まよらなブログ

ヘヴンズフォール : 第1話-①


細々と長編オリジナル話の更新をしていきます。

タイトルは『ヘヴンズフォール』。
本日より、第1話の更新です。
まとまったエピソードを「第○話」としてますので、
今回は「第1話-①」という扱いになります。



まあ、読んでやってもいい、という方は「つづきを表示」からどうぞ。




『ヘブンズフォール』:
 第1話「あなたと一緒にいたいんだ」- ①
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 その街の名は、アイロットという。
 しかし、その名よりも【発掘都市】と呼ばれることの方が多い。【発掘都市】という呼び名こそ、その街を示しているからだ。
 街の歴史は非常に浅く、街として認められたのもたった20年前だ。もともとは荒れ地に痩せた畑と小さな集落が点在する、国境近くの淋しい土地でしかなかった。30年ほど前に住民が土地を開墾しようとしたところ、地中から見たこともない品物が掘り起こされた。それらは、この国の技術では作ることもできなければ、材料が何なのかも分からない品物で、突如滅んだ前時代の文明の遺産であると考えられた。
 考古学者がこの地の発掘を進めていくと、想像以上に巨大な遺跡が地下に眠っていることが分かった。王都の数倍の広さ(もしかしたらそれ以上かもしれない)をもつ遺跡からは、取り付くせないほどの品物が掘り起こされた。様々な太さの鉄の管、錆びない金属、軽く丈夫で鮮やかな色の板、つるつるとした表皮を剥くと現れる細い銅線…。遺跡のあらゆる部分から無限に発掘される【前時代の遺物】は『資源』として扱われ、科学者・技師・工場経営者たちが『発掘』にあたるようになっていった。
 遺跡から掘り起こされる『資源』によって、この国は生活基盤を飛躍的に向上させた。その『資源』は水道や電信に利用・応用され、今や生活になくてはならないものとなっている。『資源』を掘り起こし、加工し、流通させることが経済の一環になるにつれ、この土地には人が集まり、その人たちが使う店や宿ができ、彼らが生活するための家が建ち、彼らのための病院・学校・警察・消防・聖堂ができ、人が生活する街が出来た。
 失われた前時代の超巨大都市の上に、人が生活する街が出来た。
 それが、アイロットという街が【発掘都市】と呼ばれる所以だ。今日も、街には発掘の鶴嘴の音が響いている。

*****

 【発掘都市・アイロット】での『発掘』の時間は定められている。朝の8時から夕方の18時までの10時間。夜まで鶴嘴やハンマーの音が響いては眠ることも出来ない、というのが理由だ。8時と18時には、街の聖堂が鐘を鳴らす。その鐘を境に、甲高く土を堀り岩を砕く音が鳴り始め、鳴り終わる。
 10時になれば、鶴嘴の音は最高潮に鳴り響く。昼食の前の一働きだ。カンカン…という高い音は、住宅街の方にも響いてくる。(遺跡はあまりに巨大なので住宅街の下にも遺跡はあるのだが、居住区域と定められた場所の発掘は禁じられていた。)
 この街にやってきて一ヶ月のラファルは、その発掘の音にもすっかり慣れたな、と思いながら木箱を小脇に抱えて街を歩く。住み込みで世話になっている金物屋から発掘会社へ、特注品のネジを届けた帰り道だ。ラファルの隣には初老の女性、その足下には白ウサギがいる。黒髪で煤けたツナギを来ているラファルが全体的に『黒っぽい』色合いなのと対照的に、白髪の混ざるプラチナブロンドを一つにまとめ白いワンピースを着たその女性は『白っぽい』。年齢にしては小柄なラファルと初老の女性にしては背の高い女性だったので、並んで歩くと好対照だった。
 女性は、風呂敷包みを大切そうに抱えて歩く。風呂敷の中身は、配達先の会社から貰ったお菓子だ。その途中で、道行く人に「フィアルカさん。いい茶が入ったよ。今度店に来てよ。」と声を掛けられ、にこにこと手を振った。
「姫さん、知り合い?」
 ラファルがフィアルカと呼ばれた女性に尋ねると、彼女は頷いた。
「お茶屋さんよ。この前、お買い物に行ったときにお知り合いになったの。」
「そうか。…今度はおれも付いていこう。」
「必要ないですよ!このエアリアルがお供しているんですから!」
 フィアルカの足下で、白ウサギがどーん!と胸を張る。
「姫様に言い寄る輩は、わたしが蹴り飛ばしてやりますよ!だからラファルは家でお留守番をしてやがるがいいですよ!わたしと姫様の二人きりのお出かけを邪魔するんじゃないですよ!」
「そうか。なお、付いていこう。」
「きーー!このお邪魔虫がーー!!」
 エアリアルが飛び上がり、ラファルの膝を何回か蹴り飛ばした。それをラファルも脚でいなしながら、
「どっちがお邪魔だよ。お前が付いてこなければ、おれと姫さんは完全に駆け落ちだったんだぞ。」
「か…、か、か、か、駆け落ち!?姫様と駆け落ち!?無礼な!不埒な!破廉恥な!」
 きーー!とエアリアルは叫んで、ラファルの手の甲に前歯で噛みついた。ラファルはエアリアルの首根っこをつかみ自分の手から引き離すが、首根っこを掴まれたままエアリアルはラファルの顔を蹴り上げた。「この暴力ウサギ!」「このマセガキ!!」と口げんかを始める一人と一匹を、
「あらあら。仲良しねえ。」
 にこにこしながらフィアルカは眺めてから、やんわりと窘めた。
「でも、二人とも。道で喧嘩したらお邪魔になっちゃうわ。喧嘩は帰ってからにしましょうね。」
「…姫様がそう言うのなら。帰ったら、どちらが姫様に相応しいか決着をつけますよ!」
「ああ、望むところだ!」
 首根っこを捕まえられたまま、びし!と前足をラファルに突きつけるエアリアルを、ラファルは小脇に抱えた木箱の中に放り込んだ。エアリアルは不満そうにしながらも、木箱から顔を出し運ばれるままになる。フィアルカは「あらあら。やっぱり仲良しね」と微笑んだ。
 そのフィアルカの前方から、大柄な男が肩を怒らして歩いてきた。十分な道幅はあったが、フィアルカのことを避けるでもなくそのまま直進してくる。そして、その男の肩がフィアルカに乱暴にぶつかった。
「きゃっ。」
 ぶつかっただけではなく押されるような力もあって、フィアルカがよろめいた。咄嗟にラファルが支え、木箱から身を乗り出したエアリアルが「姫様!?」と悲鳴を上げる。ぶつかった男が「気をつけろ、ばあさん!」と怒鳴り、ラファルとエアリアルから殺気が膨らんだ。フィアルカはそれを手で制し、ぶつかった(ぶつけられた、と言った方が正確だったが)相手にやんわりと「ごめんなさいね。」と伝える。男は答えずに肩を怒らして去っていく。ラファルとエアリアルが男の背中に向かって、びゅ!と親指(エアリアルは前足そのものを)を下に向けた。
「災難だったね。大丈夫かい?」
 道で果物を売っている露天商がフィアルカに声をかけてきた。フィアルカは持っていた風呂敷包みを持ち直しながら、
「ええ。でも、この子(といってラファルを指した)が支えてくれたから転ばずにすみました。」
「いいお孫さんだね。」
「ッ孫じゃねえよッ!」
 ラファルが地団駄を踏みそうな勢いで否定した。露天商はラファルの剣幕に思わず謝罪をした。エアリアルが前足で口を押さえながら「ぶふー!」と笑うので、ラファルはその首根っこを掴んでやろう…としたが、エアリアルは木箱を飛び出しフィアルカの足下に降り立ち「ラファルじゃ孫にしか見えませんよ!」とからかい始めた。言い合っている一人と一匹のことは完全に流しながら、フィアルカは肩のぶつかった相手の背中を見つつ、感心すら伴って呟いた。
「…世の中には乱暴な方もいらっしゃるのねえ。」
 良家の奥様といったフィアルカの発言を聞き、露天商は「外から来たの?」と尋ねる。フィアルカが頷くと、得心したと頷いて、
「この街は特にね。発掘で一山当ててやろうっていう流れ者も多いから。最近は事件も多いんだ。気をつけなよ?」
「まあ…。」
「この辺でも、半年前に強盗殺人があってねえ…。都から来た人みたいだけど…。」
「まあ…。ここでご商売されるのも心配ねえ。」
「まあねえ。警察も見回りをしてくれるんだけど、それだって十分じゃないからねえ。」
 と露天商は溜息を吐いた。
「騎士様も殺されたって噂があるぐらいだよ。ホントに年々治安が悪くなってく。」
「…騎士が殺された?」
 フィアルカの声が少し固くなる。ぴょんぴょん跳ねてラファルを馬鹿にしてたエアリアルと、そのエアリアルをとっつかまえようとしていたラファルがぴたっと止まり、露天商に視線を向けた。
「それ、どんな噂?」
 ラファルが、好奇心を装って露天商に問いかける。露天商は「おっと。」と苦笑してから、
「噂を軽々しく口にするもんじゃないね。一ヶ月とちょっと前に、発掘作業の見回り中に足場が崩れて下敷きになった…っていう事故なんだ。ただねえ、転移の【妖精返り】だったから崩れる足場から逃げることも出来ただろう…って噂されててね。まあ、親切な騎士様だったから、みんな憶測しちゃうんだよ。…そういえば、ウサギさんは何の【妖精返り】?」
「わたしは空気と風を操れますよ!レアですよ!」
 えへん!と胸を張るエアリアルに、そりゃ大したもんだ、とさほど感心してない様子で露天商は相槌を打つ。その間にフィアルカはラファルの顔をちらりと見た。ラファルは少し眉を寄せ、唇を引き結んでいる。自分のミスに気づいた、そんな顔だ。
「…ラファ」
 フィアルカがラファルに声をかけようとしたとき、タタタ…!と足音がして
「すみません!匿って!」
 と、女性が露天商のテーブルに敷いた布を捲り上げ、その中に潜り込んだ。「ええ!?困るよ!」と露天商は声を上げたが、聞こえてくる幾つかの太い怒声を聞いて黙り込んだ。年々治安が悪くなっていく、といった露天商は、何らかのトラブルに合っている(もしかしたら、トラブルの発生元かもしれないが)女性を匿うことにしたらしい。
 若い女が複数の男に追われている…ってなれば女の方を助けようとするよな…とラファルは思いながら、道に駆けてくる数人の男たちを見た。先ほど露天商が言っていた『発掘目当ての流れ者』の一員なのだろう。どこかの街で暮らせなくなってこの【発掘都市】に流れ着いた…と解説されても文句は言えない風体の一団は、道沿いに置いてある木箱や植木鉢なんかを蹴り飛ばしながら、女を捜して歩いてくる。威嚇なのか八つ当たりなのか面白半分なのか、いずれにせよ傍迷惑な一団だ。
「この店も、アレ、やられるかな。」
 ラファルは、道沿いの店前に置かれた壷を割る柄の悪い男を指して、囁いた。露天商はぐっと口を引き結んでから、
「構いやしない。匿ってやる。また、この通りで人殺しなんか起きたら、それこそ商売できなくなるからね。」
 と、女性が隠れているテーブルの前に、椅子を置き直し、そこにどん!と腰を据えた。そして、フィアルカを見上げて忠告した。
「あんたみたいないいとこの奥様、難癖をつけられて金をとられるよ。逃げなさい。」
 フィアルカは露天商を見つめ、そして、にっこりと満面の微笑みを浮かべた。それは本当に嬉しそうでいて、そして慈愛も感じさせ、なぜかその前に頭を垂れたくなるような、そんな笑みだった。
「果物屋さん、あなた、良い方ね。」
 私が護るべき人だわ、とフィアルカは囁いて、
「ラファル。」
「了解、姫さん。」
「エアリアル。」
「はい、姫様。」
 共にいる少年とウサギの名前をフィアルカが呼ぶと、それぞれはすべてを心得た、と頷いた。ラファルは頭の後ろに手を組んで、一団の騒ぎを眺め、エアリアルは女性が隠れているテーブルの下に潜り込む。そうこうしているうちに、一団の一人が露天商に目を付けて問いかけた。
「女を一人捜している。黒髪の女が通ったばかりのはずだ。」
「黒髪の女なんて、いくらでもいるだろう。通ったとしても、それはあんたの探してる女かどうかも分からんね。」
 と、露天商は言いながら、しっしっ!と手を振った。
「商売の邪魔だ。」
 露天商の前に立った男は舌打ちをして、置かれた果物籠を払い飛ばした。露天商が一瞬身を竦めたが、椅子から立ち上がる真似はしなかった。代わりに、
「あのさ、女を探してるんだろ?」
 と、ラファルが男に声を掛ける。果物籠が払いのけられないように、自分の体を籠の前に立たせて、気楽な様子で続けた。
「果物をひっくり返して見つかるような小ささじゃないだろ?女が隠れられそうなとこを探したら?たとえば、」
 ラファルは、露天商のテーブルを指した。
「あの布の下とか。」
「……ちょ…っ!」
 露天商が慌てるが、フィアルカがその露天商の肩に手を置いて「静かに」と鋭く囁いた。有無を言わせぬ響きに、露天商は押し黙る。
「そこにいなかったら、この店には隠れるとこはないだろ?別のとこ探しにいきなよ。その方が早いし、おれらも買い物できるしさ。」
 ラファルの気安い提案に男は舌打ちをして、露天商を乱暴に押しのけてテーブルの前に立つ。テーブルに敷かれた布を捲り上げると、その下にはバケツが転がっているだけだった。
「ほら。ここには女は隠れてない。他に隠れられるようなとこもない。別のとこ探しな。」
 ラファルがそう言うと、男は盛大に舌打ちをして腹いせにもう一つ籠をひっくり返し、露天商の前から去っていく。男が去るとすぐにラファルが捲り上げられた布を元に戻し、散らばった果物を拾い上げる。露天商だけが何が起きたのか分からずに、フィアルカを見た。確かに、テーブルの下には女性とウサギがいるはずなのに。
 フィアルカは「蜃気楼ですよ」と答えてから、果物を拾い上げる。転がった果物へ視線を向けた露天商は、気が付いた。先ほどテーブルの下にあったバケツとまったく同じものが、通りに同じように転がっている。
 すぐに通りは静かになった。通りを一通り荒らした一団は、女性が見つけられずに去っていった。フィアルカはそれを見送って、「世の中には、乱暴な方々がいるのねえ…」ともう一度妙な感心をした。
「もう大丈夫ですか?」
 と、のそのそとテーブルの布の下からエアリアルが這いだしてくる。
「ん。大丈夫だ。」
 ラファルが応えると、エアリアルは布の向こうに向かって「どうぞ、出てきてください。」と声を掛けた。恐る恐ると、女性は出てきた。長い黒髪を降ろした、30歳前後の女性だ。ラファルが手を差し出すと、礼を言ってその手を取り立ち上がる。すらりと痩せた身にパンツスーツを着ている。落ち着いた雰囲気を感じるが、この状況でも落ち着いた雰囲気を醸し出せる辺り、冷静な女性なのだろう。怪我はない?とラファルは女性に聞き、さっと彼女の全身を眺め…、彼女のジャケットのポケットに黒色のクリップが射してあることに気が付いた。クリップと思ったがそれは黒いネクタイピンで、それに気づいたときにラファルは一瞬息を飲んだ。(ラファルの息づかいに気づいたのは兎の聴力をもつエアリアルだけだった。)
「ご迷惑をおかけしました。」
 女性は露天商に頭を下げてから立ち上がる。荒らされた通りを見て、唇を噛んでから、
「こちらにお住まいの方々に、必ず弁償に伺います、と伝えてください。でも、今は。申し訳ありません。逃がしてください。」
 もう一度、深々と頭を下げる。あんたが弁償する必要はないよ、と露天商は手を振ってすぐに去るように示した。
 長い黒髪の女性は、エアリアルとフィアルカとラファルに視線を向け、
「ありがとうございました。この兎さんの力で助かりました。」
「空気を操作して蜃気楼を見せてやりましたよ!」
 えへん!と胸を張るエアリアルに弱々しい微笑を向けた女性は、初老の女性と少年を巻き込んだことに痛烈な申し訳なさを感じたらしい。深々と「本当に申し訳ありませんでした」と頭を下げてから、逃げるために走り出した。
「……、姫さん。」
 その女性の長い黒髪が揺れる様を見つめながら、フィアルカに尋ねた。
「あのお嬢さんを追ってもいいかな?」
 フィアルカの返事より先に、エアリアルが「きー!」と声を上げる。 
「この女たらしが!姫様!やはりこの男を信頼してはいけませんよ!」
 エアリアルがずだんずだん!と後ろ足で地面を叩く。普段なら言い合いになる場面だが、ラファルはフィアルカをじっと見て、
「頼む。」
 とだけ言った。フィアルカは頷いて、ラファルが運んでいた木箱を持った。
「分かりました。私たちは、ここのお片づけのお手伝いをして…、それからお店に戻るわね。」
「ん。ありがとう。エアリアル、姫さんのこと頼むぞ。」
「姫様を放っていくつもりですか!?お勤めを果たしなさい!でも、言われるまでもないですよ!姫様の護衛はわたし一匹で十分ですよ!」
 エアリアルがきーきー!と文句とも了承ともつかないことを口にするが、それはほとんど聞き流してラファルは黒髪の女性を追った。
 ―― より正確に言うと。彼女が持っているネクタイピンを追った。


第1話‐②へ続く》

-----------あとがきのようなもの----------------

細々とした用語については追々解説する……と思われます。


前回も書いた通り、
この話は「うちの世界樹3話の焼き直し及びリベンジ」という要素も含んでおります。
【発掘都市】と書くと、「ゴダムか?(新世界樹ネタ)」となるのですが、
世界樹シリーズ・5階層の『採集』のイメージをもうちょっと書きたかったな…
という思いから出来た街の設定です。

街の名前『アイロット(Airot)』は『トロイア(Troia)』の逆読みです。
「発掘……発掘といえばシュリーマン…シュリーマンと言えばトロイ…」
な連想ゲームで決めました。



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