まよらなブログ

番外編・4


先走った志水の「世界樹カンケーねえ!」な「世界樹の迷宮Ⅲ」妄想話・・・ですが、
本日から三週分、番外編に入ります。

今日は、20年ぐらい前のアーモロードの話、ということで
うちのモン爺の昔のギルド『ムルジム』のある日の話を。
若い頃のモン爺(といっても見た目は何も変わってない)とかも出そうと思ってたんですが、
妙に長くなったので、今回登場しているのは
「ムルジム」の若者組の二人だけです。




では興味のある方は「つづきを表示」からどうぞ。




番外編・「あの頃のアーモロード」
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「あたしたち、海の底に沈んでる。」
 通路を作る薄い膜の向こうは海中。その海中を見上げながら、桃色のような赤毛の娘が囁いた。
 娘は地面に大の字に寝そべって、宙・・・というか海中を見ている。彼女と頭を合わせるように大の字で寝そべるセイリアスは、瞳を上に上げて、彼女を見る・・・仕草だけをした。
 彼らの上を羽ばたく様に泳いでいく、白と黒で彩られ口の左右に角のような突起がある巨大なエイ。彼(だか彼女だか)は目の前で宙返りのような旋回を繰り返した。娘は、おお、と声を上げ、その動きをしばらく追ってから、
「綺麗だねえ。」
「・・・ああ。」
「こんなのここじゃなきゃ見られないんだろうなあ。」
 娘は、くくっと喉の奥で小気味よく笑う。ここはアーモロードの【世界樹の迷宮】二階層。地下5階の野営地だ。休憩中に地面に寝そべって、天体観測ならぬ海中観測をしている。
 エイは何度目かの旋回を行った後、長い尾を引くようにして海上へと昇っていく。ああ、と娘は残念そうな声を上げ、それを見送った。その尾も胸鰭の羽ばたきも見えなくなった頃、
「・・・あ!そうだ!セイリアス!」
 娘はごろん、と寝返りを打って、腕をついて上体を持ち上げたようだった。セイリアスは起き上がり、長い金髪を掻きながら娘を見る。
「この前、クーおじいちゃんと双眼鏡で海を見てたの!あ、ここじゃなくてアーモロードでね!そしたらさ、鯨の尻尾が見えて!」
 娘は腕で鯨の尾鰭の動きを示す。その腕は褐色。肌を隠しもしない格好で、その肌の色を晒している。その理由に、セイリアスは薄々気づいている。肌の色が褐色だからといって、この町では差別も侮蔑も軽蔑も起こらない。肌の色が白くない、というだけで、そのいずれかが起こる故郷とは違う。彼女は故郷では出来なかったこと・・・己の肌の色を晒すことを、この町で思い切り楽しんでいるのだ。
 ・・・だからといって、無防備すぎる気もするんだけどなあ・・・
 セイリアスは尾鰭の真似をする彼女の腕から肩・・・から鎖骨にかけて胸まで一瞥して、視線を逸らした。どうしたの?と彼女は聞き、セイリアスは咳払いとともに、何でもない、と答える。答えてから、・・・けれども無視できない問題だったので、質問した。
「・・・・・・なあ、ピック。」
「んーーー?」
 ピックはごろりと寝返りをうち、仰向けになる。引き締まった腹筋が露わになって、セイリアスは再び視線を逸らした。
「その、・・・、君は、この町じゃなきゃ出来ないことを、すごく大切にしている。」
「だって大切じゃないー?」
「・・・それは、君の故郷では、出来ないことだから?」
 ピック、と呼んだ娘の瞳が自分を見たことを自覚しながら、セイリアスは続ける。
「もちろん、私たちの国には鯨はいないし・・・海中の景色も見られない。樹海もないから冒険も出来ないし、あれだけ鮮やかな花も甘い果物もない。・・・・・・そして、君が肌を晒して町を歩くこともできない。」
「そうだねえ。」
 軽い口調でピックは答えた。セイリアスは思わず顔を上げ、
「ピック、私は、真面目な話をしている。君と会って、よく分かった。我が国の君たちに対する差別は・・・馬鹿馬鹿しいことだ。君と私たちの何が違う。」
 彼女の故郷は、セイリアスの一族が治める国だ。長い歴史の中で、褐色の肌の人間は疎んじられ蔑ずまれてきた。今では、何故そのような歴史が始まったのかも覚えている者は少ない。肌の色が違うから。それだけの理由だ。
 だから彼女が肌を晒す理由には、己にも責任がある。
「そうだねえ、ありがとう、セイリアス。」
 ピックは笑い、でもさ、と指をセイリアスに向ける。
「セイリアスだって同じでしょ?」
「・・・・・・何が?」
「セイリアスだって、あたしの故郷では出来ないこといっぱいあるでしょ?王子様が町を護衛なしで歩けるとは思わないし、屋台の串焼きを立ち食いなんか出来ないだろうし、一昨日みたいに酔っぱらってその辺で吐いたりしたら大問題!」
「あ、あれは、クー・シーとベクが調子にのって飲ませるから・・・!」
「調子に乗って飲ませる仲間も、この町にいるよね?」
 そう問いかけるピックの目はとても優しいものだった。セイリアスは、だから素直に頷いた。
「そういうの、大事ー。」
 ピックは笑いながら海中を見上げる。
「それに、この町じゃなかったら、あたしとセイリアスは友達にもなれなかった。だから、あたし、この町で出来ることは大切にしたいよ。」
「・・・・・・・・・、ああ。」
 「友達」という言葉に、若干の悔しさを感じながら、セイリアスも再び寝ころび海中を見上げる。再び白と黒のエイが戻ってきている。回遊魚なのだろうか?と思いながらセイリアスがその様子を眺めていると、ピックも同じことを疑問に思ったようだった。
「・・・・・・、あたしたちも行ったり来たりしながら泳いでいるのかな。」
 ピックは少し考えてから、覚悟したかのように口にする。
「あたしも、いつかまた、故郷に帰るのかな。」
 彼女は故郷を飛び出して、密航でここまで来た。出会った当初から、差別する側の自分を気さくに迎えてくれる彼女だが、だからといって国で受けた仕打ちを隠しもしなかった。彼女ははっきりと、彼女の故郷を治める王族であるセイリアスに告げたのだ。あの国はあたしたちに何もさせてくれないから、とっとと見限ってきた。だから、きっと帰ることはない。そう言ったときの彼女の瞳は強かったが、それは憎しみというよりも覚悟の現れだったのだろう。部族を飛び出したのと同時に本当の名前も捨てた、という彼女の覚悟。それだけの覚悟をさせるほど、あなたたちが私たちの未来をどれだけ奪っているか分かっている?瞳に憎しみはなかったが、そう問いつめられたも同然だった。それは責任の追及で、憎しみ以上に重いものだ。国を治める王族には、何よりも重いものだった。
 だから、彼女の今の一言は意外だった。
「・・・・・・、帰る気が、あるのか?」
「んー・・・」
 思わず問いかけたセイリアスに、ピックは鼻の頭を掻きながら、
「セイリアスは帰るよね?その・・・いつかさ。」
「・・・帰らない、ということは出来ないかな。」
「セイリアスがイヤだって思っても、きっとそう言って帰るんだよね。」
「・・・・・・きっとそうなるね。」
「・・・あたしね、なんかズルいって思ったんだ。」
「何が?」
「あたしが。あたしがズルいって。あたしは、いたくもない国から飛び出して、ここで楽しくやって、帰らないでいられる。でも、セイリアスは、そういうわけにいかないよ?」
「・・・ピックと私では立場が違う。」
「そう!それがおかしいよ!」
 ピックはがばっと起き上がり、寝そべったセイリアスをのぞき込むように見下ろすのだ。彼女のサイドで束ねた髪の先が、セイリアスの頬をくすぐった。
「セイリアスは王子様で、あたしはこんな肌の色だ!でも、あたしたちは何も違わないって、さっき、セイリアス、言ったじゃない!セイリアスは、自分がどんなにイヤでも我慢してやらなきゃいけない仕事がある!」
 そこまで一息。毛先が気になっていたセイリアスは、そこでやっと彼女の瞳を見上げた。
「そりゃ、セイリアスは将来王様になるよ?それはセイリアスしか出来ないことだよ。あたしに出来ることの大体が、他の誰かが出来ることだよ。でも、だからといって、あたしがやらないのっておかしいと思ったんだよ。」
「・・・・・・、君がやろうとしていることって?」
「・・・はっきりしたものじゃないよ。でも、セイリアスはきっと、あたしたちにも優しい王様になってくれると思うんだ。」
「・・・買いかぶりすぎだよ。」
「でも、今までの王様よりはあたしたちを差別なんかしないよ。」
 セイリアスは少しだけ寂しそうに微笑んだ。現在の国王・・・つまり彼の父だが、父王は個人的に肌の黒いものを疎んじているのではない。そうでもしないと、あの国は結束を保てないのだ。力を持つ貴族たちの閉息感やその貴族に搾取される庶民の不満の矛先を向けるための生け贄の羊のようなもの。とはいえ、それも解決にはなってないことも父王は知っている。貴族と平民と騎士と・・・そして極秘にだがピックの一族の長とも、密約を交わしながら綱渡りの政をどうにか繰り返しているのだ。
 だから、王になった自分が、個人的な感情で褐色の肌の人間を庇護することはない、そう思う。それが政治だ。
「・・・・・・あたしは、甘い?」
 ピックは静かに尋ねてきた。心を読まれたような状況だが、セイリアスは驚きはせずただ静かに微笑んだ。
「そうだね、甘いよ。」
「・・・冷たく厳しくするのも・・・王様の仕事なんだよね。そうでもしないと、国が守れないのは、分かる・・・と思う。」
 守りたいのは、国なのか。セイリアスの心にふと疑問が湧いた。外敵から国を守るのが騎士団だが、その騎士団は各地で起こる小さな、だが止まらない反乱を収めるために駆り出されている。各地の領民を王の代理で治める貴族は甘い蜜を求めて王族すらも食い破ろうとしている。国を支えるはずの民はうなだれるか不満を暴力に変えるばかりだ。・・・では、王は?
 セイリアスの疑問に答えるわけでもないのだろう。だが、ピックは口にした。
「だから、あたしは、セイリアスが王様になったら出来なくなることを、代わりに、したいんだ。」
「・・・・・・・・・。」
「セイリアスがいい奴だってことは、よく分かってる。でも、そんなんじゃ、きっとあの国では上手くいかないってことも分かってる。」
 ピックは身を起こし、それからセイリアスに手を差し出した。
「分かる?手を取るためには、どちらからも手を差し出さなきゃいけない。その方が、早い。だから、セイリアスが王様になって国を変えようとするんなら、あたしはあたしの部族の中から、セイリアスの手に向かっていく。」
 ピックは一度口を噤み、ふと顔を宙に上げた。ああ、そうか、と彼女は一人呟く。話しているうちに、彼女はやりたいことが何なのか、はっきりしたのだろう。次にセイリアスを見たときは、今まで以上にはっきりした口調だった。
「それが一番、早い。それが一番早く出来るのは、きっとあたしだ。だから、あたしは自分が出来ることをやりに帰る。そうじゃなきゃ、セイリアスにばっかり辛い思いをさせる。」
 ・・・分かった、とセイリアスはその瞬間に悟るのだ。自分がこの娘に恋すら抱いたその理由。彼女は何も、放り出さない。孤独な王すら放り出さない。
「手を取って、セイリアス。セイリアスが、それでもセイリアスらしい王様になろうって思うなら。あたしとセイリアスは立場は違うけど同じ人間だ。だから、辛くて大変な仕事は、一緒にやろう。」
 セイリアスは瞼を掌で覆う。泣くな男の子、とピックが言うのが聞こえた。だから応える。
「・・・泣いてない。」
「泣いててもいいけど、今、セイリアスの手は涙を隠すためのものじゃない。」
 セイリアスは一度、瞼を強くこすって涙を弾く。ピックは手を差し出したままで、笑った。
「あたしの手を取ることだ!」
 そうだ。全く、その通りだ。父王から帰還の許しが出たらすぐに国に帰ろう。そして彼女が差し出している手に向かうのだ。どれだけ時間がかかろうとも、どれだけの苦難が有ろうとも。彼女も自分の手に向かってきているのならば。
 その、先約を、ここで。
 仰向けになったままのセイリアスは、その褐色の手を強く握った。ピックも握り返してくる。
「・・・国に帰って、君にもう一度会ったときに、またこうやって君の手を取るだろう。」
「うん。その時はきっと変わるときだね。」
 その笑顔を見ながら、セイリアスは「ピック」と彼女の名前を呼んだ。いや、これは彼女の名前ではない。名前を捨てた彼女は「ピーコック」と名乗っており、親しい者はピックと呼ぶ。古い異国の言葉で孔雀を表すその名前。だから、彼は決意を持って頼むのだ。
「・・・その時は、君の本当の名前を教えてほしい。」
「うん?」
「君が、部族を出るときに置いてきた名前を。」
「・・・うん!あたしもセイリアスに知ってほしいな。」
 そして、彼女は明るく笑うのだ。





 ・・・・・・もっとも、その名前を彼女の口から知らされる日は、来なかったが。 




---------------あとがきのようなもの-------------------

ちょっとだけ出てる白と黒のエイはマンタ(オニイトマキエイ)です。
やっと、マンタを登場させられました。いつか「アルゴー」にも見せたいです、マンタ。
待ってろよ、マンターーーーー!!!


というわけでマンタ話・・・じゃなかった、
20年前くらいのアーモロードの話で、昔のクー爺ちゃんの仲間「ムルジム」の二人です。
セイリアスは長髪プリンス、ピックは桃髪のウォリアーです。
セイリアスは何回か登場してるカリーナの兄の王様の若い頃で、
ピックはこの前の「その頃のハイラガ」のファルーカの従姉です。
この話からしばらくして、二章1話の冒頭シーンになり、
セイリアスが国に戻ってしばらくしてからが二章4話の冒頭になります。
二章4話で名前だけ出てる「フィデリオ・パヴァン」もそろそろ書き始めなきゃなるめえな。


次回から14章に入ります。
フカ(規制)登場に必要なものは全部書いた・・・と思うので、三階層に挑戦してる・・・と、思う。

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