まよらなブログ

【深夜の真剣文字書き60分一本勝負】に参加してみた・18


Twitterの「深夜の真剣文字書き60分一本勝負」に参加してみました。
(企画についてはこちら )


書いた話は追記に記載します。
推敲してないので、いつにもまして誤字脱字激しいと思いますが大目に見てください。
興味のある方は「つづきを表示」からどうぞ。

使用お題は、
・運命              
   で、オリジナル話です。




【第99回 フリーワンライ企画】
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 「このように『運命』は扉を叩く」ことなんて、ありえない。



「ありえない…」
 と、CDケースを持ちながら、ぷるぷると彼女は打ち震える。クッションに体を載せて、総譜をめくりながら、かつポテトチップスを口に運ぶ彼女の友達が「何が?」と聞いた。
「こ、こんなの『運命』じゃない!」
 と叫ぶ部屋の中では、交響曲が鳴り響いている。床に置きっぱなしのCDコンポから流れているのはベートベンの第五交響曲……の4楽章だ。
 友達は、口に運び掛けたポテトチップスを一瞬止めて、でも、ぱりっと一口唇で割ってから、
「通称の『運命』だよ。」
 と、言った。むむむ…と彼女はCDケースの指揮者の顔を睨み、
「こ…これじゃあ、大勝利でハッピーエンドな運命…!!」
「いや、それもそれで『運命』でしょうよ。幸せになる『運命』だってあるんだから。」
「そもそも!この『運命』は親切すぎない!?ベートベンの運命は、こんなに親切なの!?」
「……キミ、楽聖に向かって、何言ってんだ。」
 と、友達は起き上がり、髪を掻き上げながら胡坐をかいた。
「ベートベンが耳が聴こえなくなったって話は知ってるでしょう?一般教養。」
「知ってるけど!」
「…オタクが目が見えなくなったら漫画もゲームも見れないでしょうよ?アニメは声を楽しめるけど、神作画を目にできないでしょうよ。ファンアートだって描けないでしょうよ。その苦しみと置き換えてみなよ。」
「………ッう……ッ!!胸が…胸が痛い!!」
 と彼女は胸をわざとらしく抑えた。
「それと……同じ……というと、すっげえベートベンに失礼だけど、その苦しみと方向性は別でも重さはそんなに変わんないと思うので、その運命は結構無慈悲なベリーハードモード。そう思うけど。」
「それはそうだけど、」
「…それはそうだけど、と同意されるのも若干腹立たしいな…。」
 と、友達は総譜を引き寄せた。大学のオーケストラサークルに入っているその友達は、今度の定期演奏会で、この曲を演奏するらしい。彼女は全くクラシックにあまり詳しくないので、「ダダダダーン」の主題だけを知っていた。独り暮らしの友達の家に遊びに来て、「今度、『運命』をやるんだよ」と言われて、ああ、あの重苦しそうなやつ、と言ったら、問答無用でCDを掛けられた。彼女はクラシックにあまり興味はないのだが、友達は楽譜を捲って相手にしてくれないし、その家にある漫画を読もうとしたら取り上げられたので、しかたなくCDノーツを読みながら、なんとはなしに耳を傾けていた。
 印象が変わったのは、ゆったりとした2楽章からだった。カタチを変えて楽器を変えて、あるメロディが繰り返し流れていく2楽章は、穏やかな川が流れて流れて大河になっていくようにも感じられて、「重苦しそうなやつ」という認識はどうもズレていたらしいと認識をした。3楽章は「ダダダダーン」がのっそりのっそり踊るような印象の違う形になっていることに気付き、「重苦しそう」な認識にも幅があるのだ、と認識した。そして、気が付くと入っているらしい4楽章(「あたっか」という形で3楽章からなだれ込む、と後で友達から聞いた。その時は、CDコンポの表示が変わったので、次のトラックに入ったことに気が付いた)の冒頭は、凱旋のラッパだなあ、と思い……、それゆえの「こんなの運命じゃない」発言だ。
「『運命』って呼ばれてるのは、」
 と、友達は総譜の最初のページを開き、「(八分休符)ソ・ソ・ソ・ミ」の音符を指す。
「このかの有名な「ダダダダーン」について質問した弟子に、「運命はこのように扉を叩く」って説明したっていう逸話からついてんの。でも、ベトベン(略称で呼ぶのはクラシックオタクの悪い癖だ。詳しくない人には全く通じない…と友達は普段は思ってはいるのだが、この時は説明しようという気持ちが先走っていて、注意を向けなかった)は、つまり、ここだけなの。『運命』はこのように展開する、とは言ってないわけ。」
「なんだ、じゃあ、最初だけで『運命』って呼んでんだ。」
 白い犬を「シロ」って呼ぶみたいな?と彼女は言い、それも全く「そうだね」とは言えない例えだな…と友達は思ったが、否定するのもバカバカしくなったので、肯定も否定もしなかった。「最初だけで『運命』と呼んでる」と言ったことだけは正しかったので、友達は「まあ、最初だけが『運命』なの」と答えた上で、
「それに『運命』が何も悲劇的だったりロマンチックだったりはしないと思うんだけど。こうやって、ここでポテトチップスを齧りながら、どうしよいもない話をしてるのだって、『運命』づけられてるんのかもしれないし。」
「それって、なんか、照れるー。」
「…………何が?」
「私と君が友達になったことも『運命』ってことになるじゃん。」
 改めて言われると、「うわあ」と呻きのような声を出す台詞ではあり、実際、友達は眉を寄せて「うわあ」と言った。ただ、そんな他愛のない縁でも確かに『運命』づけられていたのかもしれない、と言ったばかりなので、「うわあ」と言っただけだった。眉を思いっきり寄せて。
「そんな嫌そうな顔をしなくても。」
 傷つくわーと彼女は言いながらポテトチップスに手を伸ばし、
「でもさー、そうなるとやっぱり、これは「ダダダダーン」だって『運命』を表してないよ。」
「何で?」
「運命は、扉を叩いたりしない。そんなに親切じゃない。いきなり扉をぶちあけて強引に入り込んで家の中をめちゃくちゃにするか、こっそり忍び込んできて気が付いたときには背中に立たれて尖ったものを突き付けられている。そんなものだよ。扉を叩いて「入るよ」って言ってくれる『運命』はとても親切だなって。」
 と、ぽりぽりとポテトチップスをかじりながら、静かに言う。友達は、彼女をじっと見た。そうだ。最近、彼女は、家族を交通事故で――
「……、CD止めようか。」
 友達が言ったことは、そんなことだけだった。でもそれだけで、彼女は何かを感じ取ったようで、はにかむように笑ってから、首を振った。
「私の例えだと、悪いことばっかだな。いきなり扉をぶち開けて「ハッピーバースデー」を歌ってくれる『運命』もいるかもしれないし、こっそり忍び込んできて仕事を手伝ってくれる靴屋の小人みたいな『運命』もいるかもしれないし。扉を叩いて、荷物を届けてくれる『運命』もいるかもしれないよね。」
「……いきなり扉をぶち開けて「ハッピーバースデー」を歌うような『運命』は、すごくサイコホラーだけどな…」
「そう?じゃあ、誕生日きっかり0時に、扉をぶち明けて歌いに来てあげる。」
「……やったらやり返す。」
「上等だ!」
 と、彼女は笑い、交響曲は終結(「こーだ」と呼ぶらしい)に向かっていく。加速を続け、一気に駆け上がり、華やかに、運命の絶頂を高らかに歌い上げ、そして何度も何度も念を押す。4つの楽章、ハ短・変イ。ハ短・ハ調の調性の変化、3つの形式、いくつもの楽器。この交響曲で導入された楽器、明と暗、速さの変化。主題のカタチ。言いたいこと、言えなかったこと。様々な形を迎え、様々な展開を経ても、それでも、これで良かったのだ、これでこそなのだ、これが私の『運命』だ!という肯定の念を押すように。
 ジャーン……と音が鳴り響いて、間があって、CDが止まった。
「何でも、聴いてみないと分かんないもんだね。アニメと同じだ。」
 と彼女は肩を竦めてから、友達の持っている総譜を見やり、
「演奏会、いつだっけ?」
 聴きに行くよ、とは言わなかったが、そのつもりで尋ねた。



---------------あとがきのようなもの------------------

『運命』は全楽章を聴いてほしいんです!という、ただのクラオタの愚痴でーーすーよー

チャイコフスキーの弦楽セレナードも冒頭だけで
「ああ、あの曲ね」とか言わず最後まで聴いてほしい。





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