まよらなブログ

ヘヴンズフォール : 第1話-④


のんびりと長編オリジナル話の更新をしています。

タイトルは『ヘヴンズフォール』。
本日は、第1話‐④の更新です。
なかなか書き手自身がペースを掴めないでいますが
「うちの世界樹話のときも3章ぐらいまではそうだった…」と
妙な懐かしさも感じています。



まあ、読んでやってもいい、という方は「つづきを表示」からどうぞ。




『ヘブンズフォール』:
 第1話「あなたと一緒にいたいんだ」- ④
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 集まってきた警官たちがアンファングを捕らえ、ペルラとフィアルカを保護したのを見届けて、ラファルは短剣の先をアンファングの顎から逸らし、短剣を服の下のホルスター(そこに鞘も取り付けてあった)に戻す。額から肩まで血濡れのラファルに、一人の警官はぎょっとして駆け寄ってきた。
「君…!怪我は…!」
「ああ、大丈夫。怪我はない。」
 髪を掻き上げて、傷がないことを示しながらラファルは答える。そして、
「ただの鼻血だ。」
 と、下手くそにもほどがある言い訳をした。怪訝そうに眉を寄せる警官に対して、声が飛んでくる。
「…そいつだ!」
 声はアンファングのものだ。アンファングは警官に羽交い締めにされながら、しかし取り押さえられてることはどうでもいいのだ、とばかりに叫んだ。
「私じゃない!その子どもだ!そこの女たちだ!捕らえるべきは、そいつらだ!私は、撃った!確かに、お前の頭を撃ったぞ!血も流しただろう!?なのに!お前は生きている!」
「錯乱しているみたいだ。丁重に署までお連れしてくれ。」
 ラファルは肩を竦めながら警官に頼み、フィアルカとペルラへ歩み寄っていく。その背中に向かって、アンファングが主張した。
「銃弾も止まった!お前等の誰かの力だろう!?それは禁忌の力だろう!?存在してはならない力だろう!?」
 喚き散らす…ように見えたが、それは喚きではない。主張なのだ。己が…というよりも、己が言っていることは正しい、と。その正しさは実行されるべきだという主張だった。
 そして、その主張は全く正しいものなのだ。それを知っているのは、この場では、ラファルとフィアルカだけだったが。(エアリアルは事情は知っているものの、アンファングの主張が『正しい』とは思ってなかった。)
「捕らえるべきはそいつらだ!誰かが、時」
 アンファングの主張は、途中で終わった。ターーン、という乾いた音で、たった一つの音でその主張は中断させられた。アンファングは白目をむいて、がくりと倒れ込む。こめかみから血を流し、倒れ込む。こめかみを撃ちぬかれて、倒れ込んだ。
 アンファングがラファルの額を撃ち抜いたように、今度はアンファングが頭を撃ち抜かれた。だが、ラファルと異なることは…、アンファングは起きあがらないということだ。―― これが、当然の現実なのだが。
 その当然の現実に、そして自分に銃を向けていたはずの人物が頭を撃たれたという事実に、ペルラが悲鳴を上げた。フィアルカがペルラを抱きしめ、彼女の顔を自分の肩に押しつける。彼女がこれ以上見ないようにと、押しつける。
 警官たちが一斉に周囲を警戒し、数人が民間人であるラファル、フィアルカ・ペルラを前後に庇うように立つ。警官の一人が、「あそこに!」と指を指す。少し離れた荷馬車の上に、人影があった。手に、長い何か…、ライフルと思われるものを持っていて、気づかれたことに気づいて、荷馬車から飛び降りて逃げ出した。
 リーダー格らしい警官が、数人に人影を追うように告げ、数人にラファルたちの保護を命じ、そして自分と数人に絶命したアンファングの身体の保存を命じる。
 王領地に踏み入り、その地のものを売ったという罪人(王家を守護する騎士という立場を考えれば、反逆罪だ)を捕らえた現場…になるはずの集積所は、今は殺人の現場になった。


*****


「…見つけた、見つけた!」
 荷馬車の上から飛び降りた人影は、はしゃぐように呟いた。いいや、実際ハシャいでいて、人影は軽く飛び跳ねる。
「見つけたぞ、時間停止の【妖精返り】!禁忌の姫君と『グモルク』に刺された少年!まさかペルラとともにいるなんて!アンファングにペルラの居所を教えて正解だった!」
 道にいた猫が人影に気づき、逃げ出した。その猫は、二度とこの道には近づかないだろう。餌をくれる人がいる通りでも、二度とこの道には近づかない。人影は、不吉さを振りまいている。存在は不吉さを振りまきながら、声は陽気さを振りまいている。
「さあ、『バンダースナッチ』を起こす準備を!あの悪食も、そろそろ満足しているだろうから!」
 まるでホームパーティの計画でも練るかのように楽しげに飛び跳ねる人影は…比喩でも何でもなく、影だった。真っ黒でのっぺりとした、厚みのない影だった。持っているライフルだけが、実物だった。影は足から地面に潜り込んでいき、
「『バンダースナッチ』の腹がくちていないなら、…そうだな…、戦争でも起こそうか!」
 そんな言葉を空中に、ライフルを道の上に残して、影は地面に、とぷん!と溶けた。

*****

 保護というより事情徴収のため、警察に連れていかれた3人(と一匹)だが、ラファルだけはその途中で騎士隊の詰め所へと連れてこられた。騎士隊長の執務室…つまりアンファングが使っていた部屋の奥…、電信室へ案内され、部屋に入ると警官たちも去り、部屋にはラファルだけになった。狭い電信室に、机の上の電鍵と受信機とラファルだけ。
 ラファルは頭をがしがし、と掻いてから、電鍵の前に座る。通信ケーブルの先には、自分をここに呼び出した人物が座っているのだろう。ラファルは電鍵で、自分を示すコードを打った。打ち終えるとすぐに返信がきて、相手を示すコードとともに文章が受信機から吐き出される。それを見て、ラファルは盛大に舌打ちをした。
<バカか、お前は。>
 打ち出された文章は、そんな簡潔な一言だった。簡潔すぎて、何をバカにされてるのかも分からない…ようで、ラファルにはすぐに理解できた。電信の向こうの相手とは付き合いも長い。
 ラファルは電鍵を打った。
<そもそもお前の監督不行き届きだろ。>
<それについては言い訳をしない。アンファングは私が思っていたよりも知恵が回ったようだ。陛下には包み隠さず報告し、密売ルートの捜査に全力を尽くす。>
<姫さんのことも包み隠さず?>
<当たり前だ。それが騎士団長たる私の務めだ。だから、バカだ、と言ったんだ。名乗り出るような真似をしなければ、私は報告をせずに済んだ。>
<仕方ないだろ。おれとペルラさんが囮になって、姫さんにリストを警察に届けてもらう。それだけだったんだ。まさか姫さんが、警察からお前に連絡をとるとは思わなかった。>
<フィアルカ様に電信符号と私のコードを教えたのが悪い。>
<電信符号を教えたのはケリーだよ。でも30年前の話だぞ。まさか覚えているとはね、さすがだよ。>
<私のコードを教えたのはお前か。>
<まあ、いざというときのためな。直接お前と連絡を取った方が、姫さんも安全だろうから。>
 ラファルの電信の後、受信機は少しの沈黙を保った。しかし、受信機は再び文章を紙テープの上に吐き出す。
<お前はこれでよかった、と?>
<思ってない。おれは、姫さんと一緒にいたいんだ。お前たちに見つかって、また離ればなれになって姫さんは幽閉されるようなこと、死んだってゴメンだね。>
 今度はラファルが数秒の沈黙を持ってから、電鍵を叩き直した。
<でも、姫さんは、見つかること覚悟でお前に電信を打った。一刻も早く、ペルラさんの力になりたかったからだ。おれは、昔からそんな姫さんが好きなんだから、仕方がない。>
<一途に思い続けてたような言い方をするが、お前、この30年に何人も女がいただろう。>
 吐き出されてきた文字を見たが、ラファルは答えなかった。紙に残る、ということは証拠が残る、ということだ。吐き出された紙は勿論処分するが…、相手は性格の悪い男だ。下手に答えたら、それをフィアルカに見せると言って自分を強請ることも想像できた。だから何も信号は発しない。証拠は残さない。
<…信用されてないな。>
 と、相手が信号を打ってきた。ラファルの意図を理解しているらしい。そして、相手の信号は続く。文字では分かりにくいが、言葉の温度は下がった。
<さて、王領地を守るべき騎士への処分とフィアルカ様の今後について、陛下から命を受けている。陛下に代わり、私、騎士団長・ノンブールが伝える。>
 ラファルは溜息混じりに文字を見る。
<現在、【発掘都市・アイロット】に派遣している騎士隊は本部に帰還。密売に関わった騎士が他にいるか調査を行う。同時に、密売に無関係と断言できる騎士隊を、後任として派遣する。後任の騎士隊は今後このような犯罪に騎士が手を染めず、【発掘都市】の人々との信頼を取り戻すよう、努めることとする。また、その騎士隊がこのような犯罪に手を染めぬよう、王家に連なる者を監視役として【発掘都市】にとどめることとする。>
 文章の後半を読み、ラファルは背筋を伸ばした。
<フィアルカを騎士隊の監視役とする。騎士の監視だけでなく、都市の住民の信頼を回復するための助言・連携を行うように。フィアルカの近衛には、騎士・ラファルを任命する。以降、二人は【発掘都市】で暮らしながら、騎士隊の監査及び協力を行うものとする。……以上。陛下からのご命令だ。理解したら、この文書は処分しろ。>
 そう打ち出された文章のあと、しばらく言葉のやりとりはなかった。相手はラファルの返信を待っているが、ラファルは返信しなかったからだ。ただ、長い紙テープを…王命の書かれた紙テープを手の上に載せて、じっと見つめる。見つめる一文は『二人は【発掘都市】で暮らしながら』という一文だ。
 ―― 姫さんは閉じこめられたりしない。
 そう認識した途端、ラファルの手が震えた。唇をへの字に曲げて眉も下げて、泣きそうになってまで安心している『男』がそこにいる。何よりも、フィアルカが今の暮らしを続けられることに震えるほど安堵した。土をいじり野菜を育て散歩をし町の人と語る…たったそれだけの暮らしを続けていけること…彼女のささやかな望みがこれからも保証されたことに安堵をした。
 それから、自分が彼女と共に居られることに、と気づき歓喜した。それだけが願いだったのだ。30年近く前に一度諦めて、しかし諦めきれなくて、偶然のチャンスに駆けだして、手に落ちてきた願いだったのだ。
 返信がないことを、電信の先にいる騎士団長がどう思ったのか正確には分からない。ただ、受信機はゆっくりと言葉を打ち出した。
<よかったな。>
 ラファルは打ち出された言葉に我に返り、紙テープをくしゃりと握り締めてから、電鍵へと手を伸ばす。もう手は震えておらず、しかし精一杯の強がりで、冗談を電鍵で打ち込んだ。
<兄君公認の駆け落ちってことでいいのかな?>
<馬鹿なのかお前は。>
 返事はすぐに返ってきた。


*****


 3日後、ペルラはある発掘現場を囲う柵の前に花を供えていた。
 柵越しに、ザカートが命を失った現場を見つめる。発掘現場には新しい足場が組まれていたが、そこに人は居ない。事故ではなく『事件』と分かったことで、警察の検分が再開されるためだろう。柵で囲われ、現場には入れない。身内でもない自分には、ここまでが精一杯。
 供えた花束の横には、すでに枯れた花束が置かれていた。以前にも花を手向けにきてくれた人がいるようだ。慕われていたのだなあ、とぼんやりとした感情を抱く。
 この3日、警察の保護を受け…と言えば聞こえはいいが、取り調べを受けていた。酷い扱いは受けなかったし、警察が手配した宿で食事も寝ることも出来たが、外には出ることはできなかった。この間、警官としか話しておらず、ラファルやフィアルカとも会えなかった。アンファングがどうして死んだのかも、分からないままだ。
 本日の午前中に、ペルラは取り調べの終了を告げられて『自由』になった。今後、調査次第でまた話を伺うことになるかもしれない、と告げられたが、その可能性は低いように思われた。自分がやろうとしたことはやった。ザカートは自分の家族でもないから、彼の死についての詳細を聞くこともできない。上司の死については再調査が行われ、いずれ大学にその報告が届くだろう。王領地の遺物の密売もアンファングの死も、警察の調査がなされ、報道で知るしかない。先ほど買った新聞に、騎士による密売事件が大きく載っていたから、騎士団もこの事件を隠すつもりはないのだ。自分は、やるべきことをやった。だから、納得して帰ろうと思う。
 ペルラはしゃがみ、茶色く枯れた花束としおれて散らかった花びらを集めて、買ったばかりの新聞でくるんだ。ジャケットのポケットに留めているネクタイピンを外し、花の隣に置く。簡単にその場の掃除をした彼女は枯れた花を包んだ新聞紙を持って、そのまま去ろうとし、
「忘れ物。」
 背後から、声をかけられた。視線を向けると、ラファルが花束を持って立っている。
「ネクタイピン、置いていくなよ。」
 大事なものなんだから、といって、ラファルはペルラの供えた花へと歩き、その隣に持ってきた花を供えた。同時にネクタイピンも取り、ペルラに差し出す。
 ペルラは琥珀のついたピンを見つめ、ゆるく首を振った。
「いいの。」
「よくない。」
 ラファルはピンを引っ込めることはしない。ペルラは溜息を吐いてから、
「…警察に、あなたたちには会わないでこの町を去るように、と言われたんだけど。」
「おれから会いに来たんなら、ペルラさんのせいじゃないだろ。」
「あなたから渡されたお金、警察に代わりに返してもらうようにお願いしたの。こんなことなら……、渡さなければ良かった。」
「そうか。」
 その間も、ラファルはネクタイピンを差し出す手は下がらない。ペルラはもう一度溜息を吐いた。
「ねえ、ラファルくん。」
「ああ。」
「あなたは…、…いいえ。あなたたちは、何者なの?」
 ラファルは曖昧に微笑んだだけっだった。もう一歩、踏み込まなくてはいけない、と気づいたペルラは、一度唇を舐めて湿らせてから、
「…あなたが頭を撃たれても…生き返ったのは、時間を止める【妖精返り】の力なの?」
 具体的な問いかけに、ラファルはネクタイピンを持つ腕を下げて、肩を竦めた。ペルラは、もう一言、添えた。狡い物言いになることを理解はしていた。
「私とザカートが始めたことなのに、何も分からないままなの。分かりきれてないまま、私は帰らなきゃいけない。…知る権利ってないのかしら?」
 ラファルは一度、発掘現場を…ザカートが殺された現場を、柵越しに見た。「…うん、そうだな。」と柵の向こうを見つめて独りごち、それからペルラを見上げた。
「…分かった。話そう。姫さんも、あんたになら話していい、と許してくれたからな。」 

 

第1話-⑤へ続く》


-----------あとがきのようなもの---------------

この話に登場するキャラにおいて、
文学作品で登場する固有名詞や言葉がついているものは人外の存在です…とネタバレておく。
(エアリアルは人間ではないので『テンペスト』の妖精から名前をもらってます。)

人間たちの名前は、ネーミング辞典さんで調べまくってつけてます。
こちらのサイト、いつもお世話になってます。ありがとうございます。


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