まよらなブログ

ヘヴンズフォール : 第1話-③


ひっそりと長編オリジナル話の更新をしています。

タイトルは『ヘヴンズフォール』。
本日は、第1話‐③の更新です。
アクションシーンを入れたい…と思っていたのですが、長くなるのでがっさり削りました。
第1話はすごく淡泊だな、て思ってます。



まあ、読んでやってもいい、という方は「つづきを表示」からどうぞ。




『ヘブンズフォール』:
 第1話「あなたと一緒にいたいんだ」- ③
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 ペルラは一晩、フィアルカの部屋に泊めてもらい、夜明け前にラファルに連れられて発掘都市の外れにある集積所に忍び込んだ。そこには都市の発掘品で『資源』や『商品』となるものを運び出すための、荷馬車が集まっている。そのうちの一つに目を付けたラファルは、荷馬車の幌を捲りあげ、中に潜り込んだ。中にある荷の札を見て「【巡礼都市】行きか。」と呟いてから、
「ペルラさん、これに乗れ。途中、適当な街で降りるんだ。そしたら、その街の聖堂会に保護を頼んでくれ。男に目を付けられて命が危ない…っていえば、尼僧院が匿ってくれる。エクリプスに連絡を取るのは、そこからにした方がいい。これ、エクリプスの連絡先。」
 と、ラファルはツナギのポケットからメモと封筒を取り出した。そして、その二つをペルラに渡す。ペルラは連絡先の書かれたメモを見て頷き、それから封筒の中身を見た。数枚の紙幣が入っている。安くはない額だ。
「御者に見つかったときの買収用。乗車賃代わりには十分だろ。」
 と言いながら、ラファルはペルラに手を差し出す。乗れ、ということらしい。ペルラは首を振り、ラファルの手に封筒を押しつけた。
「メモは受け取る。でも、お金は受け取れない。」
「姫さんからだ。受け取ってくれないと、おれが叱られる。申し訳ないと思うなら、落ち着いてから返しに来てくれよ。」
 ラファルは封筒をペルラに押しつけ返した。ペルラはきゅっと唇を結んでから、
「…ありがとう。必ず、お返ししにきます。」
 そう言って封筒を受け取り、ラファルの手を取った。ラファルは荷台の上からペルラを引っ張り、彼女が荷台に乗るのを手伝ってから、自分は荷台から飛び降りる。
「荷物の間に隠れていて。ペルラさんは細いから、収まるだろ?」
「君、一言余計ね。」
 ペルラはそう咎めてから、幌を元に戻そうとするラファルの手を押さえてから、
「……ザカートは、お世話になった先輩が二人いるって言っていた。…一人は、エクリプスという騎士で最初の任地での隊長だった。もう一人は、見習い時代に力の制御を教えてくれた人だって。」
「…そう。」
「…小さいけれど頼りがいのある騎士だった、て。―― もしかして、」
 ペルラは何かを問いかけようと口を開いたが、ラファルが微笑を浮かべて首を振る。ペルラは息一つで問いかけを止め、代わりに一言、
「…彼は、その人のようになりたい、と言ってた。」
「――、そう。」
 ラファルは目を細めて、
「ザカートは、そいつよりよっぽど立派な騎士になったよ。」
 と言った。ペルラは返答に困った様子を一瞬だけ浮かべたが、
「ええ。私も、彼は最高の騎士だと思ってる。」
 と答え、ラファルは嬉しそうに笑った。「ありがとう」と言って笑った。笑ってから、
「さ、ここでお別れだ。無事を祈っている。」
「ありがとう。フィアルカさんとエアリアルちゃんと…あと、あの果物屋さんにも御礼を伝えて。」
 ペルラがそう言い、荷台の奥へと引っ込もうとしたときだ。ざ…!と隠しもしない足音が響いた。
「……、本当に居た。」
 同時に声もした。並ぶ荷馬車の間から、中年の男性が歩み寄ってくる。中肉中背の、それでいて恰幅のいい男性だ。身なりも整っている…が、開襟型の黒の軍服(この国では騎士の制服なので、騎士服と呼ばれるのだが)を身につけており、身なりが整っているように見えるのは服のせいかもしれない。
 ペルラはその男性を見て、息を呑んでから、
「…アンファング隊長…。」
 と、名前を呟いた。男性の名前らしく、その男はペルラを見て目を細めた。人当たりが良さそうな笑みを浮かべている。
「お会いしたことがあったかな?それとも、調べてくれたのかな?……いや、」
 そして、アンファング、と呼ばれた男は笑みを消した。代わり…というわけでもないのだろうが、右手を胸の前に上げる。その手には拳銃が握られている。拳銃を否応でも眼に入る位置に持ちながら、アンファングは続けた。
「ザカートから聞いたのかな?」
「……っ…」
 ペルラはぐっと唇を噛みしめた。
「……密売の容疑者か?」
 ラファルは手を上げつつ、ペルラに尋ねる。彼女は頷いて、荷馬車からラファルの背後に飛び降りた。そして、アンファングにまっすぐ向き直り、
「あなたが怪しい、とはザカートは言わなかった。けれど、あなたを信用はしてなかった。」
「そうだろう。信用していれば、密売に気づいたときに私に相談する。」
 アンファングは歩みを止めた。荷馬車一台分の距離がある位置で。
「ザカートも、まずは上司たる私に相談をしてくれれば良かったのに。そうすれば、【龍討伐部隊】にでも配置換えさせた。」
「…死なせるつもりで配置換えさせた…ってことか?」
 ラファルが聞くと、アンファングは頷いた。
「死亡率が4割を越える部隊だ。彼は事故死ではなく名誉ある死を得られ、彼の口も封じられる。…良いことづくめだよ。」
 アンファングの最後の一言に、ペルラの頭にかっと血が上る。一方、ラファルはただ低く…苦々しく、舌打ちをした。その舌打ちで、ペルラはふと我に返る。ザカートだけではなく自分の上司の死にも不審な点があって、そこにこの騎士が絡んでいる可能性は否定できない。その騎士は、平然と『死』を口封じの方法に使う、と言ったばかりで、その手には銃がある。今、この場で口を封じられる可能性が一番高いのは…
「下がって!ラファル君!」
 ペルラはラファルの肩を掴み、自分の背後に退かせようとした。アンファングはリストの回収をしたいはずで、そのリストを渡すまでは自分は生かされる。しかし、ラファルは事情を知っているだけの一般人だ。
「君が、一番……!」
 言葉を遮るように、銃声が響く。ラファルはペルラに向き直らなかったので、彼の表情は見えないが、彼の身体がぐらりと傾いだ。ラファルはそのまま前に向かって倒れ、地面に顔から突っ伏す。丁度、額の位置か。地面に突っ伏す彼の顔の下から、血がにじみ出した。
 ペルラは、ひゅう、と喉の奥で悲鳴のような物を上げ、膝から地に崩れ落ちる。ラファルに震える手を伸ばそうとした彼女に、
「リストを渡して貰えるか?」
 と、硝煙の上がる銃を向け、アンファングは無感情に問いかける。ペルラは真っ青になった顔をアンファングに向け、涙目で睨みつけた。
「…なんて、こと…!子どもを…!」
「子どもだが、道理も分かる年だ。逃がすことも、生かすことも出来ないだろう?額を一撃。苦しまずには死なせた。ザカートは、そういうわけにもいかなかったが。」
「……あなた…!やっぱり、あなたが、彼を…!」
「ザカートを、崩れた土台に巻き込まれて死んだ、としたのは、」
 アンファングはペルラの言葉に応えず、自分の伝えたいことを口にした。伝えたいことは、ただ、彼女を脅すことだった。
「リストの在処を吐かせるために、散々殴りつけたからだ。―― 傷が多くてね。その傷の多さに違和感をもたれないために、発掘作業場の土台を一つ壊すことになった。」
 ペルラは怒りで瞳を染め上げた。ザカートに残酷な死を与えたこともだが、彼を『事故死』とするために作業の土台を壊したことも許せなかった。もしかしたら、何一つ無関係な人間がその『事故』に巻き込まれているかもしれないのだ。そんなことは、誰よりもザカートが良しとしない。
 アンファングは、ペルラの怒りを正しく理解していないだろう。彼は、銃を彼女に向け、
「リストを渡してもらおうか。渡してもらえるまで、君をゆっくり痛めつけることになるんだが。」
 銃口は、ペルラの腿の方を向く。死ににくいところに撃っていくつもりらしい。銃口も大きくないので、急所を外せば致命傷にはなりにくいのだろう。……急所を外せば致命傷になりにくい。逆に言えば、急所を撃てば命を奪えるのだ。そして、額は急所だ。そこを撃たれては、即死でしかない。
 ……そして、すぐ近くに、急所である額を撃たれた少年が倒れている。
 ペルラは、ぐっと唇を噛みしめ、アンファングを見上げた。
「リストは、ここにはない。それしか言えない。」
 銃口にペルラは視線を向けた。ラファルを撃ったのはこの男だが、巻き込んだのは自分だ。…人を一人撃たせておいて、命乞いなど出来るはずもない。その理由だけで、ペルラは己に抗いを義務づけた。
「たとえ何をされても、私はそれ以上言わない。」
「……、むしろ、」
 アンファングは溜息混じりに言った。ペルラは、自分より他人の傷の方が耐えられない部類の人間だと理解をして、倒れたラファルに視線を向ける。
「その少年を、君の前で痛めつけた方がよかったな。」
「……下衆…っ!」
 絞り出すようなペルラの冷罵も、アンファングはあざ笑うだけだった。
 そして、もう一つ、声がした。
「……、ああ。本当に」
 聞き覚えのある…というよりも、先程まで聞いていた声にペルラは眼を見開いた。少し掠れた少年の声は少年らしくない口調で、
「下劣にも程がある。」
 そう断じながら、ペルラの背後でラファルが立ち上がった。額に青い火花が散り、撃たれたはずの額には損傷がない。火花が弾丸を絡め取り、火花が消えるのと同時に弾丸が地面に落ちた。ラファルは銃弾を蹴り飛ばした。何の意味もない小石のように、銃弾は転がった。
 何らかの力を用いて銃弾を寸でのところで止めたのか…とペルラは安堵しかけたが、ラファルが血で染まった顔をツナギの袖で拭うのを見て、その安堵を消した。その血は間違いなく大量で、彼のツナギの肩まで染め上げている。そればかりか、地面に血だまりが作られている。それだけの出血があるはずの、傷を負った…はずなのだ。
「くそ。血が目に入る。」
 そう呟くラファルには、傷が見当たらない。額はおろか、顔も頭も、どこにも撃たれた痕がない。確かに血は流れたのに、血が体外に出るため痕がない。
 アンファングは銃口を震わせて、
「……、治癒の【妖精返り】か…!?いや…!いや、違うな…!確かに、私は額を撃ち抜いた…!【妖精返り】は…、脳を損傷すると力を使えなくなる…!」
 ということは、脳にも銃弾が達したはずのラファルが特別な力を発したのではない。アンファングは、ペルラに銃口を向けなおした。
「お前の力か…!」
 アンファングはそのまま引き金を引く。ラファルは咄嗟にペルラの前に飛び出した。撃ち出された銃弾は、ペルラを庇うラファルを再び貫こうとし……、
 その弾の進みが、停止した。銃弾は時間を失ったかのように、停止した。ラファルは舌打ちをしたが、ペルラを抱えるようにして転がって銃弾の進む先から自分とペルラを逸らす。その直後、―― この間、ほんの三秒ほどだ―― 銃弾は時間を取り戻し、ラファルとペルラが直前までいた地面に突き刺さった。ラファルは、銃弾の行く末などは見ず、自分のツナギの懐に手を入れた。そして、その服の下のショルダーホルスターから、鐔のない短剣を抜き取った。
「……、まさか…!」
 銃弾が止まった現象にアンファングが声を上擦らせる。ラファルが短剣と構えて地面を蹴ったことにも気づかずに、起きた現象を口にした。
「時間操……!?」
「忘れてくれ。」
 アンファングの懐に入り、ラファルは短剣の先をアンファングの顎の下に突きつけた。アンファングは視線だけを真下に向けるのが精一杯だ。それでも、銃を、ラファルの後頭部に突きつけようとし、
「やめなさい。それと、よくお考えなさい。その位置で発砲すれば、ラファルを貫いてあなたにも銃弾が達します。」
 静かだが有無を言わせない迫力の女性の声に、唾を飲んだ。
「…フィ、フィアルカさん…。」
 ペルラが呆然と囁いた。有無を言わせない響きの声の主はフィアルカで、彼女はエアリアルを従えつつ、ペルラに向かって歩いてきた。
「ラファル。少しの間、そのままでお願いね。」
「了解、姫さん。」
 ラファルとすれ違うときにフィアルカはそんなことを言い、ラファルも軽く了承した。フィアルカがペルラの前に屈み、彼女と目線を合わせて告げる。
「あなたから預かったリストは、警察にお渡ししました。騎士団長にもリストの内容は伝えています。ザカートが伝えようとし、あなたが守った情報は、知るべき人に伝えられました。」
 そして、フィアルカはペルラの耳元に顔を寄せて囁いた。
「ありがとう、ペルラさん。あなたのおかげで、我々王家の宝は守られます。」
「………え?」
 ペルラは聞き返したが、フィアルカはすぐに立ち上がり、アンファングに向き直る。
「騎士・アンファング。騎士団長・ノンブールの決定です。あなたを騎士の任から解き、以後の身柄は警察に任せることにする、と。」
 フィアルカのその言葉の直後、集積所に警察の一隊が踏み込んだ。


第1話-④へ続く》

-----------あとがきのようなもの---------------

19世紀末ぐらいの文明レベルの世界観…と思ってますが、
(*ただし『発掘品』により、オーバーテクノロジーな部分もあります。)
さらっと【龍討伐部隊】という単語が出てきてるように、ファンタジー要素も強いです。
『天使』と『悪魔』も、珍しいですが存在しています。(登場するかは不明ですが。)
どの程度の珍しさかというと「ドクターイエローを見かけた」ぐらいのレア度です。そんな世界観です。

諸々の説明は2話以降にしていくので、とりあえず、さらっと読んでいただきたい。

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