まよらなブログ

十章3話。

先走った志水の「世界樹カンケーねえ!」な「世界樹の迷宮Ⅲ」妄想話です。

流血沙汰は書きたくない志水ではありますが、本日の後半は血塗れです。
「画面真っ赤」な気分でどうぞ。(それはドラクエ)


まあ、そんなこんなで、話に興味のある方は「つづきを表示」からどうぞ。

10章3話
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 濃い霧の向こうで、音がする。発砲音、駆動音。霧の向こうで一瞬の灯りがともる。そして、霧の向こうで火薬の匂い。続いて赤い炎の揺らめきと熱の波。
 霧の向こうで戦いが始まっている。そして、霧が不意に動いた。空気が大きく流れたのだ。それだけの空気を動かせる巨体は、この場には一つしかいない。
 カリーナはとっさに己の体と縦方向に平行になるよう、剣を構えた。ぶわっと霧を巻き込みながら、ケトスの頭が彼女に向かって突進してくる。その頭の冠のような部位とカリーナの剣の腹がぶつかった。じんっ・・・!と背骨の随まで衝撃が走り、カリーナの体は後方へ弾かれる。カリーナは地面を転がる。剣は握っているが手が痺れて感覚がない。
 空気が動いて、霧が散った。薄くなった霧の向こうで、ひゅるるると、か細い音とともに光が上がる。それが宙で弾けて辺りを灯した。霧の中央から周囲を照らし、視界を晴らす。
「ほら、安心しろって!」
 弩の発射口を宙に向けたディスケがいつもの調子で明るく笑う。
「霧はおにーさんが何回でも晴らしてやっからさ!」
 照明弾を打ち上げたのだ。ディスケは軽口を叩きながらも、矢弾を装填。次の射撃の準備を始める。
 明るくなって、各人の位置を把握したクー・シーがカリーナへと走り寄ってくる。そして彼女の体に麻痺が残っていることに気がついて、怪我や体力の回復よりも先に麻痺の治療に取りかかる。
 その間、ケトスは宙を急上昇した。マルカブが発砲しながら治療中のカリーナの前まで移動。
「カリーナ、無事か!?」
 振り返らずに、背中で尋ねる。カリーナは咳込みながら、うん、と答えた。
「・・・大丈夫・・・!」
「もう泣いてねえな!?」
「もう、怖くないもの・・・!」
「よし、よく頑張った!」
 マルカブの声に、クー・シーが苦笑混じりのため息をついたのが聞こえる。カリーナは、うん、と微笑んだ。治療で、体の痺れが溶けていくように、声に自分の胸の奥も溶けていく。
 一方、広間の中央では、急上昇したケトスの尾鰭を追う様にアヴィーの炎が宙を走る。派手に上がった火柱に、ディスケが口笛を吹きながら弩をケトスに向けた。装填されている矢弾は通常のものよりも一回り大きい。狙いを定めていたディスケが、ふと顔を上げ、狙いの姿勢を崩した。ケトスが止まり、その瞳を地にいる一向に向けている。
 アヴィーが、急に己の耳を塞いだ。
「アヴィー!どうした!?」
「耳鳴りがする・・・!」
 マルカブの問いかけにアヴィーは答え、すぐにマルカブも己の鼓膜が震え出すのを感じ取った。音、というよりも微細な振動。それがやがて低い音に変わっていく。
「鯨の歌・・・で、済むわけねえよな。」
 呟いたマルカブの背後で、立ち上がる気配。麻痺の抜けたカリーナとクー・シーが、ケトスを見上げながら立ち上がる。
 歌は大きさよりも低さを増していき、じりじりと周囲を振動させた。そして、その震えを一気に解き放つようにして、圧縮された空気の震えとともに、ケトスの巨体が急降下する。ケトス自身の重さと速さに、空気の重さを伴って。
 一向は、ケトスの見つめる点から離れるように散開した。5人の間にケトスは自身を落とした。地面がひび割れ、瓦礫が舞い、樹海が揺れる。それは、あまりにも原始的な、力そのもの。
 だからこそ、背筋に汗が伝うのを感じるのだ。ケトスが見せたものは、生き物の本能に訴えかけやすいものだった。圧倒的な力という、単純で、しかし生死を左右する、恐怖の具現。
 ケトスはすうっと顔を上げ、ゆっくりと宙に浮かびだした。
「・・・狙いを外したか。」
 ケトスの「声」が頭に響く。それは独り言のようだったが、明らかに彼らに聞かせるつもりのものだ。彼は知っているのだろう。彼の巨体が当たらずとも、驚異という効果はあることを。
 しん、と張りつめた空気を打ち破るように、空気の破裂音。ケトスの瞳が音のした方へ動き、そして彼の左目の上の白い石のような部位に飛んできた矢弾がぶつかった。ぱらぱら、とその石のようなものが砕け、ケトスの顔は左右の対称性を失った。
 しかし、それに怒るでもなく悲しむでもなく、ケトスは感心したように目を細め、
「・・・・・・立ち直りの早い人間だ。」
「・・・そりゃ、どうも!」
 矢弾を発射したばかりで震える弦を押さえながら、ディスケが応え、
「ほら!おにーさんが偉そうな角みたいなの、砕いてやったぞ!ぼさっとしない!」
 次弾を装填しながら、仲間に檄を飛ばす。マルカブはディスケの意気を素早く汲んで、
「アヴィーはデカい炎を落としてやれ!カリーナ、地形を見て防御の陣を考えろ!クー爺は治療の準備!」
 指示を出して、散開を命じる。再びケトスが巨体を落としてきたときのために各々は離れていた方がいい、と判断してのことだ。ディスケは手を止めずに、
「おとーさん!俺は!?俺のこと、また忘れてない!?」
「お前はそのまま二撃目!」
「了解!おとーさん!」
 と応えるディスケだが、指示などなくても撃つ気だ。だからさっきの問いかけは、いつも通りを装ったものだ。
「だから、俺は父親じゃない!」
 と、マルカブもいつも通りの(というか、久しぶりの)フレーズを意図的に返しながら、ディスケが砕いた左目の上を狙い、三連射を叩き込む。その後方でアヴィーがエーテルを集め出す。カリーナは素早く周囲を見回して、ディスケに射撃を放つのに適した場所を指示した。クー・シーは先ほど出来なかった、、カリーナの傷の手当てを開始する。
 一斉に一味が動き出す。その攻撃をかいくぐりながら、
「・・・諦めには遠いか。」
 どこかした苦笑の響きをともなって、「声」を発した。そして、広間の中央で止まり、ゆっくりと一味を見下ろした。その高度が下がってきて、地面すれすれに浮かんでいる。それでもケトスの頭はディスケの背よりも高い位置にあるのだが。
「・・・まず、諦めを与えよう。」
 ケトスは胸鰭を地面につき、何か声を発した。アヴィーがはっと顔を上げ、エーテルを集めるのを止める。
「・・・エーテルが動いた・・・!」
 周囲を漂う星の力が別の何かに散らされていくのを、星詠みであるアヴィーだけが気づいた。そしてその別の何か・・・エーテルに変わるエネルギーの流れが向かう先は、ケトスの胸鰭の先だった。エーテルとは異なるが、それによく似た組成をアヴィーの肌は感じ取る。
「・・・気をつけて!冷気になる!」
 アヴィーの警告に、ケトスはゆっくりと瞳を上げて、
「・・・年若いが才のある星詠みだ。だが、分かったところで」
 鰭と地面が接する点から、ぴしり!と音がした。
「避けることは出来ない。」
 そして空気が一気に冷える。ケトスが触れた地面に氷が生じる。あ、と声を出すよりも早く、寄せる波のように躊躇いなく氷が地面を走ってきた。広範囲に及ぶ氷の疾走に、最も距離が近いのはカリーナだ。
 走るにしても跳ぶにしても、氷の波は早く、広範囲に及ぶ。カリーナは息を飲んで駆け出そうとする。それよりも先に足首まで氷が到達し、カリーナをそこに縫い止めた。
 アヴィーは素早く星術を展開。
「・・・熱いけど我慢して!」
 そう声をかけてカリーナの足に向かって炎を発した。氷は溶けて、カリーナの足は地面と離れるが、凍り付いた足は自由を失っている。脚の感覚を失った彼女は、ぺたん!とその場に尻餅をついた。
「アヴィー!道を溶かせ!」
 マルカブが命じ、アヴィーは十分なエーテルも集まらない中で炎を氷の上に走らせる。氷は溶けきらなかったが、マルカブは問答無用で冷気と熱気の入り混じる中をカリーナに向かって駆け出した。
 地面が陰るのに気がついたが、そんなことはどうでもいい。影に気がついたディスケが、上昇するケトスに向かって矢弾を打ち上げた。ケトスの体は少し揺らいだが、まだまだ余力は残っているらしく、再び彼は空気をふるわせて低い歌を歌いだした。
 マルカブはカリーナを抱え上げた。魔力の氷の上を走ってきた彼のブーツも凍りついている。おそらく脚は凍傷だ。
 全ての状況を鑑みて、まずい、と感じたのはディスケとクー・シーだ。ディスケは炎の触媒をこめた矢弾を弩に装填し、狙いは曖昧に定めて凍り付いた地面に打ち込む。氷を溶かし、マルカブたちの道を開くためだ。とはいえ、魔力の氷は一瞬の炎では溶けたりしない。
「マルカブ!治療する!こちらに!」
 クー・シーが腕を広げて、凍る地面ぎりぎりで叫ぶ。マルカブはクー・シーめがけて一直線に走り出した。溶けきっていない氷の上も、凍り付いていく脚も構わずに。ケトスの声が周囲を圧迫していく。あの巨体が降ってくるまで、ほんのわずかな時間しかない。
 そして頭上から響く声が一段低くなった。
 時間切れを知ったマルカブは氷の地面に踏み込んだ。そして、腕を伸ばすクー・シーめがけてカリーナを投げ出した。クー・シーはカリーナを受け止めるべく走り出し、そのクー・シーの向かう先をアヴィーの炎で道を作る。
 一人になったマルカブの脚は凍り付き、動くことは出来ない。頭上で巨大な圧力が生まれる。マルカブは頭上を見上げた。ケトスの視線と視線が合った。狙いは、ここか。
「お前ら!散らばれッ!!」
 声を半ば裏返して、マルカブは仲間に命じる。その頭上の圧力が、一気に落ちてきた。
 続いて、轟音と暴風。ケトスが己を落とした衝撃と、飛んでくる小石からそれぞれが身を守る。腕で顔と頭を覆っていたアヴィーは衝撃が止んだことに気がついて、そろそろと前を見る。目の前には土埃。先ほど砕かれた瓦礫がさらに砕かれて青い砂となって舞っている。
 その土埃の中、ケトスが宙に浮かび上がった。その尾鰭の先に何かが引っかかっている。ケトスもそれに気がついて、尾を軽く振った。土埃の中、ふわりと宙に漂ったのは、見慣れた帽子だった。
「・・・・・・、マルカブ・・・!!」
 アヴィーは、とっさに周囲を見回す。少し離れたところで、カリーナを背に守るようにして地面にしゃがみ込んでいるクー・シーがいる。さらに離れたところで、奥歯を噛みしめて落ちてくる帽子を見つめるディスケがいる。アヴィーはもう一度、ゆらゆらと落ちてくる帽子を見た。それはマルカブが赤毛の上に乗せている帽子だ。
 帽子は土埃の中に落ちていく。ゆっくりと土埃は晴れていき、青い地面の中に赤が広がっていることをアヴィーに見せた。その赤の中に、帽子は落ちた。
 赤はじわりじわりと広がっていく。それは流れているのだ、とアヴィーはやっと気がついた。そしてその赤の源流は、倒れているマルカブの脚だった。そこから導き出されるものに、アヴィーの思考はどうしても到達できなかった。
「爺さんッ!」
 ディスケが叫んだ。
「止血だ!」
 クー・シーがアヴィーの横を走って通り過ぎ、倒れているマルカブの治療に向かう。止血、ということは、あの赤はマルカブの血液だ。ケトスの落下でもげかけているマルカブの脚から流れる血液だ。それは分かる。それは分かるが・・・。
「・・・・・・哀れなことをした。」
 ケトスは静かにマルカブを見つめながら、
「狙いがわずかに逸れた。彼も火薬で脚の氷を爆破して、我が身から逃れようとした。その行動の躊躇いのなさは見事だった。」
 しかし、とケトスは告げるのだ。
「そのようなことがなければ、苦しまずに済んだ。」
「馬鹿を言うなッ!」
 クー・シーが血塗れになって止血の処置を進めながら、泣くように叫ぶのだ。
「死んでいないのなら、わしが治療してやる!」
「・・・私は、しかし、手は止めぬ。」
 ケトスはそう告げ、再び宙に浮かび上がる。ディスケがマルカブの前に走ってきて、弩をケトスに向けて、
「アヴィー!呆けるな!カリーナを守れ!」
 そう命じる。アヴィーは我に返り、地面にぺたんと座り込んでいるカリーナを見た。
「・・・・・・マルカブ、死んじゃうの・・・?」
 カリーナは広がっていく赤を見つめながら、呆然と呟くのだ。
「・・・死んじゃうの・・・」
「カリーナ!」
 アヴィーはもう泣きそうになりながら、カリーナに走りより、
「死なない!死なないッ!!そんなこと、絶対にない!!」
 彼女の肩を掴んで揺すりながら、彼女を・・・というよりも自分を言い聞かせる。アヴィーはしゃくりあげ、
「そんなこと、絶対にないんだよッ!!」
 祈るように叫ぶのだ。


(10章4話に続く)

---------------あとがきのようなもの-------------------

オーシャンレイヴ、命中率の低い壊属性ってどんな技だよ!?(くわ!)
・・・と思いながら書きました。単純な体当たり、ということにしました。カッコ悪い。

実はこの10章、志水のDSで起きた実際のケトス戦を元に書いてます。
うちの赤パイはケトス戦中、ほぼ戦闘不能状態でした。
まあ、よくあることですが、それがドラマを(志水の脳内に)呼んだようです。(つづく)

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