まよらなブログ

13章1話。

先走った志水の「世界樹カンケーねえ!」な「世界樹の迷宮Ⅲ」妄想話です。

本日より13章ですが、今回は『アルゴー』の面々は出てません。
深都の「空」は蒼い!というのを書きたかっただけの話です。
ちなみに、志水の深都の空のイメージは、
ブリヂストン美術館で見たザオ・ウーキーの「07.06.85」という絵です。



では興味のある方は「つづきを表示」からどうぞ。



13章1話
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 深都は海底に沈んだ都市だから、都市の「空」は海中だ。その「空」の色は、海の碧と海の向こうの空の蒼が混ざりあって、絶対の紺碧になっている。
 その「空」を空、としているのは、町を覆う透明の膜だ。海の底の世界樹から出ている膜が、海水と町を隔てている。深都の者から聞いたが、海の世界樹は膜とともに空気も発生させており、深都に人が住む余地を与えているらしい。
 深い海と透明の膜を通して届く、遠い空の太陽の光。だから、この町は少し暗い。光が弱いせいなのか、ここの緑は海都のそれに比べて幾分薄いように思われた。また、海都には溢れていた花の赤が見あたらないのも、光が遠いことに所以するのかもしれない。
 海都を彩るものは、葉の緑と花の赤のコントラスト。この深都を彩るものは、「空」の碧と砂の白のコントラスト。深都は、鮮やかというよりも落ち着いた対照を成している。少し寂しいような、けれど何も付け加えることが出来ない、静かな対照。
 ・・・とはいえ、どちらが美しいかなど決めることでもない。
 海の世界樹の根に座って、さほど広くない町を眺めながら、シェリアクはそんなことを思った。「アルゴー」が療養中の中、先に三階層の探索を進めている「ファクト」のギルマスは、今は鎧は身につけていない。海都で空いた時間を過ごすのと同じように、武装していない。本日の探索を終えて一息をつく時間、世界樹の根本で無為に過ごしている。
 冒険者たちが深都に滞在を許されるようになって、一月も経ってはいない。だから海都からくる冒険者の姿はまだ少ないし、深都の人間の好奇と警戒の目も(逆に彼らは冒険者から好奇の目を向けられているのだろうが)あちこちで遭遇する。しかし、王の命令が行き届いているらしく、冒険者を排斥するような出来事は起こっていない。もともと治安のいい町、ということもあるのだろう。
 だから、シェリアクは世界樹の根本でぼんやりと物思いに耽ることを自分に許していた。未だ全貌も分からず、王の意図も掴みきれない(といっても、海都の元老院の意図も分からないのだが)中だが、この治安の良さと王からミッションを受けている立場であれば、町で危険なことが起こるとは思えなかった。もっとも、彼はいきなり襲撃されても切り抜けられるだけの力量はある。しかし、冒険者になる以前は要人の警護を続けてきた彼にとって、外で武装をしないなど落ち着かないことだったし、まして物思いに耽るなど贅沢なことだった。
 贅沢な時間を持ちながら、美しい景色を見る。すさまじい贅沢だ、と彼は苦笑をし、さらにそれが芳醇な時間になるために必要なものを思うのだ。美味い酒があればよく、美しい人がいればなお良い。
 そんなことを考えていると、視界の端に亜麻色の揺らぎが映った。焦点をそれに移すのと同時に、その亜麻色の持ち主と目があった。亜麻色の髪を揺らしながらシェリアクに向かって手を振るのは、いれば良いと思っていた美人。エラキスだ。
「シェリアク、探したのよ。」
 彼女はそう言いながら、小高い丘のようになっている世界樹の根を登ってくる。ごつごつした根の凹凸を足がかりにして、エラキスは身軽にシェリアクの隣までやってきた。
 贅沢な時間に、酒と美人が在ればその時間は芳醇になる。その女性が大切な人ならば、その時間は、
「・・・幸福な時間だ。」 
 シェリアクは苦笑混じりに呟いた。エラキスが、なに?と聞き返すと、彼は町並みを視線で示し、
「美しい場所だ、と思っただけだよ。」
「本当に綺麗な町よね。・・・少し静か過ぎる気もするけど。」
 エラキスは隣に座りながら、自身の感想を述べる。彼女から石鹸の匂いがした。三階層は海底火山の熱があり、探索から戻ったら汗を流さずにはいられないのだ。
 エラキスは視線を町からシェリアクへと移してくる。目が合うと、彼女は、もう!とわざとらしく膨れて見せた。
「お風呂から出たら、見あたらないんだもの。探しちゃったじゃない。」
「ああ、すまなかった。君たちが支度を整えるまでには帰れると思ったんだが。」
 シェリアクの言葉は、謝罪というより冗談だ。女性陣の入浴時間の長さを揶揄している。エラキスは余裕の微笑みを見せた。
「あら、そう?今日はとりわけゆっくり入浴してたんだけど。【瞬く恒星亭】のお風呂、広いし。」
 深都で宿代わりになっている【瞬く恒星亭】は、もともと貴族の邸宅だ。女性陣には好評で、確かに妙に寛いでいる。まるで旅行だな、とシェリアクは心の中で苦笑した。
 エラキスは髪を掻きあげて、それに、と続ける。
「いい匂いがする方が、シェリアクとしてもいいんじゃない?」
 髪の動きと一緒に、石鹸の匂いが広がった。シェリアクは一拍の間を空けた後に、一度咳払いをして、
「・・・ところで、ミラとツィーは?」
「あら。あの子たちが出かけてたら、どうするつもりなのかしら?」
「・・・もしも、の話はよそう、エラキス。二人が本当に出かけていたら・・・、その時は、まあ、その時だ。」
 エラキスは、そうね、とおかしそうに笑った。
「ミラたちはネイピア支店に買い物に行ってくれてる。残念だけど、きっとすぐに帰ってくるわ。」
「・・・・・・、そうか。」
 微妙な間に、エラキスはくすくすと笑いだした。
「シェリアクって、時々、ものすごく正直よね。」
「・・・嘘吐きではないつもりだが。」
「ええっと、言ってることが、じゃなくて。自分の・・・気持ちに?」
 そういうところ大好きだけどね、と彼女も正直に告げるので、シェリアクは鼻の頭を軽く掻いた。
「・・・ところで、何か急ぎの用でもあったのか?」
「え?」
「わざわざ探しにきたのは・・・」
「ああ、そういうんじゃないの。あなたが散歩に出たってことも、【恒星亭】の子から聞いてたけど。」
 エラキスは一瞬口を噤み、それから「空」を見上げた。その「空」は海だ。
「・・・覚えてる?アーモロードに来るまでの船で、あなたが私に言ったこと。」
「・・・。」
 シェリアクは無言だ。それは肯定の意味だとエラキスは知っている。そもそも彼は、自分に告げた大切な言葉を忘れる男ではない。
「・・・海に帰らないで、自分の傍にいてほしいって。」
「・・・あの時は、あのまま君が海に帰ってしまう、そんな気がしたのだよ。」
 彼女が覚えていたたった一つの言葉・・・『アーモロード』だけを頼りに、その言葉と同じ名前の海都に向かう船の上で、確かにそう口走った。シェリアクはその時のことを忘れない。彼女が甲板から西を、夕焼けの海をじっと見つめていたことを忘れない。彼女はそのまま、その赤い海に帰ってしまうと思ったことも忘れない。
 夕焼けの海は、彼女の思い出せない記憶をもっとも強く揺さぶる。その理由は、薄々気付いている。誰かとその風景を見た記憶を、記憶を無くしながらも彼女は手放せないからだ。その誰かが誰であるかも、勿論気付いている。
 ・・・このまま、彼女が帰るべき場所に帰っても仕方がないことなのかもしれない。
 シェリアクは、一人で覚悟を決めようとした。しかし、
「・・・そう言ったのは、あなたなのに。」
 エラキスは言った。
「あなたの方がどっかに行っちゃうなんて、ずるいって、急に思ったのよ。」
 シェリアクの覚悟は、一瞬で瓦解した。
「・・・・・・・・・、ああ。」
 シェリアクは頷いた。頷きながら、これは男らしくないと思う。大人気ないとも思う。これが彼女のためになるのかも分からない。帰すべき相手は、少なくとも彼女を不幸にはすまい。それでも、それでも。
 離れられないのは自分なのだ、と彼は改めて自覚した。
「・・・すまなかった。」
「・・・うん。」
 エラキスは静かに頷き、立ち上がる。彼の腕を引きながら、帰ろう、と促した。
「・・・私が、思い出せない所為だっていうのは分かってる。だから、あなたも迷うってことも分かってる。・・・でも、勝手だけど、」
 彼女は、シェリアクの迷いを見つめるように、
「・・・揺らいだりしないで?」
 そう、懇願した。


*****

「ツィー、わたし、思うのですけど。」
「ええ。」
「わたしたちはゆっくり寄り道をして帰るべきではありません?」
「はい、私もそれに賛成です。」
 買い出し帰りのミラとツィーは、荷物を抱えながらそんなやり取りをし、にっこりと顔を見合わせた。
「たまにはシェリアクさんとエラキスさんに、二人きりの時間が必要ですもの!」
「ええ、全くその通りだと思います。というより、私たちに構わずに同室にお泊まりになればいいのに。」
「わたし、何度も薦めたんですのよ!なのに、シェリアクさんは話を逸らすし、エラキスさんは子どもがそんなこと気にしちゃだめって窘めますのよ!」
 わたしはお二人に幸せになってほしいだけですのよ!とミラは地団太を踏んだ。ツィーは、まあまあ、とそれをなだめつつ、
「ミラさんのお気持ち、きっとお二人に伝わってます。ゆっくり時間をつぶすなら、どこかでお茶でもしましょう。私は甘いものが食べたいです。」
 と、言うツィーの目は既にケーキを夢見ているようだ。
「・・・ツィーは食べたいだけじゃ・・・」
「・・・ああっと!?あちらから何やら甘い香りが!行きましょう!!」
 一方的に宣言して、ツィーはたーっ!と駆けていく。食べ物が絡むと、祖父ばりに己の道を突き進むツィーを、ミラは慌てて追いかけた。
「ちょっと待ってください、ツィー・・・・・・ひゃん!」
 慌てたために、十字路で人にぶつかる。
「あ、大丈夫?お嬢さん。」
 ぶつかった相手から声をかけられる。声は男のものだった。ミラは、はい、と頷きながら、謝ろうと男の顔を見上げ、
「・・・・・・あ、あら?」
 そして数度瞬きをした。ミラが人にぶつかったことに気がついて戻ってきたツィーも、その相手を見上げ、首を傾げる。
「・・・ディスケさん?」
 髪を染めましたの?とミラが聞くと、その相手の方が首を傾げてから、
「・・・人違い、じゃないかな?君たちは海都からの冒険者のようだけど、僕に海都の知り合いはいないよ。」
 そう言った。その男は、ディスケに瓜二つだった。ただ、ディスケが明るい金髪と深い青い目をしているのに対して、この目の前の男は明るい茶色の髪と目をしている。それ以外の顔の作り、背丈はそっくりで、眼鏡をしているところも同じだった。
 しかし、声と口調と喋り方を聞いて、ミラは、本当に人違いだ、と納得した。彼女が間違えた人物だったら、大笑いして「そうそう!髪、染めたんだよー、似合うー!?」ぐらい言いそうだ。
 ミラは、気まずそうにしながら頭を下げて「重ね重ね申し訳ありません。」と謝罪した。男は、気にしないで、と言って、去っていく。
「・・・ディスケさんにそっくりでしたね。」
 ツィーがミラの隣にやってきて、男の背を見送りながら、ほーっと感心した。
「世の中には、自分にそっくりな人が三人いるっていいますけど。」
「・・・顔は似てますけど、まったくの別人ですわ。」
「そうですね、喋り方はずっと大人しいっていうか。」
「・・・でも、同じですのよ。」
「?」
「・・・、根っこが同じ・・・というか、匂いが同じというか・・・」
 ミラは、狐につままれたような表情で、呟いた。
「・・・不思議です。」



(13章2話に続く)

---------------あとがきのようなもの-------------------

はいはい、眼鏡バリYカラーの登場です。


章の一話目が高確率で「ファクト」の話になると最近気がつき、
せっかくなので丸々一話、彼らの話にしてみました。
こっちにはこっちでいろいろな人生があるんだと思いますが、
「ファクト」はおマセな娘が耳年増なことを言ってきてパパ大変っていうイメージです。

あと、やっぱりうちの赤パイを殴りにいかなきゃいけない気がします。


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