まよらなブログ

六章1話。

先走った志水の「世界樹カンケーねえ!」な「世界樹の迷宮?」妄想話です。
本日から6章です。
今回もいきなり「いつの話だ」というところから始まりますが、
今回の前半は何度も推敲を繰り返すぐらいに楽しかったのは何ででしょうか。
たまには子守りしてるんじゃないところも書かないとね!!(笑)

というわけで、興味のある方は「つづきを表示」からどうぞ。


6章1話

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 カーテンの隙間から漏れた日差しが顔に当たる。眩しくて、目が覚めた。朝の光は刺すようで、腕で瞼を覆う。少しだけ顔の角度を変えて、朝日が目を刺さないようにしつつ、何か違和感を感じてそれを確かめようと瞳を開けた。開く瞳は片目だけ。
 左目は16の頃から潰れている。その頃から、自分が見られる世界は半分だ。不便であっても、十分だ。違和感の原因を確かめることは出来るんだ。
 シーツの上、投げ出すように伸ばされた自分の腕。違和感の原因は、そこに重さがないことだ。つまり、昨夜は居た人がいないこと。自由が利く腕を曲げて、前髪をかきあげた。それから気だるい体を起こす。大欠伸をしながら赤毛の頭をぼりぼり掻いて、部屋にも誰もいないことを確かめた。
「・・・すぐ、どっか行くんだもんな・・・。」
 呟きながらベッドから降り、床に散らばった服を拾い上げた。やっぱり、そこにも自分の服しかない。抜け殻すら存在しない。
 いつものように物音も立てずに出ていったのかよアイツ、と嘆息した。本当に猫のようだ。でも、飼い猫には絶対ならない。首輪をつけようとしたら逃げていく猫だ。宝石は好きでも、贈られたものを身につけたことはない。
 だから、こっちも追わないようにしなくてはいけない。そうしなくては本当に逃げてしまう。
「・・・あー、もうしょうがねえや。」
 溜め息混じりに呟いて、「朝飯でも食ってりゃ帰ってくるだろ。」と自分に言い聞かせて支度を整える。服を着ながら、ベッドの傍らのテーブルの上、無造作に置かれた地図に気がついた。何気なく、その地図を広げてみる。
 地図は小部屋と通路で構成されていた。どこかの迷宮のようだった。この地図は、猫のような女のものだった。どこで手に入れたのかは知らないが、「きっとココには凄いお宝が隠されてるのよ!」と目を輝かせて見せてきた。
 だから、言ったのだ。じゃあ、いつかその場所に行ってみよう。宝探しなんて海賊らしいじゃないか。ケチな積み荷泥棒より、よっぽど海賊らしいはずだろう?だから、一緒にそこに行ってみよう。
 そう言ったとき、彼女は少しだけ驚いた様子を見せてから、腹を抱えて笑ったのだ。涙を浮かべて笑う彼女に、何故か本当に泣いているんじゃないか、と思った。
 あれは、何だったんだろう・・・。
 そんなことをぼんやり考えていると、音を立てないようにドアが開いた。おかえり、を言おうとドアを見る。そこには、驚いて青い目を開く女がいた。彼女はすぐに、形のいい唇の端を持ち上げて、ウェーブがかった亜麻色の髪をかきあげた。
「起きてたんだ?」
「・・・おう。」
 低く答えながら、見つめるのはドアを開けた彼女ではない。その後ろにいる、鎧を着た兵士。この町の役人が5人。
 ・・・たかがケチな海賊一人に結構な人数だな、と思った。
「・・・お客さんか?」
「そうね、あんたに用があるそうよ。」
 彼女が部屋に入ってきて、続いて役人が一人入ってきて、二人がその後ろに続いた。
「ごめんね、マルカブ。」
 と、彼女は言いながら自分の前に立った。
「あたし、あんたのこと売っちゃった。」
「・・・へえ?」
 テーブルに置いたままの銃に、ちらりと視線を向ける。彼女はそれを取って、役人に渡す。ああ、クソ!銃までちゃんと身につけておけば良かった。心の中で毒づきながら、地図をテーブルに放り投げた。その地図を眺めながら、彼女は椅子を引いて座った。
「俺、そこまで悪いことをした記憶はねえんだけどな?」
「そうね。アンタはいい奴よ。軽窃盗以上のことはしないし、盗むものも盗む相手もちゃんと考えてるもんね。」
 海賊らしくないわよね、と彼女は言って、足と腕を組む。蟲惑的な体格がますます強調されている。それを眺めるのも最後かもな、と心のどこかで覚悟した。
「でも、今回は下調べが足りなかったみたいなの。アンタが盗みに入った船は、そちらの方々と仲が良かったみたいで。」
「・・・悪徳商人と役人の癒着かよ。」
 吐き捨てるように言うと、彼女は、そうね、と同意して、
「でも、盗みに入ったのは事実よね。」
 と、溜め息をついた。
「あたしもこんなことしたくないんだけどさ。その商人は大海賊と繋がりがあるみたいだし、目をつけられると、今後も厄介だし。あと、ちょっと謝礼も弾んでもらえるんでね。悪いわね、捕まってくれる?」
「・・・捕まるだけで済むのかな?」
 と、役人に問いかける。役人は無言で槍の刃を向けた。正しくこの町の法律が適用されるわけではなさそうだ。
 くそったれ。
 心の中で毒きながら、両手を上げた。最後だと思って暴れてもよかったが、そんなことをする気はなかった。こんな裏切りを平然とする女であっても、彼女の前で見苦しい真似をしようとは思わなかった。それが子どもっぽい強がりであっても、れでもそんな姿を彼女に見せる気はなかった。毅然としておく必要はない。けれど、カッコ悪いとこは見せたくない。
「ごめんね。結構楽しかったんだけど。」
 と、彼女は言って立ち上がり、自分の赤毛をそっと撫でた。「私、赤が好きなのよ。」そう言って、髪を撫でるいつもの仕草だ。昨夜だって撫でていたのに。
 ・・・俺は赤は嫌いだよ。
 そんなことを口にしたことはなかった。けれど、16の頃からずっと赤は嫌いだった。夕焼けの中の血と炎を思い出す赤は嫌いだった。
 でも、それに別の意味を持たせてくれたのは彼女だったのだ。どうしようもない日は、せめて夕焼けを見ながら明日がいい日であるように祈るしかないのだと。そう言って、だから私は赤が好き、と笑う彼女だったのだ。最後まで真意を掴めなかったこの女性の、たった一度の本音が、全ての意味を逆転させたのならば。
 ・・・もう、それで十分じゃねえか。
 それは強がりだったのか、諦めだったのか。無関心を装った憎しみだったのか従順な愛情だったのか。けれど、それだけは感謝も出来た。だから、なあ、と彼女に声を掛ける。
「なあ、ガーネット。」
 大切に名前を呼ぶと、彼女は瞳をあげた。
「俺も楽しかった。・・・だから、」
 彼女の目が大きく開いた。
「だから、またお前に会ったら、仲間に誘うよ。」
 大きく開いた彼女の目が、少しだけ潤んだ。それには、気がつかない振りをした。彼女は数度の瞬きで涙を消すのだ。今だって、きっとそうだ。
 そして、その通りだった。長い睫が数度動いて、彼女は小さく微笑んだ。
「そうね、楽しみにしてる。」
 そして、彼女は赤毛に口づけた。


*****


「・・・あー・・・」
 それは、数年前の出来事だった。仲間に裏切られて役人に捕まったときのことを夢に見た。翌朝のマルカブは、顔を洗って呻くのだ。
「・・・ヤな夢見た・・・。」
 呻きながら、しばらく洗面台を見つめる。それから顔をあげて、洗面台の鏡を見た。左目が潰れた赤毛の男が、情けない顔でそこにいる。
 今更あの時のことを夢に見たのも、クー爺があんな地図を持ってきたせいだ。そう思いながら、タオルで顔を拭く。ガーネットの遺品の地図を忘れていたわけでもないが、それでも頭の片隅に置いておけたのに、今じゃ頭のド真ん中だ。
(・・・地図があるからって、どんどん先に進むもんじゃねえ。逸るな。)
 タオルで顔を押さえながら、そう自分に言い聞かせる。かつての仲間の地図を確かめたい気持ちと、そこにたどり着きたくない気持ちがせめぎあっている。そんな中、そう自分に言い聞かせることしか出来ない。溜め息をつく。
「・・・おはよう、マルカブ。」
 背中にあくび混じりの声がかかった。アヴィーだ。マルカブは、おう、と答えながら振り返らずに、素早く眼帯をつけた。アヴィーはとことこ、とマルカブの隣までやってきて、
「今日は早いねえ・・・。」
 目をこすりながら、そう言った。
「まあ、たまにはな。・・・お前、寝不足か?」
「ん。・・・昨日、天体観測してて・・・・・・・・・、」
「・・・探索、大丈夫なのか。そんなんで。」
 思わずそう聞き返すと、さらに後ろから声がかかる。
「あ、おはよう。二人とも。」
 カリーナの声だ。眼帯もつけたマルカブは振り返った。
「おう。おはよう。」
「おはよー・・・」
「アヴィー、眠そうね?」
「天体観測で寝不足だそうだ。」
「天体観測?」
「ホロスコープ作って・・・・・・、」
 アヴィーは歯ブラシに歯磨き粉をつけながらぼんやりと言い掛けて、
「あ!!」
 いきなり目が醒めたように二人を振り返り、ぱああああ!!と顔を輝かせながら、
「あのね、そしたら僕、流れ星を見たんだよ!!」
「へえ。」
「何だよう!その興味なさそうな返事!!」
「アヴィー。私、流れ星、見たことない。お話でよく聞くけど、どんな風なの?」
「じゃあ、今度カリーナも天体観測しようよ!あ、だったらミモザも誘おう!」
「・・・お前、お師匠さんに殺されても知らないからな・・・」
 師匠の愛娘を深夜に外に誘うつもりのアヴィーに、マルカブが呻いたが、アヴィーとカリーナは全く耳を貸しておらず、
「お願いすると本当に願いが叶うの?」
「そんなのは迷信だよ。でも、あっ!って思ったら消えちゃうから、本当に三回言えたら願いが叶うくらいすごいことだよ。」
「あっていう間に消えちゃうんだ・・・。瞬きも出来ないのかな・・・。」
「運が悪いとそうかもね。」
「いつでも見れるの?」
「そうじゃないよ。夏なら流星群も多いんだけど・・・今、見られる流星群ってないからなあ・・・」
「だったら夏まで待てばいいじゃねえか。」
 マルカブが鏡を見ながら髭を撫でつつ、大した意図もなく口にした。
「別に俺らは急いでるわけでも・・・・・・・・・って、何だよ。」
 じーーーっと自分を見上げる子どもたちの視線に気がつき、マルカブは鏡から二人に視線を移す。
「待ちきれないのかよ。ガキは時間が長くていいよな。俺にとっちゃ半年後なんかあっという間だよ。」
「そうじゃなくて、ねえ?」
「そうだよ、ねえ。」
 カリーナとアヴィーは顔を見合わせて、
「「夏まで、ずっと一緒にいてくれるつもりなんだ。」」
 二人はユニゾンでそんなことを言う。うわ、俺、負けるかも、とマルカブは思う。アヴィーとカリーナは、くくっと笑い合い、
「マルカブも一緒に流星群見ようね!」
「流れ星にマルカブのお財布が膨らむようにお願いしようね!」
「今から早口言葉の練習だね!」
「毎日三回言うのね!」
 半分からかいの、半分はたぶん本気で、二人は楽しそうにそんなことをまくし立てる。
 マルカブは、ハイハイ、と生返事をしてから、
「俺の財布はどうでもいいんだよ。」
「「どうでもいいの!?」」
「・・・何でそこで口をそろえるんだ・・・。」
「だってねえ。」
「何をやっても金欠なんだから、後は星にお祈りするしかないと思うの。」
 カリーナが大人びた口調でそんなことを言う。何も似ていない。それでも耳の奥で響くのは、夢で見た女の言葉だった。
 ――、どうしようもない日は、せめて夕焼けを見ながら明日がいい日であるように祈るしかないのよ。
「・・・、結局、それしかできないのか。」
 ぼそり、と呟いた一言に、アヴィーは不思議そうに首を傾げ、カリーナは思わずマルカブの袖をつかんだ。昨日、フィニック家で感じたように、この人に自分たちでは分からない何かがあるのは嫌だった。どこかに行ってしまいそうで嫌だった。
「・・・ああ、別にお前に文句を言ったんじゃねえよ。」
 カリーナのそんなささやかな気持ちには、全く気がついていないマルカブは、全く逆効果の言葉で彼女をなだめる。カリーナは何かを言いたげに口を開きかけ、そして噤んで渋々頷いて手を離す。
 マルカブはそんなカリーナを見ながら、頭を掻いて、
「まあ、そうだな。その頃まで俺が一緒にいるんなら、だ。天体観測に付き合いながら、エールでも飲むのも悪くねえか。」
 と、そう言うのだが、やはりそれも逆効果なのだった。



(六章2話に続く)

---------------あとがきのようなもの-------------------

うちの赤パイだって大人ですもの、
おとななかんけいのひとつやふたつあったっていいじゃない、
・・・・・・とはいえ、いきなり翌朝の話から始まってすみません。
もっとも当初のプロットではもろに事後話だったなど、口が裂けても言えやしねえ。

ガーネットはパイ姐です。
彼女にも、一億貯めて故郷を買うの!ぐらいの理由があるんでしょうが、決めてません。
・・・・・・って、あれ?パイ姐って前にも・・・という感じで第6章スタートです。

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