まよらなブログ

【深夜の真剣文字書き60分一本勝負】に参加してみた・17


Twitterの「深夜の真剣文字書き60分一本勝負」に参加してみました。
(企画についてはこちら )


書いた話は追記に記載します。
推敲してないので、いつにもまして誤字脱字激しいと思いますが大目に見てください。
興味のある方は「つづきを表示」からどうぞ。

使用お題は、
・「君の声は有料」  オリジナル話です。




【第97回 フリーワンライ企画】
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 お金を払って歌を聴くことができるけれど手が届かないアイドルと、手が届く範囲にいるのに声を掛けることができないマドンナと、どっちが僕らに近しいんだろう?

「初回限定DVD付きCDゲットーーーーーー!!!」
 と、勝ち取ったメダルの様にCDを掲げる友達を見て、一人の男子高校生は駅のベンチに座りながらうんざりと溜息を吐いた。
「恥ずかしいからヤメろ。」
「そんなこと言って、CD屋まで付き合ってくれて、ホントは興味あるんだろ?聴く?聴く?」
 と、その友達はしつこく聞きながら、ポータブルCDプレイヤーをエナメルバッグから取り出した。デジタルオーディオプレイヤーのこの時代に、ポータブルCDプレイヤー。CDを買ってすぐに聴く!と決めて持ってきたのだろう。配信をDLすればいいのに、と言ったことがあるが、「馬鹿言うな!ジャケットがないだろう!?」と叱られたことがある。ジャケット・歌詞カード・CDは三位一体、というのが友達の説だ。どうでもいい。
 聴く!?と聞いてくる友達に、聴かない、と男子高校生はそっけなく答えた。だが、友達はその返事すら聞いておらず、CDケースに巻かれたビニールに爪を立てている。
「…くそっ、取れねえ…!」
 なかなかビニールが剥けないので、露骨に苛立っている。貸せ、といってCDを取り上げて、男子高校生はビニールの端に器用に穴を空ける。そして友達にCDを返すと、その友達は「サンキューな」と言うものの、もう心はそこに在らずで、ビニールの下にもう一枚巻かれたビニールを剥く作業に入っていた。
「CDってなんで過剰包装なんだビニール一枚でいいじゃねえか曲がすぐに聞けないしゴミも出るし地球にもおれにも優しくない!」
 と言いながら、友達はビニールをはぎ取って、CDケースを開ける。ジャケットは女の子5人の写真。顔も可愛いし、衣装も可愛い…んだろう、多分。男子高校生は、女子の着ている衣装が「可愛い」と表現していいものなのか、よく分からない。
 友達は鼻歌を歌いながら(これから聴く曲の一部だった。PVでサビは完璧に覚えたようだ)、CDをプレイヤーに丁寧に…それはもう丁寧に、セットした。オーディオマニアがレコードに針を落とす動作はそれはそれは真剣だ……と聞いたことがあるが(レコードなんか見たこともなかったが)、それ顔負けの手つきなんだろう。
 まあ、友達はオーディオマニアなのではなく、ただのアイドルファンでしかないのだが。
 自分のことはもう眼中に入ってないんだろう。にこにこ…というよりも、によによ、と笑って曲を聴いている友達を目の端で眺めながら、男子高校生は溜息を吐いた。この趣味が合わない割には気は合わなくもない友達を置いて帰ってもよかったのだが、田舎の電車はなかなかやってこないのでどうせ同じ電車に乗るのだ。そして電車はまだ来ない。
 一度、無理やりそのアイドルのCDを聴かされたことがあるが、まあ、趣味は合わなかった。そんなに歌も上手くない。歌詞も前向きではあるが、前向きな歌詞が聴きたいばかりでもない。鼻にかかった声もそんなに趣味じゃない。だから男子高校生はそのCDを一緒に聴くことはなかったが、友達が聴いているところを邪魔することもなかった。逆に、男子高校生が待ちわびていた小説の新刊が出たときは、一心不乱に読みふける彼を友達は邪魔をせず、電車が来れば教えてくれる。彼らの趣味は合わないのだ。なんで友達なのかよく分からないときもあったが、おそらくは「邪魔をしない」という一点が二人を友達足らしめているのだろう。まあ、そんな小さなことはどうでもいい。友達なのだから、それでいいのだ。
 10分ほどして、ふんふんふーん、と鼻歌を歌いながら、友達はイヤホンを外した。そして、「聴く?」と聴きながらイヤホンを男子高校生に差し出した。だから聞かない、と高校生は答え、頬杖をつくようにして友達を見た。何度かしている質問を繰り返す。
「そんなにいいの?」
「いいよ!聴く!?」
「聴かねえって。」
「勿体ねえ……。」
 と、友達は呻いて、
「たった1500円ちょっとで!天使の歌声だぞ!?」
「1500円って…高くね?それに天使の歌声には思えないけどな。そんなに上手いわけじゃ、」
「言うなッ!言ってくれるなッ!!」
 ……歌唱力があるとは言えないことは分かっているらしいので、男子高校生は追求をやめることにした。
 1500円ちょっとで…とはいえ、お金を払ってまで聴きたいと思うのだろうか……と、思ったときだ。目の端に、流れる様な黒が映って、背筋を伸ばすようにしてそちらを見た。
 階段を降りてホームにやってきたのは、長い髪の少女だ。流れる様な黒は、彼女の髪と制服の裾。制服は彼らと別の学校の物。
 いつもと同じ場所に立って、鞄から文庫本を取り出す少女を眺める。…その隣で、友達がニヨニヨ笑っている。
「な、」
 と、友達はCDケースを男子高校生の鼻先で軽く振って見せ、小声で告げた。
「おれは1500円ちょっとで好きな子たちの声が聴けるけど、お前はあの子の声をまだ聴いてない。」
「……言うな。」
「っていうか、お前はまだあの子に声をかけられない。」
「言うなッ!言ってくれるなッ!」
 と、先ほどの友達と同じくらいの強さで、男子高校生は拒否を示す。勿体ねえ…、と友達は先ほどと同じ言葉を、まったく別の強さで口にした。
「おれはこの子達の姿を直接見れないけど、お前はあの子を毎日見れるのに。」
「……それとこれとは別の話だろ……」
 あと、声が大きい…!と男子高校生は足元に置いたエナメルバッグを眺めながら呟いた。
 勿体ねえよ、と友達は肩を竦めてベンチに寄り掛かった。そして、
「1500円。」
「…ん?」
「1500円払っても、あの子の声を聴きたいって思う?」
 と、身を乗り出して聞いてくる。それ以上だって払ってもいい、とは口にしなかった。金を払って聴くものとは違う、とも口にしなかった。とはいえ、返事は目に現れていたのだろう。可能ならその声を聴きたい、というそんな希望は目に現れていたのだろう。
「今度出るCD、お前がおれにプレゼントするのなー。」
 と、言いながらCDプレイヤーをバッグの中に放り込み、代わりにペットボトルを取り出した。なんで、と聞くより先に、友達はペットボトルを「せいッ!」と少女の方に転がした。
「あ!何すんだよ!蹴るなよ!あー!転がっちゃったじゃんか!」
 と、友達はわざと声を上げて男子高校生を小突いて立ち上がる。何がだよ、と口にしそうになる男子高校生の口の前に指を立て、黙らせた。本を読んでいた少女が、自分の足に転がったペットボトルが当たったことに気付き、足元を見る。そこに、友達は「すみません!」と謝って走っていった。
 少女は屈んでペットボトルを拾い上げ、走り寄ってきた友達にそれを渡す。「どうもすみません!」と大げさに頭を下げる友達に向かって、軽く首を振り、「いいえ、大丈夫」と言った。
 「いいえ、大丈夫。」
 そう言った声は確かに聞こえた。
 友達はぺこぺこ頭を下げながら、戻ってきた。
「聞こえた?」
「…………うん。」
「じゃ、今度のCD、お前が買うんだぞ。」
「…………、お前だけが得してない?」
 あの子の声を近くで聴いて、その上CDまで手に入れるなんて、と男子高校生は呻いたが、
「じゃあ、お前、あの子に声かけてみろよ。」
 と、友達はそっけなく答えながらペットボトルをバッグに入れて、もう一度CDプレイヤーを取り出した。男子高校生が文句や不満や泣き言をいう前に、イヤホンを自分の耳に突っ込んでもう一度曲を聴きだす。
 彼の天使の歌を聴いている友達に向かって、唇を尖らせるのが精いっぱいの男子高校生は、また文庫本を読みだした少女を眺めた。
 ―― いいえ、大丈夫 ――
 どうせ有料なら、何度も頭の中でさっきの声を反復することにした。
 そして反復しようとした矢先、その耳に残る声をかき消すかのように、ぷおおん、という音を立てて、ホームに電車が入ってきた。



 
---------------あとがきのようなもの------------------

このワンライ、登場人物が「男女」の場合が多いので
普段はあまり書かない「男子二人組」を書こう、と思った。


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