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まよらなブログ

七章3話。

先走った志水の「世界樹カンケーねえ!」な「世界樹の迷宮3」妄想話ですが、
始まってからほぼ一年経ちました。よく続いたもんだと自分でも思います。
毎週読みにきてくださる方々の存在に励まされ書いてます。どうもありがとうございます。

拍手もありがとうございます。
前回の話でいただいた拍手コメント、ありがとうございます。
返信不要、とのことですが確かに受け取りました。うわあ、嬉しい!頑張る!!



そんなこんなで、興味のある方は「つづきを表示」からどうぞ。

7章3話
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「・・・私の名前、ガーネットって言うの?」
 『彼女』は、そう不思議なことを問いかける。
「何言ってんだ、自分の名・・・・・・」
 マルカブはふと言葉を止めた。その隙に、部屋から少女がさっとやってきて、マルカブと『彼女』の間に割って入る。
「何なんですの!?いきなりエラキスさんにつかみかかって!不躾にもほどがあります!」
 小さな体で『彼女』を背中に庇いながら、ぷんすか!と怒り出すのは、14・5歳の少女だ。緑の服に白いエプロン、おそらく彼女が『ファクト』のもう一人の仲間であるファーマーの少女なのだろう。
 少女の憤慨に押されて、マルカブは「・・・ああ、悪い」と謝った。そして、『彼女』に尋ねる。
「・・・エラキス、だって?」
「・・・私、何も覚えてなくて・・・だからシェリアクがつけてくれた名前を・・・・・・」
 『彼女』も混乱してるのだろう。要領が得ない説明を、必死にしようとする。マルカブの頭に、「何も覚えていない。」という言葉だけが刻み込まれた。つまり、そういうことだ。
「・・・あなたは、私のことを・・・知って・・・・・・・・・」
 『彼女』が問いかけようとしたままで、突然硬直した。訝しげに少女が『彼女』を見上げる。カタカタ、と『彼女』が小さくふるえだしていた。
「・・・赤。」
 『彼女』は焦点の定まらない目で、でもマルカブから視線をそらすことが出来ないままで、呟いた。
「・・・赤。」
 『彼女』は呟きをもう一度繰り返した。
「夕焼けの海で、あたし、あんたと、明日を、祈って」
 『彼女』の唇は『彼女』の意志ではない何かで動く。『彼女』はガーネットだ、とマルカブは確信した。せめて明日はいい日であるようにと夕焼けに祈るのだ。そう教えてくれたのは、ガーネットだったのだから。
 震えだした『彼女』を見て、マルカブは慌てて『彼女』に手を伸ばす。支えになれば、と手を伸ばす。『彼女』はその手を振り払った。
「イヤだ・・・・・・!」
 彼女は叫んで、その場にしゃがみ込む。少女が彼女の背中をさすりながら、何度も彼女の名前を呼んだ。「エラキスさん」と何度も呼んだ。『彼女』の見開いた目から涙がこぼれ落ちて、その口からは男の名前が繰り返される。「シェリアク」と、ここにいない男の名前を何度も呼んだ。
 マルカブは呆然と立ち尽くす。もちろんカリーナもそうだった。そして、その背後から階段をあがってくる足音がして、その足音がふと止まり、それから駆け寄ってきた。
「エラキス!」
 足音の主はシェリアクだ。彼はしゃがみ込んでしまった『彼女』を支えるように背中に手を添える。『彼女』は、シェリアクにしがみつき、「怖い、怖い」と泣きわめいた。
 ・・・・・・泣くはずがない。
 マルカブはその『彼女』の背中を見つめて、強く思った。
 ガーネットは泣かない女だった。だから、きっと彼女は「エラキス」なのだ。人違いだ、そう思え。夕焼けに思い出のある女なんか、きっと掃いて捨てるほどいる。そう思って、ここから立ち去れ。これ以上、『彼女』を泣かせたくないのなら!
「・・・・・・折角、来てもらってすまないが」
 シェリアクは「エラキス」の背中をさすりながら、マルカブを見あげた。それを見ながら、カリーナは場違いなことに気づくのだ。
 あの背中をさする仕草も、マルカブに似てる、と。
「落ち着いたらこちらから伺う。今は・・・一度帰ってもらえないか?」
 責めるでもなく、淡々と。シェリアクの言葉に、マルカブは頷く他なかった。


*****


 居間にお茶を運び終えたミモザは、廊下でそーっと聞き耳を立てている。時々父に会いに来る老人と一緒にやってきたアヴィーの顔は強ばっていたし、父もそのアヴィーを出迎えた表情が固かった。
 ・・・パパと喧嘩して、アヴィーがこの家にこなくなったらどうしよう。
 ミモザはドキドキする胸を押さえながら、ドアにそっと耳をつけて、中の会話を聞こうとする。ぼそぼそと喋る父の声は、よく聞こえないが、・・・何か謝っているようだった。
 しばらくして、アヴィーの声がした。
「・・・先生は・・・」
 アヴィーは何かを言いかけて、口をつぐんだようだった。何をどう言ったらいいか分からない様子。
 ミモザは祈るようにドアに耳を押しつける。と、呼び鈴が鳴った。
「・・・!」
 びく!とミモザが肩をすくめ、あわてて玄関に向かう。
「こーんーにーちーはー!誰かいるかー!お裾分けにきたんだけどー!」
 玄関の向こうからの声はフェイデンのものだ。居間の扉が開いて、ベクルックスが眉間に皺を刻みながら廊下へ顔を出した。
 ああ、どうなっちゃうんだろ。
 ミモザは不安に駆られながら、玄関の扉を開けた。

***

 フェイデンがお茶を飲んで、カップをソーサーに置き、
「・・・何だかごめんなあ。」
 と謝った。居間には彼とベクルックス、そしてアヴィーとクー・シーだ。
「・・・緊迫したところに乱入して・・・。・・・あなたはタイミングが悪いって、マリアによく言われるんだよなあ・・・。」
 とフェイデンは縮こまる。もっとも、その場にいる三人は正直安堵しているのだ。当事者ではない人間が一人その場にいるだけで、場の緊張感が和らぐ。ましてフェイデンのようなのんびりした人間なら尚更だ。
 たまたま訪ねてきたフェイデンだったが、三人のそんな緊張感に巻き込まれる形で、樹海で起きたことと『アルゴー』と『ムルジム』の事情を聞かされた。フェイデンは頷いてその話を聞き、結局謝っている。タイミングもだが、要領も悪いらしい。
「・・・フェイデンさんは二階層に行ってますよね。」
 アヴィーが縮こまっているフェイデンに聞く。
「6階にも行ったことがあるんですか?」
「ああ、僕は海流の中で迷っちゃってな、古代魚のいた辺りまで到達してないんだ。・・・そしたらマリアの妊娠が分かって、あんまり心配かけられないから樹海の探索は中断してて・・・それにしても?あんなに可愛いドルチェが元気に生まれてきてよかった~~そういえば、昨日な~ドルチェったらな~あんなに小さいのにもう既に」
 デレデレと鼻の下を伸ばしながら、段々自慢話に移行していく(そのうちノロケ話になるに違いない)フェイデンの話をアヴィーは素早く軌道修正した。
「じゃあ、古代魚の巣まで行ってないんですね。」
「・・・え?あ、うん。」
 フェイデンは我に返り、顎の傷を撫でながら、
「・・・ああ、それでか。」
「何だ?」
 ベクルックスが聞くと、フェイデンは、うん、と頷き、
「衛兵たちが樹海に向かっている。指揮はクジュラがとっていた。いつになく大がかりだな、と思っていたけど・・・そのオランピアの捜索と捕縛だろうな。」
 そしてフェイデンはアヴィーとクー・シーに問いかける。
「彼女と直接会った『アルゴー』にミッションの依頼が来ると思うけど・・・、『アルゴー』は先に進むつもりがあるのか?」
 問いかけに、アヴィーとクー・シーは視線を合わせた。答えたのはクー・シーだ。
「どうだろうね。今は答えを保留にしている。姫やアヴィーに怖い思いをさせてまで先に進む気は、マルカブにはないだろうから。」
「でも、ディスケは先に進みたがると思います。海に沈んだ文明を知りたがっているし。・・・おじいちゃんはオランピアを追いたいでしょう?」
 アヴィーはフェイデンに答えてから、クー・シーに聞いた。クー・シーはまあね、と答えたが「わしのワガママは横に置いておかないとね。」と肩をすくめた。
「・・・アヴィーはどうなんだ?」
 フェイデンは静かに尋ねる。それは、ベクルックスに紹介され、占星術を学びたい理由を述べたとき、助け船を出す様子も見せなかったフェイデンと同じだった。穏やかながらも、絶対に依存はさせない。
 ・・・優しいけど厳しい人だな・・・
 と、アヴィーは思う。けれど、これは答えないといけないことだ、ということは分かっていた。
「・・・僕は、先に進みます。」
 アヴィーの答えは、己の希望ではなく意志だった。意外そうな顔でアヴィーを見たのは、クー・シーとベクルックスだ。フェイデンは特に表情を変えることなく、アヴィーを見つめ続ける。理由を述べるように、とその目は指示する。
「20年前から・・・もっと前から、同じことが起きてるなら、また20年後も同じことが起こります。」
 アヴィーは、拳を握る。
「僕はあんな怖い思いしたくないし、カリーナに怖い思いをさせたくなかったし、マルカブに心配をかけさせたくなかったし、ディスケに仲間を疑わせるようなことはさせたくなかったし、おじいちゃんに20年も悲しい思いを抱えさせたくなかったから、」
 だから、とアヴィーは言うのだ。
「ほかの誰にも、そんな思いはさせたくないです。今、全部を明らかにしたいと思います。」
 フェイデンはしばらくアヴィーを見つめ、そして笑った。「・・・シルンと同じことを言う。」と笑い、場のけじめをつけるように膝を叩いた。
「じゃあ、それをマルカブに伝えて、ちゃんと話し合って決めないとな。そして進むなら、ベクは全てをアヴィーに教えなきゃ。それぐらいの責任はあるもんな。」
「・・・それぐらいしか出来ないからな。」
 もっとも、とベクルックスはアヴィーに、「お前が、危険を知らせずにいた師に師事をし続ける気があれば、だが。」
「・・・。」
 アヴィーは少し考えて、
「先生とおじいちゃんは、僕らを利用したってことですよね?」
「アヴィー、」
 フェイデンが咎めるが、アヴィーは無視して、
「だったら僕も先生を利用していいですか?」
 ベクルックスが、鼻を鳴らした。つまらなそうな様子を装いつつ、楽しんでいるようだった。
「僕が先に進むために、これからも星術を教えてもらいます。」
 アヴィーはにこりと笑う。いつもの無邪気な笑顔だが、意地悪く見えるのはやはり話の展開のせいなのか、そもそも実は無邪気ではないのか。ともかく、ベクルックスは苦笑を浮かべ、
「私に拒否権はないな。」
 アヴィーはきっぱりと答えた。
「無いです。」
「分かった。私の持てる知識・技術、星術に関するすべてをお前に譲ろう。」
「・・・それって、ミモザちゃんも嫁にやるってことかね?」
 クー・シーが茶々をいれると、ベクルックスは鬼の形相でクー・シーにカップを投げつけた。
「・・・ひどすぎないかね?」
 茶を滴らせながら、クー・シーは聞く。アヴィーがあたふたしながら布巾でクー・シーの顔を拭いた。ベクルックスはソーサーも振りあげながら、
「メテオを呼ばなかっただけいいと思え!アヴィー!ミモザは別だから誤解をするな!!」
「しませんよ!!」
 アヴィーは叫ぶように反論して、クー・シーの顔面に布巾を押しつけた。

***

 居間の扉が開いた音を聞き、階段に座っていたミモザが立ち上がった。「お邪魔しましたー。」と部屋からでてくるのは客人たちだ。
「・・・あ、ミモザ。」
 アヴィーはミモザの視線に気がついて、持って出てきたティーセットの乗ったトレーを軽く掲げ、
「お茶、ありがとう。カップは洗っていくね。」
「い、いいわよ。洗っておくから。」
「む、それは良くないね!アヴィーはお弟子さんなんだから、片づけをしないと!」
 とクー・シーは言い、
「ミモザちゃんと二人で並んで食器洗いでもすればいいと思うよ!!たまに指が触れ合っちゃったりしてさ!」
 と続けた途端、部屋の中からベクルックスが分厚い本をクー・シーに投げつけた。
「・・・だからヒドすぎないかね?」
「・・・・・・アヴィー。食器は私が洗っておく。」
 ベクルックスはクー・シーのことは無視をして、アヴィーからトレーを取り上げた。
「お前はもう帰れ。」
「え、でも、」
「メテオを呼ばれる前に帰れ・・・!」
 背中から怒気を噴出させ始めたベクルックスに、アヴィーはこくこく、と頷いた。親バカだなー本当にもー、とフェイデンが呆れると、お前も10年後には同じことを言う・・・!とベクルックに睨まれた。
「じゃ、じゃあ、失礼します。先生。」
 アヴィーはぺこり、とお辞儀をして、ミモザに振り返り、
「お茶、ごちそうさま、ミモザ。」
 そして、たった一言でミモザの心配ごとを吹き飛ばす。
「またね。」
 ミモザはその言葉を聞いて、ぱっとアヴィーを見つめ、しかし俯いてから唇を結んで小さく頷いた。
「・・・おやおや。」
「・・・ああ、成る程。」
 クー・シーとフェイデンがその様子を眺める中で、ベクルックスはドカン!と爆発するように叫んだ。
「とっとと帰れと言っている!!」


(七章4話に続く)

---------------あとがきのようなもの-------------------

別の意味で、修羅場だった。(前回のあとがき参照)

後半は、うっかり「私の秘伝を譲る」と書こうとして、
どこのホークアイ師匠だよ、と思い留まりました。背中に入れ墨ねえよ。


嫁云々の話がでたので、ついでに。
うちの黒ゾディと赤パイの二人は14年後の同時期に嫁を貰うことが決まっております。(笑)

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