まよらなブログ

【深夜の真剣文字書き60分一本勝負】に参加してみた・13

Twitterの「深夜の真剣文字書き60分一本勝負」に参加してみました。
(企画についてはこちら )


書いた話は追記に記載します。
推敲してないので、いつにもまして誤字脱字激しいと思いますが大目に見てください。
興味のある方は「つづきを表示」からどうぞ。

使用お題は、
 ・ 引き出しに潜むもの
 


オリジナル話です。
注意:死産を話題として扱ってます。辛い気持ちになる方もいると思います。ご注意ください。



【第86回 フリーワンライ企画】
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「引き出しに、もう一個、箱がある。」
 と、10歳の少年は家庭教師に言った。算数のドリルを見ていた家庭教師は、「うん?」と聞き返す。この生徒はいつも唐突だったし、家庭教師はこの問題児のような生徒の素直さをひどく可愛がっていたのでドリルには戻らずに、「もうちょっと詳しく説明してくれる?」と聞き返した。
「うんと、うんと、今度、『二分の一成人式』ってやるんだ。」
「うん。」
 10歳になる学年でやる、授業の一環だ。教員免許取得のための講義にも出ている大学生である家庭教師は、当然のように聴きながら話を促した。
「それで、今までの、うーんと、せいちょう?…を家の人に聞いてきなさいって言われて、」
「うん。」
「お母さんに、へその緒を見せてもらったんだ。」
「うん。」
「お母さんの「よめいりどーぐ」のタンスの引き出しに、入ってたんだ。」
 これくらいの箱の中に、と少年は手で大きさを表した。うん、と家庭教師は続きを促すだけだ。そしたらな!と少年はテーブルを乗り出して、
「タンスの中に、もう一個、同じ箱があるのが見えたんだ!」
「うん。」
「取ろうとしたら、お母さんはタンスを閉めちゃったんだよ。」
「うん。」
「おれ、あの箱の中を見てみたいんだ。」
 と、目を輝かせて少年は身を乗り出してきた。コイツ、私を共犯にしようとしてやがる…!と家庭教師は気が付いて、
「見たいなら、お母さんに頼みなさい。」
「だって、きっとダメって言う。」
「そこまで分かってるなら、尚更。お母さんのタンスの中のものは、お母さんの物。人の物を勝手に見るのはいけません。」
 と、静かに告げる。少年は「ちぇー」っと声を出して、
「おれ、先生の「だめ」は正しいって思ってるから、見ないけど。」
「それはありがとう。」
「先生の「だめ」はさ、「人が「嫌」っていったことを無理やりやらせない」っていうのと、「ルールはまもりましょう」ってことだけだもん。他のことで、ダメって言わないもん。窓の外にいる鳥を見ててもダメって言わないし、おれが「嫌」って言ってるのに筆箱投げたりしねえもん。だから、先生の「だめ」は正しいと思うから、おれ、お母さんに頼んでみるけどさ、」
 授業中に窓の外を見ていてこっぴどく叱られたり、筆箱を投げられたりしたんだろう、…と予測をしたが、「そう。それがいいと思う。」と家庭教師は囁くように伝えるだけだ。そんな話をしたいなら、この少年はそう言うからだ。だから、これは少し注意が散漫な少年が、ただ思い出したことを口にしているだけなのだ。どれだけ大人の胸が締まるようなことを言ったとしても、少年の胸はこの瞬間には傷んでいない。今、この少年が気持ちを向けていることは、引き出しの中に潜む小箱の正体と、それを確かめるための「正しい」方法だ。少年の気持ちの向いている先に家庭教師は沿って行くから、少年はこの先生は好きだったし尊敬もしていたし、たまに共犯になってほしいと持ち掛ける。
「でも、きっと「見せない」って言いそう。」
「どうしてそう思うの?」
「うん。だって、お母さん、「おやつにしましょう」って言ったから。」
「…「おやつにしましょう」?」
「普段は、そんなこと言わないもん。おれが、腹減ったって言うから、おやつになるもん。おやつに、おやつが…?…うーんとうんと……、!おやつで!ごまかされたんだ!」
 助詞を一生懸命考えて使った生徒に、「よく出来ました」と家庭教師は伝えてから、
「「見せない」って言われたらどうするつもりなの?」
「もう一回お願いする。」
 しぶといな、と家庭教師は思いつつ、少し困ったように押し黙った。
「先生?」
 と、心配そうに家庭教師を少年は見つめてくる。家庭教師は、
「その箱さ、へその緒が入ってた箱と同じ大きさだったんだよね?」
「うん。同じだった。」
「………あとさ、キミは一人っ子だよね。」
「うん。きょうだい、いないよ。あ!でも!イトコはいる!」
 もしかしたら母親の哀しい思い出の入った箱なのかもしれない、と家庭教師は考える。彼女は女性であったから、尚更そう、発想できたのかもしれない。子どもの死亡率だって、0%ではないことは講義で聞いた。
 でも、今、自分が想像したことは、自分の想像でしかないことも分かっていた。想像と現実と他人の考えは違うものだと、家庭教師は恐ろしいほど分かっているから、この少し視点が違い唐突で注意散漫な少年と、話を合わせていくことができるのだ。
「……、あのさ、お母さんにお願いするのはとっても正しいと思う。」
「うん。」
「でも、もし、お母さんが嫌だ、って言ったら、その時は「分かった」って言って、お願いするのはやめてほしい。」
「なんで?」
「嫌なことを無理やりやらせるのは、ダメなことだから。」
 と、家庭教師が言ったとき、唐突に部屋のドアが開いた。飲み物をトレーに載せた少年の母親が、トレーを持ったままで、
「引き出しの中が見たいの?」
 と、聞いてきた。慌てたのは家庭教師の方だった。少年は「うん!見たい!」と笑顔で頷いた。
「じゃあ、持ってくるね。」
 と母親は軽く言い放った。そして、家庭教師にトレーを渡し、
「先生はやっぱり信頼できる先生ねえ。」
 と、笑うのだ。何がが、と家庭教師は思ったが、カルピスらしい飲み物のグラスが載ったトレーを受け取った。
「だから、一緒に聞いてくださる?」
 と、母親は言った。ああ、この母も自分を共犯めいた何かに巻き込むつもりなのだ、と家庭教師は理解した。

*****

 もう一つの箱の中には、やはりへその緒が入っていて、「あなたのお姉ちゃんのへその緒。」と母親は少年に言った。少年は首を傾げた。
「でも、ねえちゃん、いねえよ?」
「うん。お腹から出てきたときには息をしてなかったの。」
 と、母親はさらりと言ってのけた。少年は、はっと目を開き、そして家庭教師を見上げた。予測はしていた家庭教師は、それでも、きゅっと唇を噛んでいた。
「…流産も死産もね、珍しいことじゃない。」
 生きて生まれてはこなかったけど、病院がね、へその緒を取ってくれたのと、そのへその緒をそうっとなぞりながら母は言う。
「時々でいいから思い出してあげて、と看護師さんには言われたけど、……、そんなことをしたらずっと悲しみが消えないと思ってね、ほとんどのものを捨ててしまった。もう、残ってるのはこのへその緒だけ。でも、そうじゃないんだよねえ。悲しみって、消えはしないけど形を変えていく。何年もして、あんたが生まれて、元気に育って行くのを見て、あの子の物を捨てなきゃよかった、もっと思い出してあげればよかった、と思うようになれたんだけど。」
 でも、あのとき「あの箱は?」と聞かれて、お母さん困っちゃったんだよね、と少年に母は笑いかける。少年も、ぎゅっと唇を噛んでいた。
「そんな顔をしないの。思い出してあげればよかったって思うようになったって、言ったでしょう。あんたが、10歳まで生きて、へその緒を見せてもらいなさいっていう宿題を受けてきて、そして、あの引き出しの中のこの箱に気付いてくれたから、こうやって思い出してあげられるんだし。」
 引き出しの中に、どんな思いでこの箱を残していたのだろう。それは、まるで、隠すようでありながら、いつか見つけ出せることを祈っているかのようだった。いや、このへその緒からすれば、最後に残った自分の証を捨てられないように、引き出しの中に隠れて身を潜めていたのかもしれない。いつか見つけ出してもらえる時を、その時に自分のことを思い出してもらえるように、できれば穏やかに話ができるように、そう願いながら、身を潜ませていたのは、このへその緒の方だったのかもしれない。
 家庭教師が、じっとへその緒を見ている横で、少年がぱっと立ち上がった。
「ねえちゃんの 誕生日はいつ!?」
「……え?」
「えっと、誕生日…じゃないのか。うーんと…うーんと…、ねえちゃんがお母さんのお腹から出てきた日はいつ!?(その日は命日だ、と家庭教師は気付いたが、そんなことは口にしなかった)その日に、毎年、思い出そう!おれも、また、ねえちゃんの へその緒を見る!」
 お母さんと一緒に!と少年は胸を叩いて言い切った。母親は微笑んで、そうねえ、と頷いた。
「それ、いい考えね。」
「そうだろう!?で、いつ!?」
 母親は、その少年の姉の顔を見ることが出来た日を伝えた。それを聞いて、「あ」と声を上げたのは家庭教師の方だった。二人の視線が自分に向くのに気付いて、すみません、と家庭教師は頭を掻いた。
「先生、この日に何かあるの?」
 と母親が聞く。家庭教師は「すみません…」と小さく縮こまって、
「その…とても、言いにくいのですが、」
「ええ?」
「めずらしいな、先生。」
「……私の、誕生日です。」
 消え入りそうな声で家庭教師は言い、少年はぱっと顔を輝かせた。
「先生、おれのねえちゃんか!」
「いや、違うからね。」
「じゃあ、先生も一緒に思い出そうな!」
「そうねえ。その日は先生の誕生会もしましょうねえ。」
 と、母親が笑い、「それ、いい考えだな!」と少年も笑うので、家庭教師は「……恐縮です」とだけしか言えないのだ。

 
 
---------------あとがきのようなもの------------------

生々しい話の生々しい部分は60分では書けないよなあ…

仕事の関係で、ママさんたちと会うことが多いですが
私が考えてた以上に、流産・死産・不妊治療の経験のある方が多い、
という、実際と想像の差への衝撃が書かせた話です。
あと、幽霊っぽいものも出してお題っぽい話にしたかった…。

なお、この少年と家庭教師、
以前、サイトでアップしてた「お土産の部屋の話」の男の子と家庭教師の二人です。


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