まよらなブログ

【深夜の真剣文字書き60分一本勝負】に参加してみた・26


Twitterの「深夜の真剣文字書き60分一本勝負」に参加してみました。
(企画についてはこちら )


書いた話は追記に記載します。
推敲してないので、いつにもまして誤字脱字激しいと思いますが大目に見てください。
興味のある方は「つづきを表示」からどうぞ。

使用お題は、
・「心電図で示す君への想い」
  オリジナル話です。以前のワンライ参加話から数十年後の話です。


【第136回 フリーワンライ企画】
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―― 心電図は、ゆっくりと、音を刻んでいる。

 白い病室の、これまた白いベッドの上で、数本のコードをつけて、横になっている人間は、もう十分に老婆と言えた。もともとは栗色だった髪はすっかり白くなっていて、吹き出ものが出来ることもあった顔には今や皺が刻まれている。出会ったときには彼女はもう35だったから、栗色の髪にも白いものが見える時もあったし、ほうれい線がどうだとか首の皺がどうだとか言っていることもあったし、もうすっかりおばちゃんだよ、などと口にしていたから、出会ったころには既に「十分に若い」とは言い難い女性ではあったが。それでも、それから40年以上もすれば、すっかり様変わりはしているのだ。
 出会った当時の姿を、「彼」はまざまざと思い起こすことができた。十分に老婆と言えるその女性の枕元に座っている「彼」は、若い男……の姿をした人工物だった。かつて栄えた科学技術によって創られ、その文明が滅び、新しい文明の元で「発掘」された、古代の神秘のカタチ。かつては「ロボット」とか「アンドロイド」とか呼ばれていた人を模した人工物だった。彼の記憶は薄れるということはない。彼の「記憶」は、そっくりそのままを記録して、人口脳の中にいくつかの階層に分けて保存して、必要なときにその保存箇所から「記録」を取り出してくる…というものだった。「彼」は、今、彼女の若い頃の姿を記録した保存領域をスキャンして、かつての彼女の姿を「思い出す」。
 「思い出し」ながら、自分の中にせり上がってくる、胸のあたりの回路が焼き切れている、という誤認こそ、「感傷」と呼ぶのだと、教えてくれたのも彼女だった。

 ―― 心電図は、ゆっくりと、音を刻んでいる。そのテンポが少し遅くなった。

 古代の遺跡から「発掘」された「彼」は、この国の軍預かりとなり(平和な国だったので、軍事利用されることはなかった)、軍人である「彼女」が「彼」にこの国と今の文明の下で生きることを教える教育係となった。初めて会ったときから40年。彼女の庇護から離れた時期もあったが、その40年のほとんどを、彼女は「彼」と過ごすことになった。引退してからも同じ街に住んで、「彼」や「彼」と同じ人型の人工物たちや、その人工物と接する人々の相談に乗っていた。相談に乗るというよりも、一緒に過ごした、と表現した方が適切かもしれない。彼女は自分たち人工物とこの時代の人間を繋いだ、最初の大いなる小さな人間だったのだが、彼女はそれを否定して、代わりに、堂々と胸を張って言った。「私は、何にもしていない。君たちと一緒に居ようとしただけ」と、そう言った。実際、彼女がしたのは、「一緒に過ごす」それだけで、でも、だからこそ、彼女は今でも多くの「人工物」たちに慕われている。
 少なくとも、彼女は「彼」には慕われていた。口を開けば、皮肉の応酬の二人だったが。危篤の知らせを聞いて、あらゆる命令を無視して、病室に駆けつけるぐらいには、「彼」には彼女は特別だった。

 ―― 心電図は、ゆっくりと、音を刻んでいる。時折…、不穏な沈黙を挟んでいるが。

 心電図の音を聴きながら、「彼」は溜息をついた。溜息を吐きながら、浮かぶ考えは一つ。考えは、口に出ていた。
「……本当に、約束は絶対に守ろうとする人ですね。」
 止まりそうで止まらない心電図は、彼女の約束の証だと彼は考える。彼女はとにかく「一緒に過ごす」ことだけはしっかりやろうとした人だった。「彼」は人工物で、しかも古代の遺跡から発掘されてまた動き出すぐらいに頑丈で、彼女は人間で、しかもそのバイタリティに反して小柄で華奢な女性だった。先に「死ぬ」のはどう考えても彼女だった。

 人の「死」は、「彼ら」にとってタブーである。だが、「彼」は少し…ほんの少しだけ「彼らの原則」から外れたところがある人工物だったので、皮肉の応酬の中で、つい口に出たことがあるのだ。
「一緒にいよう、とあなたは言うけど、どうせ僕より先に逝くくせに。」
 古代の主人たちもそうだったから、「彼」は人間とはそういうものだと知っていた。古代の主人たちも、自分を置いていくことを嘆いていたから、決して捨てられたわけではないことも分かっていた。分かっていたのだが、それでも口を突いて出たのは…、甘えだったのだと思う。
 彼女は、ふむ、と妙に落ち着いて、頷いてから、
「そうね。それは、「そんなことない」とは絶対に言えない。嘘になるから。」
 と、答えるのだ。今のは甘えなのだから、そんな大真面目に返事をしないでくれ、と当時の「彼」は思った。「何を我儘を言っているのさ、いい年して!」と、いつものように笑い飛ばしてくれればいいのだ、と当時の「彼」は思った。
 そんな「彼」の思いのことは、きれいさっぱり無視をして、彼女は「だからさ、」と続けた。
「私の最後の最後まで、一緒に居ようよ。あれだ、ほら、死が二人を別つまでってやつだ。そのためなら、私、本当にギリギリのギリギリまで、必死に心臓を動かすよ。今、君に伝えた言葉を、本当にギリギリまで果たそうとしているんだって、そうやって君に示すよ。だって、私、君のこと、大切だからね。」
 と、そんなことを言ったのだ。

 ―― 心電図は、ゆっくりと、音を刻んでいる。今にも止まりそうで…、止まらない。

 それが私の精一杯。だから、どうかそれで勘弁してよ。
 などと、彼女は笑ったのだ。そして、今やそれを実践して見せている。
 最後まで、私は君と一緒に居るぞ!と、その、徐々に徐々に、ゆっくりとゆっくり、刻まれる心電図の音と波は、彼女が約束を果たそうとする証だ。
「……馬鹿な人だなあ。」
 でも、そこが好きですよ、とは伝えない。そこを尊敬していました、とも伝えない。そこに救われました、とも伝えない。まだ、伝えない。本当に馬鹿な人だなあ、とそれだけを繰り返し、そうっとその皺だらけの手に触れた。


 ―― 心電図は、ゆっくりと。ゆっくりと、音を刻んでいる。モニターの波も小さくなっていく。

 モニターの心電図が一直線になる時は、もう真ん前に迫っている。それでも、「彼」は不幸だとは思わなかった。「死が二人を別つまで」。モニターの直線は、「死が二人を別つまで」を彼女が実行した証拠なのだ。
 その時こそが、感謝を伝える時なのだ。今ではない。「私は君が大切だ!」と晴れやかに笑って宣言する術をもはや持たない彼女が、ギリギリまで心臓を動かすことでそれを示している限り、まだ、礼を言う時間ではない。


 ―― 心電図は、ゆっくりと音を刻んでいる。もうじき、それも止まるだろう。


 …何を「不幸」と嘆くことがある。それは、それは。
「あなたは馬鹿な人でしたが、」
 それは、
「僕は幸せでしたよ。」



---------------あとがきのようなもの------------------

図らずも、前回のワンライ話の続き…のようになりました。
個人的には「ロボット」とかには、人工物としての「感情の表し方」があると思うんですよ…
その辺を考えて書きたいんですけど、60分一本勝負だとそこまで考えきれないんですよ…

ああ、いつかリベンジしよう、この設定の話。




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