まよらなブログ

【深夜の真剣文字書き60分一本勝負】に参加してみた・16


Twitterの「深夜の真剣文字書き60分一本勝負」に参加してみました。
(企画についてはこちら )


書いた話は追記に記載します。
推敲してないので、いつにもまして誤字脱字激しいと思いますが大目に見てください。
興味のある方は「つづきを表示」からどうぞ。


使用お題は、
・「恋は罪悪」    オリジナル話です。





【第93回 フリーワンライ企画】
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 自分の名前が嫌いだ、とそう言ったら、その人は少し考えた後で、詩のような言葉を口にした。
 ―― バラと呼ばれるあの花は、ほかの名前で呼ぼうとも甘い香りには変わりはない。


 私には教養というものがなかったので、それが何の作品の誰の台詞か全く分からなかった。それでもその人が何か励ましてくれていると思ったので、ありがとうございます、と礼を言った。その人は何だか困った顔をしたけれど、「君がどんな名前でも、君の良さは変わらないよ」と言った。とても優しかったけれど、なぜか言い訳のように付け加えられていた。それでも私は嬉しかったので、友達にその話をしたら、友達は「あなた、本を読みなさいよ」と唐突に言ってきた。何故なのかは教えてくれなかった。何で私がそう言ったのか精々思い悩みなさい、と友達は言った。それが、あなたの想い人へのせめての償いでしょうから、と。
 私には教養というものがなかったので、それが何の作品の誰の台詞であるか全く分からなかったので。
 だから、その言葉の持つ本当の意味に、私は気が付けないでいた。


  * 薔薇の名前 ―― もしくは、愛の独白 *



 私には、教養というものがなかったのだけど、有名な悲劇の大体のあらすじは知っていた。いがみ合っている家に生まれた男女が恋に落ちて、なんやかんやで(このなんやかんやの部分をよく知らないんだけど)死に至る、そういう悲劇だ。メロドラマ、と言ってしまえばそうなのかもしれない。悲劇ではあっても四大悲劇になってない(らしい。これは友達に教えてもらった)あたり、昔の人が読んでもメロドラマに過ぎなかったのかもしれない。
 そんな悲劇の舞台公演に、私は誘われた。「バラは他の名前で呼ばれてもその香りには変わりがない」と言ってくれた人に、誘われた。公演の切符が二枚。一緒にどうか、と誘われた。―― デートなのかそうなのかどうなんだ!?と問い詰めたかったが、そんな度胸があるならばとっくに告白ぐらいしているので、私はこくこくと頷くだけだった。私は、観劇とか音楽鑑賞とかしたことがないし本もあまり読んでいない、と言ったことを、その人が覚えているだけなのかもしれなかった。その人は、少し年上でひたすらに人が好く面倒見が良かったから、家庭の都合というか余裕がない生活を送っていた私の昔を気にかけてくれただけなのかもしれなかった。…それでもいい、と思った。だって、気にかけてくれたのだから。私の好きな人が、私を気にかけてくれたのだから。愛想もなければ可愛げもなく気の利いたことも言えない私を、気にかけてくれたのだから。それ以上、何を望むというんだろう。
 ……とはいえ。それ以上何を望むというのだろう、と思いながらも、それ以上を期待するのは乙女心…と言うものらしい(と友達が言った)。それ以上を期待する資格もない私だが、それ以上を期待もする浅ましさも捨てられず、友達に「それは乙女なら当然です」と言われて、精一杯に綺麗な格好はしてきてはみた。相変わらずの黒い服にはブラシは掛けたし、履き潰したのは仕方がないが必死に磨いた靴と、友達がくれた小さなビーズのついたピンで、観劇にやってきた。誘ってくれたその人は、丁重に(いつも丁重なんだけど)席を勧めてくれた。本当は真ん中の席がいいんだけど、と言い訳の様に言っていた。舞台をほぼ横から見るその席は確かに真ん中ではなかったけれど、それがかえって舞台を見ているような気になれて私はとても気に入った。

 舞台の上では役者が動き、語る。役の心情を吐き出している。そして、私が聴いたセリフを、ヒロインがバルコニーで囁いた。
 『 みんながバラと呼んでいるあの花も、他の名前で呼ばれても甘い香りに変わりはないはず ――』
 ―― それは聴く相手のいないはずの、愛の独白だった。
 私は、すぐ隣に座る人の顔を見た。その人は舞台を見ていた。私の視線には気が付かない様子で、表情を動かさず、ただ舞台を見ていた。
 舞台のヒロインの独白と思われた言葉は、想い人に聞かれていて、それは独白から告白に変わった。
 ―― 私には、教養というものがなかったから。同じ言葉にどんな意味がこめられていたのか、思いや考えを巡らすことができなかった。もしかしたら……、そう、もしかしたらだ、万が一にだ。もしかしたら、それは私が受け止めるべき言葉だったのかもしれないのに、私には教養というものがなかったから、私は思いを巡らせなかったら、それは独白以上にはならなかったのかもしれない。「本を読みなさい」と言った友達の言葉が蘇る。

 舞台の上では、人が死ぬ。若者が誤解と熱情に踊らされて死んでいく。主人公たちの恋は、主人公以外の人間を巻き込むように近しい人を殺していき、本人たちも殺してしまい、そして幕は降りる。
 ああ、恋は罪悪だ。少し立ち止まれば、他人を巻き込むことなどなかったはずなのに。恋は罪悪だ。私のしていることは、隣の人に寄せている想いは、こんなに愚かなことなのだ。
 そう気が付いた私は、舞台が終わっても拍手もせずに、ただ泣いた。観客席が明るくなっても、周囲の人が立ち去っても、椅子に座って泣いていた。隣のその人はオロオロとしながらも、隣に座り続けてくれた。私は丁寧にアイロンをかけてきたハンカチでどうにか顔をぬぐってから、ごめんなさい、とその人に告げた。その人の顔は見なかった。見ることはできなかった。ただ、ひじ掛けに置かれた手に、差し出すかどうか迷ったらしいハンカチが握られていたことに気が付いた。私はそのハンカチに気付けずに、自分のハンカチで顔をぬぐった。私は、いつも気が付かない。この人の優しさに気付けない。舞台の上の主人公たちを罪深いと言う資格はない。きっと、ない。
 そう思って、また泣き出した。その人は、うう、と困ったように声を漏らしてから、私の私が嫌いな名前を呼んだ。
「ご、ごめん。その……チョイスを間違えた?」
「……いいえ!」
 私は泣いたままで首を振り、泣いたままで顔を上げた。
「むしろ、正しすぎて…悲しくなる…!!」
「そ、それはごめん…」
 と、その人はもう一度、悪くもないのに謝った。でも、泣き止んでとは言わなかった。私は、鼻を啜り上げて、
「こ……」
「うん?」
「恋って、罪悪です……!」
「そう?」
「だって、だって……勝手をやって、人が死んで……、優しくしてもらってるのに気が付かなくて、言われた言葉にも気が付かなくて…、こんなのは罪悪です…!」
「そう?」
 と、彼は繰り返した。聞き流すつもりらしい。そう思いませんか、と私は問いかける。その人は、少し考えてから、
「…………言った言葉に気が付かれるのも気恥ずかしいから、もしかしたら罪悪なのかもしれないね。」
 と、答える。私は、ひゅっと変な音を喉の奥から出して、その人を見上げた。
 その人は、舞台を見る。舞台には演目を終えた役者が出てきて、舞台の前まで集まった一部の観客から花束を受け取っていた。
「『―― みんながバラと呼んでいるあの花も、他の名前で呼ばれても甘い香りに変わりはないはず。』」
 と、その人は舞台を見ながら台詞を、そして私にかつて言った言葉を、呟いた。
「君が、君自身があまり好きになれない名前であっても、違う名前であっても、君自身は変わらない。そして、僕が君をどう想っているかもきっと変わらない…って、そういうことを言ったんだって、気が付いてくれたんなら、誘った甲斐はあったかな。」
 舞台を見るその人の横顔を見上げて、私はまた泣き出した。頷きながら泣き出した。
「恋は罪悪かもしれないけど、気付いてくれたんなら、そんなのチャラじゃないかな?」
 と、その人は静かに笑って、舞台から私の方へと顔を向けた。
 ああ、私には教養なんかないけれど。私も好きです、と答えるのは勿体ないと思った。
 私は泣きながら、こくこくと頷きながら、涙をぬぐいながら、
「わ、『私はあなたの小鳥になりたい…!』」
 と、主人公の台詞を口にした。その人は吹き出して、
「…参ったなあ。可愛がり過ぎて殺してしまいそう、と言ったジュリエットの気持ちがよく分かる。」
 と、おかしそうに感想を口にした。



 
---------------あとがきのようなもの------------------

今、設定とか考えてるお話の「絶対書かない部分」が元ネタなのですが、
ぴったりくるお題がきたので、書いてみました。

勿論、この舞台の演目は「ロミオとジュリエット」です。


あと、実はこちらの話の続きだったりするらしい。




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