まよらなブログ

ヘヴンズフォール : 第2話-⑥


長編オリジナル話の更新です。


タイトルは『ヘヴンズフォール』。
本日は、第2話‐⑥の更新です。
2話の最後になります。

まあ、読んでやってもいい、という方は「つづきを表示」からどうぞ。



『ヘブンズフォール』:
 第2話「私の務めは果たします」- ⑥
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 小川に沿って、淡い光の壁が立つ。薄い氷のような光の壁。簡単に割れてしまいそうだが、その壁の強固さをフィアルカはよく知っている。壁を作り出した【結界師】と呼ばれる【妖精返り】の力量にもよるが、龍さえも閉じこめる薄い壁。
(…出てはこられない。)
 フィアルカは、一度息を吐いた。龍を騎士が倒しきれなかったとき、【結界師】によって龍は封じられる。【結界師】は龍を封じながら、その力を殺いでいく。いつか騎士が龍を倒せるように、【結界師】は結界を張り続け龍の力を殺いでいくのだ。己のその後の人生を犠牲にして。
(…グモルクも倒せなかった。)
 かつて倒せなかった龍を思いだし、フィアルカは己の腕をぎゅっと掴んだ。少なくとも二人の騎士の人生は、あの龍との戦いで変わってしまった。一人は今も龍を結界の内に封じ続け、一人は永遠に14歳の体のままだ。
 …いや。自分が彼を14歳に留めたのだ。彼は、龍に胸を貫かれた。それを認められなかった自分が、彼の時間を止めてしまった。軽率で愚かなことをしたと思う。だが、…だが。あれ以外の選択が、未だに思いつかない。
 どうか、あのときと同じことが起こりませんよう。フィアルカはせめて祈るばかりだ。
「大丈夫ですよ、」
 と、結界を張り終えたイサが不意に声を掛けてくる。広範囲の結界を維持する疲労で、額に汗が滲んでいる。
「隊長は、龍討伐隊の中でも5指に入る【妖精返り】です。龍をやっつけてきますよ。」
「……、ええ。そうね。」
 フィアルカは静かに頷いてから、
「ありがとう、イサ。慰めてくれて。それと…、聞いてもいい?」
「どうぞ。」
「ノヴァがなぜ、アンファングの後任に?それほど強い【妖精返り】ならば、本部の龍討伐隊に赴任するべきではないの?」
「その第一小隊に所属してたんですけどね、あの人は。」
 イサはじっと川を見つめながら答えた。川を伝っていく自分の『粒子』をコントロールしつつ、答えを続ける。
「この度、この街にあなた方がいると知り、団長は騎士・ノヴァを隊長格に引き上げ、こちらへ赴任させました。表向きの理由はともかく本当の理由は、「彼はラファルを裏切らないから」だそうで。」
「……そうなの?」
「そうらしいです、私も団長から聞いただけの話ですが。」
 とはいえ、とイサは自分の張った結界の奥を見る。
「この発掘都市に龍が現れたのなら、結果オーライにも程がありますね。この街には今まで龍が現れたことがないので、討伐員は少ないです。一度龍が現れた土地に、龍は再び現れる。16から龍と戦い続けた隊長の経験は、きっと重宝されるでしょう。」
 それに、と言いながらイサは、ふふん、と鼻を鳴らした。
「あなたの祝福を受けた剣で、ウルズくんも龍討伐を果たすでしょう。彼は【妖精返り】ではないため討伐員にはなれなかったのですが、実績ができれば話は別です。剣技の腕なら隊長より上。僕の隊長と同僚は、あの龍もこれから現れる龍も、全て倒してしまうでしょう。」
「あなたは、自分の隊長と同僚が好きなのねえ。」
 フィアルカはそっと微笑んでから、頷いて結界の奥を見た。
「……そうね。きっと倒してくるわ。私の騎士も、強いもの。」

*****

 龍を倒す方法は三つ。一つは【妖精返り】の力で攻撃すること、一つは天使や悪魔の力を借りること、最後の一つは【王の祝福】を受けた武器で攻撃すること。
 そのいずれかで龍を攻撃した場合、攻撃された箇所は分裂も再結合もしない。傷から数十センチの範囲が光の粒になり、龍の体は小さくなっていく。その攻撃を繰り返し、龍の体を全て光の粒にしてしまうこと。それが、龍を討伐する、ということだ。
 三つの方法で受けた傷から数十センチの範囲が光の粒と化す…ということは、龍を広範囲で傷つけられる攻撃が有効だ、ということだ。ノヴァの炎は、とりわけ効果的な範囲攻撃なのだ。だからこそ彼は16歳で龍討伐隊に抜擢され、この若さで驚異の龍討伐率を誇っている。
 ……と、いうことは。
 講義で学んだ知識と、目の前で行われるの戦いと、龍の形状を見て、ウルズは有効な攻撃スタイルを導き出す。龍は、細長い蛇のような形状だ。厚みはない。傷から数十センチの範囲が光の粒と化すのなら、表面を傷つけさえすれば内部まで光の粒にできる。
 …ということは、つまり。この龍をもっとも効率的に光の粒に還元できるのは。突きではなく、薙ぎの一閃だ。
 突っ込んできた龍の頭に、ノヴァは炎をぶつけた。炎は龍の頭を、熱は龍の表面を灼き、龍の体の半分を光の粒へと変化させる。体の残りの半分を、龍は4つに分裂させた。【妖精返り】の力を使った直後に一瞬の隙ができるノヴァに向かって、4つの小龍は飛んでくる。
 ウルズはその4つの小龍に向かって跳ぶように駆けだした。ノヴァの起こした炎による黒煙の下を潜るように、低く駆ける。ラファルが龍を『腹開き』をするかのように攻撃した動きを思い起こしながら、今や龍への立派な武器になった切っ先を上空へ向ける。駆けるウルズと跳ぶ龍の一体が交差して、龍は頭から尾へと向かって腹を切り裂かれ、一体丸ごと光の粒に成り果てた。
 一匹を尾まで切り裂いて、すぐにウルズは地面を蹴る。もう一匹の龍に向かって、すくい上げるような動きで一閃。龍の体を斜めに切り裂き、小龍は切り裂かれなかった一部を、さらに小さな龍として分裂させた。
「兄ちゃん、初の龍討伐とは思えねえな!」
 ラファルが楽しそうに声を上げながら、並ぶ壁を跳ねるように上っていき、2メートルほどの高さから飛び降りる。ウルズに斬られ、極小となった龍を上から追撃。極小龍の頭を短剣で一刺ししつつ、地面に着地。地面に短剣が突き刺さるのと、極小の龍が光になるのはほぼ同時だ。
 4つに分かれた龍は、ノヴァを攻撃しつつ一つにまとまるつもりだったのだろう。2体を失った龍は攻撃を諦めて、残った2体で一つになろうとする。それは元々の大きさの3分の一もない。そこまでくれば、炎の一薙で消し飛ばせる。
「二人とも、伏せて!」
 ノヴァの声に、ウルズは地面を背後に蹴って距離をとりつつも受け身をとって地面に転がる。ラファルは地面から短剣を抜いて、そのまま地面に腹這いになった。
 ごう!っと空気が動いて、ノヴァの炎が宙を薙ぐ。残りとなった龍を炎は一瞬で包み込み、龍は灰ではなく光の粒になって消滅した。
 ノヴァは自分の炎が消えたのを見、龍の形がどこにも見あたらないのを確認してから、ゆっくりと姿勢を伸ばして息を吐いた。
 龍討伐は、討伐が進めば進むほど楽になる。小型化していく龍を消滅させられる術が、増えていくからだ。とはいえ得体の知れない生き物であり、その龍に滅ぼされた村や町も少なくはない。龍に家や家族を奪われた者も少なくなく、龍を前に足が竦む騎士も珍しくはない。
「ウルズくん、怪我はない?」
 起き上がり、きょろきょろと周囲を見回している部下にノヴァは声をかけた。ウルズはノヴァに視線を向けて、一つ頷いた。そして、サーベルを鞘に収めようとして、鞘がないことに気が付いた。彼が持っているサーベルはイサの物で、ラファルが抜き身のままに持ってきた。
 じっと、龍を倒したサーベルにウルズは視線を落としてから、もう一度ノヴァを見て、頭を下げる。
「ありがとう、隊長。戦闘許可をくれて。」
「ううん、僕こそ助かったよ。ありがとう。…あと、ラファルくんも。」
 ノヴァは、ツナギの土埃を払っているラファルに振り向き、礼を言うかと思いきや、
「でも、ラファルくん。君の今の役目はフィアルカ様の護衛なんだからね!助かったけど、お礼は言わないよ!」
「いいじゃねえか。龍をここで倒せず街に出したら、姫さんだって危険にさらされるんだから。」
 ひらひらとラファルは手を振り、「そういうことじゃないよ!そばにいなきゃダメでしょ!」とノヴァは頬を膨らませた。男前になったのに相変わらず仕草が可愛いなあ、とラファルは反省せずに苦笑だけ浮かべ、
「ま、姫さんをほっぽりだしてるのは事実だ。とっとと戻ろうぜ。」
 ラファルの気楽な一言に、ウルズは深刻そうな顔でコクコクと頷いた。
「…隊長は、始末書を書かないといけない。早く帰った方がいい。」
「…あのね、ウルズくん。君に龍との戦闘をさせたことについての始末書なんだよね?書いて当然みたいな顔で言われるとね、僕も怒るよ?」
「……。しかし。隊長は怒っても怖くない。」
「もー!!そういうことじゃないよ!」
 腕を組み頬を膨らませて、「ぷんぷん!」という擬音がぴったりくるような様子で怒っているノヴァは、確かに怖くなかった。変わってないなあ、とラファルが思わず呟いてしまい、「なに!?ラファルくん、何か言った!?」とノヴァに半分キレられた。
「何でもねえって。ほら、行くぞ。お前らは支部長さんに報告しなきゃだろ。ついでに、この兄ちゃん……」
「…ウルズ。」
「そうそう、ウルズに龍討伐許可を出してもらえよ。それをウルズが望んでるならだけど。」
「隊長。お願いする。」
 ウルズはぺこりと頭を下げる。ノヴァは、今度は眉を落として困った顔になり、
「……君が龍と十分戦えることは分かったけど…、けど、いいの?ウルズくん。龍がこの街にも現れるようになったってことは…、僕の隊は龍討伐の部隊になる。僕としては……、君とベルカナくんを僕の部隊から外…」
「だからこそだ。ベルカナも、そう答える。」
 ノヴァの言葉を遮って、ウルズは告げた。ラファルの知らない事情があるようだがそれを問いただす必要もない、とラファルは傍観に徹する。ノヴァは、ううう…と呻いてから、
「…分かった。支部長には君の働きを報告する。判断は、支部長にしてもらう。」
「ありがとう。」
 ウルズがもう一度頭をさげた時、演習場の向こうから声と馬の足音が聞こえ、ラファルがそちらに顔を向けた。
 土埃をあげてやってくるのは、応援の部隊だ。龍討伐員であろう騎士が5人と、龍への攻撃用の弩を運ぶ荷馬車を駆る騎士が3名。
「…あれが、この街の龍討伐の力の全てか。まあ、発掘都市に龍が現れたことはなかったからなあ…。…これから苦労するな、ノヴァ。」
 ラファルが溜息混じりに言い、ノヴァは「そうだねえ」とのんびりと答え、ウルズはノヴァをじっと見て
「大丈夫だ。俺も討伐員になるからな。一人、増える。」
 と、さも決まったかのように胸を張った。

******

「ああ!おかえりなさい、ラファル!よかったわ、無事で!」
「姫さん!おれは支部庁舎に避難しろって言ったよな!?なんでここに残ってるんだ!?何やってんだ、エアリアル!」
「きーーー!!姫様は決めたら梃子でも動かないことは、あなただって知ってるでしょう!?あなたがわたしだったとしても、姫様はここにとどまりましたよ!」
「…まあ、それは認める。」
「ほら!やっぱり!!」
「まあ。私はそんなに頑固者?」
「自覚して、姫さん。」
「ご自覚を、姫様。」
 結局、最初の位置から一歩も動かなかったフィアルカとエアリアル、その位置に戻ってきたラファルはそんなやりとりをしてから、結界を解いたイサがノヴァに神妙な面持ちで報告をしている様子を指さして、
「何かあったのか?」
「ええ。龍を倒したっていう報告の後(応援部隊の一人を先に戻して、討伐完了の報告に出したのだ)にね、ノヴァ隊の方々が龍が現れたあたりを見て回ったの。ほら…、元々、盗掘のためのトンネルがあったところだから…、【前時代の遺物】が地表に出てきてたら保護しないといけないし、立ち入りも禁止しないといけないからって。」
「…ああ、そういえば、そもそもトンネルを見に来たんだよな。」
「そうしたらね、その…、見つけたみたいなの。」
「…遺物を?」
「…そうなのかしら、そうじゃないのかしら。…その…、」
 フィアルカは、ノヴァとイサの向こうに立っているイングワズとグリシナに視線を向けた。…というよりも、イングワズとグリシナが銃を向けて囲んでいる存在に目を向けた。二人に銃を向けられて、地面に座り込んでいる一人の男がそこにいた。20代半ばにも見える青年で、陽が当たると銀にも見える黒髪は背中に一筋すうっと伸びている。まるで動物の尻尾のようだ、とラファルは思った。
「あの人…?が、龍によって掘り起こされた土の中から出てきたらしくて。」
 とフィアルカは頬に手を当てて、首を傾げた。エアリアルが鼻をひくひくさせながら、
「あの輩、人ではありませんよ。人間臭くありません。」
「おれには、お前から獣臭さを感じるときがあるけどな。」
「きーー!!我々ウサギより人間の方が臭いですよ!だから、人間たちは入浴するんでしょうが!我々は体を舐めるだけで、清潔になりますよ!」
 エアリアルがズダンズダン!と後ろ足で地面を踏み、猛抗議をする。その様子を、話題の男が目を丸くして見つめ、
「……兎が、喋ってる…!?」
 と、この世界の人間なら誰も驚かない事実に、驚き以上の慄きを見せた。


《第3話へ続く》

-----------あとがきのようなもの---------------

時間掛かりましたが、2話終了です。
2話は「龍」についてのざっくり概要を書いてます。
「龍」って読んでますがドラゴンの形はしてません。クダクラゲっぽいイメージです。

3話は全然書けてないので、更新はずいぶん先になると思います。
今度はこの「街」について書く日常寄りの話にしたいものです。

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