
 見つけられる、とはマルカブは答えなかった。マルカブ自身は『見つけられる』と確信しているのだが、そうは答えなかった。ただ、
「近づいていけるとは、思う。」
 と、答えるのだ。
「お前はお前の得意な方法で、近づいて行けよ。カリーナは心を砕いて、レグルスは頭を使って、オリヒメは実直さで、俺は…そうだな、『脚』を使って、近づいていくんだろうな。でも、俺が俺の『脚』でやれることをやれるだけやった中で、それでもどうにもできないことがある。でも、カリーナの心やレグルスの頭やオリヒメの実直さでどうにかできることだってある。それは、別に俺を助けようとしたわけでもなくて、アイツ等がやれることをやってくれたってだけだ。けれども、結果的に誰かを救って、俺さえも救ってくれる。」
「…………、」
 アヴィーは、溜息を吐いた。
「…僕がレグルスとした約束は、そんな意味だったんだと思う。」
「そうか。レグルスはきっと忘れてないぞ。」
「…うん、僕もそう思う。」
 アヴィーは溜息を吐き出して、
「今の僕ができることは、勉強…ってこと?」
「俺はそう思うし、勉強する中でお前が出来ることも見つかるだろうさ。……焦るなよ。レグルスとの約束に時間制限なんかないんだろ?」
「………、うん。」
 アヴィーは神妙な顔で頷いた。マルカブは、アヴィーの肩を軽く叩いた。もはやマルカブがアヴィーの頭を撫でることはなかったが、相変わらずの安心感がそこにある。
「お前が、出来ることを見つけて、それをするために行かなきゃ行けない場所を見つけたら、その時は俺とミアプラキドゥス号がどこにだって連れて行ってやるし、いつでも連れて帰って来てやるからさ。」
「うん。」
 その時はきっと、最短で最速でその場所に連れて行ってもらえるのだろう、とアヴィーは思う。そして、その場所でアヴィーでは救えなかったものはレグルスが救うことになっている。それでも救えないものは、カリーナが救うかもしれないし、もしかしたらオリヒメが助けるのかもしれない。
 アヴィーは溜息を吐いた。それは、清々していた。
「それって、ギルドと似てるよね。」
「あ?」
「僕が星術を使って、ディスケが弩を打って、カリーナが号令をかけて、おじいちゃんが回復をして、マルカブが心配をしてさ。みんな別々のことをして、別々のことをするから、樹海を進めた。」
「………お前が俺をどう思ってるのか一度真剣に話し合いたいんだが、…まあ、そうだな。」
「今度は、世界を進むんだね。僕たち。」
 アヴィーは、「なんだあ」と言って、アーモロードの中央に相も変わらずそびえ立つ世界樹を見上げた。街の中心にある世界樹は、消えてしまった【世界樹】の抜け殻のようなもの。何万年もすれば風化していくのかもしれないが、今も変わらずそこに立っていて、その根本には、海底…さらに奥へと続く【世界樹の迷宮】の入り口がある。
「僕ら、ずっと仲間だね。」
 マルカブは、少しムッとした顔で、何言ってんだと呟いた。その表情は、そんな当たり前のことに今更気づくな、と言っている。
 アヴィーは笑い、立ち上がった。マルカブは背の伸びたアヴィーを見上げた。アヴィーは深呼吸でもするように世界樹を見上げて胸を張る。
 その世界樹の元に広がる迷宮の奥で、【昏き海淵の禍神】を倒せたのは、自分の力ではない。仲間と友人と街の人々と1000年前から続く人々と、それ以前から続いてきた【世界樹】の戦いの時間によって、だ。それと同じ事を、これから世界を相手にやっていく。
「こんなこと約束しなくても、マルカブはきっとやってくれると思うけど、」
 と、アヴィーはマルカブを振り返った。その背中に、世界樹を背負いながら。
「僕は僕で一生懸命進むから、マルカブも一緒に戦って。」
 そう言いながら、アヴィーは拳をマルカブに突き出した。マルカブは、呆れたように溜息を吐く。答えるまでもないことを答えるなんて、気恥ずかしいのだ。
 …………、だが。
「おう、」
 アヴィーの願いに応えないという選択は、マルカブには無い。アヴィーよりは少しばかり(少しばかり、だった!)大きい拳を作り、
「約束だ。」
 とアヴィーの拳に打ち付けた。アヴィーは目を細めて笑い、頷いた。
「……あー!」
 と、スハイルを捕まえたドルチェがその様子を見て、声を上げる。ドルチェに抱かれたスハイルも「ぴよん!」と声を上げた。
「グーで、ごっつんしてる!おにいちゃんと おじさん、なかよしだー!」
 そんなドルチェの言葉に、アヴィーとマルカブは顔を見合わせてから笑い、アヴィーに至っては「そうだよ!」と返事をした。
 ドルチェは、ぱあああ!と顔を輝かせ、
「あたしも!あたしも やるー!グーでごっつん、やるー!」
 と、駆け寄ってきた。



<終わり>


---------------あとがきのようなもの------------------

というわけで、お終いです。
おつきあいくださった方、お疲れさまでした。そして、ありがとうございました。


「書いちゃうか~」的なノリと、ついカッとなったことで始まった世界樹3話、
反省点は山盛りモリモリです。連載にしなきゃよかった、と思ったときもあります。
でも、最初の1話に拍手をくれた人がいたから。最後まで書こうと決めてました。
毎回、読みに来てくれる人がいるようだから、最後まで書くと思い続けられました。
そして、この話を書いていたから、私はリアル生活をどうにか乗り切ることもできました。
だから、この6年間の私を救ってくれたのは、あの最初の拍手とその後の拍手です。

そして、もしかしたら。
この世界樹話のどこかの文章に、少し救いを感じてくれた方もいるかもしれません
その時、その人を少し救ってくれたのは、そもそも何だったのか?
それは、私に話を書かせる原動力になった拍手の力なのではないか。
もし、そうだとしたら。
私のための拍手だったとしても、それは私のための拍手であることも超えるのです。
誰が何を救うかなんて、救われる本人にしか分かりませんが、
悪意ではないものは必ずどこかで力に変わると信じてます。

そういうつもりで、この最終回を書きました。
この最終回を、読んでくださった方々への謝辞に変えさせていただきます。


2016.01.23  志水


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