まよらなブログ

【深夜の真剣文字書き60分一本勝負】に参加してみた・15

Twitterの「深夜の真剣文字書き60分一本勝負」に参加してみました。
(企画についてはこちら )


書いた話は追記に記載します。
推敲してないので、いつにもまして誤字脱字激しいと思いますが大目に見てください。
興味のある方は「つづきを表示」からどうぞ。

使用お題は、
・「甘い匂いに誘われ蝶となる」
  オリジナル話です。


【第92回 フリーワンライ企画】
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 鼻先に、漂う、ツンとした匂い。
 泣き出す前のように、鼻がきゅっとする。泣いた映画の後の様に、足元がふわふわとする。これから起こる予感に、胸の奥で鼓動が鳴る。
 目の前を掠める電車のように、豪速で、過ぎ去るのは、甘い匂い。
 何も嫌なことなどない。絶望などしていない。ここにいることはそんなに辛いことでもない。辛い…のかもしれないけど、もう子どものころから「こう」だから、辛い「のかもしれない」としか思えなくなっている。
 そう、誘われただけ。誘われただけ。
 「向こう側」から漂う甘い「死」の匂いに誘われただけ。
 甘い匂いに誘われて、私は手すりを飛び越え――

 飛び越え――る前に、強い力で腕を掴まれ、「こちら側」へ引き戻された。
 引き戻された体は、大きな体に支えられて、その体ごと尻もちをついた。緑の、ゴム製の、屋上の床に尻もちをついた。はあっと、頭上で息がした。背中を付けている誰かの体から背中越しに鼓動は伝わってくる。息と体温と鼓動。嗅覚の入り込む余地などなく、さっきまで確かにあった甘いとしか言いようのない「死」の匂いはもうどこにもない。
「…………、何してたの…?」
 と、私の体を包み込むように…、とは言っても抱きしめられてはいないので、体格差がそう感じさせるだけなのだが…、私を「こちら側」に引き戻した人の声がする。その男性の低い声は、聴きなれたもので、私はただ「うん」と頷いた。我ながら、淡々としていた。
「…行ける、と思った。」
「…………、天国に?」
「そこまでは願ってない。ただ、…「あちら側」に。」
「…………、そう。」
 と、彼は返事をして、天を仰いで、また、はあ…っと息を吐いた。見たわけではないが、息の音が遠くなったので、きっと彼はいつものように点を仰いで溜息を吐いたのだ。
「…「こっち側」にいたくないの?」
「ううん。そういうわけじゃない。」
 あなたと会えなくなることも哀しいと思う。それは全然嘘じゃない。友達も悲しませたくない。それも全然嘘じゃない。家族の所為じゃないのに、家族が自分自身を責めるだろうことも予想できて、それも絶対に嫌なのも、全然嘘じゃあないのだ。
 でも、誘われるのだ。こっちへ、こっちへ。こっちへおいで、と。聞こえもしない声が、匂いになって。もう、それは「終わり」の誘いではなくて、もはやそれは、それは、別の世界への誘い。
 余計なものを捨てて、今を焼き付けて、魂だけになって、こちら側へ。
 そう言ったら、彼はまた息を吐いて、
「…蝶にでもなるつもりなの?」
 と、聞いた。私は、やっと体を起こして、彼を見上げる。彼は、躊躇いがちに私の体をそっと自分の体から離し、けれども腕は掴んだままで、知ってる?と聞いた。
「ギリシア語で、蝶のことをプシュケって言うこと。」
「…そうなの?」
「で、プシュケって何のことだか知ってる?」
「…………、ギリシア神話で、キューピッド…というかエロスの妻?」
「そう。」
 話が早くて助かるよ…と、彼は肩を落として言うのだが、私は全く話が読めない。彼は、息を整えてから、
「魂を、意味してる。」
 と、言った。そして、顔を上げて、一気にまくしたてるのだ。
「蝶って、世界のあっちこっちで霊や魂を表すんだ。西洋では復活のシンボル。日本では仏の使いや死霊の化身だ。ひらひらと舞う様は、そりゃあとらえどころがないし、芋虫が蛹から孵る姿も別の次元の存在にも復活のようにも見えるんだろう。体にまとう鱗粉だって、なんだか魔術的だよね。」
 何を言っているのか何を言いたいのか、分からない。分からないけど。……分からないけど。聴き上手過ぎてあまり主張をしない彼が、言葉も無駄に多くて、遠回しで、結論がでなくて、でも一生懸命に、一生懸命に、言葉を紡ぐときは、もう絶対に何かを伝えようとしているときだ。だから。
 だから、聞く。聴く。瞬きをしながら、でも聴く。
「君が、何かに誘われて、魂にでもなろうっていうんなら、それは蝶になるってことなのかもしれないよ。でも、お願い。覚えておいて。プシュケは蝶で、魂だ。でも、でも、魂は、魂だけじゃ、彷徨うんだよ。冥府まで行かなきゃいけない。……そう、神話で言っているでしょう?」
 と、言いながら、私の腕にきゅっと圧力がかかる。彼の手が、私の腕を掴み続ける。力が入る。
「…プシュケが彷徨ってまで求めたものは何なのか、また、君が呼ばれたら、お願いだから、思い出して。」
 彼は私の腕をつかむ手に、もう片方の手を添えた。
「この腕の、僕が掴む感触を、お願いだから、思い出して。」
 ――プシュケが彷徨ってまで求めたものは何だったのか。そう問われて、私は、腕を、手を、自分の手とはまるで違う、大きな手を、見て、
「……それは、告白?」
 と苦笑した。彼は涙目で私の腕を引き寄せて、
「…………っもう、なんだっていいよ!君がちゃんと「こっち」に戻ってくるんなら!僕を追い求めて戻ってくるなら!そういうことにしておこう!?」
 と拗ねたように言い張って、念を押す。
「もう、「あっち」に誘われないでよ。」
「それは分かんない。」
「嘘でも、「うん」って言ってよ。」
「誘ってくるのは向こうの都合だから。……でも、私は覚えておく。」
 そして私も彼の手に、掴まれていない手を重ねる。
「この腕の感触も。プシュケが魂や蝶を意味することも。プシュケが「愛」を追って彷徨ったことも。――あなたが、そう言った今日のことも。」
 覚えておく、と私は言い、彼は、うん、と頷いて
「頼むよ、『プシュケ』。」
 と、懇願するように囁く。私が、うん、と頷くと、彼は安堵して背中から屋上に倒れ込む。 腕は掴まれたままだったので、私も一緒に倒れ込み、
「うん、覚えておく、『キューピッド』。」
 私は彼の耳元で囁くのだ。彼は今更、赤面した。


---------------あとがきのようなもの------------------

現実の世界観の様に書きましたが、これファンタジー世界観設定から引っ張ってきました。

もっと薄暗い話にするつもりだったんですが、なんかこうなりました。
恋愛ものを書く気がないときに限って、それっぽくなるのは何故なのだ。


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