まよらなブログ

ヘヴンズフォール : 第1話-②


本日、本館サイトを閉鎖しましたが、
こちらは淡々と長編オリジナル話の更新をしていきます。

タイトルは『ヘヴンズフォール』。
本日は、第1話‐②の更新です。
サイトの方からここに辿り着いた方に説明しますと
『少年とおばあちゃんによる、騎士と姫の純愛物語』となっております。
……ただの『少年』と『おばあちゃん』かどうかは追々ね。


まあ、読んでやってもいい、という方は「つづきを表示」からどうぞ。




『ヘブンズフォール』:
 第1話「あなたと一緒にいたいんだ」- ②

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 女性を追ったラファルは、路地裏で二人組の男に捕まったその女性を見つけた。物影に隠れて、様子を窺う。女性は口を塞がれて、壁に押しつけられている。気絶させて連れて行こう、と一人が言うが、もう一人が少しはいい思いをしてもいいだろう、と下品に笑い、女性のジャケットに手を掛けた。女性は脚をばたつかせて抵抗するが、その脚ももう一人に押さえつけられる。ラファルは素早く飛び出して、男の一人に横から体当たりをした。その際に、男の手が女性のジャケットの胸ポケットに挿されたネクタイピンを弾く。口が自由になった女性は、ピンが落ちたことにに小さな悲鳴を上げた。
 その小さな悲鳴を聞きながら、体勢を崩し地面に転がる男の鼻をラファルは蹴りつけた。蹴りつけた足には安全靴。鉄板入りの靴に蹴り上げられて、男は叫び声を上げる。もう一人がラファルに向かって拳を突くが、それを紙一重で避け…たかと思うと、男の顎を掌底で打ち上げる。脳を揺らされたのだろう。男はふらついてから、倒れた。
「お嬢さん!走れるか!?」
 ラファルが女性に強く問いかけると、ピンを拾い上げた女性は頷きながら身を起こし…、それと同時に鼻を押さえた男がナイフを持ち出してラファルに向かう。
 ラファルはそのナイフとすれ違うつもりで地面を蹴り、実際、ナイフはラファルの肩を浅く切り裂いた。一瞬だけ、ラファルは顔を傷みに歪めたが、躊躇いなくナイフとすれ違い、地面を転がるようにして顎を蹴りつけた男の背後に抜けた。男に脚払いをかけてから、女性の手首を掴み、路地を走り出す。走りながら女性に確認をする。
「お嬢さん、怪我は!?」
「わ、私より、君…!君、肩に怪我を…!」
「平気だ。」
「平気って…!」
 と女性は反論しようとする…のだが、切られた彼の肩に青い火花が散るのを見た。妖精返り…?と女性が囁くのをラファルが聞いたが、否定も肯定はせず、代わりに、
「一つ、聞きたくて追いかけてきた。けど、まずは安全なとこに行こう。」
 そう伝えるラファルの丸い後頭部を見つめつつ、女性はそれに従うことしか今は選択できないことを悟っていた。
 
****

 ラファルは馴染みの店の入り口と裏口を使わせてもらいながら、表通りと裏通りを行き来して、追っ手を攪乱する。【発掘都市・アイロット】は都市計画を元に街が出来たわけではないため、道は非常に入り組んでいた。店を通路にしたショートカットは、その入り組んだ道を一瞬で通り抜けられる。
 ラファルは女性を連れて何回目かの路地に出た。この辺までくれば安心かな、と呟いてから、ラファルは女性を見上げる。女性もラファルを見て、
「…さっきの…兎さんと一緒にいた子よね?あの、肩は大丈夫なの?」
「ああ。それは心配しないでくれ。」
 と、こともなげに言う。女性がラファルの肩を見ると、そこに傷はなかった。塞がった…というよりも、そもそも無かった。女性は、確かにナイフがこの少年の肩を切り裂いた…と思うのだが、あれは見間違いだったのだろうか…と瞬きをする。ラファルは、この話をこれ以上するつもりもなく、自分の用件を口にした。
「おれはラファル。あんたに、聞きたいことがある。」
 ラファルは、女性のジャケットに挿してあるネクタイピンを指す。黒いネクタイピンには琥珀らしい石が一粒、付いていた。
「ザカートのだな?」
 女性は、なんと答えるのがこの瞬間の正解かを、2秒ほど考えてから、
「どうして、これが誰かの物だと分かるの?」
 と聞いた。ラファルは苦笑を浮かべた。
「ん。咄嗟に考えたにしてはなかなかの質問返しだな。そうだ、と答えるにもリスクがある。違う、と答えたときには、味方を見逃す可能性もあるもんな。まあ、でも、それがザカートのものだって言える理由は簡単だ。ザカートに見せて貰ったことがあるからだ。祖父さんの形見だって言ってた。」
「……。」
 女性は眉を寄せただけだった。この説明だけでは、なんとも判断できないのだろう、とラファルは思う。ラファルは溜息をついてから、声のトーンを落とした。そして、自分が彼女を…というよりそのネクタイピンを追ってきた理由を話す。
「…なあ。おれもさっき聞いたばかりなんだが…、転移の【妖精返り】の騎士が一人、事故死したらしいな?そいつの名前は、ザカート?」
「…ええ。」
 当時の新聞でも読み返せば明らかなことなので、女性は肯定した。そうか、とラファルは呟いて、
「…おれの後輩…あー…ザカートの先輩が言ってたんだが、」
 ラファルが話し出したが、おれの後輩がザカートの先輩…と聞こえる一言だった。ラファルは13、4の少年だし、事故死した騎士・ザガートは20代だった。が、今はそれを追求するときではないのだろう、と女性は理解した。話の続きを促す。
「…2ヶ月前に、そいつのとこに、ザカートから手紙がきたらしいんだ。近況をつげる手紙だが、妙だって言っていた。……、暗号なんじゃないか、と思ったが、どうにも読みとけなくてな。そういうのが得意なやつは長期出向中だし。」
 女性の表情が明らかに変わった。目を開き、固く引き結んでいた口が緩く開く。彼女は、ひゅう、と音をたてて息を吸い、そして静かに尋ねた。
「……、その、手紙を受け取った人の名前を聞いても?」
「ああ。エクリプスっていう騎士だ。」
 女性はその名前を聞いた途端、内ポケットから便箋を取り出した。4枚の便箋に書かれた文字を見て、強烈な懐かしさを感じた。字には見覚えがあった。死んだ騎士、ザカートの物だ。
「……そ、その人のところに、この…紙を届けて…と!」
 女性の声が震えている。それまでの淡々とした喋り口調が一転する。動揺よりも高揚だ。やっと使命が達成できるという高揚だ。
「あの人、あの人は、…そう、最後にそう手紙をくれたの…!ネクタイピンは…それと一緒に届いて…!これを見せれば…自分からだって分かるからって…」
 彼女が頼まれた手紙が『暗号】の鍵になるのだろう、とラファルは気づいたらしい。苦々しそうに、「……、あの馬鹿…!」と呟いた。
「…女を巻き込む真似しやがって…!」
 その独り言に女性は首を振る。
「ま…巻き込んだのは、私…!ザカートは、協力してくれて……、あの人を、悪く言わないで…!」
「……、」
 ラファルは、息を吐き、
「…分かった。お嬢さん。だが、ザカートに代わって謝らせてくれ。あいつは君を危険な目に遭わせたことを、絶対に後悔してる。ザカートとは…、…ただの文通相手や友達ってわけじゃないんだろう?」
 女性はぽろぽろと涙をこぼした。ラファルの問いかけに、頷きも首を振ることもしなかったが、その涙の量で『ただの文通相手』でも『友達』でもなかったことは明白だ。
「危険な目に遭わせて、申し訳なかった。手紙を届けてくれてありがとう。」
 ラファルは代わりに言葉を真摯に伝えた後で、ラファル自身の言葉で伝えた。
「ザカートに代わって、君の安全はおれが保証する。だから、ひとまず、付いてきてくれないか?」
 女性は涙を拭いながら頷く。ラファルは手を差し出して、「じゃあ、行こうか、お嬢さん」と声を掛けた。女性は、幾分しっかりした声で、
「ペルラ。…ペルラ・パレルソン。」
「ん?」
「私の名前。さすがに10歳以上年下の男の子に『お嬢さん』と呼ばれるのもどうかと思って。」
 それもそうだ、とラファルは苦笑し、改めて誘いなおした。
「それじゃあ、ペルラさん。おれの家にご案内するよ。さっきおれと一緒にいたご婦人と兎もいる。」
 きっと力になれる、と断言しながら差し出された手をペルラは見つめ、小さく溜息を吐いた。
「…君、幾つなの?」
 呆れたような声色に、ラファルは肩を竦めただけだった。

******

 ペルラが連れこられたのは、一軒の金物屋だった。ラファルはここで住み込みで働かせもらってる、らしい。
 周囲を気にしながら、二人は小走りに店の中に駆け入った。こじんまりとした店には、鍋や工具や窓枠やらが並べられている。発掘された軽い板を加工したものや、発掘されてそのまま売りに出された鉄管も、店の隅に置かれている。日常の道具から、ちょっとした建築資材まで取り扱っているようだ。
「おかえりなさい!遅いから心配したわ。」
 フィアルカが出迎えて微笑むと、すまなかった、とラファルも微笑み、
「足がつかないように遠回りしてきた。」
「…足がつかないように、ねえ。」
 奥から低い男性の声がした。ペルラが目を向けると、暗い店の奥にレジの置かれたテーブルがあり、その前に栗色の髪に白いものがまざった壮年の男性が座っていた。彼は、テーブルの前から立ち上がり、
「…フィアルカさんから話は聞いたが、厄介事はごめんだぞ。お前等でどうにかしろ。俺は話は聞かん。」
「ん。すまないな、親父さん。」
「俺は奥に引っ込んでるから、店仕舞いはお前でしろ。もう店を閉めたっていいからな。」
「ああ。ありがとう。」
「家主さん、ありがとうございます。」
 ラファルとともにフィアルカも礼を言うと、男性は頭を掻いて、奥のドアを開けて店から出ていった。店を話をする場所に使ってもいい、という許可らしく、男性はこの店の店主なのだろう。ラファルは、じゃあとっとと店仕舞いをするか、とドアに『閉店』の札をかけた。いいのか…と思っているペルラにフィアルカが手招きして、さっきまで男性が座っていた椅子を薦めた。フィアルカ自身は店の商品らしい椅子を引っ張ってきてそこに座り、エアリアルを膝に乗せる。
「果物屋さんがね、あなたのこと心配してたわ。怪我はなかった?」
 フィアルカが穏やかに問いかけ、ペルラはおずおずと頷く。店のドアに鍵を掛けたラファルがテーブル近くに積まれた木箱に腰を下ろした。
「姫さん。多分だが、ペルラさんは騎士団のごたごたに巻き込まれてる。」
 フィアルカに告げた言葉だが、びくっと身体を震わせて反応したのはペルラの方だった。一方、フィアルカは「まあ、ペルラさんと言うのね。私はフィアルカ、この子はエアリアルよ。」と暢気に自己紹介をした。
「…、騎士団のことだと…分かるの?」
 ペルラがラファルに尋ねる。そりゃあね、とラファルは肩を竦めた。
「ザカートがわざわざ前の上司に暗号の手紙を送るっておかしいだろ。任務で必要なら、自分の今の隊長か命令を出してる上の連中に送る。おまけに、外部の人間の君にも手紙を届けさせようとした。近くにいる騎士は頼れなかったってことだ。そうなれば、その近くにいる騎士の告発か、騎士団そのものに関わる問題か…って考えるだろ?」
「まあ…。それって、『内部告発』というもの?」
 フィアルカがおっとりとラファルに問いかけると、おれの予測が正しければね、と返事が返ってきた。ペルラは一度、胸ポケットのネクタイピンに触れてから、ジャケットの内側のポケットから4枚の便箋を取り出し、テーブルに広げた。
「…ラファル君の予測の通り、ザカートがしようとしていたことは内部告発です。」
 便箋のうち、2枚にはブルーブラックのインクで、文章が書かれている。書いてあることは飼っている犬の話で取り留めもないが、ぎくしゃくとした文章だった。彼は犬を飼っていないはずだし、とペルラは言い、ラファルが「あいつ、犬苦手だからな」と呟いた。ブルーブラックのインクの文章の横に、鉛筆でメモがしてある。こちらはペルラのメモのようで、文章の中の規則性を拾い出していた。フィアルカは、残りの二枚の便箋を取り、眼を落とす。箇条書きがいくつか並んでいる。手紙と同じ人の文字が並んでいるが、その二枚は手紙ではない。リストだ。
「……、七宝の、花瓶…2000万…。6面、の…時計、…1000万…」
 フィアルカは箇条書き数個読み上げてから、顔を上げペルラを見た。静かな表情の中、眼に鋭さが宿る。
「これ、この都市の王領地にある【前時代の遺物】ね?」
 フィアルカの一言に、ペルラは息を呑み、頷きながらも「どうして分かるんですか?」と聞き返した。フィアルカはそれには答えず、
「王領地の立ち入りは禁止され、王家の許可がなければ砂粒一つ持ち出せない。それがこの国の決まりよね。そして、王家と王の地を守るのが騎士の務め。王領地の警備を任されている騎士が、このリストを書いた、ということは…、」
 答えはもう導き出されていたが、フィアルカはペルラに便箋を差しだし、眼を向けた。答えは貴方から聞きたいのだ、と視線だけで告げてくる。ペルラは頷き、便箋を自分に引き寄せて、一息吸う。
「…私は、王立大学で働いています。…今年に入ってすぐに…、この都市で発掘された【前時代の遺物】と思われる短剣が…持ち込まれました。数年前に、大学の調査隊がこの街の王領地の調査を行っていますが…、そのときに発見した品物にもよく似たものがあり…、当初は調査隊が発掘品を横流ししたのではないか…と調査を行っていたんです。…でも、定期的に裏市場に王領地の発掘品が流されていることが分かって…。大学の調査が終わった今も、誰かが王領地に入り、そこから発掘品を密売している…。そう考えられ、私の上司がこの街に向かったのですが、…半年前に強盗に遭い、亡くなっています。」
 露天商が「この通りでも半年前に強盗殺人があった」と話していたことをラファルは思い出したが、偶然の可能性もあることだ。口にはしない。
「上司の調査記録を調べていくと、この街の王領地の管理を任されている騎士隊が怪しいと思えて……。そのときに、この街の騎士隊の一員であるザカートが出張で都に来ていて…、私に会いに来ました。上司の事件を調べていて…、私と同じ疑惑に達したようでした。それで、ザカートは隊の内部から…、私は密売ルートの方から、王領地からの持ち出しを調べて……、」
「そして、ある日、この手紙が届いた、のね?」
 ペルラは小さく頷き、口に拳を当てた。
「手紙が来たとき、ザカートが危険だって分かったんです。殺されてしまうかもしれないから、証拠を私に渡そうとしてる…と。それで、発掘都市に来て……、」
 ペルラは俯き、顔が長い髪に隠れた。
「…そのときにはもう…彼は『事故死』していました。」
 声は震えてはいなかった。心を動かすまいとするあまり、そこには何の感情も乗っていなかった。感情を乗せてしまえば、泣き出す。泣き出せば、屈してしまう。ペルラは、そう考えているのだろう。
「手紙の暗号を解いて…、彼が隠していたそのリストを見つけました。リストには「エクリプスという騎士にリストを見せるように」とも書かれていました。よく…話していました。お世話になった先輩たちのことを。もし、本当に隊が密売に関わっていても、その人たちがきっと助けてくれて、私のこともきっと守ってくれるから。だから、証拠を絶対見つけるって。」
 ぎ…っ!という鈍い音を微かに聞き、フィアルカは音の方を見た。ラファルが顔を強ばらせて、床を見つめている。奥歯を噛みしめている。音が出るほどに。
「…リストを見つけて…、私は彼の言っていた騎士に会おうと、街を出ようとして……、でも、私がリストを見つけたことを密売の首謀者に知られて……。騎士が雇った人たちだと思うのですが…、彼らに追われて…、」
「果物屋さんに匿って貰ったのね?」
 フィアルカが言葉を続けると、ペルラは、こくん、と頷いた。今になって襲われたことへの恐怖が湧いて、ペルラの拳が震える。ラファルが立ち上がりペルラの手に触れようとしたが、触れることで安心させられるか分からずにその手を引っ込めた。ラファルの躊躇いを察したのか、フィアルカがペルラの拳に己の手を重ねる。
「…悲しい思いも怖い思いも、沢山されたのね。」
 静かにそれだけをフィアルカは口にして、ペルラは今度は大きく頷いた。けれどもすぐに首を振り、
「…ザ…ザカートが…感じていた思いに比べたら…、きっと…なんてこともない…!彼…、正義感が強くて…だから、自分の同僚が密売に絡んでるなんて知って…すごく悲しんだだろうし…怒りもあっただろうし……、死んだときだってきっと…怖かったはず…!」
「…そう。」
 フィアルカはペルラの手を胸に押し抱いた。大切な我が子を抱きしめるようだった。しかし、実際。フィアルカにとって、ペルラは大切な『子』のようなものだった。死んだザカートもペルラを守ってやろうとした露天商も街で声をかけてくる友人たちもラファルも、フィアルカにとっては等しく大切な『我が子』なのだ。
 その大切な『我が子』の手を愛しそうに抱きしめながら、
「その人のことが、本当に大切なのね。」
 あなた自身よりも、と。言外にそんな言葉を添えて、フィアルカは囁いた。大切だったのね、ではなく「大切なのね」と言われたことに、ペルラは顔を上げ、…そしてやっと泣き出した。泣き出しながら頷いた。
 フィアルカはペルラの背中に手を回し、よしよし、とその背をさする。ペルラの嗚咽を受け止めながら、応えるのだ。
「あなたの大切な人が伝えようとしたこと、私はしかと聞きました。よく、ここまで伝えに来てくれました。」
 そして、傍らに立つラファルを見上げつつ、ペルラに宣言した。
「あなたにもう、これ以上、苦しい思いをさせないわ。」
 ペルラには宣言であったが、それはラファルには『命令』だ。だから、ラファルは静かに頷いた。


第1話-③へ続く》

-----------あとがきのようなもの----------------

この話は「うちの世界樹3話の焼き直し及びリベンジ」という要素も含んでおります。
そんなわけで、エアリアルはスハイルの焼き直し、ペルラはオリヒメから派生したキャラです。

ペルラは29歳のキャリアウーマン、ザカートは22歳の若手騎士です。
なんかこう…、女性が年上のカップルが多い話になりそうです。

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