まよらなブログ

十章5話。


先走った志水の「世界樹カンケーねえ!」な「世界樹の迷宮Ⅲ」妄想話です。

2010年2月から始めたこの話、
一年と4ヶ月をかけまして、本日、深都に到着します。
いやはや、長かった。書いてる本人は全然長さを感じてないんだけど。
今後も話がなかなか進まない話でいきますが、よろしくお願いいたします。


あ、来週の更新は7月5日の火曜日になるかもしれません。



まあ、そんなこんなで、話に興味のある方は「つづきを表示」からどうぞ。



10章5話
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 ・・・。
 ・・・・・・。
 ・・・・・・ええっと。
 ・・・・・・・・・何かを忘れているような気がするんだけど、何だっけかな・・・。
 それくらいのぼんやりとした思考を、マルカブはどうにか保っていた。夢現の不確かさだ。痛みまでは認識できない。何となく、全てが重い。
 けれども、頭のどこかで、思い出すことを諦めてはいけないことも分かっていた。諦めた瞬間に、全てを忘れて飲み込まれるだろう。何に飲み込まれるかまでは、分からないが。
 ・・・遠くで、誰かに呼ばれている・・・ような気がする。
 それが誰なのかがよく分からない。ゆっくりと手がかりを探る。死んでしまった親のような、生き別れた妹のような、生きる術を教えてくれた恩人のような、愛だ恋だと呼んでもいい大事に思った女のような、今までの人生で知った誰かが巡るのだ。
 ・・・いや、でも、そうじゃ、なくて。
 聞こえてくる・・・ような気がするのは声ばかりではない。地震のような揺らぎ、嵐のような衝撃、脳内に直接響くような歌。外は騒がしい。まるで戦場だ。
 ・・・・・・、戦場だ?
 ぱちん、と何かが音を立てて嵌まる。そこは戦場だ。戦っているのだ。戦っていたのだ。何と?誰と?そして、今、誰が?誰のために?
「僕は、」
 飛び込んできたのは少年の声だ。アヴィーだということは、それだけはすぐに分かった。
「マルカブを助けるんだよ・・・!」
 ぱちん!と、再度音を立てて何かが嵌まる。そうだ、脚を凍らされて、ケトスから逃れようとして手荒に脚の氷を爆破して、でも逃れきれず、ケトスにその脚を潰され・・・たような気がする。どっかで気を失ったから、結果は分かんないけど、きっとロクなことにはなってない。アヴィーがあんなことを言うんだから、ロクなことになってない。
 ・・・死ぬのかな、と実感なく考えた。もっと痛い思いをするのかと思ってたけど、そういうわけでもないらしい。だったら、まあ、楽でいいか。アヴィーが助けてくれると言っていることに、応えられないのは申し訳ないけれど。
 ・・・・・・、泣くんだろうなあ。
 と、一瞬よぎった。アヴィーもカリーナも泣くんだろうなあ。自分が死んだりしたら。それは自惚れでもなくそう思う。
 ・・・・・・、泣かせたくないなあ。
 と、今度は意志がよぎった。きっと、傷つくだろうなあ。だって、ムロツミのことで傷ついてるだろうし、カリーナは国のことで落ち込んでいたし、そこで自分が死んだらアイツ等はどうなるんだろう。
 思考が指向性を持った瞬間に、声が響いた。
「あの子らはお前のために戦っている!」
 ・・・・・・・・・・・・、あ、ダメだ。
 ぱちん!と今度こそ、大きな何かが嵌まった。それと一緒に全てが組み上げられる。状況を全て思い出す。
 ダメだ、起きないと。あいつ等は戦っている。死んでなんかいられない。それに、何度も泣いているカリーナを泣かせるわけにはいかない、辛い思いも怖い思いもさせたくない、もしかしたら今だって、不安で泣いているかもしれない。大体、ちゃんと約束してる。どこにでも連れていってやるし、どこからでも連れて帰ってきてやると。死んだりしたら、それも出来ない。頭も撫でてやれない。もしここで死んだりしたら、
「わしはお前に、わしと同じ後悔をさせたくはないんだよ!」
 そうだ。きっと後悔する。アイツ等に辛い思いをさせたことを後悔する。いいや、後悔なんかで済むものか。そもそもそんな思いをさせてなるものか!
 俺は、死んだら、ダメだ。
 すとん!と覚悟が胸に落ちた。同時に、脚に燃えるような激痛を感じる。鼓動のたびに頭が痛むのも感じる。体の芯が氷のように冷え込んでいることも、16のころに見た血と炎の風景の恐怖も感じる。痛みと苦痛と恐怖の認識。それが生きているということだ、と知る。
 目を開けても、もしかしたら、一歩間に合わず、仲間たちが倒れているかもしれない。しかし、その絶望も、生きているから。そして、その絶望を回避するために、生きるのだ。
 そう、生きている。何があっても、死んだらダメだ。今、目を開けなければ。たとえ、そこに、何が、あったと、しても、


「・・・・・・・・・ッ!!」
 マルカブは目をあけた。その視線の先にケトスの腹がある。クー・シーが、はっと息を飲んだ。言いたいことはいろいろあったが、何よりもマルカブはベルトから銃を抜き、その銃口をケトスに向ける。
 その銃口が震えている。視界も霞んでいる。本当に死のギリギリだったらしい。いや、今だってギリギリだ。けれども。
 誰も死なせないし、泣かせない。
 震える銃口の先で、ケトスは再度低い声を出し始めた。カリーナがアヴィーを呼ぶ声がする。ディスケの矢弾がケトスに刺さるが、それは声を止めるに至らない。
 それでも、マルカブには『見えた』。自分の呼吸すら忘れての、たった一点に集中した結果だった。ケトスのどこに撃ち込めば、その喉笛を貫けるかが『見えた』のだ。
 だから、彼は引き金を引く。極限状態で、指先にすら感触はない。今の彼は人ではなく、意志の塊。誰も死なせない、子どもたちを泣かせない、仲間の誰も後悔させない。だから、
 俺は死なない。
 意志は覚悟に変化し、彼は引き金を引ききった。鈍い音が響き、その場にいる全ての存在がその発砲音へ目を向ける。ケトスの喉の下が撃ち抜かれ、銃弾はケトスを貫いた。ケトスは一度目を開き、ぐらりと傾いで、そして地面へと落ちていく。それを霞む視線の先にマルカブは見て、そのままもう一度気を失った。
 ケトスと地面がぶつかり、周囲が揺らぐ。もうもうと青い砂埃が舞う中で、その巨躯を横たえたケトスにディスケは警戒でもって弩を向ける。しかしケトスは再び起きあがる様子はなく、シュウシュウと苦しげな息を吐いている。今、まさに息絶えようとしている。
「・・・すまぬ、王よ。我は約定を守れなかった・・・」
 弱々しい声が頭に響く。そして、その声が語りかけてくる。
「小さき・・・いや、大きな者よ。もはや止めぬ。先へ進むがいい。そして・・・真実を視ろ。」
 その声は徐々に小さくなっていく。
「深都を訪れ、深王に会え。そして、知るが良い。秘するは秘するだけの訳があることを・・・。・・・願わくばそれを知った汝らが、正しき未来を選び、彼にとっての救いとならんことを・・・」
 海王はそこまで告げると、目を閉じ完全に意識を閉ざしてしまった。ディスケは弩を下ろし、顔を上げる。すぐに視線を向けた先は、クー・シーだ。カリーナがアヴィーを支えながら、クー・シー・・・というよりマルカブへと向かっているのも見える。
「爺さん!マルカブは!?起きたのか!?」
 問いかけに、クー・シーは首を振り、治療を続ける。
「いや!一度は・・・・・・、・・・あれは何だったんだ!?起きたんなら起きつづけんか!!」
 クー・シーの怒声は仲間の胸の奥を冷やすのに十分だった。ディスケは泣き出しそうな子どもらへと駆け寄り(マルカブなら間違いなくそうする、と思ったのだ)、彼らの肩を一度ぐっと抱いてから、クー・シーの隣にかがむ。
「どうすれば助かる?」
「・・・・・・早くきちんとした処置をせねば・・・!」
 クー・シーはディスケにだけ聞こえる声で切迫感を訴えた。止血の処置がしてあるとはいえ、出血が激しい。アリアドネの糸で入り口まで戻るまでの時間、そこから治療院まで運ぶ時間。全てを鑑みて、厳しいことは素人目にも明らかだ。
 どうにか、すぐに、治療を。八方塞がりの状況で、ディスケは回らない頭を回す。その耳の奥にケトスの言葉がよみがえる。――、深都。
 ディスケは広間の先を見た。向こうにも扉がある。あの奥が、8階の最奥だ。ディスケは希望を見つけたような、同時に絶望を叩き込まれたような感覚で、一つ大きく鼓動を打った。
 そのとき、広間の入り口の扉が開く。アヴィーとカリーナが縋るように入り口を見た。入り口を開けたのは、シェリアクだった。『ファクト』が深海の殺戮者を倒すなり退けるなりして、ここまで到達したのだ。
「・・・ツィー!マルカブを助けて!!」
 カリーナがシェリアクの背後にいるツィーに懇願する。ツィーはすぐに状況を察知して、駆け寄ってきた。あまり表情を変えない彼女の目が、マルカブを見て一度大きく開かれる。それもカリーナの胸を潰す。
 ディスケは広間の奥を見つめ、決意した。
「先に進む。」
 そう言うなり、彼はマルカブの腕を自分の肩に回す。シェリアクにも手伝いを頼み、自分の弩はクー・シーに押しつける。そうしながら、
「この奥に深都がある可能性が高い。だったら、糸で街に戻るより早い。深都でマルカブを診てもらう。」
「で、でも・・・!」
 アヴィーがしゃくりあげながら
「でも、もし、深都がなかったら!?」
「糸で戻っても間に合わない。」
 ディスケは冷淡に答えた。アヴィーはぐっと喉を鳴らして、「でも・・・でも・・・」と呟いてから、破裂するように叫ぶのだ。
「もし、深都がなかったら、僕はディスケを許さない!」
 構わない、とディスケは答える。そう答える時間すら惜しい、とばかりに血塗れのマルカブをシェリアクとともに抱えながら歩きだした。その広間の奥へ。カリーナに支えられているアヴィーはぼろぼろ泣き出して、カリーナは唇を噛みしめてそれを追おうとし、おぼつかない足で躓きかける。エラキスがクー・シーに声をかけ、弩を受け取ってミラと一緒にそれを持ち上げた。おかげで手の空いたクー・シーがアヴィーの腕を肩に回し、ツィーがカリーナを支えて奥へと進む。その選択が正しいかどうか、そんなことは分からない。ただ、それしかできないことは、その場にいる者は分かってはいた。

*****

 海底から下に続く階段を降りた一行は、開けた明るい場所に到達し思わず息を飲んだ。
「・・・世界樹・・・!」
 視界に入りきらないほどの大きさの巨木が中心にそびえ、その周囲を数多くの建物が囲んでいる。この場所が海の底であることを忘れるくらい、ここは都市として存在している。
 呆然、とその町並みを眺めそうになったディスケは、ともかくその町並みへ進もうと、共にマルカブを運ぶシェリアクに声をかけた。シェリアクは何故か来た道を振り返っており、ディスケに声をかけられて我に返って頷いた。進み直した一行の耳に、聞きなれた少女の声が響いてきた。
「・・・遂にここに来てしまったか。そう、ここは深都。あなたたちが目指した海底に沈む幻の都。」
 声は不意に前方からした。オランピアがそこにいる。彼女は何かを諦めた様子で穏やかに話す。
 そして彼女が次に何か言う前に、声を上げたのはクー・シーだった。
「オランピア!貴様に言いたいことは山ほどある!だが、今は、どうか仲間を助けてほしい!」
 クー・シーの言葉を聞き、オランピアの視線はマルカブへと動いた。クー・シーは畳みかける。
「20年前、血塗れのセイリアスを助けたのはお前だろう!?セイリアスはあれだけの出血をしながら、無傷だった!ならば・・・マルカブも助かるはずだ!」
 そして、クー・シーは仇敵ともいえる彼女に向かって、頭を下げるのだ。
「どうか、助けてやってくれ!!」
 オランピアは静かにクー・シーを見つめ、そして小さく呟いた。
「ついてこい。」
 彼女は踵を返し、白い町並みに向かって歩き出す。
「治療がすんだら、この深都から出ていってもらう。それでいいな。」
 それに反対など誰も出来るはずはなく、海底の都・・・探していた深都に向かって歩きだした。


(11章話に続く)

---------------あとがきのようなもの-------------------

ケトス戦をほとんど戦闘不能状態で過ごしたうちの赤パイ、
終盤、復活した直後に放ったラピッドファイアでケトスにトドメを刺しました。
そんなのが元ネタです。ダメな分だけオイシイ男です。

深都につきましたが、ちょっとイベント組み替えてます。
どうしても、頭を下げるおじいちゃん、を書きたかったようです、そんな理由です。
オランピアが脱ぐ(違)イベントは11章で書きます。

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