まよらなブログ

ヘヴンズフォール : 第1話-⑤


たらたらと長編オリジナル話の更新をしています。

タイトルは『ヘヴンズフォール』。
本日は、第1話‐⑤の更新です。
なかなか書き手自身がペースを掴めないでおり、文字数だけが多いです。



まあ、読んでやってもいい、という方は「つづきを表示」からどうぞ。






『ヘブンズフォール』:
第1話「あなたと一緒にいたいんだ」- ⑤
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 この世界にはかつて、高度な文明が存在していたらしい。文字による記録もなく口伝によるもののため正確さも欠けるのだが、地中からどう作ったのかも分からない【前時代の遺物】が掘り起こされるのを見れば、高度な文明が存在していたことは確かだった。その文明の存在を証明しているのが、この【発掘都市】の地下にある遺跡群だ。
 【前時代の遺物】は『物』だけではない。【妖精返り】と呼ばれる特殊な力は、その前時代の文明が生み出したものと言われている。口伝による記録と発掘品に描かれた図などから、そう推測されている。生き物が、ほんの少しだけ『世界を書き換える』力を、当時の人は編み出したのだ。この力は遺伝し、【妖精返り】の力は今でも一部の人間と動物に備わっている。念動力や転移や精神感応、発火能力や、エアリアルのように空気を操るといった力を持つ【妖精返り】が、今でもいる。
 「鉛筆を触れずに転がす」程度の能力者なら珍しくない。しかし、他害の可能性がある力だった場合は、国によって管理され、引っ越し・就職・結婚…例え旅行でも、事前の報告と『国による許可』が必要になる。特に強い力の持ち主は『騎士団』や『聖堂会』への所属を余儀なくされ、その一員としてその能力を使うことになる。
 選択や可能性は狭まり自由とは言えないが、彼らは『居なかった』ことにはされない。危険なこともあるが居てもいい、と認められている。『力の暴走』に『対処』するための『管理』はされるが、存在は認められている。
 ただし、一つだけ。『居なかった』ことにしなくてはいけない【妖精返り】がいる。『時間操作』の【妖精返り】だ。
 未来を予言すること、過去に戻ること、今を止めること。時の流れをねじ曲げる特殊な【妖精返り】は、『世界の書き換え』が出来ないように結界の中で一生を終えなくてはならない。『時間操作』の妖精返りは『居ない』ものとされるのだ。だから、時間操作の【妖精返り】は眉唾ものだと言う人もいた。都市伝説のようなものだった。
「……その、『時間操作』の【妖精返り】が王族に出ちゃったんだよな。」
 と、ラファルは供えられた花の前で囁くようにペルラに告げた。予想はしていたことなので、ペルラは驚きは見せなかった。ただ、淡々と問いかける。
「じゃあ、…フィアルカさんは王族…?」
「ああ。現王様の妹。18歳で亡くなった、ということになってるが、18歳からずっと監禁生活さ。」
 浮き世離れした雰囲気は、姫君のまま社会と隔絶して生きてきたせいなのだろう、と今はどうでもいい感想をペルラは抱いた。
「姫さんの力で、おれは30年近く、この姿。」
 と、ラファルは自分の胸を親指でトン!と突く。
「致命傷を負ったおれを生かすために、姫さんはおれの体の時間を致命傷を負う前まで巻き戻して、固定した。それが、14歳の誕生日の日だった。実際は45歳超えてんだよ、お嬢さん。」
「……ラファルさん、と呼んだ方がいいのかしら?」
 ペルラは淡々と、そんなことを口にした。ラファルは、乾いた声で笑った。少年の姿で、でも確かにそれは『少年』にしては達観し諦観も持っている笑いだった。彼は花を見下ろして、ペルラに言った。
「いいよ。君みたいな若い女の子に『くん』づけされるのって、悪くないし。」
「……そういうところ、あなた(二人称が変わったことにラファルは気づいた)が45歳を超えてるって言われると納得するわ。オヤジ臭い。」
「まあ、中身はおっさんだからね。」
「…頭を撃たれても傷がなかったのは、その…フィアルカさんの力のせいなの?」
「そう。おれの体は常に『14歳になった日の朝』の形に戻るんだ。そのときの体と少しでも違えば、その形に戻ろうとする。傷は治るんじゃなくて、『傷を負っていない』状態に戻るんだ。髪を切っても同じ。あの日の朝の長さに戻る。」
 もし、あの朝から一分でも時間を進めてしまうと、とラファルは鋭く囁いた。
「おれの体は致命傷を負った時間に進み、2分もせずにおれは死ぬ。だから、姫さんはおれに使った力を解除しない。おれが死ぬときは、姫さんの命が尽きて力も消えるときだ。」
 そう言った後で、ラファルは自分の左胸のあたりに触れた。その辺りを貫かれたのだが、ペルラは知らないことだ。
 ペルラは一度、長く息を吐いた。溜息にしては長すぎた。タバコの煙を吐き出すような、そんな長さがあった。
「……、辛くはないの?」
 と、息の後にペルラは尋ねた。ラファルは、花に落としていた視線を上げてペルラを見上げる。そして、歯を見せて笑い、
「今は、全然!」
「…今は?」
「まあ、辛いときもあったよ。特に、若い頃はな。『時間操作』の力が働いてるままの人間なんて、今後現れるか分からないからな。散々、実験台にされた。兵器の威力を試すには、死なない人間の的は丁度いいだろ。」
 軽やかに話すが、内容はとんでもないものだ。ペルラは、ひゅっと息を飲んで口を押さえた。14歳の子どもに(大人相手でも許されることではないが)、残酷にも程がある所業だ。
 ペルラの目に驚き以上の哀しみと、それ以上に怒りが浮かんだのを見て、ラファルは嬉しそうに笑う。
「あんた、本当にいい人だな。ザカートが信頼したのが、あんたでよかった。」
「そういう、ことじゃなくて…!」
「いいんだ。今はもう、そんな目には会ってない。今の騎士団長とおれの見習い時代の先輩が、おれを救ってくれてからな。【妖精返り】の力を暴発させた見習い騎士を抑える仕事は回ってくるが、まあ、若い騎士を助けるのはやりがいもあるからなあ。」
「…じゃあ、やっぱり、」
 ペルラは、ラファルの持つネクタイピンを見た。
「ザカートがお世話になった先輩……、見習い時代に力の制御を教えてくれた人っていうのは、あなたなのね?」
「…まあ、暴発しそうになったあいつを止めたことは何回か。ザカートは器用なくせに不器用でさ、うまくいかなくなるとドツボにハマるんだよな。おまけにバカ真面目で、」
 ラファルは、自分が供えた花に視線を落とす。ネクタイピンを持つ拳に、ぎゅっと力が籠る。
「…だから、密売に気づいて、調べて、証拠を残して、…死んでしまったんだろうな。」
「ザカートは…、」
 ペルラは口を開いたが、何を言いたかったのかも分からないままで口を噤み、それからもう一度口を開いた。
「あなたのことを…小さいけれど頼りがいのある騎士だったって言っていた。」
「小さい、は余計だなあ。」
「その人のようになりたい、と、そう、言っていたのよ。」
「…………、ん。」
 ラファルは頷き、顔を上げる。
「ありがとう、ペルラさん。ザカートがあんたのことをどう言うか、おれは聞いてみたかった。」
「やめて。恥ずかしい。」
 ラファルは笑い、ネクタイピンをもう一度差し出した。
「あんたに宛てたんだ。あんたが、持っているべきだ。」
「……いいえ、それは、エクリプスやあなたに会うときに私が味方だと知らせるための」
「そんなんじゃない。」
 ラファルは静かだが強い口調で遮った。
「そんなんじゃない。あいつは器用だが不器用で…、特に好きな子には不器用な子どもだった。きっと、今でもそうだったんだろう。…だから、」
 ラファルの言葉に、一瞬の戸惑いがあった。自分が全く理に適っていないことを言う自覚があったのだろう。だが、それでも、彼は強行した。理屈など置いておけ、と。理屈ではないのだから、と。
「だから、あいつは分かりやすいことを言いもせず、あんたを縛る可能性も考えず、これをあんたに送った。あんたに持っててほしいから、手紙と一緒に送った。だから、あんたが持っているべきだ。」
「………、彼、本当に、分かりやすいことを言う人ではなかったわ。」
 ペルラは潤んだ目でネクタイピンを見つめながら、
「私に、好きだって言ってくれたこともないの。私の一方的な思いこみだったのかも、と今でも思う。」
「…それは、なんというか…、すまないな。」
「でも、」
 ペルラは、そっと指で眦を拭ってから、
「私に、リストを託してきたから、それで良しとしましょう。バカ真面目な彼が、一番信頼してくれた、ということだから。」
 そして、濡れた指で、ネクタイピンを受け取った。ラファルは唸ってから、ぱっ!と笑った。それだけ見れば、やんちゃな少年の顔だったが、その笑顔と共に伝えられた言葉はやはり中年男のもので、若者への思い遣りに満ちていた。
「あんた、いい女だなあ!あいつが惚れないわけがない。あのリストは間違いなく君への恋文だよ。」
 ペルラはネクタイピンをポケットに差してから、ありがとう、と微笑んだ。

******

「ラファル。」
 ペルラが去った後でも、花の前にぼんやりと立っていたラファルにフィアルカが声をかけた。フィアルカの足下をエアリアルが付いてくる。ラファルは振り返り、
「ペルラさんは、今日の午後の馬車で隣町まで出て、明日の汽車で王都に帰るってさ。姫さんとエアリアルによろしくって。」
「私、ご挨拶したかったわ。」
「わたしもですよ!」
 フィアルカと一緒にエアリアルも主張する。ラファルは、分かってる、と頷きながら、
「果物屋たちに弁償しに、必ずまた来るって言ってたよ。」
「まあ…。本当に律儀な方ね。」
「本当になあ。」
 とラファルは苦笑した。そのラファルに向かって、フィアルカはぷっと頬を膨らませて見せた。
「でも、ラファルだけズルいわ。私たち、ペルラさんに会っちゃいけないって言われてるのに。」
「許してよ。あのまま帰すのも可哀想だし、…姫さんの力のことを口止めしておく必要もあるだろ。おれがペルラさんに会いに行ったようにすれば、怒られるのはおれだけだ。」
「……私、あなたが怒られるのも嫌だわ。」
 フィアルカが唇を尖らせた。18の頃から外界と隔絶されて生きてきたので、フィアルカの仕草や感性は娘時代で止まっている。彼女も実際の年齢と中身の年齢がチグハグだ。だが、そこが愛らしいとラファルは思う。
 ラファルが微笑むのを見て、フィアルカは一度唇を曲げてから、もう一度主張した。
「私、ラファルが傷つくのは嫌なのよ。」
「ありがとう。」
「ペルラさんを守るためでも、あなたが血だらけになっている姿、私、見たくなかったわ。」
「おれは、姫さんに力を使わせたくなかった。銃弾を止めなくても、おれが銃弾に撃たれれば済んだ。」
「それが嫌なの!傷は無くなっても、痛みは感じるんでしょう!?」
「まあ、感じるけど、傷が無くなれば痛みも消えるからさ。ちょっとの辛抱だよ。」
 ひらひらと手を振っていなすラファルに、フィアルカは唇を噛みしめてから、声を抑えて告げた。
「あなたは昔から…、本当に13歳の頃から、飄々としてるし我慢強いし人のこと気にしてばっかりで、」
「ありがとう。昔から男前だってことだろ?」
「もう!そうなんだけど、そういうことを言いたいんじゃないの!」
 フィアルカは、体の前で揃えている手にぐっと力を込めて、供えられている花を見つめた。
「…騎士・ザカートは、あなたの教え子なんでしょう?」
「ま、見習い時代の教育担当を請け負ってた。」
「あなただって悲しんでるはずなのに、辛抱してばっかり。」
 いつも人のことばかり、とフィアルカは不満げに囁いてから、ぱっ!と両手を広げた。
「……なんだ?姫さん。」
「私の胸……、身長的に肩かしらね?貸せるのよ?」
「ひ、姫様!何を仰……」
 フィアルカの足下でエアリアルが、きー!と鳴くが、フィアルカが静かに一瞥するとエアリアルは黙り込んだ。フィアルカは穏やかだが、自分がこう、と決めたときには有無を言わせない。ラファルは軽く手を振って、
「……勘弁してよ、姫さん。意地とか沽券とかさ、おれにもあるんだよ。」
「私にもあるわ。私はあなたの主人なの。私はあなたに守ってもらい私の願いを叶えてもらうけど、あなたを魂を守るのが私。私にだって、意地とか沽券とか、あるの。」
 ラファルは、卑怯だよ、と呟いたが、フィアルカはにこっと笑っただけだった。
「ラファル。私の腕の中、空いてるわ。」
 ラファルは溜息を吐き、そしてフィアルカにゆっくりと歩み寄り、最後は倒れ込むように、ぼふっ!と彼女の肩に顔を押しつけた。フィアルカはラファルの背中に手を添えた。
「…………、」
 しばらくの沈黙の後に、ラファルがくぐもった声で言った。
「……なんで死んだかなあ……。」
 答えようもなく、聞きようによっては酷く暢気な呟きをラファルは漏らし、後は押し黙った。フィアルカは彼の背中に手を添えつつも、その背を撫でたりしなかった。それは…、本当に彼の沽券を傷つけてしまいそうな気がするので、それ以上の慰めはしない。エアリアルがイライラ…!とラファルを見上げてはいるが、ラファルをフィアルカから引き離す真似はしなかった。
 肩の辺りが湿っぽいのは、涙なのか息のせいなのか。フィアルカは、どっちでもいい、と思った。
「ねえ、ラファル。」
 フィアルカは囁くように告げた。
「お兄様のご配慮で、私はあなたたちとここで暮らせることになったわね。」
「………、ん。」
「私、あなたたちと一緒に暮らしていきたいわ。同じ家に住むってことじゃなくて、一緒にご飯を食べたりお掃除したりお洗濯したり野菜を育てたりお散歩したり、『おはよう』と『おやすみ』を言って、『ありがとう』と『ごめんなさい』を言う暮らしってことよ?」
「…ん。おれも。」
「それなら、よかった。」
 フィアルカは微笑んだ。
「私、嬉しいことをあなたに話すし、悲しいときはあなたに慰めてもらうわ。あなたも嬉しいことを私に教えて、悲しいときは私に慰められてちょうだい?それが一緒に暮らすってことでしょう?」
 王宮育ちで、18歳からは外界と隔絶されて、以降は『時間操作』の【妖精返り】として畏怖と研究の対象になってきた女性は、ごくごくありふれて真っ当なことを言った。ありふれた暮らしを一度も送ったことのない女性が、そう言った。傍らに誰かが居たことがないだろう女性が、お互いの隣に立ちながら暮らしていこうと、そう言った。
 ラファルは、フィアルカの肩に顔を埋めたままで、頷いた。フィアルカは「良かった」と微笑んだ。
「私とそんな風に暮らしましょう。約束よ、ラファル。何があっても、何は無くとも。―― たとえ、天が墜ちるとも。」
 ―― たとえ、天が墜ちるとも。古い言い回しで、フィアルカは誓いを求めてきた。
 その誓いはラファルの望みでもあった。それがどれだけ短い時間であっても。一緒に居られない日が必ずくるとしても。何は無くとも。何があっても。許してもらえても許されなくとも。たとえ、天が墜ちるとも。
 ―― あなたと一緒にいたいんだ。
 …それが己の望みだった。フィアルカの『約束』は、自分の望みそのもだった。大切な人が、自分の望みを同じように望んでいるのだと知り、ラファルはその大切な人の肩に顔を埋めたまま、もう一度、しかし今度はより強く、頷いた。フィアルカはもう一度、しかし今度は声を弾ませて「良かった」と微笑んだ。
 一度、鼻を啜る音がしてから、「…あー」とラファルは声を上げ、顔も上げる。
「ありがとう、姫さん。ちょっと元気出た。」
「よかった。」
「姫様に寄り添っておきながら、『ちょっと』ですか…!?」
 エアリアルがずだんずだん!と地面を踏む。
「きーーー!許せませんよ!許せませんよ!わたしだって、わたしだって!姫様に体を寄せたい!」
「お前、いつも抱き上げられてるだろ。」
「あらあら。エアリアル、あなたもよ?あなたも嬉しいことは私に教えて、悲しいときは私に慰められてちょうだいね?」
「よ…よろしいのですか!?このエアリアルも、姫様の慰めを受けてもよろしいのですか!?」
「まあ!一緒に暮らすんだから当たり前じゃない!私たち、家族みたいなものよ。」
「…ふぁあああああ!?家族…!姫様と家族!光栄です!このエアリアル、身に余る光栄ですよ!」
 ぴょこんぴょこん!とフィアルカの足下でエアリアルが跳ねる。ラファルは、「家族ねえ。」と呟いてから、
「おれは夫婦希望だ、姫さん。」
 大真面目にフィアルカに告げ、
「調子に乗るんじゃないですよッ!!」
 とエアリアルに蹴り飛ばされた。



第2話‐①へ続く》


-----------あとがきのようなもの---------------

【妖精返り】とは、つまるとこ『超能力者』です。
エアリアルのような動物の【妖精返り】たちは、「誰にでも受信できるテレパシー」で喋ってます。


そういうわけで。
「おばあちゃんなお姫様」と「見た目は少年・中身はおじさん(方向性はちょい悪)な騎士」の、
この『ヘヴンズフォール』は続きます。のんびりやっていくのでのんびりおつきあいください。

このタイトルの『ヘヴンズフォール』は、
ラテン語の格言「正義は行われよ、たとえ天が落ちるとも(Fiat justitia, ruat caelum)」
…の英訳「Let justice be done though the heavens fall.」の一部から取っています。
「~though the heavens fall.」の前にある、
各々の信念とか未練とか願いとかを書いていきたいなあ、と思ってます。

次回から「第2話」シリーズとなりますが、更新まで少し空くかと思います。
更新した時はツイッターで呟きますので、思い出したら訪ねてきていただければ幸いです。

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