まよらなブログ

十章4話。


先走った志水の「世界樹カンケーねえ!」な「世界樹の迷宮Ⅲ」妄想話です。

ところで、話を書いている時にBGMに選ぶ曲に法則性があることに気がつきました。
野郎どもを書くときはミスチル、女の子を書くときはorange pekoeの曲です。
ちなみに只今のBGMはミスチルの「HERO」です。
ちなみにこの妄想話の最終回のBGMは「箒星」だと思われます。
♪ほら きょぉまでのぼーくらにー ちーさくえーるでもおくろうかー、と歌いたい。(何年後の話だ。)


まあ、そんなこんなで、話に興味のある方は「つづきを表示」からどうぞ。




10章4話
-------------------------------------

 呆けた調子で呟きを繰り返すカリーナとその肩を揺すって自分に言い聞かせるように喚くアヴィーの声を聞きながら、ディスケは弦を引く。ケトスはディスケの照準から逃れる様子もなく、静かに彼に・・・というよりも彼の背後で血の赤を広げるマルカブに視線を送る。
「・・・頭が潰れれば、瓦解は早い。戦意を無くす者もいよう。」
「・・・そりゃあ、威厳はなくてもおとーさんはおとーさんだからな・・・!」
 限界ギリギリまで弦を引き、ディスケは必死に苦笑を浮かべようとする。ケトスは改めてディスケを見やる。
「・・・貴公は諦めないか。」
「・・・俺は今、世界で一番諦めちゃいけない男なの。」
 微かに震える声で精一杯粋がってみる。その背後で、ひゅう、と上擦った呼吸音がした。そして、その音は急に止み、不規則で弱い息の音に変わる。
 振り向くな、とディスケは必死に自分に言い聞かせる。見てしまって心が折れたら、もう誰も助からない。
 彼のこめかみに浮かぶ汗に、ケトスは気がついたようだった。だから、ディスケは言ってやる。それは自分を言い聞かせる言葉だという自覚はあった。
「・・・おとーさんが戻ってくるまでは、おにーさんが頑張んなきゃいかんだろうがッ!」
 そして限界まで引き絞った弦を放つ。弩の反動とともに、矢弾は至近距離からケトスに向かう。今まで以上の早さと重さ。ケトスの目に驚愕と・・・そして、どこかしら狂喜の色が浮かんだのをディスケは見逃さなかった。
 ・・・・・・落ちろ!
 己が放った矢弾とケトスの左の胸鰭が派手に衝突する様を見ながら、ディスケは発射の反動を堪えて願う。
 ・・・・・・、頼むから、落ちてくれ!!
 ケトスがそれで崩れ落ちることを必死に願う。そうしたら、すぐにマルカブを街に連れて帰る、そして治療を受けさせる。そうすれば助かるかもしれない、いや、きっと助かる!だから、そのまま地面に落ちろ!
 ケトスの左の胸鰭は吹き飛んだ。そして、ケトスの巨体は大きく傾いだ。けれども、それだけだ。彼は、震える息を一度吐きながら、ゆっくりと体勢を整えた。
 ディスケはぐっと奥歯を噛んだ。ケトスは、見事、と囁いた。
「背中に、それだけのものを守りながら我が体の一部を切り離すとは。」
「・・・まだまだ、こんなもんじゃないぞ。俺はここにいない人間も背負ってるんだからな。」
 ・・・くそったれ!
 余裕の笑みを必死に浮かべようとしながら、ディスケは心で毒づいた。もうイヤだ。こんなの俺のキャラじゃない。前衛で頑張るなんて無理無理無理。そんな泣き言を心の中では喚きながら、一瞬よぎるのは、かつてコロネに言われた言葉だ。
 ――、本当に危険なときは逃げてきてよ。あんたの仲間、見捨てても騙しても裏切ってもいいから、逃げてきてよ。
 今がその時かもしれない。生きて帰ってこそだ。大事な女を泣かせてどうする。
 ・・・・・・、くそったれッ!!
 もう一度、ディスケは心の中で毒づいた。そうだ、大事に思っている人を泣かせてどうする!?
 ディスケは一度、足を浮かせた。そして、その足をもう一度、同じ位置に落とすのだ。改めて、地面に踏み込んで不動の構え。そして、弩をもう一度構える。無理だと思ってても一度やれたんだから、もう一度!一度でダメなら、もう一度!
 死んで、大事に思っている相手を泣かせてどうする。そう思う。本当にそう思う。だから、
 ――、だから!とっとと起きろよマルカブ!!
 ディスケはもう一度弦を引く。その耳に、アヴィーがすすり泣きながら「死んだりなんかしないんだよ・・・!」と言う声と、カリーナがしゃくり上げ始めた声が入ってくる。
 ――とっとと、起きろよ!お子ちゃまたちが泣いてるじゃんか!!
 焦りと苛立ちの中で、それでもディスケの表情が変わったことにケトスは気がついた。彼は、諦めた。ただそれは、勝つことを諦めたのではない。生きることを諦めたのではない。逃げることを諦めた。
「・・・・・・ッ泣くんじゃないッ!!」
 ディスケがいつになく厳しい声で、一喝した。自分たちに向けられた言葉だと気がついたアヴィーとカリーナは、はっと顔を上げる。
「爺さん!マルカブは生きてるな!?」
 振り向かずに、ディスケは背後のクー・シーに問いかけた。クー・シーは手は止めず、
「い、息はある・・・が、」
「生きてるなッ!?」
 それ以上のことは聞きたくない、とディスケは質問で遮った。クー・シーはぐっと息をのみ、そして子どもたちにも聞こえる声で、
「・・・ああ!生きているとも!!」
「じゃあ、治せよ!絶対だ!!」
 返事は聞かず、ディスケは弦を引いていく。
「アヴィーは炎を落とせ!カリーナはアヴィーを手伝え!このまま泣きじゃくってるだけなら、後でおとーさんに言いつけてゲンコツ落としてもらうからな!」
 ディスケはそう、叱り飛ばした。く、と喉を鳴らしたのは、アヴィーだ。彼は袖で瞼を拭い、
「立って、カリーナ!」
 カリーナの手を引っ張って、立ち上がらせた。
「手伝って!この前、読んだ本に書いてあった炎の術を試すから!」
「・・・で、でも、アヴィー・・・!」
「でも、じゃない!」
 アヴィーは背中の器具を翼のように広げた。
「やるの!マルカブを助けるために!」
 アヴィーの肩の竜の頭を模した機械が、その顎を開く。彼は集めたエーテルをその場から圧縮していく。竜の目の輝きが青から金へと変化していく。
 カリーナは、倒れているマルカブを見た。そしてマルカブと同じくらい血塗れで手当てを行うクー・シーを見た。それから、ケトスに向かって再度弩を引くディスケの背中を見る。・・・怖い。全てが切迫している。一つ何かを間違うだけで、全てが崩れ落ちていく。・・・・・・怖い!
「・・・アヴィー!私、怖いよ!・・・でも!」
 カリーナは泣きながら、それでもアヴィーに問いかけるのだ。
「私は何をしたらいい!?」
「エーテルは、人の中にもあるんだ。だから、僕に送って。二人分じゃないと、『業火』は発動しないから。」
 アヴィーは掴んでいたカリーナの手をきゅっと握る。
「難しいこと、考えなくていい。祈って。」
 何を?とカリーナは聞かない。祈るべきことはたった一つ。
「・・・もし、」
 ケトスは、一味をゆるりと見回した。「声」は独り言のようだった。
「折れぬ貴公等が最奥まで辿り着けば、あるいは――、」
 そして己の「声」にケトスは気がつき、言葉を止めた。そんなことはあるはずもない、と呟いてから、彼もそれまでと表情を改めた。
「戦意を取り戻したことに敬意を払おう。だからこそ、苦しまずに終わりにしよう。」
 その男のように苦しまずに、とケトスは哀れみをマルカブへ向ける。そんなものは余計だ、とクー・シーは思った。
 ケトスは、ひゅう、と一度甲高い音を鳴らした。呼吸だろうか、とディスケが考えた後すぐに、ケトスは巨体を振るわせて静かに「音」を鳴らしだした。
「・・・・・・歌・・・?」
 ディスケは呟く。あの巨体をぶつけてくるときの音よりずっと柔らかい。体に染みいるように、振動が伝わってくる。
「・・・ッ!」
 がくん!と自分の体が揺れたことにディスケは気がつき、頭を振る。強烈な眠気、というより、気が遠くなる感触。
「・・・・・・音による、催眠、みたいなものだ・・・!」
 クー・シーも同じように眠りに誘われているのだろう。必死に抵抗しながら、せめてとマルカブの止血帯を押さえる。
 ばちん!と肩の器具が火花を散らし、やはり眠気に襲われていたアヴィーは意識を取り戻した。彼はぐっと唇をかみしめて、肩の器具に集まるエーテルの調整に集中する。カリーナはふらふらとする自分の体を必死に支えながらも、再度襲ってきた眠気に飲まれそうになる。その霞む視界に、ケトスが歌を歌い終え、再度上昇していく様を見た。
 ・・・・・・あの巨体をまた落としてくる気だ・・・。
 カリーナは考えるまでもなく、持っていた剣で己の手を刺した。それに、ぎょっとしたのはアヴィーだった。
「カリーナ!何を・・・!」
「・・・眠っちゃだめ!」
 痛みに集中して、カリーナは眠気を追い払う。
「眠ったら、あの攻撃を避けられない・・・!」
 だから、と彼女は息を吸い、
「ディスケ、クー・シー!!しっかりしていて!」
 凛とした声を、歌の振動に脳を揺らされていた二人に叩き込んだ。よく通る声に、ディスケとクー・シーの肩が動き、頭を振って前を向く。二人は素早く上空を見上げた。ディスケは弩を放り出し、マルカブを腕を肩に回して、クー・シーとともに移動させる。
 アヴィーの肩の竜の目が輝いた。アヴィーはぐっと唇を噛みしめて、空気を振るわすケトスを見上げ、それに向かって手をかざす。ケトスが再度落ちてくる前に、焼き尽くす!
「カリーナ!祈って!」
 アヴィーは声とともに、圧縮つくしたエーテルを炎に変換した。カリーナはアヴィーの手をぎゅっと握る。かざしたアヴィーの手から、宙のケトスに向かって火花が走り、ケトスとその火花がぶつかった。
 その瞬間に、爆音とともに炎があがる。蒼い樹海を紅く染め上げる炎とその熱が生みだす暴風に、アヴィーとカリーナは必死にその場に踏ん張った。炎の中でケトスの影が揺らぐ。これで最後になれ!と皆が祈る。
 炎の中でケトスが吼えた。そして、その炎をかき消す速さで、再度地面に急降下してくる。揺らめく炎は彼の視界も遮っているため、ケトスは狙いを定められていない。炎に巻かれたケトスの巨体は、アヴィーたちともマルカブを運ぶディスケたちともぶつからなかった。だが、炎と瓦礫と衝撃をその場にまき散らし、至近距離で煽りを受けたアヴィーとカリーナは転がるように後方へ倒れ込む。
 倒れた二人を、体中をくすぶらせながら身を起こしたケトスの視線がとらえた。ディスケはマルカブをクー・シーに押しつけて、放り出した弩に向かって駆け出す。駆ける最中に、ケトスが尾鰭を二人に向かって持ち上げたのを見た。弩まで、間に合わない。
「アヴィー!カリーナ!!避けろ!!」
 身を起こしかけている二人に、そう命じるので精一杯。二人は自分たちに影を落とすケトスの尾鰭を見上げ・・・、アヴィーがカリーナの体を突き飛ばした。
 次の瞬間、ケトスの尾鰭は巨大な鎚のように、二人に向かって落下する。突き飛ばされたカリーナの真横に尾鰭は落とされ、彼女は蒼白になってアヴィーを呼んだ。
 ケトスは己の尾鰭を見下ろし、ゆっくりとそれを持ち上げる。その下にアヴィーはいた。背中の翼のような機械を広げ、それを傘のようにしてケトスの一撃を受け止めている。直撃は免れたものの、衝撃は体に響いているらしく、彼は、ぜえ、と苦しげな息を吐き出した。
「・・・それが壊れてはエーテルを集められんぞ。」
 ヒビが入ったアヴィーの機械を見つめ、ケトスが告げる。分かってるよ、とアヴィーは吐き捨て、両手を地につけて体を支える。カリーナがそのアヴィーを支えた。
「・・・でも、死んだら、何も出来ない・・・!」
 アヴィーは蒼い地面を引っかくように拳を握り、
「僕は、マルカブを助けるんだよ・・・!」
 掠れた声できっぱりと断言した。
「・・・!聞いているか、マルカブ!?」
 クー・シーはそれを聞き、治療を施しながらマルカブの名を呼んだ。
「あの子らはお前のために戦っている!逃げるつもりはこれっぽっちもない!けれど敵は強大だ!」
 聞こえているかどうかなど、分からない。だが、聞こえていないはずなどない。だから、クー・シーは呼びかける。
「とっとと目を覚ませ!お前が目を覚ましたときに、全てが終わっているなんてことがないように!間に合わなかったなんてことがないように!それを目の前にしたときのお前は、きっとかつてのわしだ!ピックの死に間に合わなかったときのわしだ!」
 後半は、マルカブへの呼びかけなのか、かつての自分への罵声なのか分からない。ただ、クー・シーが今、願っていることは・・・、もしかしたら『アルゴー』と出会ってずっと願っていたことは、たった一つのことだった。
「わしはお前に、わしと同じ後悔をさせたくはないんだよ!」
 
 
(10章5話に続く)

---------------あとがきのようなもの-------------------

冒頭で頑張っている眼鏡バリは、「前陣迫撃砲術」を使用してます。
しかしウチの眼鏡バリが、まさかここまで頑張ってくれるとは思いませんでした。

このケトス戦、一応、うちの赤パイが保護者の自覚をもつ話・・・として作り始めましたが、
むしろ、一番最後のモン爺の台詞を書くための話なんだと思ってます。

・・・・・・というわけで、今回は大人たちの話なんだと思います。


スポンサーサイト

PageTop

コメント


管理者にだけ表示を許可する